<大項目> 海外情勢
<中項目> 旧ソ連・東欧各国
<小項目> ロシア
<タイトル>
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)

<概要>
 1991年のソ連崩壊により、ロシア連邦は原子力開発を管轄する行政機関として原子力省(略称MINATOM)を設置し、その下部機関として、原子力発電所の運転管理を行うロシア原子力発電コンツェルン「ロスエネルゴアトム」を設立した。2007年12月3日、プーチン大統領は「ROSATOM原子力国家会社設置法」に署名し、ロシア連邦原子力庁(ROSATOM)を廃止し、さらに原子力国家会社「ロスアトム(ROSATOM)」に移転する命令に署名した。ロスアトムは民生と軍事の両方を含んだ原子力分野のすべての活動を統括する国家会社で、民生用原子力発電業界に関する「アトムエネルゴプロム(AEP)」のほかに、兵器部門、研究機関、原子力安全・放射線防護機関を包含した非常に大きい組織である。この目的はロシア原子力界の一体性を確保し、現在、国が行っている管理業務を兼務することである。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.ソ連およびロシアにおける原子力開発体制の経緯
 ソ連は核兵器開発を行うため、1943年にモスクワのソ連科学アカデミー第2ラボラトリー(現在のクルチャトフ研究所)に研究炉F1を建設した。ウラル地方のマヤクで最初のプルトニウム生産炉が1946年6月に臨界を達成し、1948年12月に放射化学工場(再処理工場)が運転を開始してプルトニウムを抽出し、1949年8月、最初の原爆実験をセミパラチンスク実験場で実施した。
 行政面では、1945年にソ連閣僚会議に第1総局が設置され、原子力計画の責任を負った。この機能は1953年にソ連中型機械工業省に移管された。1986年6月、原子力を含むソ連の行政体制全体の大改革が行われた。中型機械工業省を核とし、原子力発電所省と原子力利用国家委員会を合わせた原子力発電産業省(MAPI)が設置された。また安全規制面でも、従来の鉱工業安全操業監視委員会と原子力発電安全操業監視国家委員会が合併し、工業原子力安全操業監視国家委員会が設置された。この行政改革の頃から、旧ソ連は国民経済の立て直しのため、核軍縮や軍民転換の方向に動き出した。
 1991年12月にソ連が崩壊し、1992年1月にソ連原子力発電産業省(MAPI)が廃止され、後継機関としてロシア原子力省(MINATOM)が発足した。図1にロシア原子力省の組織図を示した。
 1992年9月7日、大統領令により、ロシア連邦の原子力発電所を運営するため国有コンツェルン「ロスエネルゴアトム(ROSENERGOATOM)」を設立した。1992年当時、レニングラード原子力発電所だけは独立した国有企業であったが、2002年にロスエネルゴアトムの傘下に入った。
 2001年9月8日、ロシア連邦政府は政令で全国の民間原子力発電所をロスエネルゴアトムの傘下に置くことを決定した。2004年3月9日、大統領令によりロシア原子力省をロシア連邦原子力庁(ROSATOM)に改組し、2004年5月、首相府の直属機関となった。
 2007年1月19日、ロシア議会は原子力に関する新法を制定し、国家持株会社アトムエネルゴプロムを2007年7月6日に設立した。2007年12月3日に、プーチン大統領は「ロスアトム原子力国家会社設置法」に署名し、さらに2008年3月20日にプーチン大統領は連邦原子力庁「ロスアトム」を廃止し、原子力国家会社「ロスアトム」に移転する命令に署名した。また、アトムエネルゴプロムは国家会社「ロスアトム」の傘下となった。2008年8月11日に「エネルゴアトム(ENERGOATOM)」社(公開株)となり、アトムエネルゴプロムの傘下となり、社長にはオボゾフ氏が就任した。同社の基本目標は、定款に「電気エネルギーを安全に生産・販売し〜これは本質上商業的な活動である〜利益を引き出すこと」と明確に規定されている。
2.2009年現在のロシアの主な原子力開発機関
2.1 国家会社「ロスアトム」
 2007年12月3日に、プーチン大統領は「ROSATOM原子力国家会社設置法」に署名してロシア連邦原子力庁(ROSATOM)を廃止し、原子力国家会社「ロスアトム(ROSATOM)」に移転する命令に署名した。会長にはセルゲイ・キリエンコ氏が横滑り就任した。
 ロスアトムは民生と軍事の両方を含んだ原子力分野のすべての活動を統括する国家会社で、民生用原子力発電業界に関する「アトムエネルゴプロム(AEP)」のほかに、核兵器部門、研究機関、核安全・放射線防護機関を包含した、非常に大きい組織である。この会社を作るというアイデアは2007年5月のプーチン大統領の国会教書にある。図2に原子力国家会社「ロスアトム」による新しい原子力体制を示した。
 ロスアトムを作る目的はロシア原子力界の一体性を確保し、現在、国が行っている管理業務を兼務することである。AEP社の株式は100%「ロスアトム」社が保有するので、研究、核兵器業界と核安全−放射線安全管理を含め、一体性がより明確になる。これは事実上連邦原子力庁の会社化である。「ロスアトム」は、連邦原子力庁の公式略称で、この名前を引き継ぐことが新会社の実態を良く表している。原子力国家会社「ロスアトム」社が設立されれば、連邦政府内に原子力専門の組織は無くなるが、「連邦環境・技術および原子力監視部」で行われている原子力の安全規制がどうなるのか不明である。一般に国家会社は、設置法に特に規定がない限り、連邦政府に対し責任を負わないので、それだけ活動の自由度が増すことになる。
 2008年3月20日、プーチン大統領は原子力庁を廃止し、その機能を新しい国家会社「ロスアトム」に移転する命令に署名した。(図2参照)
 表1にロシアの原子力に関する政府機関での省庁の変遷を、表2に原子力発電所を運営する企業の変遷を示した。なお、国家会社「ロスアトム」を頂点とした原子力体制ができたのは2008年8月であるので、2010年頃には体制の詳細が決ると思われる。
2.2 アトムエネルゴプロム
 2007年7月6日に原子力産業を統合し、ロシアの民生用原子力業界全体(55社)を傘下に収める国家持株会社であるアトムエネルゴプロムが設立され、キリエンコ長官が会長に就任することが決まった。これはプーチン大統領が直接指示してできた構想である。
 すなわち、ウラン採掘から原子力発電所の建設や運転にいたるロシアのすべての民生用原子力業界を統合した垂直統合型持株会社で、2008年から本格稼働する計画であったが、2009年1月上旬現在、連邦国家独立企業55社の内41社の株式が引き渡されたものの、14社の株式の引き渡しが済んでおらず、AEP社の完成は2009年となった。
 AEP社の業務内容は、図2から判るように、原子力発電所施設の設計、設置、建設、運転、保証と保守、原子力施設放射線源核物質および放射性物質の貯蔵箇所の近代化と修理に従事する。その他、原子力利用分野における科学研究を行い、該当分野に新技術開発を定着化し、また、放射性物質を含有する有用地下資源の探査と採掘、ウランとその他物質の同位体濃縮と原子力利用に係わる商品のサービスの輸出と輸入に従事する。
 なお、原子力発電所の名称と所在地を図3に、主要な原子燃料サイクル施設の一覧を表3に、原子力研究機関および原子燃料サイクル施設の所在地を図4に掲載した。また、ロシアの原子燃料サイクル施設の写真を図5に、使用済燃料貯蔵施設および原子炉メーカーの写真を図6に示した。
 図2に示すように、下記の企業がアトムエネルゴプロムの傘下に入っている。
・エネルゴアトム:全国の民間原子力発電所を傘下
 (なお、社名の変更は、連邦法が改正され「ロシア」という言葉とそれに由来する会社名の使用が規制されるようになったためである。(参考文献2))
・原子燃料製造供給会社(TVEL):原子燃料を製造
・ウラン取引企業テフスナブエクスポルト(TENEX):原子燃料製品の輸出入
・原子力施設建設企業アトムエネルゴマシ
・原子力計画建設アトムストロイエクスポルト
・その他多数の企業
 また、2007年12月現在、統一企業体として下記の9つ研究機関が企業化され、株式が政府からアトムエネルゴプロムに譲渡された。(参考文献7)
・ノボシビルスク国立設計調査研究所(VNIPIET)
・サルベズアトムエネルゴストロイ(全ロシア製造協会、モスクワ)
・レンアトムエネルゴストロイ(特別建設・設備部、レニングラード州ソスノボイ・ボール)
・ニージニー・ノブゴロド調査開発研究所
・ロスエネルゴアトム事業原子力サービス
・アトムテフエネルゴ(モスクワ州)
・原子力機械建設調査開発研究所(VNIAEM、モスクワ)
・アイソトープ(同位元素)全地域協会(モスクワ)
・アトムスペットランス(モスクワ)
2.3 核兵器関連業界(参考文献10)
 核兵器関連業界としては、核兵器の設計・試験企業(9社)、および核兵器の製造・解体企業(8社)がある。また旧ソ連の10の秘密都市(別名:閉鎖都市)も有名であるが、旧秘密都市の中には民生用のウラン濃縮と再処理を既に実施している施設もあるので、現状では秘密都市のどの企業が核兵器産業に含まれるかは不明である。また、原子力潜水艦関係(13社)もある。参考として、表4に旧秘密都市の名称、現在の名称、所在地、施設の概要を示した。
2.4 基礎科学研究所、核安全組織および放射線安全組織(参考文献10)
 ロシアには相当数の基礎科学研究所があり、以下にそれらを項目別に分類した。
1)基礎研究関係(8研究所)
2)応用研究開発・設計・エンジニアリング・計画関係(約45研究所)
3)原子力発電および原子燃料関係研究所(34研究所)
4)論理援助(14社)、放射性廃棄物処理関係(4社)、教育・訓練関係(26社)、情報関係(2社)
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 ロシアの原子力に関する政府機関での省庁の変遷
表2 ロシアの原子力発電所を運営する企業の変遷
表3 旧ソ連の閉鎖都市(核兵器開発関連秘密施設)
表4 ロシアの主要な原子燃料サイクル施設
図1 ロシア原子力省(MINATOM)の組織図
図2 国家会社「ロスアトム」の新しい原子力体制
図3 ロシアの原子力発電所分布図
図4 ロシアの主要な原子力研究機関および原子燃料サイクル施設の所在地
図5 ロシアの原子燃料サイクル施設の写真
図6 ロシアの使用済燃料貯蔵施設および原子炉メーカーの写真

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
ロシアの電気事業および原子力産業 (14-06-01-06)
ロシアのPA動向 (14-06-01-07)
ロシアの高濃縮ウランの処分計画 (14-06-01-18)
旧ソ連の原子力研究施設 (14-06-01-19)
旧ソ連秘密都市の原子力施設 (14-06-01-20)
ロシアの核燃料輸送会社(テクスナブエクスポート社) (14-06-01-26)

<参考文献>
(1)日刊工業新聞新社:月刊エネルギー、2007年8月号、p.84「ロスエネルゴアトムによる2010?20年の原子力開発長期計画」藤井晴雄、同10月号、p.85「アトムエネルゴ社設立中」西条泰博、同11月号、p.44「アトムエネルゴプロム社つくり」西条泰博、同12月号、p.121「ロシアは民生−軍事含めすべての原子力産業を統括する国家会社を設置」西条泰博
(2)日刊工業新聞新社:月刊エネルギー、2008年5月号、p.108−109「地震など「外部事象」に対するロシア原発の安全確保」西条泰博、同6月号、p.42−43「原子力国家会社「ロスアトム」の設置が進む」西条泰博、同11月号、p.37−38、41「21世紀中期を展望したロシアの原子力開発戦略」西条泰博、同12月号、p.120 「ロシアは民生−軍事含めすべて原子力の企業を統括する国家計画を設置」西条泰博
(3)日刊工業新聞新社:月刊エネルギー2009年2月号、p.48「コンツェルン「エネルゴアトム」の効率化計画」西条泰博
(4)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業2003年第1編ロシア、p.431−432
(5)MINATOM年報: 1992 年、p.25、26、27、28、29、31、33
(6)MINATOM年報: 2000 年、p.4、27
(7)Wikipedia:ロスアトム、アトムエネルゴプロム、セルゲイ・キリエンコ
(8)(財)原子力安全研究協会資料(1997年3月)
(9)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向、1999年次報告、p.88、同2007/2008年次報告、p.96−98
(10)IBR Corporation(発行): Nuclear Business Directory 2004(IBR Guide to the Russian Nuclear Industry)(2009年2月)
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