<概要>
放射線の生物影響において動物組織を分類すると、
細胞再生系と細胞非再生系の二つに大別できる。細胞再生系は、
細胞分裂能力のある細胞(幹細胞および一部の幼若細胞)を含む組織で、造血組織、
生殖腺、
上皮組織、
水晶体などが含まれ
放射線感受性が高い。細胞非再生系は、細胞分裂を停止した細胞から構成される組織で、筋組織、神経組織、脂肪組織などが含まれ放射線の影響を受けにくい。
一方、肝臓や腎臓などの組織は、通常は分裂しないが刺激を受けると分裂を開始するので条件的細胞再生系と呼ばれ、その放射線の感受性は中程度である。
<更新年月>
2001年03月 (本データは原則として更新対象外とします。)
<本文>
動物組織の分類はいろいろな立場から行われるが、一般的に上皮組織、造血組織、筋組織、神経組織等に大別されることが多い。このうち上皮組織、造血組織は細胞分裂の能力を持つ細胞を含み、筋組織、神経組織は、成体では主として細胞分裂の能力を失った細胞からなる。放射線の生物影響においては、前二者は細胞再生系であり、後二者は非再生系にそれぞれ大別され、放射線感受性も異なっている(
表1 )。
1.細胞再生系
細胞再生系組織では、細胞増殖のもとになる未
分化な幹細胞があり、これが分裂して2個の細胞になると片方はもとの幹細胞になり、もう一方が分化を続ける芽細胞になる。芽細胞は、分化・成熟してある機能を持つ細胞になり、最後には細胞の寿命が終わって死滅する。このように細胞再生系では古い細胞と新しくつくられた細胞とが、絶え間無く交代していて、老化死滅する細胞と、新成される細胞との数がほぼ一定に保たれている。
例えば、哺乳類の成体の造血細胞組織である
骨髄には
造血幹細胞があり、これらが分裂・分化して、赤血球、
白血球、栓球系の母細胞となり、さらに分裂・分化して赤血球、数種の白血球、栓球が出来上がる。このようにして分化し完成した細胞は、骨髄から血液中に入りそれぞれの機能を果たすようになる。赤血球の場合は、分化して
核を失い、
ヘモグロビンによる酸素運搬の働きをするが、次第に老化して3〜4カ月の間にその寿命がつきる。赤血球の数が減ると造血幹細胞が再び分裂・分化してこれを補うのである。
2.高感受性組織
一般に、放射線の影響を受けやすい(感受性の高い)組織というのは、(1)分裂頻度が高い、(2)形態及び機能が未分化である、(3)分化、完成するまでに分裂回数が多い、などの特徴を持つ。従って、細胞再生系組織は、増殖部位と呼ばれる一定の部位に幹細胞が存在して分裂を繰り返しているので、放射線感受性が高い。細胞再生系組織には造血組織以外に、生殖腺、腸上皮、皮膚、水晶体などがある。これらの組織が放射線照射されると、幹細胞の分裂の遅れや増殖死のため、細胞が新生される速度が落ちるとともに、分化・成熟した機能細胞は、老化死滅してゆくので組織中の細胞数が次第に減る。細胞が新生されない場合には細胞数の減少がはなはだしく、やがて組織は死に至る。細胞再生系の分化、成熟過程による変化を
図1 にまとめる。
3.細胞非再生系
細胞再生系と異なり、個体発生の初期に細胞分裂を行って一定数の細胞がつくられた後は、分化・成熟してもはや細胞分裂を行うことのない細胞の集まった組織を細胞非再生系と呼ぶ。細胞非再生系組織には、細胞分裂をする幹細胞が含まれないので、一般的に放射線感受性が低い。例えば、脳にある神経細胞は、個体の発生初期において一定の段階では活発に細胞分裂を行うが、その後は分裂する能力を失い、生涯にわたって分裂しない。従って、外科手術やその他の原因で神経細胞が失われても、もはや再生は起こらない。同様に、筋組織、脂肪組織なども細胞非再生系である。
4.条件的細胞再生系
肝臓や腎臓に再生能力はあるが通常は分裂しない。しかし、損傷や病気に冒されたりすると、これらの組織は分裂を開始するので条件的細胞再生系と呼ばれる。その放射線感受性は中程度である。
<図/表>
<関連タイトル>
遺伝子と遺伝子暗号DNAの構成 (09-02-02-02)
体細胞と組織構成 (09-02-02-04)
生殖細胞の構成 (09-02-02-05)
放射線の細胞への影響 (09-02-02-07)
放射線の細胞分裂に及ぼす影響 (09-02-02-16)
放射線の造血器官への影響 (09-02-04-02)
放射線の生殖腺への影響 (09-02-04-03)
<参考文献>
(1) 江上信雄:放射線生物学、岩波書店(1985)
(2) 吉井義一:放射線生物学概論[第2版]、北海道大学図書刊行会(1922)
(3) 近藤宗平:分子放射線生物学、東京大学出版会(1972)
(4) 坂本澄彦、佐久間貞行(編著):医学のための放射線生物学、秀潤社(1985)
(5) 菅原努(監修)、青山喬(編著):放射線基礎医学、金芳堂(2000)
(6) 坂本澄彦:放射線生物学、秀潤社(1998)