<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 晩発性放射線の影響
<タイトル>
白内障 (09-02-05-04)

<概要>
 眼の水晶体は本来透明であるが、何等かの原因によって発生した混濁状態が即ち白内障(俗に白そこひと言われ、自覚的には視力障害がみられる)である。その原因として糖尿病のような代謝性疾患や外傷ばかりでなく、電離放射線も含まれている。放射線によって誘発された白内障は特異的な病像を示す。また発症には線量しきい値X線、1回照射、2Gy)があるが確実的影響に分類され、潜伏期はほぼ8年(2.5〜6.0Gyの範囲)である。また、放射線の中でも速中性子線被ばくによる白内障の誘発効果はX線より大きく、動物実験の結果では、ほぼ10倍の誘発効果(高線量域)がある。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 水晶体は線維被膜に被われたレンズ状透明体で、前方被膜下には一層の上皮細胞層があり、その内側には中央の水晶体の周囲に向かって水晶体線維細胞がほぼ同心状に配列して水晶体を構成している( 図1 )。この上皮細胞は水晶体の前面の胚細胞帯でのみ細胞分裂をし、水晶体線維に分化しながら赤道に移動する。この細胞分裂は生涯を通じて起こっているので自己複製能を具えた組織と認められている( 図2 )。しかし、水晶体にはこれら細胞を体外に排除する機序はなく、胎生時の線維細胞(繊維細胞)の遺残は水晶体の核となって認められる。生後増殖した線維細胞は核のない細胞が板状となって、核周囲に存在する。また血管と結合組織が存在していない、細胞だけから構成されている特色が備わっている。
 動物実験では、眼球組織の中でも水晶体の上皮細胞、特に細胞分裂後の幼若細胞は放射線に感受性が高い( 図3-1図3-2 および 図3-3 )。放射線により障害を受けると、正常な線維化が起こらず、不透明な異常線維ができる。異常線維は水晶体から排除されることなく、後極へと移動し、その場に留まるため、水晶体の混濁として見られる。
 実際に、X線の治療線量を被ばくした人の症例においては早期放射線誘発白内障の細隙燈顕微鏡所見は最初、被膜下後極の斑点として認められ、それが大きくなるにつれ、その周りに小顆粒混濁や空胞が出現する。斑点が数ミリメートルになると混濁はドーナツ状となる。また、同時に瞳孔域の前被膜下にも顆粒状混濁と空胞が発生する。この白内障はこの状態で停ることもある。しかし、白内障がこれ以上に進行すると放射線誘発白内障としての特異性は失われて、他の原因で誘発された白内障とは鑑別できなくなる。
 混濁は進行する症例とそうでない症例とがあり被ばく線量に相関している。症例データからは2.2〜6.5Gyの被ばくでは、大多数は進行せず12%の症例で進行した。一方、6.5〜11.5Gyの被ばくでは12%の症例のみが進行しないで停滞したが、他症例には進行がみられた。
 白内障発症までの潜伏期も照射線量と関連があり、低い線量の2.5〜6.5Gyでは平均8年(6か月〜35年)で、より高い6.51〜11.5Gyの被ばくでは平均4年であった。
 白内障発症にはしきい値が認められ、X線照射量が0.5Gy以下では混濁は認められず、1回2Gy照射では2%の症例に非進行性の白内障が発症し、5Gy以上の線量では進行性白内障が発症する。水晶体の放射線に対する耐容線量は分割により照射時間が長くなると高くなる。即ち、白内障発症に要する線量は3週〜3か月間にわたる照射では4Gy,3か月以上にわたる照射では5Gyとされている。
 放射線の線質効果についてはマウスを用いた中性子線とX線との比較では、数GyレベルでのRBE(生物学的効果比:Relative Biological Effectiveness)は10であるが、cGyのレベルでは50になると報告されている。
<図/表>
図1 右眼球の水平断面図
図2 水晶体の水平断面図
図3-1 程度の異なるラットの白内障
図3-2 程度の異なるラットの白内障
図3-3 程度の異なるラットの白内障

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<関連タイトル>
線エネルギー付与(LET)・生物学的効果比(RBE)・放射線荷重係数(WR) (09-02-02-11)
放射線の確定的影響と確率的影響 (09-02-03-05)
晩発性の身体的影響 (09-02-05-01)

<参考文献>
(1) E.J.Hall(著)、浦野宗保(訳):放射線科医のための放射線生物学、篠原出版(1995)
(2) 青山 喬(編)、菅原 努(監修):放射線基礎医学(第9版)、金芳堂(2000)
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