<本文>
1.ソ連及びロシアにおける原子力安全規制体制の変遷(
表1参照)
旧ソ連における原子力安全規制は、第二次大戦直後の1946年に、現在のクルチャトフ研究所国家放射線安全性管理部にラボが設けられたのが始まりだった。その後1963〜1970年の期間、原子力発電所の安全規制はソ連中型機械製作省、ソ連保健省や物理エネルギー研究所により行われていたが、1970年に閣議決定により国家監督組織が設けられ、統合された。そして原子力発電所の運転基数が30基に達した1983年に、ソ連政府決定により独立組織として「ソ連国家原子力監督委員会」が設けられた。(1986年の
チェルノブイリ事故後、同委員会の機能が強化された。)以来、ロシアの原子力安全規制は、諸外国とほぼ同じ原則に則ることになった。これが現在の「連邦環境・技術及び原子力監督局」(GTN)の直接の前身であり、以来四半世紀が過ぎた。そして2004年のロシア連邦大統領令により、委員会組織から、一人の局長に率いられる連邦原子力監督局となった。
ロシアにおける原子力安全規制の法的根拠は、1995年に採択された連邦法「原子力利用について」に拠っている。そこに記載されているGTNの職務と権限は、諸外国の原子力規制機関とほぼ同等である。(
表2参照)ロシアでは、軍事と民生を含む原子力に関する全ての活動は、国家会社ロスアトム(2007年設立)が統括し、その下で特に民生用の原子力発電に関する全ての活動はアトムエネルゴプロム(2007年設立)の傘下で行われている。(
図1参照)しかし、GTNはそうした推進側の組織とは完全に分離した体制で運営されている。
2.GTNの職務、権限と組織(参考文献1、2)
(1)職務全般
GTNの職務全般については、ロシア連邦政府決議2004年7月30日付けN401「連邦環境・技術と原子力に関する監督局についての規定」(以下、GTN規定)の最初の条項(I.1)により、概ね次のように規定されている。
「GTNは連邦行政執行機関であり、安全操業、地下利用、産業安全性、原子力利用時の安全性(核兵器と軍事目的の核エネルギー施設の開発、製造、試験、運転と退役に関する活動を除く)、発電と給熱施設と供給網(住宅用施設と供給網を除く)、水理構築物の安全性(船舶用の水理構築物、そして現地の自治体に実施全権が移管されている水理構築物を除く)、産業用の爆発性材料の生産、保管と利用の安全性、国家安全性分野における特別の職務、環境保護分野の規制と監督に関する職務を実施する。」
(2)原子力安全規制に関する権限
GTN規定によれば、GTNは原子力安全規制に関し、次の権限を有している。
・ロシア連邦法に従う原子力分野の許認可
・原子力分野の業務実施における基準、規則と許認可条件の遵守
・原子力、放射線、技術設備と火災安全性
・
原子力施設、
放射線源、
核原料物質と
放射性物質貯蔵所の物的防護、核原料物質、放射性物質と
放射性廃棄物の単一の国家計量管理システム
・原子力利用時の安全確保分野におけるロシア連邦の国際的義務の実施
・政府間協定によるロシア連邦への照射済み燃料集合体の搬入、一時保管と再処理
・原子力分野で業務許可を得た指導者と専門家に対する資格上の要求
・原子力施設における緊急事態発生時の組織的な業務管理システムの確保(事故対応)
・自動化情報分析サービスシステムの開発、改善と維持(特に、ロシア連邦領土に対する放射線状況を管理する単一の国家自動化システム)
ここで、許認可は、原子力及び放射線安全性確保、そして環境の観点から審査される(参考文献3)。発給する免許は、原子力施設の設置、建設、運転、そして廃止に及ぶ。
先ず、原子力を利用しようとする企業は、法で規定されている申請書一式を提出する。ここで申請者が示さなければならないことは、次の通りである。
・想定施設の所有者であること
・安全運転のために必要な全てのリソース(資産)を有すること
・施設の技術的特性
申請書一式の提出後、予備審査が行われ、審査計画が策定され、追加検討を要する問題リストが作成される。この後、特別に指名された専門家から成る委員会が審査に着手し、結論案を準備する。最近の例として、レニングラード第二原発の場合、最初の設置許可審査には70人の専門家が9ヶ月かけて実施した。専門家の結論を得た後、科学技術評議会が開催され、そこに、全当事者(専門家、検査官そして申請者)の代表が出席し、審議を経て、免許が発給された。
(3)組織
GTN規定の2番目の条項(I.2)によれば、「連邦環境・技術及び原子力に関する監督局(GTN)は、ロシア連邦天然資源及び環境省の管轄に属する。」(2008.5.29付け改定)
GTNの組織は、
図2に示すように次の3階層から成る。
a.本部
b.地域管理部(7ヶ所:中央、北欧、ドン、ボルガ、ウラル、シベリア、極東)
c.地域管理部の下部組織(原子力発電所、原子力産業立地地域、原子力閉鎖都市)
この他、傘下に、連邦国家機関「原子力及び放射線安全科学技術センタ」等、
表3に示すように多くの研究・分析機関を擁している。
3.原子力発電所の運転実績(参考文献4)
2009年末時点で、ロシアでは31基の商用炉が10ヶ所の原子力発電所で運転されている。(なお、これらに加えて2010年3月18日にロストフ(ボルゴドンスク)2号機が送電開始した。)炉型別内訳は
加圧水型炉が15基(VVER-440:6基、VVER-1000:9基)、ウラン黒鉛チャンネル型が15基(RBMK-1000:11基、EGP:4基)、
高速増殖炉が1基(BN-600)となっている(
表4参照)。
ソ連崩壊後、新生ロシアとなった1992年以後の、ロシアの原子力発電所の合計発電量の推移を
図3に、稼働率の推移を
図4に示す。このように、稼働率は、ソ連崩壊後の1990年代には50%台で低迷したが、2000年以降は着実に向上している。2009年の合計発電実績は1,633億万kWh、平均稼働率は80.2%であった。
運転中の異常事象発生件数の推移を
図5に示す。ソ連崩壊直後の1990年代初期には発生件数が多く、例えば1992年には合計197件もあったが、その後着実に減少し、2009年には合計29件であった。これらの事象には、計画外停止、機器・システムの故障、出力削減、従業員の過剰被ばく、機器の汚染等が含まれる。特に、最近9年間(2001〜2009年)の安全上重要な事象(
国際原子力事象評価尺度(
INES)による分類でレベル1以上)は、年間最大2件で、うち6年間はゼロだった。
原子炉自動停止頻度(7000運転時間当たり)の推移を
図6に示す。1992年には1.8回と世界平均と同レベルであったが、急速に世界平均の半分程度まで減少し、2008年には0.26回となった。
原子力発電所における従業員の集団
被ばく線量も、
図7に示すように年々減少傾向にある。ユニット当たり集団被ばく線量は、
表5に示すように1996年には4.3人Svであったが、2007年には1.6人Svまで減少している。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
<参考文献>
(1)西条泰博:推進とは分離独立したロシアの原子力安全規制、月間エネルギー誌 2009年11月号、日本工業新聞社、p.46-48
(2)ロシア連邦政府決議 2004年7月30日付けN401「連邦環境・技術と原子力に関する監督局についての規定」
(3)セルゲイ・アダムチク:我々が罰するのは非常に稀だ、REAロスエネルゴアトム誌 2008年4月号、ロスエネルゴアトム社、p.8-11
(4)ユリ・コピエフ:2009-2010年発電:総括と計画、REAロスエネルゴアトム誌 2010年7月号、ロスエネルゴアトム社、p.6-12