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<概要>
 旧ソ連の原子力政策は閉じた燃料サイクルというコンセプトで進められ、1991年のソ連崩壊後、カザフスタンのウラン鉱山及び二酸化ウランペレット製造施設以外の燃料サイクル施設がロシアに引き継がれた。そのため、ロシアの核燃料サイクルは旧ソ連の核燃料サイクルと殆ど同じである。
 一方、経済危機を脱し、発電電力量の急速な落ち込みも一段落する現在のロシアは、新世代の安全な原子炉の開発と、世界の原子力市場における地位強化目指して、国内発電電力量に占める原子力の割合を2009年の17.8%から2030年には25〜30%にまで高める方針である。その結果、2007年末にはロシア連邦政府原子力庁「ロスアトム」に変わる国営会社として新「ロスアトム」が設立され、各株式会社に分割されていた国内の民生用原子力産業を統合、国営企業アトムエネルゴプロム(通称「アトムプロム」)として、世界の核燃料サイクル市場に進出している。アトムプロム社はウランの採掘から、濃縮、燃料加工、発電までの核燃料サイクル全体の管理のみならず、国内外における原子力発電所の建設、エンジニアリング、科学研究機関の監督をも行う。今後ウランの需要量が増加することが予想され、アトムプロム社は国内外でのウラン探鉱・採掘を拡大するとともに、フロントサイクル施設の拡充を計画している。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
1.ロシアの核燃料サイクル政策
 ロシアは、1991年のソビエト連邦(ソ連)崩壊による経済危機を脱し、発電電力量の急速な落ち込みも一段落するとともに電力消費は回復の途にある。電力需要は当初予測されていた2%増を大きく上回る7%台で推移している。政府は、石油や天然ガスなどの化石燃料を、より多く輸出に回して、外貨を獲得する方針で、水力と原子力の比率を高めたい意向である。2006年5月、プーチン大統領の一般教書演説では、新世代の安全な原子炉の開発と世界の原子力市場におけるロシアの地位強化の必要性が強調され、総発電電力量に占める原子力シェアを2009年の17.8%から2020年には22%、2030年には25〜30%まで高める必要があるとした。
 ロシア政府は2020年までの設備容量拡大プログラム43.3GW(原子力16.5GWe)に従って、2015年までに新たに10基の原子力発電所の運転を開始するとともに、既存炉の寿命延長、出力増強、設備利用率の改善のほか、VVER次世代型炉であるAES-2006(出力1150MWから1200MW、運転寿命50年、運転サイクル24ヶ月、設備利用率94%)の建設計画を進めている。加えて、2009年7月、連邦特別プログラム「2010年から2015年までの新世代の原子力技術及び2020年までの展望」を承認し、MOX燃料燃焼による効率向上と、放射性廃棄物の削減を目的に、クローズド燃料サイクルを基本とした第4世代炉への移行を目指す高速炉の開発を掲げた。
 また、2007年12月、新しい「ロスアトム」を設立する法律(国営原子力会社法)が制定され、民生と軍需の両原子力部門について開発利用の推進を担当する大統領直轄の国営会社「ロスアトム」と、民生部門の安全規制・検査・監視を実施する連邦環境・技術・原子力監督省が設置された。国内の各民生用原子力企業は統合され、アトムエネルゴプロム(通称「アトムプロム」)が設立。巨大な国営企業アトムプロム社として、世界の核燃料サイクル市場に進出することになった。アトムプロム社はウランの採掘から、濃縮、燃料加工、発電までの核燃料サイクル全体の管理のみならず、国内外における原子力発電所の建設、エンジニアリング、科学研究機関の監督をも行う。図1にロシアの原子力産業体制を示す。
 なお、ソ連崩壊以降、カザフスタンのウラン鉱山及びウランペレット製造施設以外は、ウラン採掘・製錬の40%、濃縮及び燃料の成型加工、再処理・放射性廃棄物処分施設の100%が、ロシアへ引継がれ、原子力省(MINATOM)及び傘下の国営企業により営まれてきた。現在、核燃料サイクル事業体制を再編成して国際市場における競争力を向上させることにより、かつてソ連に属していた国々のみならず、中国、ポーランド、トルコ、フィンランド、西欧諸国などへも積極的に事業を展開している。ロシアの核燃料サイクル施設所在地を図2に示す。
2.ウラン資源・採掘
 2011年1月現在、運転中の原子力発電所は10サイトで、総計32基、2,308万kWである。その内訳はロシア型加圧水型原子炉(VVER)が16基(うちVVER−440が6基、VVER-1000が10基)、黒鉛減速チャンネル型炉(RBMK-1000)が11基、小出力の軽水冷却黒鉛減速チャンネル型炉(EGP-6)が4基、高速炉(BN-600)が1基で、2015〜2020年までに必要な改修・改造を行い当初の30年間の運転許可を15年間延長することになっている。11基のRBMK炉も同様の運転期間延長が検討されている。これらウラン需要の拡大に応じ、ロシア国内のウラン鉱山の開発と海外でのウラン資源の確保が積極化している。
 ロシアのウラン生産量は1993年には2,697tU、1995年には2,160tUに低下したが、2000年には2,760tUに回復し、2008年には3,521tU、2009年には3,611tUと増加している。そして2015年には5,000tUに達するものと思われる(図3参照)。2008年の生産量のうち、86.6%は従来型の坑内採掘で、残りの13.4%がインシチュリーチングISL)による。坑内採掘生産量は年々増加しているが、露天採掘は1997年には完全に廃止された。かつて、全ての探鉱活動は100%政府が掌握する国営企業「Geologorazvedka」(地質・鉱物資源国家委員会の下部組織)の下で実施されてきたが、現在はAtomredmetzoloto(ARMZ、または“ウランホールディングARMZ”)の下で行われている。「Uranium 2009(OECD・NEA/IAEA)」によると、ロシア国内のウラン発見資源量は566,300tUで(世界第3位)、未発見資源量は633,000tU(世界第5位)、2009年のウラン生産量は3,611tU(世界第5位)である(図4参照)。
 ロシア国内のウラン粗精錬工場は、Streltsovskoe鉱床のPriargun鉱業化学生産合同(プリアルガン、埋蔵量:6,200tU、設備容量:3,500tU/年、生産量:3,003tU、坑内採掘、火山岩型、拡張計画5,000tU/年(2020年))、DalmatovskoeとKhokhlovskoe 鉱床のDalur(ダルル、埋蔵量:10,200tU、設備容量:350tU/年、生産量:462tU、ISL、砂岩型、拡張計画800tU/年(2019年))、Khiagda, Vershinnoe 鉱床のKhiagda(ヒアグダ、埋蔵量:13,500tU、設備容量:150tU/年、生産量:97tU、ISL、砂岩型、拡張計画650tU/年(2013年)、1,800tU/年(2017年))によって行われている。ARMZは2017年までにGomoe及びOlovskaya生産センター(各設備容量:600tU/年)と、2015年までにElkon生産センター(設備容量:3,000tU/年(2024年に5,000tU/年に拡張予定))を設置する予定である。また、ARMZはカザフスタン、ナミビア、モンゴル等諸外国と合弁会社を設立し、探査・採掘を実施している。
3.転換(表1参照)
 ウラン精鉱を天然六フッ化ウランに変換する転換プラントは、シベリア化学コンビナート(旧トムスク−7)内にあり、1998年には閉鎖された。イルクーツク近くのアンガルスクにある転換プラント(Angarsk、設備容量:18,700tU/年)及びモスクワの東50kmにあるエレクトロスタル再転換プラント(Elektrostal、設備容量:700tU/年、VVER-400燃料及び西欧諸国用カザフスタンU燃料等)は稼動している。
4.濃縮(表1参照)
 旧ソ連から引継がれた4ヶ所(ノボウラルスク、ジェレノゴルスク、セベルスク及びアンガルスク)で濃縮プラント(ウラル電気化学コンビナート、クラスノヤルスク電気化学プラント、シベリア化学コンビナート、アンガルスク電気化学コンビナート)が運転されている。1949年に旧ソ連で最初のガス拡散法による濃縮プラントが、ウラル中部のスペルドロフスク(現、エカテリンブルグ)で運転を開始した。旧ソ連は、ガス遠心分離法濃縮プラントも同時に開発し、1960年代前半から運転している。ガス拡散法に比べて電力消費がおよそ10分の1であるという利点から、ロシアでは1992年までにガス拡散法からガス遠心分離法へ切替えた。濃縮濃度に関してはウラル電気化学コンビナートが30%、その他の施設が5%に制限されており、核兵器級の高濃縮ウランの製造は1989年にすべて停止している。
 また、1993年の米ロ解体核高濃縮ウラン協定に基づき、ロシアから20年間にわたって500tの高濃縮ウランを低濃縮ウランに希釈して米国に輸出している。2006年にはウラン濃縮を含む核燃料サイクルサービスを提供する国際センターの構想が発表され、2007年5月にシベリア南東部のアンガルスク(Angarsk)で、カザフスタンの協力を得て、国際ウラン濃縮センター(IUEC)を設立した。IAEAの監視下で低濃縮ウランを約120tU備蓄する燃料バンクで、各国からの依頼により低濃縮ウランの供給と備蓄が行われる。
5.燃料集合体の成型加工(表1参照)
 旧ソ連の燃料成型加工関連プラントは、燃料ペレットを製造するカザフスタン東部の「ウルビンスク冶金工場」(ウスチカメノゴルスク)以外は、全てロシアに引き継がれている。ロシア国内のエレクトロスタリ(モスクワ近郊)とノボシビルスクに燃料製造工場は、ロシア国内外の74の原子炉と30の研究炉、及び船舶炉の燃料を対象に、TVELにより運転されている(エレクトロスタリ工場はVVER-440、RBMK、高速炉、船舶用及び研究炉用の燃料を製造している。一方、ノボシビルスク工場はVVER-1000用の燃料を製造している)。工場の年間生産量は約2,500tである。
 また、ジルコニウム被覆管は、キーロフの東南東にあるグラゾフ「チェペツキー機械工場」で生産され、制御棒はモスクワのポリメタルプラントで製造されている。
6.再処理(表1参照)
 クローズド燃料サイクルを基本とした第4世代炉への移行を目指すロシアの再処理施設は、旧ソ連からの施設をそのまま継承した。旧ソ連はプルトニウム生産炉の使用済燃料に含まれるプルトニウムの抽出を1950年頃から開始し、実験室で得られた使用済燃料の再処理技術及び生産試験のデータは、オブニンスクの物理動力技術研究所(IPPE)、オゼルスク(旧チェリャビンスク−65)にある生産合同マヤク(Mayak)、ディミトロフグラードにある原子炉研究所(RIAR)で検証された。生産合同「マヤク」軍事用再処理プラントは改良され、1971年から商業用再処理プラントRT-1として、動力炉VVER-440の燃料、高燃焼度の高速炉(BN-600)燃料及び舶用原子炉(原子力砕氷船及び原子力潜水艦)の使用済燃料を取り扱う。回収ウランはRBMK用燃料に再利用されている。RT-1では、国内及びブルガリア、ウクライナのVVER-440炉で発生した使用済燃料の再処理を行っているが、原子炉の運転寿命をむかえる2015年ごろから使用済燃料の搬入が滞ることから、VVER-1000用及び海外の軽水炉使用済燃料を受け入れる改造が進められている。使用済燃料貯蔵施設も6,000トンから9,000トンに拡張され、年間再処理容量は400tU/年(VVER-1000+PWR)となる。
 また、政府はクラスノヤルスク近くの鉱業化学コンビナート(MMC)に、VVER-1000用使用済燃料を取り扱うRT-2再処理プラント(年間処理量1,500tU、1983年操業開始予定)の建設を決定をしたが、財政難のため1989年に中断。2010年現在、RT-2プラントは使用済燃料貯蔵池での湿式貯蔵のみ運転している。また、乾式貯蔵施設(2016年貯蔵容量:36,000トン)の建設は行われているが、使用済燃料の再処理及び混合酸化物の成型加工関係のプラントの建設開始時期は、2025年以降まで延期される。
7.廃棄物管理
 使用済燃料の再処理で発生する放射性液体廃棄物は、地表水や浅部帯水層から隔てられた深部帯水層に注入処分する方法が、1963年からセベルスク(シベリア化学コンビナート、旧トムスク−7)、ジェレズノゴルスク(鉱山化学コンビナート、旧クラスノヤルスク−26)、ディミトロフグラード原子炉研究所(ウリャノフスクの東部)の3か所で行われてきた。ただし、マヤクは、地層処分に不適切なため、1986年からガラス固化パイロットプラントを運転し、10,000m3の高レベル廃液の処理と2,200t以上のガラス固化体が製造された。中・高レベル廃棄物処分場はNizhnekansky Rock Mass(クラスノヤルスク)で調査が行われているが、地下実験室の建設及び長寿命核種廃棄物の処分場建設計画等は2020年以降の見通しである。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 ロシアの核燃料サイクル施設の概略
表1  ロシアの核燃料サイクル施設の概略
図1 ロシアの原子力産業体制
図1  ロシアの原子力産業体制
図2 ロシアの核燃料サイクル施設所在地図
図2  ロシアの核燃料サイクル施設所在地図
図3 ロシアのウラン資源生産計画
図3  ロシアのウラン資源生産計画
図4 ロシア国内のウラン資源
図4  ロシア国内のウラン資源

<関連タイトル>
ロシア連邦の再処理施設 (04-07-03-18)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(6)−ロシア編− (05-01-03-19)
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
ロシアの電気事業および原子力産業 (14-06-01-06)
ロシアの高濃縮ウランの処分計画 (14-06-01-18)
旧ソ連秘密都市の原子力施設 (14-06-01-20)

<参考文献>
(1)世界原子力協会(WNA):Russia's Nuclear Fuel Cycle, http://www.world-nuclear.org/info/inf63b_china_nuclearfuelcycle.html
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2011、(2010年10月)、p.526-531
(3)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2010年版(2010年9月)、第6、12章
(4)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第1編、(2008年10月)、ロシア
(5)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2009:Resources, Production and Demand,(2010年7月), Russia
(6)(社)日本原子力産業協会:ウラン資源量と生産量(レッドブック「ウラニウム 2009」)、http://www.jaif.or.jp/ja/joho/press-kit20100826-1.pdf
(7)日刊工業出版プロダクション:原子力eye ソ連・ロシアの原子力産業発達史 1998年1月号、p.76-79
(8)ロスアトム(ROSATOM):http://www.rosatom.ru/en/
(9)Atomredmetzoloto(ウランホールディングARMZ):
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