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<概要>
 原子力発電所軽水炉)でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を利用するプルサーマル計画は、1997年2月に閣議了解された。
 1999年6月には、関西電力の高浜3,4号機および東京電力の福島第一3号機、柏崎刈羽3号機、いずれの原子力発電所でも国の安全審査、地元の事前了解を終了し、プルサーマル発電を開始する準備が整った。しかし、1999年9月、関西電力が高浜3,4号機用にイギリス原子燃料会社(BNFL)へ委託加工したMOX燃料の品質管理データに不正が発覚、さらにJCO臨界事故の発生により再び原子力発電への信頼に疑問を投げかける事態となった。2001年5月には新潟県刈羽村でプルサーマル導入について住民投票が予定されていた。
 このようなプルサーマル計画の状況に鑑み、原子力委員会としてメッセージを出すことの重要性と緊急性があるとの判断に達し、2001年4月20日、緊急メッセージを原子力委員会決定とした。緊急メッセージの全文を原文のとおり示す。
<更新年月>
2002年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.背景
 原子力発電所(軽水炉)でウランプルトニウム混合酸化物(MOX:mixed-oxide)燃料を利用するプルサーマル計画は、1997年2月に閣議了解され、政府は福島、新潟、福井の三県知事に協力を要請、三県を中心にプルサーマル討論会の開催や議会での説明等を実施した。しかし、1999年9月、関西電力が高浜3,4号機用にイギリス原子燃料会社(BNFL:British Nuclear Fuels Ltd)へ委託加工したMOX燃料の品質管理データに不正が発覚し、同月末に発生したJCO臨界事故が国民に与えた不信感や安全への危惧が、再び原子力発電への信頼に疑問を投げかける事態となった。
 上記の高浜3,4号機を始め、東京電力が福島第一3号機、柏崎刈羽3号機で計画しているプルサーマルについては、1998年5月から2000年3月までに、いずれも地元の事前了解、国の安全審査が終了していた。福島第一原子力発電所で使用するMOX燃料は、ベルギー製(ベルゴニュークリア社)なので手続き上の問題はないとみられていた。しかし、旧通商産業省(現経済産業省)は、データ改ざんを機にMOX燃料審査の省令(電気事業法施行規制)を改正(2000年7月14日)し、安全規制を強化した。
 このため、福島第一原子力発電所のMOX燃料についても、データの再確認を実施し、2000年8月、安全性に問題ないとする審査結果を公表した。これによって、福島第一原子力発電所で国内初のプルサーマル発電を開始する準備が整った。
 一方、関西電力は、BNFL製MOX燃料をBNFLの責任と費用でイギリスに返送し、関西電力が被った損害について全て補償することで、2000年7月11日にBNFLと合意に達した。
 2000年12月に刈羽村(新潟県刈羽郡)村議会はプルサーマル導入の賛否を問う住民投票条例を可決、2001年1月、品田村長は再審議のため本条例を議会に差し戻したが否決され、廃案になった。しかし、再び同年4月18日の村議会臨時議会で、市民団体の直接請求に基づく「東京電力の柏崎刈羽原子力発電所へのプルサーマル導入をめぐる住民投票条例案」が可決した。この結果をうけて、4月24日に、品田村長は条例に基づく住民投票を5月27日に実施することを明らかにした。
2.プルサーマルの意義と原子力委員会からの緊急メッセージ
 日本の核燃料サイクルは、プルサーマルを前提にしている。2000年11月24日に策定された「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(原子力長計)でも、「本格的な資源リサイクル時代に備えて、プルサーマルを計画的かつ着実に進めることが期待される」と明確に位置づけられている。
 軽水炉でのプルトニウム利用、いわゆるプルサーマル計画は、ウラン資源を有効活用する技術であり、燃料供給の安定性向上の観点から注目されている。高速増殖炉でのプルトニウムの本格的利用までプルトニウムの利用技術を拓く上でも意義がある。
 このようなプルサーマル計画の状況に鑑み、原子力委員会としてメッセージを出すことの重要性と緊急性があるとの判断に達し、2001年4月20日、「原子力委員会からの緊急メッセージ」を決定した。以下に、全文を原文のとおり示す。ただし、理解のため若干の文言を補足した。

原子力委員会からの緊急メッセージ
平成13年4月20日

1.原子力委員会は、今般の中央省庁等再編により、内閣府に移行し、新たに出発いたしました。
 この、言わば「新生原子力委員会」の所信として、去る(2001年)1月23日に、「21世紀の原子力委員会の発足に当たって」を発表いたしました。この中において、今後、原子力委員会としては;
・昨年(2000年)11月に策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」を誠実に、また積極的に具体化し、着実に進めていくこと、
・柔軟かつ機動的な組織として、国民の皆さんや各地域の方々と常に接し、さまざまな意見を十分に反映していく努力を行うこと
 などを明らかにしております。

2.「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」は、約1年半をかけ策定のための会議を重ね、その間、全国3カ所で「ご意見をきく会」を開催し、広く国民の皆さんと議論するとともに、50日間にわたって意見募集を行うなど、多様な立場の方々との論議を経て策定したものであり、今後の我が国原子力政策の根幹として、閣議に報告されたものです。
 同計画は、原子力を、資源の乏しい我が国にとって、エネルギーの安定供給に貢献するものと位置付けるとともに、「プルサーマル計画」については、燃料をほぼ全量輸入に依存する現状の下で、原子力の供給安定性を一層確実にできること、ドイツ、フランスなど海外では既に1980年代から利用が本格化していることなどを踏まえて、着実に推進していくことが適切であるとしています。

3.また、我々は、この(2001年)1月以降、新しい原子力委員会が今後どのような活動を行っていくべきかについて検討を進めてきており、近々その内容を明らかにすることとなりますが、その中で、「いつでも、どこでも、だれとでも」対話することを心がけ、そのための体制を整えていくことを最重要課題の一つとして位置付けております。

4.この間、「プルサーマル計画」を巡って様々な論議が生じています。
 この数ヶ月の間、「プルサーマル計画」の何が問題とされているのか、皆さんがどのような意識をお持ちなのかについて、重大な関心をもって注目して参りましたが、最近の動きを見て、あらためて、「プルサーマル計画」を含む原子力政策全般について説明し、ご理解をいただくための努力が必要だとの思いを強くいたしました。

5.したがって、原子力行政の民主的な運営のために設置された原子力委員会として、新たな決意をもって、広く国民の皆さんや、平成8(1996)年の三県知事提言を出された福島県、新潟県及び福井県並びに核燃料サイクル施設が立地する青森県及び茨城県を始めとする立地地域の方々と、ご意見、ご要望を伺いながら、膝を交えて率直な話合いをして参りたいと考えております。
 つきましては、そのような機会を持つことに、是非ご協力をいただきたいと思います。以上
<関連タイトル>
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
日本のプルトニウム利用計画 (04-09-02-11)
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
核燃料リサイクルの技術開発[その1](平成6年原子力委員会) (10-01-04-06)
21世紀の原子力委員会の発足に当たって(2001年1月) (10-02-02-07)

<参考文献>
(1) 原子力委員会ホームページ:原子力委員会からの緊急メッセージ(2002年2月15日)
(2) 原子力委員会ホームページ:第16回原子力委員会臨時会議議事録(案)(2002年2月15日)
(3) 日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2001/2002年版(2001年11月)、p.43-45,196-197,560
(4) 日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 2000/2001年版(2000年10月)、p.22,p.217-218
(5) 日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 1999/2000年版(1999年10月)、p.23-24,107-108
(6) 日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑 ’98/99年版(1998年12月)、p.83
(7) 日本原子力産業会議新聞:プルサーマル導入をめぐり刈羽村、住民投票へ、原子力産業新聞第2085号、第1面(2001年4月26日)
(8) 日本原子力産業会議新聞:プルサーマル実施をめぐって、原子力産業新聞第2087号、第4面(2001年5月17日)
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