<大項目> 基礎基盤研究および先端的研究
<中項目> 原子力利用分野拡大に関する研究開発
<小項目> 新概念の原子力システム
<タイトル>
スーパー軽水炉(超臨界圧軽水冷却炉) (07-02-01-13)

<概要>
 スーパー軽水炉(超臨界圧軽水冷却炉)は原子炉冷却材に高温高圧の超臨界圧軽水(約500℃、25MPa)を用いた次世代の発電用原子炉の概念で、我が国が東京大学などを中心に研究を主導している炉型である。プラントシステムは超臨界圧軽水による原子炉冷却とタービンの直接駆動を行う貫流型であり、最新の超臨界圧火力発電プラントシステム(貫流ボイラ)と同様である。このため、高い経済性、静的安全系導入による優れた安全性、資源有効利用性、核拡散抵抗性、環境負荷低減性を有している。本概念では同一プラントシステムで熱中性子炉高速炉が設計可能であり、それぞれ米国の第四世代原子炉に採択されている。
 ここでは、主に東京大学を中心に研究が進められているスーパー軽水炉の概念設計、安全について解説し、研究の現状と国際展開などについて紹介する。
<更新年月>
2005年06月   

<本文>
1.スーパー軽水炉(超臨界圧軽水冷却炉)とは
 水は臨界点と呼ばれる374℃・22.12MPa以上の高温高圧条件では沸騰現象を起こさなくなり、蒸気との区別がなくなる。このような水を超臨界圧水と呼ぶ。スーパー軽水炉(Super Light Water Reactor)は原子炉冷却材に高温高圧の超臨界圧軽水(約500℃、25MPa)を用いて、その全量を直接タービンへ送り、発電する次世代の原子炉の概念である。
 現在の軽水炉は1960年代以前に当時実用化されていた亜臨界圧火力発電の技術をもとに開発され、原子炉の市場を支配してきたが、火力発電の最新技術は軽水炉開発後も間もなく亜臨界圧から超臨界圧に移行した。スーパー軽水炉はこの火力発電の最新技術(超臨界圧火力発電技術)と軽水炉技術の融合により、高い経済性、静的安全系導入による優れた安全性、資源有効利用性、環境負荷低減性、核拡散抵抗性などを可能とする概念であり、1989年より我が国が東京大学などを中心に研究を主導している炉型である。現在の軽水炉は冷却水の循環のある丸ボイラに相当し、スーパー軽水炉は最新の貫流ボイラに相当することから、本概念は火力のボイラの発展と合致した軽水炉の理論的発展形であるといえる(図1参照)。
 本概念では同一プラントシステムで、熱中性子炉と、高速炉が設計可能であり、前者をスーパー軽水炉(Super Light Water Reactor)あるいは高温高性能軽水炉、後者を超臨界圧軽水冷却高速炉(Supercritical Water Cooled Fast Reactor)と呼ぶ。
2.プラント概念
 沸騰水型軽水炉、加圧水型軽水炉、超臨界圧火力とスーパー軽水炉とのシステムの比較を図2に示す。スーパー軽水炉のプラントシステムは沸騰水型軽水炉に比べて気水分離器と再循環系がなく、超臨界圧火力発電プラントと同じ貫流型である。即ち炉心の冷却水は全量タービンに送られる。加圧水型軽水炉と比べると蒸気発生器がなく、加圧器もない。原子炉圧力容器は沸騰水型軽水炉と比べると気水分離器や蒸気乾燥器や再循環系統が不要なので小型になり加圧水型炉並みの形状と寸法となる。制御棒も加圧水型軽水炉同様上部より挿入でき、その駆動機構が使用できる。
3.設計の要点
 これまでの研究では炉心設計、プラント熱収支、事故・異常過渡解析、冷却水喪失事故解析、プラントの制御、起動、安定性などの原子炉解析に必要な一連の計算コードが作成され、概念の開発とその成立性や安全性の検討がされている。
 スーパー軽水炉は冷却水の炉心でのエンタルピー上昇が大きく貫流型なので炉心流量は軽水炉の約1/8程度である。炉心入口冷却水密度は軽水炉と大差ないが出口の冷却水平均密度は0.1g/cc以下である。これらのため熱中性子炉の炉心設計では多数の水減速棒を用いて中性子の減速を確保するとともに、燃料棒間隙を狭くし流速を保って除熱する必要がある。同じプラント炉システムで高速炉とすることも可能である。この場合は水減速棒のない稠密な燃料格子の炉心を用いる。
 スーパー軽水炉は炉心流量が少ないために流量喪失時の燃料棒の健全性確保が重要となる。軽水炉では沸騰遷移が生じると燃料被覆管が焼損する恐れがあるので、これを防止するため燃料棒の熱流束を制限している。超臨界圧水冷却時にも高熱流束、低流量時に伝熱劣化が生じ伝熱面の温度が上昇するが、軽水炉の沸騰遷移ほど激しい現象ではなく、壁温の上昇も緩やかで下流では回復する。そのため、異常な過渡事象時に伝熱劣化が生じても燃料棒の健全性を燃料被覆管温度等から評価することが可能である。スーパー軽水炉には限界熱流束の制限が不要であることから、低流量で貫流型の特徴を生かした超臨界圧火力並の蒸気条件の原子炉を設計することが可能となった。
 プラント系統を図3に示す。原子炉容器と制御棒は加圧水型軽水炉に、格納容器と非常用炉心冷却系は沸騰水型軽水炉に、バランスオブプラントBOP)と呼ばれるタービン系統や配管は超臨界圧火力と類似となる。工学的安全系は沸騰水型軽水炉と類似で高圧補助給水系、低圧注入系(プラント停止時の残留熱除去系を兼用)、逃し安全弁と自動減圧系から構成されている。原子炉格納容器は沸騰水型軽水炉と同様サプレッションチェンバーを持った圧力抑制型である。蒸気タービンは高圧、中圧各1台と低圧タービン2台の構成で沸騰水型軽水炉より小型化する。
 軽水炉とスーパー軽水炉の特性比較を表1に示す。冷却水出口温度は500℃台となり、熱効率は44%程度になる。超臨界圧火力と比較すると熱効率は火力の方が大気への熱損失があるため悪い。冷却水流量が火力より多いのは再熱に主蒸気を用いるためである。
4.安全設計と安全の評価
 スーパー軽水炉の主要機器は軽水炉・火力発電の使用温度と同等以下で運転経験も豊富なため、高い信頼性が得られる。また、高い実績を持つ軽水炉の安全系構成を基本に、静的安全系(passive safety system)の導入も可能であり、安全性に優れ、高い稼働率が可能である。
 安全確保の基本は軽水炉では水位の監視と確保であるが、スーパー軽水炉には水位がないので炉心流量の監視と確保が基本とされる。安全評価基準は限界熱流束の制限が被覆管最高温度の制限になった以外は軽水炉のものと類似である。
 これまでに軽水炉の安全解析を参考に、スーパー軽水炉の特徴を考慮して選定された12件の事故・異常過渡事象が解析され、安全性が確認されている。貫流型のこの炉では負荷喪失時に主蒸気加減弁が急閉し、炉が加圧されても、流量喪失を伴うため出力は減速材密度の減少による反応度フィードバックで低下するため、沸騰水型軽水炉の加圧過渡時の挙動と異なる。一方冷却水喪失時の燃料被覆管温度上昇は加圧水型軽水炉並になる。
 炉心の安定性についても熱水力安定性と炉心安定性が解析され、安定であることが示されている。炉心損傷頻度と安全系のバランスを確認するために行われた確率論的安全評価では、炉心損傷頻度は軽水炉よりも小さくなると期待され、安全系のバランスもとれていることが示されている。
5.高速炉とした場合の特徴
 スーパー軽水炉は高圧給水ポンプを装備しているが、流量が軽水炉の数分の一なのでポンプの動力の点で稠密燃料格子の高速炉にも適しており、軽水冷却によるプルトニウム多重リサイクル、燃料の増殖により、安定した長期エネルギー供給が可能となる。
 炉心以外の部分は高速炉も熱中性子炉のそれと基本構成は同じである。高速炉は減速材が不要で出力密度が高いため、同じ径の原子炉容器でも熱出力は大きくできる。再処理やMOX燃料加工コストが合理的に低減できれば熱中性子炉に経済性で優る高速炉の実用化という原子力開発における長年の夢を実現できる可能性がある。
6.経済性向上の可能性
 スーパー軽水炉では主要機器の簡素化と小型化、高い熱効率、現在の軽水炉及び超臨界圧火力技術の適用などにより、建設費、運転費、開発費の低減が可能となり、初期投資リスクも低減する。日本の優れた超臨界火力発電技術、鉄鋼材料技術の利用など産業戦略上の優位性もある。
 1700MWeのスーパー軽水炉と1350MWeの改良型沸騰水型軽水炉の原子炉格納容器の比較を図4に示す。再循環ポンプ、気水分離器などが不要で原子炉容器が小型化したので格納容器内にある冷却水の保有エネルギー(エンタルピー)が減少し、格納容器は小型化する。原子炉容器の重心の高さも制御棒が上部から挿入できるため低下する。熱効率は約34.5%から44.0%に向上し、燃料の有効利用が図れる。高温の超臨界圧水は単位体積当り保有エネルギー(比エンタルピー)が大きく、主蒸気流量が少ないので主蒸気管本数は4本から2本に、低圧タービンと復水器の台数は3台から2台に低減する。低圧タービンも軽水炉はハーフスピードであるがフルスピード(3000rpm)のものを用いることができ小型化する。原子炉系のみならずタービン系もコンパクトになるのは本概念の特徴である。タービン系が建設コストに占める割合は少なくないので経済性向上にとって有利になる。
 原子炉の主蒸気温度が500℃以上の高温となることから、水素製造や高品質化石燃料の製造による新市場開拓の可能性もある。
7.研究の現状と国際展開
 日本学術振興会の未来開拓事業で東大の研究グループにより水化学、伝熱、照射損傷等の研究が行われている。欧州共同体の研究予算で、高性能軽水炉(HPLWR)の名称のもとカールスルーエ研究所を中心として欧州の6つの研究所とドイツの原子力メーカと東大のグループで研究が行われており、東大の設計をリファレンスとして検討している。
 エネルギー総合工学研究所の革新的実用原子力技術開発提案公募事業として東芝を代表者とし日立、東大、九大、北大のグループがプラント概念、伝熱流動、材料腐食、水化学の研究を行っている。
 米国エネルギー省の原子力エネルギー研究イニシアティブ(NERI)では合計4件の研究グループに予算がついている。材料腐食、熱流動関係のテーマが中心である。
 本概念は米国の第四世代原子炉に水冷却炉グループに提案された約30の炉概念の中で唯一選ばれている。カナダと米国との国際原子力戦略研究(I−NERI)のテーマの一つになっている。ロシアとインドが共同研究中である。国際的にはそれぞれの研究資源を有効に活用して協力しつつ研究開発を進める予定である。
<図/表>
表1 軽水炉とスーパー軽水炉との特性比較
図1 ボイラの発展法則
図2 プラント系統の比較
図3 スーパー軽水炉プラント系統図
図4 格納容器の比較

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
第4世代原子炉 (07-02-01-10)
新型転換炉の特徴 (03-02-02-02)
低減速軽水炉の研究開発 (03-04-11-10)
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)

<参考文献>
(1)岡芳明、越塚誠一:高温高性能軽水冷却原子力発電プラント 貫流型超臨界圧軽水冷却原子炉の概念、日本原子力学会誌、Vol.44、No.8、600−605(2002)
(2)岡芳明:高温高性能軽水炉原子力発電プラント、エネルギーレビュー(2002年1月)、p.48−51
(3)Y.Oka and S.Koshizuka,”Supercritical−pressure,once−through cycle light water cooled reactor concept”,J. Nucl. Sci. Technol. vol.38,1081−1089(2001)
(4)東京大学大学院工学系研究科ホームページ・岡研究室:
(5)岡芳明、越塚誠一:「高温高性能軽水冷却炉(貫流型超臨界圧軽水冷却炉)炉概念と世界の研究の現状」日本機械学会年次大会、東京大学(平成14年9月26日)
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