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<概要>
 新型転換炉では精度の良いデータを得ることを目的に、実規模の伝熱流動試験装置を建設し、広範囲の試験が行われた。燃料体の伝熱限界に対する燃料体構造や冷却材の流動条件の影響が解明され、その結果は「ふげん」および「実証炉」の設計に反映されてきた。さらに最近(1991年)圧力管チャンネル内の冷却材の熱水力学的挙動に着目した新しい流体モデルによる詳細解析手法が開発され、試験結果がこれまでの1/2 の誤差で予測できることが確認されている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 新型転換炉のような沸騰軽水圧力管型原子炉の熱水力設計および安全設計には、燃料体の伝熱限界 (ドライアウト限界) や炉心チャンネル流量配分が特に重要因子であり、その評価精度の良否が炉心性能および原子炉の経済性にも直接大きな影響を与える。したがって原子炉開発の初期に、精度のよいデータを得ることを目的に実規模伝熱流動試験装置 (大型熱ループ、HTL)などを建設し、広範囲にわたる試験が行われてきた。
 昭和45年より50年度までは原型炉「ふげん」を対象とした試験が行われ、燃料体構造、流動条件の伝熱限界に及ぼす影響が明らかとなり、その成果は「ふげん」の設計、試験さらに運転管理に反映された。昭和51年以降は実証炉を対象とした試験に移り、試験結果に基づく解析コードの高度化と検証も行われ、実証炉設計においての合理化、性能向上が図られている。
 これまで約20年間にわたる試験研究により、燃料体からの伝熱現象、冷却材の熱水力学的挙動の把握、解明が進み、解析コード、設計コードの開発、高度化が図られている。特に近年(1991年)、燃料体構造内部の冷却材サブチャンネルの伝熱流動解析に、従来と異なり、液滴の挙動に着目し三流体モデルを導入した新しい詳細解析コードが開発され、伝熱限界が従来よりも遥かに高精度で評価できるようになっている。
2.伝熱流動試験装置
 伝熱、流動特性試験関係の装置としては、実規模の大型熱ループ(HTL)、コンポーネントテストループ(CTL)のほか空気−水二相流試験ループ(DOG)などがある。
 大型熱ループ(HTL)は燃料体あるいはプラント・システムの伝熱流動特性に関するほとんどの試験を行うことができる。 図1 にHTLの系統図を示す。最高圧力100Kg/cm2、最高温度310 ℃、最大循環流量80t/h であり、最大加熱電力は14MWで、実規模の模擬燃料体を定格出力の3〜4 倍まで加熱することが可能である。
コンポーネントテストループ(CTL)は新型転換炉特有の重要機器のうち、実機同様の燃料体、圧力管集合体、配管などについて、熱水−蒸気の冷却材条件を変えた高精度の流動圧力損失測定または耐久試験を行うためのものである。装置は最高運転圧力84.5Kg/cm2、循環流量は熱水128t/h、蒸気15t/h の性能を有している。
空気−水二相流試験ループ(DOG)は伝熱流動現象解明の補助手段として設けられたもので、燃料体流動特性試験、冷却材のサブチャンネル混合特性試験が可能である。
3.冷却材の伝熱流動特性に関する研究成果
 (1) 定常状態下の燃料体伝熱限界
燃料体は漸次出力を増大させた場合、遂に燃料棒表面は局所的にドライアウトするに至り、その後は急速にバーンアウト状態に移行する。このドライアウトの始りが伝熱限界であり、この時の熱流束が臨界熱流束(CHF)である。
 HTLを使用し、模擬燃料体の構造および圧力管入口の圧力、流量、サブクール度の冷却材条件を変え、広範囲のバーンアウト試験が行われ、これら諸因子の影響を解明し、燃料体の伝熱性能の向上や安全上重要な設計裕度の合理化が図られている。 図2 に試験結果と「ふげん」のCHF設計式を示す。以下に得られた知見および成果を述べる。
 a)燃料集合体偏心の影響: 燃料体は裝荷の都合上、圧力管との間に0.6mm のギャップが存在する。偏心量は僅かでも燃料棒表面における冷却条件が変化し、CHF はかなり低下するので、ギャップ量を正確に管理する必要がある。
b)スペーサ間隔の影響: CHF がほとんど例外なくスペーサ直前で発生している実験事実から、スペーサは冷却材流れを停滞させるマイナス効果がある一方、流れの乱れ発生により下流の熱伝逹を促進させるプラス効果もあり、スペーサ間隔を狭くすることにより、伝熱性能が向上することが明らかとなる( 図3 参照)。
c)燃料棒配列: ふげんの燃料体内の燃料棒配列は軽水炉と異なり、各燃料棒は同心円状に3層に配列されている。新型転換炉の特性上内層になるほど発熱量が小さくなる。この同心円ピッチ円径を変え、発熱量の大きい燃料棒周辺のサブチャンネルに多くの冷却材が流れるような配列を求め、CHF が15〜20% 程度向上させることができた。
(2) 過渡状態下の燃料体伝熱限界
冷却材流量の急激な減少あるいは出力急上昇のような原子炉の異常または事故時を想定したバーンアウト試験が行われた。前述のCHF設計式を用いることにより、ドライアウト時間(過渡事象開始からバーンアウト発生までの時間)を安全側に評価できることが明らかにされた。
(3) 燃料体流動圧力損失特性
 CTLを使用し、実規模燃料体の単相流から蒸気−水二相流までの広範な流動条件下での試験が行われた。燃料体のバンドル部、スペーサ、上部、下部タイプレートについて、単相流および二相流における圧力損失特性が明らかにされるとともに、蒸気と水の密度比および蒸気含有率に着目し、二相流増倍係数相関式を一般化した二相流圧力損失評価モデルが開発され、設計コードの開発に反映された。
4.解析、設計手法の高度化
 (1)熱水力設計コードの開発と検証
新型転換炉では炉心チャンネルへの流量配分を正確に評価することが特に重要である。燃料体、遮蔽プラグ、圧力管出入口配管など冷却系構成要素の流動圧力損失特性が明らかとなり、また原子炉寿命中安定した性能が期待できる流量配分調整オリフィスが開発された。これらの成果にもとづき炉心流量配分解析コード(HAPI)が開発された。「ふげん」では炉心を外側、内側、その他の3 領域に区分し、流量配分を行っている。流量配分の評価は試験および運転の各段階で行われ、コードによる予測値と実測値は比較的良く一致している。
このほか熱水力設計コードとして、ヒートバランス、偏差、ドライアウト発生確率などの解析コードも開発整備されており、これらのコードの組み合わせにより、チャンネル流量分布、最小限界出力比MCPR)などの熱水力特性が得られている。
(2) 三流体サブチャンネル内熱流動解析コード(FIDAS) の開発
燃料体内の冷却材通路を、燃料棒毎に周辺の小流路(サブチャンネル) に分割して、燃料体内の熱流動現象を詳細に開発する、いわゆるサブチャンネル解析は、従来は実規模試験で得られた結果を解釈するための手段として使用されていた。しかしこれまでの多数の試験結果やデータベースの知見から、燃料体の伝熱限界を支配するのは、燃料棒表面を流れる液膜から液滴が蒸気流中に飛散したり、蒸気中に浮遊する液滴が逆に液膜に付着する液膜消滅現象であるとの考えから、従来の二相流モデルとは異なり、 図4 に示すように、二相流を液膜、液滴、蒸気の三流体でモデル化した新しい詳細サブチャンネル解析手法が開発された。
 FIDAS コードの予測値は実規模試験データはもとより、海外の実験データとも比較した結果、炉心設計上重要な因子と燃料体の伝熱限界との相関を、従来の実験式や解析コードに較べ、1/2 程度の誤差で予測できることが確認された。 図5 に試験データとの対比を示す。今後の新型燃料の開発効率の大幅な改善が期待されている。
<図/表>
図1 「ふげん」開発用大型熱ループ(HTL)系統図
図1  「ふげん」開発用大型熱ループ(HTL)系統図
図2 HTLにおける燃料体の限界熱流束(バーンアウト)試験結果と「ふげん」CHF設計式
図2  HTLにおける燃料体の限界熱流束(バーンアウト)試験結果と「ふげん」CHF設計式
図3 ふげん燃料体スペーサ間隔の限界熱流束に及ぼす影響
図3  ふげん燃料体スペーサ間隔の限界熱流束に及ぼす影響
図4 「ふげん」サブチャンネル熱流動解析コードFIDAS3の3流体モデル
図4  「ふげん」サブチャンネル熱流動解析コードFIDAS3の3流体モデル
図5 「ふげん」燃料体ドライアウト限界出力の解析結果
図5  「ふげん」燃料体ドライアウト限界出力の解析結果

<関連タイトル>
新型転換炉のプラント構成 (03-02-02-04)
新型転換炉の冷却システム (03-02-02-07)
新型転換炉の燃料集合体 (03-02-02-08)
新型転換炉の制御特性 (03-02-03-01)
新型転換炉想定事故の安全評価 (03-02-03-03)
新型転換炉の研究開発 (03-02-06-04)
新型転換炉の安全研究の概要 (06-01-03-01)
新型転換炉の異常時および事故時の現象解明および評価 (06-01-03-03)

<参考文献>
(1) 「ふげん」の開発実績と「実証炉」の設計,1979.11, 動力炉・核燃料開発事業団。
(2) 動燃技報 No.73,1990.3, 動力炉・核燃料開発事業団。
(3) 日本原子力学会誌,1989.12。
(4) 新型転換炉技術成果報告会予稿集,1991.12,動力炉・核燃料開発事業団。
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