<本文>
1.電気事業体制の改革
1.1 電気事業の再構築
ソ連時代の電気事業は、ソ連電化省の下に中間管理機関、さらに現業の基本単位である地区電力管理局(REU)を置く体制がとられた。REUは、独立した法人であった発電所、送電線企業、補修企業などで構成された企業合同という形をとり、それ自体は地域独占の
垂直統合型事業者であった。
この体制が1991年12月のソ連崩壊と共に崩れ、新生ロシアの下で新たな事業体制の構築が模索された。電気事業の再構築は、信頼度の確保や全国単一電力系統の運営効率の向上などの目標を掲げた独自の大統領令(1992年8月および11月)に基づき進められた。1992年12月に、ロシア単一電力系統社(以下RAO−EESという)が設立された。地方レベルでは、REUが所有していた大容量の火力発電所(100万kW以上)および水力発電所(30万kW以上)、基幹送電線が移管統合され、発電(火力・水力)・送電・系統運用の役割が与えられた。地方電力は配電および小売り供給を中心としていたが、残された中小規模発電設備により発電を行う垂直統合型事業者の役割が割り振られた。
同時に、RAO−EESは持株会社として地方電力の株式を保有し、RAO−EESホールディングという企業グループを形成した。電気事業の再構築は、電気電力企業の株式会社化・民営化を標榜していたが、実際はRAO−EESホールディングを通じて電気事業(
原子力発電所を除く)を支配する体制づくりとなっており、政府はRAO−EESの主要株を保有することで事業者経営に大きな影響を及ぼした(2007年末の持株比率は52.68%)。一方、地方電力の中には独立系地方電力と呼ばれるRAO−EESの株式支配から逃れた会社もあったが、株主である連邦政府あるいは地方政府の影響から独立することは無かった。
また、原子力発電事業者は国有コンツェルン・ロスエネルゴアトムが運営、管理する形をとったが、2008年8月にコンツェルン・エネルゴアトム(国有の株式会社)となった。
図1にRAO−EES(2005年)の事業体制を示した。
1.2 制度改革
(1)事業再編の基本方向
電気事業体制は、国内の市場経済化や諸外国での電力自由化の流れもあり、より一層の改革が求められた。ロシア政府は、RAO−EESの提案やその他の組織から提出された色々な提案を比較検討し、2001年7月に「ロシアの電気事業再編制の基本方針」を採択し、電力企業の経営効率の向上、投資拡大による事業発展のための条件整備、電力の安定供給を目指す本格的な事業再編および自由化方針に基づいて、電気事業の改革に
着手した。
ロシアの電気事業改革の特徴は、1991年12月のソ連崩壊後における電源開発の遅れによる電力不足の危機があったという現実を踏まえ、内外の投資を電力分野に呼び込むことを最大の動機付けにしていた。2003年5月、RAO−EESホールディングの事業計画「2003〜2008年のEES戦略構想」が採択された。再編は、原子力発電事業やEES傘下にない地方電力を含めた電気事業全般に及ぶものであった。
(2)制度改革による再編プロセス
電気事業の再編プロセスは、組織プロセスにより、RAO−EES持株会社から新会社として分離されるが、RAO−EESの子会社としてその傘下に留まる。RAO−EESは、傘下企業との資本関係を解消し、子会社の株式を売却あるいは株主への譲渡を経て再編に移ることができる。
1)組織分離プロセス:電気事業の再編は、2001年11月、送電部門から開始し送電・系統運用部門を形成し、発電部門の再編、地方電力の再編を実施して2008年7月に地方電力の再編が終わった。
2)資本分離プロセス:垂直統合型の事業体制をとるロシア単一電力系統社(RAO−EES)を、政府の出資が優位を占める自然独占部門(送配電および系統運用部門:政府出資が75%+1株以上)と、民間の出資が優勢となる競争部門(発電および電力販売)に分割される。原子力部門は国有コンツェルン・ロスエネルゴアトムが株式会社化され、2008年8月にエネルゴアトム社となった。水力卸発電会社は、系統運用上重要な役割を担うので、政府が50%+1株以上を保有することになっている。また、競争部門を構成する発電会社の民営化も実施され、RAO−EESからの分離を実施した。
RAO−EESの部門分離により事業会社が設立されたが、RAO−EESの子会社という資本関係は維持されていたので、この関係を清算し、2008年7月1日に民営化が終了した。
図2に再編の目標事業体制を示した。
1.3 電力供給体制
電気事業の各部門は、再編によりRAO−EESおよび地方電力から分離、設立された事業会社を中心に、
図3のように分けられた。
発電部門は、7社の卸発電会社OKGおよび14社の広域発電会社TGK、原子力発電会社エネルゴアトム社、(株)クラスノヤルスク水力発電所、独立系地方電力のイルクーツクエネルゴ社、ノボシビルスクエネルゴ社、タトエネルゴ社、およびバシキルエネルゴ社(またはそれらの発電子会社)である。また、輸出入事業者であるInter PAO EES(EESが60%、エネルゴアトム社が40%を出資)は、購入者および供給者として卸市場に参加している。
送電部門は、連邦送電会社FSKおよび子会社の地域間基幹送電会社(MMSK)が運営している。系統運用部門は、系統オペレーター社(SO)が担当している。卸市場取引の管理全般は、非営利法人・取引システム管理所(NP−ATS)が行っていたが、2008年4月から株式会社・取引システム管理所(OAO−ATS)が行っており、将来的には「市場会議」の子会社となる。
小売り段階の電力供給は、2006年9月から市場の形をとっている。同市場は、配電事業者、小売供給事業者、小売発電事業者(卸市場に参加しない)および最終需要家により構成している。小売供給事業者には、特別に資格が与えられた供給保証事業者(GP)および電力販売がある。小売供給会社については卸市場の参加要件を満たせば、卸市場で電力を調達できる。GPは、卸市場の参加者であることが義務づけられており、同市場で購入した電力を市場に参加しない電力販売会社および最終需要家に販売する。
最終需要家の中でも、大口需要家の中で受電設備の総接続容量が20MVAで、各接続点が2MVA以上であるものについては卸市場参加者となり、同市場で電力を調達できる。なお、
図3には表示されていないが、住宅・公共(熱供給・上下水道など)の組織も電力供給事業を行っている。
2.規制体制
ロシアの電気事業は、2003年3月に制定された
電気事業法、移行期電気事業運営法を基本法令とし、同時に制定された自然独占法、電気・熱料金国家規制法など、電気事業再編関連諸法をはじめとする様々な法令によって規制され、様々な機関が関与している。
その後、「ロシア単一電力系統の再編施策の実施に関連したロシア連邦の個別法令の改正についての連邦法」が2007年11月4日に成立し、再編の完成に向けた電気事業法をはじめとした電力関連法の改正が行われた。
同改正法は、まず電気事業再編の移行期の終了日を2008年7月1日と定め、RAO−EESが最終再編を完了、解散される日が移行期終日とされた。ただし、2008年7月から3年間は、移行期の規則に基づく卸、小売電力市場の運営が継続され、家庭用料金に対する規則も続くことになる。
2.1 現在の連邦行政機関
2008年5月の組織再編後における行政機関の業務内容の概要を紹介する。
1)エネルギー省(旧工業エネルギー省)は、電気事業を含むエネルギー部門の主管省で、国家政策を策定、実施し、法規制を行う。旧工業エネルギー省の外局であった連邦エネルギー庁(Rosenergo)は廃止され、エネルギー省に統合された。
2)連邦料金局(FST)は、従来通り首相直属の独立機関で電気料金の国家規制を担当する。同局はガス料金、石油輸入料金、鉄道輸送料金、
核燃料サイクル製品の価格規制も行っている。また、全国単一電力系統内のバランス想定を作成する役割ももつ。
3)連邦独占禁止局(FAS)は、首相直属機関で、競争に基づく市場関係を発展させる役割を担う。電気事業に関しては、電力市場における経済集中度や市場での価格を監視し、ATSの監督を行うほか、電力市場インフラに対する非差別的アクセス規制や卸・小売市場参加者による情報開示規則の遜守状況を監視し、電気事業の法令で規定する自然独占および競争部門の事業分離を監視する。
4)連邦エコロジー・技術・原子力監視局(Rostekhnadzar)は、原子力安全規制および環境保全の規制機関で、首相直属から連邦天然資源・エコロジー省(旧ソ連邦天然資源省)の管轄下に移った。電気事業に関しては、電力設備と水力施設の安全に関する法令文書の作成と監視およびライセンスの交付を行う。
5)連邦国有資産管理庁(新連邦経済発展省の外局)は、電気事業の国有企業・資産、また電気事業者の政府保有株の管理を行っている。
3.電力の需要と供給
3.1 電力消費量(部門別を含む)
ロシアの消費電力量は、1988年に底を打って以降、増加を続けており、2001〜2006年の年平均増加率は2.3%で、2006年の消費電力量は8,724億kWhであった。
表1にロシアの部門別消費電力量とその合計を示した。
(注:海外電力調査会が使用している国連統計(海外電気事業統計に掲載、毎年発行)は、各国からのデータ提出が出揃うまでの期間と統計処理のため、発表までに2年必要。)
3.2 電力供給
総発電電力量は2006年に9,965億kWh、2007年に1兆160億kWhを記録し2006年から2007年の1年間に2.0%増加した。
表2の(1)にロシアの2006〜2007年の総発電電力量を火力、水力、原子力別に示した。また同表の(2)に2000〜2007年の地域別発電電力量を示した。
4.電力設備
4.1 発電設備
ロシアの総発電設備容量は2006年現在、2億2,140万kWで、電源別の内訳では火力が1億5,160万kW(68.5%)、水力4,610万kW(20.8%)、原子力が2,370万kW(10.7%)であった。
表3に2000〜2006年の電源別発電設備容量を示した。
表4に150万kW以上の主要火力発電所の名称、所在地、設備容量、使用燃料、営業運転開始年、所属会社を、
表5に100万kW以上の主要水力発電所の名称、設備容量、水系、営業運転開始年、所属会社を、
表6に原子力発電所の名称、所在地、設備容量、営業運転開始年を、
図4に原子力発電所の所在地図を示した。
4.2 送電設備および配電設備
全国単一送電網と呼ばれる基幹送電線網は330kV以上の送電線、220kV送電線の一部(主要発電所からの電源線、連邦構成体間の連係線など)、ならびに上記送電線に接続した変電設備により構成している。
表7の(1)に電圧別送電線および変電設備を示した。同表の(2)にEESホールディングの配電線の総延長を示した。
5. 原子力産業および核燃料産業
5.1 原子力産業
ロシアの原子力産業については、「原子力百科事典」の海外情勢のロシアに「ロシアの原子力産業」(構成番号:14−06−01−21)に詳しく解説されているので参照されたい。参考としてロシアの原子力産業に掲載の「ロシアの主要な原子力産業および施設の所在地図」を
図5に示した。
5.2 核燃料産業
ロシアの核燃料産業(原子燃料産業ともいう)については、「原子力百科事典」の海外情勢のロシアに「ロシアの核燃料サイクル」(構成番号:14−06−01−05)に詳しく解説されているので参照されたい。参考としてロシアの核燃料サイクルに掲載の「ロシアの核燃料サイクル施設の所在地図」を
図6に示した。
<図/表>
<関連タイトル>
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
ロシアのPA動向 (14-06-01-07)
ロシアの原子力産業 (14-06-01-21)
<参考文献>
(1) (社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業 第1編 2008年(2008年10月)、p.373?419