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<概要>
 皮膚に放射線照射すると急性影響が現れることがある。影響が現れるかどうか、また現れるとしたらどんな現れ方をするかは、放射線の量と被ばくの条件によって異なる。一回短時間被ばくの場合、皮膚に紅斑を生じさせる「しきい線量」は、X線 あるいはγ線の被ばくで6〜8Gyとされている。こうした場合、観察可能なもっとも早い変化は一過性紅斑で、これは数時間以内に現れ、数時間で消えてしまう。その2〜4週間後には、もっと濃く、もっと長時間続く紅斑が1回から数回現れる。被ばく線量がさらに多いと、線量の増加に応じて、脱毛、乾性皮膚炎湿性皮膚炎、および表皮の壊死が起こる。また、晩発性の影響としては皮膚癌の発生がある。
<更新年月>
2001年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射線による皮膚への影響
 皮膚は大別して表皮、真皮、皮下の3組織からなり、これらは上皮、毛嚢、皮脂腺、汗腺、血管、及び支持組織などで構成される( 図1 参照)。放射線の皮膚への効果は、これらの構成組織への効果の総合的な表現として現れるものである。上皮および毛嚢の基底細胞、皮脂腺は、放射線感受性が比較的に高く、汗腺、及び分化の進んだ上皮細胞(顆粒層、角質層)は、放射線感受性が低く、毛細血管系は、これらの中間の放射線感受性を示す。皮膚の放射線感受性は、照射される皮膚の身体部位によって異なり、次の順で低くなる。
 (1)前頚部、肘前部と膝窩部、
 (2)四肢の前表面、胸部、腹部、
 (3)強度の色素沈着の無い顔面、
 (4)背部と四肢の後ろ表面、
 (5)強度の色素沈着のある顔面、
 (6)うなじ、
 (7)頭皮、
 (8)手のひらと足底。
 皮膚の急性放射線影響は、様々な因子によりその現れかたが大きく異なる。 図2 は照射された皮膚の面積と、分割照射による皮膚耐容線量(湿性皮膚炎を生じる線量)の変化を示したものである。照射面積の減少、分割回数の増大に従って、耐容線量が大きく増加している。ヒトの皮膚では、10平方センチの面積に紅斑を生じさせるX線(エックス線)あるいはγ線(ガンマ線)のしきい線量は、1回短時間被ばくの場合には6〜8Gy、多数回分割照射によるあるいは遷延照射(*1)による被ばくの場合には30Gy以上となる。乾性皮膚炎、湿性皮膚炎、壊死では、しきい値は上記の値よりも高く、分割被ばくと遷延被ばくによって更に増加する。
2.放射線による皮膚の損傷
 放射線の急性照射によって生じるもっとも早い変化は、数時間内に現れる一過性紅斑であり、障害を受けた上皮細胞がヒスタミン様物質を放出するために起こる毛細血管の拡張によるものであり、臨床上目に触れることは少ない。それ以降に生じる皮膚の損傷(急性皮膚反応)は、 表1 に示すように、第1度から第4度までの4段階に分類される。
(イ)第1度の皮膚反応
 照射により、まず上皮の基底細胞の増殖が阻害され、角化層の脱落が生じ、その結果、上皮が薄くなる。3〜4Gyの線量の照射後、約3週間から現れる。皮膚は乾燥し、脱毛が生ずる。その他には症状はほとんどない。
(ロ)第2度の皮膚反応 [乾性皮膚炎]
 主症状は本格的な皮膚紅斑であり、細動脈が部分的に狭窄し、血流が盛んになって乾性皮膚炎が生ずる。皮膚は充血、腫張するが糜爛(びらん)するには至らず、やがて落屑がはじまる。6〜19Gyの照射後約2週間を経過してから紅斑が明らかになり、約3〜4週間持続する。
(ハ)第3度の皮膚反応 [湿性皮膚炎]
 1回に20〜25Gyの線量が照射されると上皮に、線量が多い場合には皮下にも、水泡が現れ、癒合し、水泡が破れると皮下組織が直接露出する。照射後約1週後に湿性皮膚炎が始まり、4〜5週間持続する。創傷にはフィブリン(*2)が析出する。患部は感染し易い。約1〜2週後から上皮の再生が始まる。
(ニ)第4度の皮膚反応 [潰瘍
 30Gy以上の線量の照射後、1週間以内に生ずる。深紅色の紅斑が現れ、ついで水泡が生じ、これが糜爛して潰瘍となる。すなわち、上皮は壊死して脱落し、線量が高いと縁が鋭く掘れ込んだ典型的な放射線潰瘍となる。上皮の基底膜は消失して、薄い上皮が皮下組織に直接密着した状態となり、外からの刺激に弱くなる。

[用語解説]
 (*1) 遷延(分割)照射:放射線治療時、何回にも分けて照射する方法を分割照射というが、1回線量を減らし、分割回数を増やし、長期にわたって照射する方法を遷延(分割)照射という。
 (*2) フィブリン(fibrin):線維素。血液凝固の際生ずる物質で、線維状をなし、凝固の中で網状に連なって赤血球や白血球などを包んでいる。
<図/表>
表1 放射線皮膚反応の特徴と対策
表1  放射線皮膚反応の特徴と対策
図1 皮膚層の図
図1  皮膚層の図
図2 照射野および分割照射と皮膚の耐容線量の関係
図2  照射野および分割照射と皮膚の耐容線量の関係

<関連タイトル>
放射線による外部被ばく (09-01-05-01)
放射線の急性影響 (09-02-03-01)
放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)
放射線の確定的影響と確率的影響 (09-02-03-05)

<参考文献>
(1) 中尾いさむ(編):放射線事故の緊急医療、ソフトサイエンス社(1986)
(2) 日本アイソトープ協会(編):lCRP Publ,41、電離放射線の非確率的影響、丸善(1984)
(3) United Nations:UNSCEAR Report,AnnexG,559,(1988)
(4) IAEA:IAEA TECDOC 366,(1986)
(5) United Nations:UNSCEAR Report, Annex A,129,(1994)
(6) 日野原重明ほか(編):看護・医学事典第5版、医学書院,(1997)
(7) E.J.Hall, (著)、浦野宗保(訳):放射線科医のための放射線生物学、篠原出版(1979)
(8) 坂本澄彦:放射線生物学、秀潤社(1998)
(9) 菅原努(監修)、青山喬(編著):放射線基礎医学、金芳堂(2000)
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