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<概要>
 核燃料再処理施設は、原子炉から取り出された使用済み核燃料中に含まれている核燃料物質ウランプルトニウムと)を回収し、核分裂生成物(以下「FP」という。)を安全に処理する施設である。使用済み燃料は、再処理施設においてせん断、溶解されたのち、Purex法(ピューレックス法)で分離、精製され、核燃料物質とFPに分離される。これらの一連の工程の中で発生する気体、液体廃棄物は、周辺公衆の線量が法令で定める限度を超えず、かつ、合理的に達成できる限り低く(ALARA)という考え方のもとに、環境に管理・放出されている。
<更新年月>
2011年12月   

<本文>
1.わが国における使用済み燃料の再処理
(1)わが国で発生した使用済み燃料は、その一部が日本原子力研究開発機構の東海再処理工場(実績最大処理能力100トン/年程度)において、2009年までに総計1,140トン処理されたが、原子力発電所の使用済み燃料の多くは、イギリス、フランスで再処理された。東海再処理工場は、発電炉からの使用済み燃料再処理の営業運転を終了し停止している。
 青森県六ヶ所村にある我が国最初の民間再処理工場(日本原燃株式会社;処理能力800トン/年)は、2012年からの本格操業運転を目指して準備を進めている。
(2)原子炉で燃焼された使用済み燃料は、発電所の使用済み燃料プールで1年程冷却した後、再処理施設に搬入され、同施設の貯蔵プールで再び一定期間冷却される。この後、燃料のせん断、溶解、分離、精製のいわゆる再処理が行われるが、溶解、分離、精製には、硝酸及びリン酸トリブチル;TBP等の溶媒を用いたPurex法(ピューレックス法)が用いられている。図1に六ヶ所再処理工場(以後、RRPと略す)の主なPurex分離工程を示す。
2.再処理の主要工程で発生する放射性廃棄物
(1)前処理工程では、使用済燃料はせん断機で細断される。この工程では、せん断の際に燃料中に含まれるクリプトン85(85Kr)等の希ガスとヨウ素129(129I)等の揮発性物質等の一部が、気体廃棄物処理系を通して施設外に放出される。また、せん断に伴い発生する燃料被覆管の廃材等の高放射性固体廃棄物は、施設内でセル構造の貯蔵施設に貯蔵される。
(2)溶解工程では、前処理工程でせん断された燃料が、溶解槽で硝酸を用いて溶解される。この時に発生するクリプトン85(85Kr)等の希ガス等は、酸吸収塔等のオフガス処理系を経由して気体廃棄物処理系から施設外に放出される。また、ジルカロイ、またはステンレス被覆片は、高レベル固体廃棄物として貯蔵される。溶解液は次の分離工程へ送られる。
(3)分離工程では、初めに、TBP−ドデカンの抽出溶媒液を用いて、ウラン及びプルトニウムを含む溶液とFPを含む溶液に分離される(共除染工程)。FPは、高レベル廃液濃縮缶で濃縮された後、高レベル濃縮廃液として専用の貯槽に貯蔵、あるいはガラス固化され、施設内に安全に保管されている。FPを分離した後の硝酸溶液は、この後、ウランとプルトニウムの溶液に分離され(分配工程)、次の精製工程へと送られる。
(4)精製工程では、溶媒抽出法を用いて各溶液が精製され、ウラン及びプルトニウムは硝酸溶液の形で回収される。
(5)脱硝工程では、硝酸ウラニル溶液は濃縮、脱硝され三酸化ウラン(UO3)として、また硝酸プルトニウム溶液は硝酸ウラニル溶液と一定比率で混合した後、マイクロ波加熱直接脱硝法で混合酸化物として取り出され、焙焼・還元を経てUO2−PuO2混合酸化物(MOX)として、それぞれ製品化され貯蔵される。
 これらの諸工程から気体、液体、固体廃棄物が発生する。
3.環境に放出される放射性廃棄物
 再処理施設から環境に放出される放射性廃棄物には、気体廃棄物と液体廃棄物がある。それぞれの廃棄物の(核種別)放出量については、施設独自の管理目標値(制限値)が定められている。日本のRRP、フランス La Hague施設、英国Sellafield施設のそれぞれの公認値(制限値)を表1に示す。
3.1 国内再処理施設からの放出
 再処理工程で発生する気体状の放射性廃棄物の内、粒子状及び揮発性の放射性物質は、大部分のものが排気浄化設備で除去される。一方、排気浄化設備で除去されないクリプトン85(85Kr)やトリチウム3H)は、周辺公衆の線量が法令で定めた基準以下になるように、かつ、「合理的に達成可能な限り低く;ALARA」という考え方に基づいて施設外に放出されている。東海再処理工場(以後、TRPと略す)から発生した放射性廃棄物の種類と量(実績)の一例を表2に示す。放出された気体廃棄物による敷地境界住民の線量は、通常1μSv/年以下であった。また施設外に排出された液体廃棄物による周辺住民の線量は、0.1μSv/年以下であった。これらの値は、法令で定める限度(1mSv/年)の1/1,000以下である。まだ本格操業をしていないRRPの場合、表1に示した管理目標値の量だけの放出を仮定すると、気体廃棄物による敷地境界住民の線量は、22μSv/年とされた。
 施設の外に排出される液体廃棄物は、中レベル廃液を蒸発処理した凝縮液や、放射線防護衣等の洗濯廃液、機器等の除染などによる雑廃液等の低レベル廃液を処理した後の廃液の他、管理区域内の手洗いの水など極低レベルの廃液である。施設外に排水される廃液の中に含まれている主な核種は、トリチウム(3H)、ヨウ素131(131I)、ヨウ素129(129I)、セシウム137(137Cs)等であり、放出基準を超えないようにして施設外に排出されている。RRPからの液体廃棄物は、海岸から3km沖の水深50mの放出管から放出される。
 RRPに関して、液体廃棄物による敷地境界住民の被ばく線量の推定では、気体廃棄物の場合と同様にして求めた線量は、3.1μSv/年とされている。
RRPについては、上記以外に、直接線及びスカイシャインによる周辺住民の被ばく線量は13μSv/年と推定されている。その結果、敷地境界住民の合計線量は約38μSv/年となる。3.2 海外再処理施設
 海外の再処理施設の中では、放射性核種の環境への放出量を報告しているのはLa Hague施設とSellafield施設がある。図2に、両施設から環境放出された主な放射性核種;90Sr、137Cs、99Tc、129Iの放出量(気体、液体の合計)の長期変動を示した。また、表3には2007年〜2009年の放出量を示した。放射性廃棄物の放出量は、各施設の条件(処理燃料の仕様と処理量、除染技術性能、放出に関する管理方針)に依存するので、同一施設においても、放出量は多様に変動している。
 これらの放射性廃棄物放出により周辺住民が受ける実効線量は、La Hague施設については約7μSv/年、またSellafield施設については、決定グループ(成人)で11μSv/年と報告されている。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 再処理施設から放出される放射性核種の放出管理目標値、公認制限値(TBq/年)
表1  再処理施設から放出される放射性核種の放出管理目標値、公認制限値(TBq/年)
表2 東海再処理施設における放射性気体、液体廃棄物の放出量(平成6年度)
表2  東海再処理施設における放射性気体、液体廃棄物の放出量(平成6年度)
表3 La Hague及びSellafield再処理施設からの放射性核種の環境放出(TBq/年)
表3  La Hague及びSellafield再処理施設からの放射性核種の環境放出(TBq/年)
図1 六ヶ所再処理工場の主なPurex分離工程
図1  六ヶ所再処理工場の主なPurex分離工程
図2 欧州商用再処理施設からの放射性核種の放出量変化
図2  欧州商用再処理施設からの放射性核種の放出量変化

<関連タイトル>
放射性廃棄物 (09-01-02-01)
放射性気体廃棄物 (09-01-02-02)
放射性液体廃棄物 (09-01-02-03)
廃液中または排水中の濃度限度 (09-04-02-07)
線量限度 (09-04-02-13)
排気モニタ、排水モニタ (09-04-03-06)
放射性排出物の放出前モニタリング (09-04-06-05)

<参考文献>
(1)日本原燃サービス(株)、六ヶ所事業所再処理事業指定申請書、1989年5月
(2)AREVA NC/Establishment of La Hague :Rapport environnemental, social et societal 2009, 2010.
(3)Sellafield Ltd. :Monitoring our Environment, Discharges and Monitoring in the United Kingdom, annual Report 2009, 2010.
(4)AREVA Group, 2010 Reference document,

(5)原子力安全委員会編:平成7年版 原子力安全白書、大蔵省印刷局(1996年7月)、p.397
(6)(社)日本アイソトープ協会(編集・発行)、Radioisotopes, Vol.54, No.8, p.349-358 (2005)、館盛勝一、「再処理施設から放出された長寿命核分裂生成物量の推定」
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