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<概要>
 我が国が採るべき4つの原子力開発利用の基本方針は次のとおりである。
(1)原子力平和利用国家としての原子力政策の展開
(2)整合性のある軽水炉原子力発電体系の確立
(3)将来を展望した核燃料リサイクルの着実な展開
(4)原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第2章 我が国の原子力開発利用の在り方
3.原子力開発利用の基本方針

 本節では、前述の目標、大前提の下で我が国が採るべき原子力開発利用の基本方針を明らかにします。

(1) 原子力平和利用国家としての原子力政策の展開
我が国は、原子力開発利用を平和目的に徹して推進してきた結果、今日の成果を享受するに至りました。今後とも、この姿勢を堅持するとともに、平和利用に徹してきた国にふさわしい原子力政策を展開していくことが重要です。このため、核不拡散についての国際的信頼の確保、平和利用を指向した技術開発、平和利用先進国にふさわしい国際対応、情報の公開・提供に取り組んでいきます。
 核不拡散についての国際的信頼を確保するため、NPT及びNPTに基づく国際原子力機関(IAEA)保障措置体制を原子力平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みとして維持・強化するとともに、自発的な努力をしていくこととします。一方、自らも平和利用の強固な意思を改めて明確にするとともに、核兵器関連の技術を持たず制度的にも実態上も核兵器開発の可能性は全くないということを示していくことが重要です。
平和利用を指向した技術開発については、保障措置や核物質防護関連の技術開発を進めるほか、アクチニド(ウラン、プルトニウムのみならずネプツニウム等の核燃料として利用できる長寿命の元素)のリサイクル技術の研究開発等を進めます。また、平和利用の原子力は、安全性、信頼性、経済性が全体としてバランス良く優れているものでなければなりませんから、長期的視点に立った研究開発を着実に進めながら全体としてバランスのとれた市場経済型の原子力を追求していくことが重要です。
 平和利用先進国にふさわしい国際対応については、平和目的に限った原子力利用の普遍化を図ること、各国の原子力開発利用の安全性の向上に貢献することを基本に、主体性を持って積極的に国際協力を進めていくこととします。このため、共通する目標を持つ諸国と協調していくとともに、先端的な研究施設の国際的な開放などを通じてこれまで培ってきた研究開発の成果を世界に積極的に発信していきます。
 原子力基本法は、平和利用に限り原子力開発利用を行うことを確保するということを主眼として、その成果を公開することを定めており、これまでも公開に努めてきたところではありますが、原子力平和利用と情報の公開は密接不可分ということを十分踏まえて、今後一層情報の公開に取り組んでいくこととします。また平和利用の原子力は国民生活に密接に関連しているということを踏まえ、国民の選択としての原子力政策を進めていくことを心がけることが重要です。このため、正しい情報や知識を的確に国民に伝え、国民の中に安心感が醸成されるよう可能な限り、情報の公表、情報の提供を促進するなど国民の理解と協力を得ていくための施策を充実していきます。

(2) 整合性のある軽水炉原子力発電体系の確立
 今日、軽水炉による原子力発電は安全実績を積み重ねつつ総発電電力量の約3割を担うまでになっており、軽水炉は高い信頼性を持つ炉型として定着しています。一方、近年、天然ウランの需給は緩和基調で推移しており、この傾向は当面続くものと予測されること、高速増殖炉の実用化までには取り組むべき技術的な課題が残されていること、高速増殖炉の実用化以降も軽水炉との併用期間が続くと見込まれることなどから、今後とも相当長期にわたり、軽水炉が原子力発電の主流を担うこととなると予想されます。
 この軽水炉主流時代の長期化をにらんで、その安全性、信頼性を確保しつつ、経済性の一層の向上に向けて努力していく必要があります。特に、原子力発電所の高経年化を踏まえた安全対策、放射性廃棄物の処理処分対策、廃止措置対策などを充実させていくことが重要です。
 軽水炉原子力発電を安定的に継続していくためには、ウラン資源を安定的に確保していくとともに、ウラン濃縮、ウラン燃料加工などをその規模や時期などの観点で適切かつ合理的な形で進めていくことが重要です。
 また、原子力施設の立地の円滑化は重要な課題です。事業者が中心となって、立地の促進に向けて立地地域と原子力施設が共生できるよう積極的に取り組むことが必要ですが、関係省庁も一体となってこれを支援していくこととします。
 整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題は、放射性廃棄物の処理処分と原子力施設の廃止措置(以下「バックエンド対策」といいます。)を適切に実施するための方策を確立することであり、これは原子力による便益を享受している我々の世代の責務です。バックエンド対策は、多種多様な放射性廃棄物の特性を踏まえて合理的に実施することとし、安全確保を大前提に、国民の理解と協力の下、責任関係を明確化して計画的に推進していきます。とりわけ、高レベル放射性廃棄物の処分は重要な課題であり、処分の手順、スケジュール、関係各機関の責任と役割等を明確に示しつつ、円滑に実施していくことが必要です。

(3) 将来を展望した核燃料リサイクルの着実な展開
 エネルギー資源に恵まれない我が国が、将来にわたりその経済社会活動を維持、発展させていくためには、将来を展望しながらエネルギーセキュリティの確保を図っていくことが不可欠です。化石エネルギー資源と同様にウラン資源も有限であり、軽水炉利用を中心としてこのまま推移すれば21世紀半ば頃にもウラン需給が逼迫することも否定できません。このため、使用済燃料再処理して、回収したプルトニウム、ウランなどを再び燃料として使用する核燃料リサイクルの実用化を目指して着実に研究開発を進めることによって、将来のエネルギーセキュリティの確保に備えます。核燃料リサイクルは、資源や環境を大切にし、また放射性廃棄物の処理処分を適切なものにするという観点からも有意義であり、将来を展望して着実に取り組んでいきます。
 具体的には、発電しながら消費した以上の核燃料を生成し、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができる高速増殖炉を、相当期間にわたる軽水炉との併用期間を経て将来の原子力発電の主流とすることを基本とし、原型炉から実証炉へと研究開発の段階を歩みながら2030年頃までには実用化が可能になるよう高速増殖炉による核燃料リサイクルの技術体系の確立に向けて官民協力して継続的に着実に研究開発を進めていきます。また、将来の高速増殖炉時代に必要なプルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立、長期的な核燃料リサイクルの総合的な経済性の向上等を図っていくという観点から、一定規模の核燃料リサイクルを実現することが重要であり、商業規模の再処理工場の建設、運転経験を蓄積するとともに既存の軽水炉と新型転換炉による核燃料リサイクルの実現を図っていきます。
 核燃料サイクルの経済性については、現時点においては軽水炉による混合酸化物(MOX)燃料の利用は、使用済燃料を直接処分する場合に比べてそのコストは若干高いと見込まれているものの、総発電コストから考えれば本質的な差はなく、長期的視点に立って、燃料仕様の共通化等により経済性の向上に努めていきます。また、高速増殖炉による核燃料サイクルについては、革新的技術を段階的に取り入れていくことなどにより軽水炉並みの経済性を達成できる見通しが得られています。
 また、核燃料リサイクルを進めるに当たっては、核拡散に係る国際的な疑念を生じないよう核物質管理に厳重を期すことはもとより、我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めていきます。

(4) 原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 原子力技術は、核分裂エネルギーを利用した原子力発電という形態がよく知られていますが、核融合エネルギー、高温ガス炉による熱供給、舶用動力、放射線利用など原子力技術の応用範囲は極めて広範であり、今後とも多様な展開を図っていきます。
 核融合エネルギーは、必要な燃料資源等が地球上に広く豊富に存在すること、原理的に高い安全性を持つことなど優れた特長を持ち、人類の恒久的なエネルギー源の一つになることが期待されています。我が国は、自らの研究開発ポテンシャルを有効に活用し、主体的な国際協力の推進を図りつつ、核融合の研究開発を積極的に進めていきます。
 放射線利用は、医療、農業、工業など広範な分野への展開を通じて国民生活や福祉の向上に大きく貢献するものであり、エネルギー利用と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として推進していきます。とりわけ、医療、環境保全など生活者を重視した利用技術の普及促進を図るとともに、近年性能の向上が著しい加速器研究用原子炉から発生する新しいビームを活用した先端的研究開発を推進していきます。
 科学技術の発展は、常に進取の精神から生まれます。将来に向けてより優れた科学技術を生み出すために、向上心を持ったたゆまぬ研究開発に取り組む姿勢が求められますが、原子力は科学としても産業技術としても挑戦していくに値する魅力ある分野です。とりわけ、多様化、高度化する原子力のニーズに適切に対応し、国民の福祉の一層の向上を図るという観点や国際公共財ともいうべき知的ストックの蓄積に我が国が貢献するという観点から、既存の原子力技術の高度化のみならず、新しい原子力技術の創出が必要です。このため、原理、現象に立ち返った基礎研究を積極的に進めていくこととします。また、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こす可能性のあるフロンティア領域や将来の新たな技術開発の進展を生み出す基盤を形成する可能性のある技術領域についての研究を重点的に進め、幅広い技術基盤の強化を図ることとします。
<関連タイトル>
我が国の原子力開発利用の目標(平成6年原子力委員会) (10-01-03-01)
原子力開発利用の大前提(平成6年原子力委員会) (10-01-03-02)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1751号(1994年7月21日)
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