<本文>
1.原子炉の型式
旧ソ連では、原爆開発を目的として
プルトニウム生産炉(工業炉)1号炉をウラルのチェリャビンスク−40(現在の生産合同マヤーク)に建設し、1948年6月に運転を開始した。また、モスクワの南西約100kmのオブニンスクで、実用規模では世界最初の原子力発電所(5000kWe、黒鉛減速軽水冷却)が1954年6月27日に運転を開始した。この建設および運転経験をもとに出力を増大して、レニングラード原子力発電所1号炉を1970年3月に着工し、1974年1月に運転を開始した。これは旧ソ連独自の炉型でチャンネル型黒鉛減速沸騰軽水冷却炉(RBMK-1000)と呼ばれ、その後の原子力開発の主流となった。またソ連型加圧水型原子炉、
沸騰水型原子炉、有機材減速冷却原子炉なども並行して研究・開発が進められ、1960年代からソ連型加圧水型原子炉(VVER)も実用化した。
旧ソ連は、開発の当初から閉じた燃料サイクルの構築を目指し、高速増殖炉を次世代の原子炉と位置づけて開発を進めてきた。また、原子力の熱利用を早くから構想し、1974年から極北地のビリビノで小型の熱併給原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速チャンネル炉、EGP-6型1.2万kW、4基)の運転を開始した。1980年代には大型のVVER-1000の導入のほか、独自に開発した熱供給原子炉AST-500の建設を進めたが、チェルノブイリ事故の後、住民の反対が高まり建設を中断した。
表1にロシアで運転中の原子炉の型式と基数および発電設備容量を示した。
2.RBMK型原子炉の開発
旧ソ連は、熱出力100MWtのプルトニウム生産炉(工業炉)をウラルのチェリャビンスク-40に5基建設し、1948年から1952年に運転を開始した。また1964年にはベロヤルスク1号炉(10.8万kW)が運転を開始し、1969年にはベロヤルスク2号炉(19.4万kW)が運転を開始した。
黒鉛減速炉はスケールアップが容易であるため、この特徴を生かして大型のチャンネル型黒鉛減速沸騰軽水冷却炉(RBMK-1000)を開発し、レニングラード1号炉のRBMK-1000(100万kWe)が1974年に運転を開始した。さらにスケールアップしたリトアニアのイグナリ原子力発電所のRBMK-1500(150万kWe)1号炉が1985年に運転を開始したが、1号機は2004年12月31日、2号機も2009年12月31日に閉鎖された。なお、1986年4月26日にウクライナのチェルノブイリ原子力発電所4号炉(RBMK-1000)で爆発事故が発生した。その後、同型のRBMKは新規建設が中止され、既設のRBMK型炉は安全性の改善を実施して運転している。RBMK型炉燃料の濃縮度(再装荷時)は、チェルノブイリ事故以前は2.0%であったが、チェルノブイリ事故以降、濃縮度を2.4%に増加して安全性を向上させた。
燃料集合体は
圧力管の中にあり、この圧力管内を沸騰水が流れ、炉心で発生した熱を除去し、
蒸気発生器で発生した蒸気をタービン発電機に送り発電している。
3.VVER型原子炉の開発
VVER炉はロシア型加圧水型炉で、1959年にノボボロネジ1号炉(22.0万kWe)、1964年には同2号炉(36.5万kWe)の建設を開始し、それぞれ1963年および1969年に初臨界に達した。
VVERの開発は次の3段階に分けてスケールアップが進められた。
第1世代:VVER-210およびVVER-365(初期段階の
実証炉)
第2世代:VVER-440/V-230(中型炉)
第3世代:VVER-1000(大型炉)
これらを建設開始年別にまとめると、次のようになる。
| 建設開始時期 | 運転開始時期 |
VVER-210 | 1959年 | 1964年(1基) |
VVER-365 | 1964年 | 1970年(1基) |
VVER-440 | 1965年〜1975年 | 1972年〜1984年(8基) |
VVER-1000 | 1974年〜1984年 | 972年〜1984年(8基) |
VVER-1200 | 2008年〜 | 2012年〜(2基) |
(注)2008年以降の100万kW級発電炉としては全数VVER-1200の建設を計画している。また、ロシアは海外へのプラント輸出に積極的であり、117万kW級のAES-2006/VVER-1200のモデルを用いたレニングラードII-1号機とノボボロネジII-1号機を2008年に着工し、将来的に輸出の主力モデルとして売り出すことを目指している。
4.原子力発電の設備容量
1986年4月26日のチェルノブイル事故以前に作成された旧ソ連の第12次5カ年計画(1986年から1990年)によると、RBMKおよびVVERが原子力発電全体に占める設備容量の比率は、1980年にそれぞれ66%、27%、1986年に46%、46%、1990年に40%、58%、1999年には52%および45%であった。
2009年1月1日現在、運転中の原子力発電所(発電専用のもの)は総計27基、2,319万kWである。その内訳はロシア型加圧水型原子炉(VVER)が15基(うちVVER-440が6基、VVER-1000が9基)、黒鉛減速チャンネル型炉(RBMK-1000)が11基、小出力の軽水冷却黒鉛減速チャンネル型炉(EGP-6)が4基、
高速炉(BN-600)が1基である。運転中の原子力発電所の規模としては、アメリカ(10,630万kW)、フランス(6,602万kW)、日本(4,793万kW)、ロシア(2,319万kW)、ドイツ(2,146万kW)と世界第4位である。また2007年時点の水力、火力、原子力を合計した総発電設備容量は22,400万kWで原子力の占める割合は約10%であった。
表2-1、
表2-2および
表2-3にロシアで運転中、建設中、計画中および閉鎖の原子力発電所の一覧(2009年1月1日現在)を、
表3にロシアの原子力発電設備容量の推移を、
図1に原子力発電所の地図を示した。また、
表4-1および
表4-2にロシア原子力省が発表したロシアで運転中、建設中、計画中及び閉鎖した原子力発電所の概要を示した。
ロスエネルゴアトム(現エネルゴアトム)は、2000年3月上旬に、今後5年間に4億7,000万ドルを投資して、建設中のロストフ(別名:ボルゴドンスク)1号機(VVER-1000)、カリーニン3号機(VVER-1000)、クルスク5号機(RBMK-1000)の3基を完成させることを明らかにした。これら3基は、1998年に政府が策定した原子力開発計画では2000年までに完成が予定されていたが、国営企業ロスアトム(Rosatom)は、経済危機により減少した電力需要が戻るのに、2年程度かかるとみている。このため、2012年から毎年2基ずつ運開させるとしてきた以前の計画を見直し、カリーニン3号機は2005年に運開したが、ロストフ2号機の運開は2009年、クルスク5号機の運開は2014年に延期されている。
5.ロシアの原子力発電開発計画(2008〜30年)
ロシアの原子力発電所は、株式会社エネルゴアトム(Concern Energoatom;コンツェルン・エネルゴアトム)が所有し、原子力による熱併給も実施している。エネルゴアトムは、10箇所の原子力発電所を運転し、2009年1月現在の総発電設備容量は2,319万kWe(熱電併給のビリビノ4基の電気出力を加えると2,324万kWe)で、原子炉数は27基(ビリビノ4基を含めると31基)である。このほか建設中の建設中の発電炉(FBRを含む)が8基、計画中が5基ある。運転中の代表的原子炉の種類別内訳は
表1に示す通り、VVER-440型炉6基、VVER-1000型炉9基、RBMK-1000型炉11基、BN-600型炉1基である。(注:熱併給炉のクラスノヤルスク-3とトムスク-4、5、およびウリヤノフスクにある研究炉VK-50、BOR-60に関しては運転情報が不明であり、上記の31基は含めていない。)
原子炉はエネルゴアトムが運転しており、2009年1月〜4月の4カ月間の発電電力量は53.3%(2008年1月〜4月の発電電力量の95.2%)で、設備利用率は79.6%であった。2007年におけるロシアの総発電設備22,400万kWによる総発電電力量は10,150億kWhで、この中で原子力発電の占める割合は15.8%であった(
表3、
表5参照)。
ロシア政府による原子力開発関係の政策決定の最近の経緯は次の通りである。ロシア政府は2000年6月25日に「21世紀前半におけるロシアの原子力開発戦略」を承認、2003年8月28日に「2020年までのロシアのエネルギー戦略」を承認、2008年1月22日に「2020年までの各種動力施設の一般的レイアウト」を承認、2008年8月20日に原子力に関するロスアトムの活動プログラムである「2009〜15年の長期計画」を承認した。
ロスアトムは運転中の原子力発電所のアップグレード、新規発電所の運転、耐用年数を過ぎた発電設備の廃炉計画を発表しているが、それによると、VVER-1200(120万kW)、VVER-1200Mプロジェクト(別称NPP-2008)、VEBR-300プロジェクト(熱併給炉、2×29.5万kWe)、BN-800プロジェクト(高速増殖炉、80万kWe)、BN-1600またはBN-1800プロジェクトがある。
ロシアの原子力発電および核燃料サイクルの開発戦略によると、将来はナトリウム冷却型高速炉を基本とした完全に閉じた核燃料サイクルに向けて徐々に移行することを目指している。この技術開発のため、ロスアトムは2030年までの原子力発電設備規模の増大を展望し(
図2)、以下のように2009年以降の新世代の原子力技術に関する開発プログラムを実施し、新技術基盤への移行が必要であると提案している。
◇第一段階(2009〜2015年)
革新技術開発によるロシアで運転中原子炉の改善点の検討
1)運転中原子炉の効率向上、品質改善、寿命延長。
2)建設中原子炉の完成。
3)複数の次世代原子力発電ユニットを建設する。これにはBN-800高速炉および混合酸化物(MOX)燃料の成型加工プロセスも含む。
4)BN-K型商業用ナトリウム冷却高速炉の開発。
5)地域電力供給を目的とした小型炉と中型炉の開発。
6)閉じた核燃料サイクルを目的としたプログラムを実施する。
◇第二段階(2009〜2030年)
原子力の技術スケール拡大および革新的原子炉技術と核燃料サイクルの習得
1)運転中の原子力発電所と同型の原子力発電所を建設し、総発電電力量の25〜30%を原子力発電により供給。
2)革新的第3世代型VVERの開発・導入。
3)第1、第2世代の原子力発電所を廃炉とし、第3世代原子力発電所と取替。
4)大型原子力発電所に移行できるよう基礎的技術を提供。
5)商業用の小型BN-Kナトリウム冷型却高速炉の試運転。
6)ガスタービンモジュラー型ヘリウム炉の建設と実験運転および炉で使用する燃料の成型加工(国際プロジェクトで実施)
7)固定用、船舶用(脱塩プラントを含む)の小規模原子力発電所の建設。
8)水から水素を生産する高温炉の開発を行う。
6.IBR社による将来の原子力技術開発の評価
2009年9月にIBR社(International Business Relations Corporation;ロシアの原子力コンサルタント)が、ロシアにおける原子力技術開発について、大型機器の製造能力、設計・エンジニアリング、建設業界の体質等について問題点を指摘するとともに、今後の電力消費の伸びは予想されるほど大きくない可能性があるため、発電設備の新設計画の見直しが必要であるとの評価結果(
表6)を発表した。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
世界の原子力発電開発の動向・CIS(2005年) (01-07-05-05)
ロシア型加圧水型原子炉(VVER) (02-01-01-03)
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
ロシアの原子力政策 (14-06-01-01)
ロシアの原子力開発体制 (14-06-01-03)
ロシアの原子力安全規制体制 (14-06-01-04)
旧ソ連のRBMK型原子炉開発の歴史 (16-03-02-04)
<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2010(2009年10月26日)
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2009年版(2009年4月)
(3)(社)海外電力調査会:海外電気事業統計2000年版(2000年8月)、2006年版(2006年9月)
(4)ロシア統計国家委員会:ロシア統計年鑑1999, 2003, 2006, 2008
(5)原子力省:MINATOM of RUSSIA 2000(2000年)