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<概要>
 テクスナブエクスポート社(Tekhsnabexport社、通称テネックス(TENEX)社)は、50年以上にわたり、ロシア原子力庁の対外貿易の窓口として、濃縮ウラン及びウラン濃縮役務の供給を初めとする核燃料サイクル関連製品と役務を提供している。2014年時点の年間製品売上高は約22億米ドル、米国、ヨーロッパ及びアジアにおける西欧型原子力発電所のウラン製品需要の約半数を賄っている(世界シェアは44%)。
<更新年月>
2016年01月   

<本文>
1. テクスナブエクスポート社の発展の歴史
 テクスナブエクスポート社(Tekhsnabexport社、通称テネックス(TENEX)社)は、1963年の旧ソ連時代に発足した外国貿易省傘下の全連邦輸出入局テクスナブエクスポート(Techsnabexport、通称全連邦局TENEX)まで遡る。同社は政令1477号に従い、全連邦閣僚会議により設置され、同位体電離放射線源、特殊物質、防護機器、原子力関係で使用される機器、材料及び特殊機器・機械の輸出を業務とした。その後、同社は外国貿易全般業務に携わるため、社名を全連邦協会TENEXに変更し、組織の改正を行った。
 1988年、全連邦協会TENEXは、旧ソ連の外国貿易省からソ連中型機械製作省に編入され、その後、ソ連の原子力産業省、さらにロシア連邦原子力庁(MINATOM(1992年発足)、2004年に改組しROSATOM(ロスアトム))下の組織となった。また1988年に、ソ連設計の原子力発電所向け燃料集合体の輸出を開始した。
 1994年、TENEXは全連邦協会TENEXを法的に継承し、全ての契約、協定、権利及び業務を引き継ぐ合資会社として発足。また、核兵器から取り出された高濃縮ウランの処理に関するロシア連邦と米国間の協定に基づき、解体核弾頭の高濃縮ウラン(HEU)から派生した低濃縮ウラン(LEU)について、原子燃料としての利用を目的とする最初の供給契約を米国燃料公社USECと締結した(HEU−LEU契約)。
 2001年、TENEXはロシア政府が100%株式を保有する合資会社JSC(joint stock company)“TECHSNABEXPORT”(JSC“TENEX”)となった。2002年、ロシア政府の政令により、ロシア連邦領土内への海外原子炉使用済燃料集合体の輸入、連邦における技術的保管、再処理に関する国際取引契約を締結する権限が認められた。
 2007年1月、原子力に関する新法が制定され、民生用原子力発電業界を所掌する国家持株会社アトムエネルゴプロム(Atomenergoprom)を設立。JSC“TENEX”はウラン取引企業として、原子力発電所運転企業ロスエネルゴアトム(Rosenergoatom、後にエネルゴアトム)、核燃料製造供給会社TVEL、原子力施設建設企業アトムエネルゴマシ、海外原子力計画建設企業アトムストロイエクスポルトとともに、アトムエネルゴプロムの傘下に入った。なお、アトムエネルゴプロムは2007年12月、「ROSATOM(ロスアトム)原子力国家会社設置法」の制定により発足した、民生と軍事両方を含む原子力分野の全ての活動((1)民生用原子力発電業界、(2)核兵器関連業界、(3)基礎科学研究所及び(4)核・放射線安全組織)を統括する国営原子力会社「ロスアトム」の傘下に移転した。表1にTENEX社発展の歴史を示す。
2. TENEX社の組織構成
 TENEX社は代表取締役会を中心に、営業販売、輸送と物流、ビジネス戦略とマーケッティング・情報戦略、調達・品質管理部門があり、そのほか財務、経理、人事、セキュリィティ等の組織運営部門を持つ。また、TENEX社はウラン製品の輸出入に関する法的ライセンス契約に精通する。図1にTENEX社の組織図の概略を示す。
3. TENEX社の事業活動分野
 TENEX社の主な事業は、濃縮ウラン及びウラン濃縮役務の供給を初めとする核燃料サイクル関連製品と役務の提供である(図2参照)。2014年現在、米国、ヨーロッパ及びアジアにおける西欧型原子力発電所のウラン製品需要の約半数を賄っており(世界シェアは44%)、2014年の年間製品売上高は約22億米ドルであった。同社は、ロシアの原子力分野の対外活動システムで重要な役割を担う輸出業者となっている。
3.1 ウラン製品の販売
(1)主なウラン製品と役務
 U3O8の転換役務(U3O8をUF6に転換)、濃縮役務、濃縮UF6の供給、研究炉用濃縮ウラン金属の供給、その他のウラン製品(UO2、濃縮U3O8、劣化金属ウラン)の供給。
(2)主な供給先
 USEC社(米国)、BNFL社(英国)、ウレンコ社(オランダ−英国−ドイツ)、ブリティッシュ・エナジー社(英国)、カメコ社(カナダ)、アレバ社(フランス)、EnBW社(ドイツ)、RWEニューケム社(ドイツ)、シナトム社(ベルギー)、バッテンフォール社(スウェーデン)、ENUSA社(スペイン)、KKL社(スイス)、フォータム社(フィンランド)、TVO社(フィンランド)、KHNP社(大韓民国)、UAE、日本の企業など、2014年時点で世界の16ヶ国32エネルギー供給会社に及ぶ。その内訳は欧州各国48%、アメリカ大陸37%、アフリカ及びアジア諸国15%である。
3.2 同位体及び各種装置等の販売
 同位体は、医療用試薬、原子力技術及びマイクロエレクトロニクス用原料、原子物理用機器、計測機器産業及び度量衡、食品照射、医療計測機器、その他の業務に使用されている。同位体製品部はこれらの製品を扱うほか、核燃料サイクル関連製品及び役務、連邦原子力庁が所有する企業が製造する同位体製品、非核分野の製品も供給し、ハイテク機器、装置、金属等の様々な製品及び役務を取り扱っている。同位体製品部は、ロシアの同位体製品の約半分を輸出している。同位体製品は、連邦原子力庁所有の企業、研究所、施設との長期契約により製造されている。
 提供できる製品は、原子炉照射により生成した放射性同位体ラジオアイソトープ)、サイクロトロン照射により生成した放射性同位体、安定同位体、重水素化合物を含む同位体化合物、保障付きウラン同位体、電離放射線源、メスバウワー源、短寿命同位体発生器、放射性医薬品である。また、放射性同位体製造原材料の照射役務を行っている。
3.3 機器、装置、金属の販売
 非核物質部は、連邦原子力庁所有企業が製造する非核物質製品、ロシアにあるその他の施設で製造された機器装置、非鉄、レアメタル及び合金をロシア国内及び世界に供給している。当部は過去50年間にわたり、ケーブル、ワイヤ、管、機械用ゴム製品の製造工程における放射線処理、被覆及び硬化加工、食品の消毒、医療機器製造及び気体、液体、固体廃棄物に対する環境保護分野に使われる独創的ハイテク機器の世界市場において、幅広い経験を培ってきた。当部は、連邦原子力庁や様々な研究機関、医療機関付属の研究所、例えば石油化学、薬品、臨床、犯罪、環境に関する研究所に対して、世界の大手企業からの機器を広範な選択肢により提供し、また冶金、金属加工その他の産業に対して技術装置を納品している。
(1)非核物質部の輸出品目
 科学、医療、工業用粒子加速器、ガンマ線照射機器、放射線量測定機器・装置、欠陥検出機器、鉛ガラス、特殊光学ガラス、希金属及び合金
(2)非核物質部の輸入品目
 最新の高性能各種機器、金属切断機、研究所で使用する分析・医療用機器、計測機器、計算機器等
3.4 HEU−LHU契約(高濃縮ウラン−低濃縮ウラン契約)
 HEU−LEU契約はTENEXの事業の中で、特別な地位を占めた。これは、1993年に締結された核兵器から取り出された高濃縮ウランの処理に関するロシア連邦と米国政府間の協定に基づき、解体された核弾頭の高濃縮ウラン(HEU)から回収された低濃縮ウラン(LEU)を20年間、米国に供給するものである。このプロジェクトの目標は、2万発の核弾頭から回収された兵器級ウラン500トン(天然ウラン約15万トンU、濃縮役務作業約9万トンSWUに相当)を原子力発電所用燃料に転換することである。なお、LEUの濃縮コンポーネントは、USECが米国の独占エージェントとして原子力発電会社に売却、天然ウランコンポーネントの商用化に関してはCameco(カナダ)、Cogema(フランス、現AREVA)、Nukem(ドイツ)の西側3社がTENEXと個別に契約が結ばれた。HEU−LEU契約は、歴史的観点からユニークなプロジェクトで、「メガトンからメガワット(Megatons to Megawatts)へのプログラム」の名称が付けられた。両政府のどちらも費用的負担をしない市場主体で、かつ世界規模の安全保障構想であると同特に、ロシアの高い原子力技術を世界市場で利用し、ロシア連邦、米国の双方に多くの雇用を維持している。HEU−LEU契約は、米国にとっても非常に重要なもので、世界の安全性レベルを向上させた。
<図/表>
表1 TENEX(テクスナブエクスポート)社の発展の歴史
表1  TENEX(テクスナブエクスポート)社の発展の歴史
図1 TENEX社の組織構成概略図
図1  TENEX社の組織構成概略図
図2 TENEX社の事業活動概要
図2  TENEX社の事業活動概要

<関連タイトル>
ロシアの核燃料サイクル (14-06-01-05)
ロシアの高濃縮ウランの処分計画 (14-06-01-18)
旧ソ連秘密都市の原子力施設 (14-06-01-20)

<参考文献>
(1)TENEX社:Company History,
http://tenex.ru/wps/wcm/connect/tenex/site_eng/company/history/
(2)(株)日本工業新聞社:特集「ロシアはいま…」、月刊エネルギー、vol.38、
No.6、p.10-12(2005)
(3)International Business Relations Corporation:Nuclear Business Directory
(2004),p.182,p.281
(4)(株)日本工業新聞社:「ロシアは民生・軍事を含め全ての原子力産業を統括
する国家会社を設置」西条 泰博、月刊エネルギー2007年12月号、p.121
(5)TENEX社:Annual Report 2014,http://tenex.ru/wps/wcm/connect/tenex/site_eng/resources/17cdcd80497082bbaa51ab222f82fd16/GO_2014_eng.pdf
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