<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 放射線による生物影響
<小項目> 急性放射線影響
<タイトル>
放射線の造血器官への影響 (09-02-04-02)

<概要>
 造血は人の場合、主として骨髄とリンパ節で行われている。骨髄では白血球、赤血球、血小板リンパ球が造られ、リンパ節ではリンパ球が造られている。骨髄、リンパ節とも造血細胞と支持細胞から構成されているが、前者は放射線に非常に感受性が高く、後者は比較的抵抗性がある。
<更新年月>
2001年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.造血器官
 造血器官とは骨髄、脾臓、リンパ節である。骨髄とは骨の中央を占める柔らかい部分であり、この中で主として血球が造られる。脾臓は胃の左後部にある暗赤色の臓器である。脾臓は大量の出血があったときは骨髄による造血を補って造血を行う機能を持つ。その他の機能として古くなった赤血球を破壊して処理する働きがある。正常な状態で脾臓を手術により取り除いても生命には別状がない。リンパ節は主としてリンパ球系の細胞が集まって組織を構成しており、全身に散在する。リンパ節はリンパ球の生産と共に、免疫反応に深く係わっている器官である。いずれの造血器官も血球の他に、血球の増殖分化を支持する細胞群(造血支持細胞)からなっている。造血支持細胞は繊維芽細胞、血管内皮細胞、マクロファージ等から構成されており、血液細胞増殖因子(サイトカイン等)の生産をしている。
2.造血幹細胞
 造血系の細胞の増殖、分化機構についての模式図を 図1 に示す。白血球、赤血球、血小板、リンパ球等の血液細胞は共通の祖先すなわち多能性造血幹細胞から由来する。多能性幹細胞はさらに好中球や、赤血球、血小板、リンパ球へ運命づけられた幹細胞(GM-CFU,BFU-E, CFU-M, リンホイド前駆細胞)へ分化し、さらに何回かの分裂を経て成熟した血球となる。幹細胞は自己再生能(自分と全く同じ細胞を造る能力)をもつことが必須である。GM-CFU, CFU-M, BFU-E は、主として骨髄で造血支持細胞との相互作用により増殖し分化して血中へ入る。リンホイド前駆細胞(リンパ球に成熟する以前の未熟なリンパ球細胞)は、骨髄からリンパ組織に入り、そこでリンパ球を作り出す。
3.造血器官への放射線の影響
 造血器官の構成細胞の中で造血支持細胞は放射線に比較的抵抗性があり、照射により血液細胞増殖因子を生産する能力が高まる。一方、造血幹細胞は放射線に非常に感受性が高い。成熟した血球の寿命は短いもので約8日、長いもので120日であるので、全身に放射線を浴びた場合造血器官からの血球の供給が無くなり白血球や血小板が減少する。赤血球は寿命が長いので、貧血は出血が大量にある場合に生じる。照射線量と好中球、血小板、リンパ球の変化の関係は図1および 図2 に示す。リンパ球は放射線の影響を最も鋭敏に受け、1〜2Gyの線量で48時間以内に正常値の約50%迄に減少する。好中球数は1〜2Gyあるいはそれ以上の線量では被ばく後、2〜3日目にかけて細胞増加が見られる。この増加は線量が高いほど大きい。その後、細胞数の減少が始まる。減少の速度とその程度は線量に依存する。血小板の減少は好中球の減少とだいたい類似している。各血球数の最低値を指標に線量効果関係を見てみると、血小板が最も放射線に感受性があり、その次がリンパ球である( 図3 )。
[用語解説]
マクロファージ:血液、リンパ、その他の組織中に存在し、異物や老廃細胞などを捕食し消化する機能をもつ大形のアメーバ状細胞の総称。
<図/表>
図1 造血幹細胞の増殖、分化の模式図
図2 種々の線量被曝後のヒト血液中の各血球成分の経時的変化
図3 放射線による末梢血中の細胞数の変化(線量との関係)

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<関連タイトル>
放射線の急性影響 (09-02-03-01)
放射線の身体的影響 (09-02-03-03)
放射線による骨髄の損傷(骨髄死) (09-02-04-06)

<参考文献>
(1) 放射線医学総合研究所(監訳):UNSCEAR 1988年 REPORT「放射線の線源、影響及びリスク」実業公報社 (1990年)
(2) 関 正利、平嶋邦猛、小林好作(編):「実験動物の血液学」ソフトサイエンス社 (1981年)
(3) 三浦恭定(著):「血液幹細胞」 中外医学社 (1977年)
(4) E.J.Hall, (著)、浦野宗保(訳):放射線科医のための放射線生物学、篠原出版(1979)
(5) 坂本澄彦:放射線生物学、秀潤社(1998)
(6) 菅原努(監修)、青山喬(編著):放射線基礎医学、金芳堂(2000)
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