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我が国の高速炉の耐震設計は、軽水炉原子力発電所を含む他の
原子力施設同様の設計指針に準じている。高速増殖原型炉「もんじゅ」の耐震設計においても「発電用原子炉施設に関する
耐震設計審査指針」(
原子力安全委員会、平成18年9月改訂、「新耐震指針」という)を参考にして設計・バックチェックされており、設計手法、内容も指針のそれと同一である。(注:原子力安全委員会は
原子力安全・保安院とともに2012年(平成24年)9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
図1に「もんじゅ」の安全上重要な機能を有する主要な設備、
図2に耐震安全性評価の手順を示す。
1.耐震設計の基本方針
「もんじゅ」耐震設計の基本方針では、想定されるいかなる地震力に対しても、これが大きな事故の誘因とならないように原子炉施設に十分な耐震性を持たせている。また原子炉の実際の運転状態では、設定された以上の地震が加わった場合に原子炉は自動的に停止するように設計されている。十分な耐震設計を行うための主要な事項を以下に記す。
(1)建物・構築物は原則として剛構造とする。
(2)重要な建物・構築物は原則として岩盤に支持させる。
(3)耐震設計上の施設別重要度を、建物・構築物および機器・配管系についてS、B、Cと3クラスに分類する。
(4)S、B、Cクラス施設については、重要度および施設別に応じた層せん断力係数に基づいた
水平地震力に耐える設計にする。
(5)Sクラス施設については、水平地震力と同時に、さらに不利な方向に
鉛直地震力が作用するとして耐震設計を行う。
(6)Sクラス施設については、基準地震動Ssに基づく動解析を行う。
(7)原子力施設の構造設計および配置設計については地震の影響が緩和されるように配慮する。
新耐震指針では、1)旧指針の2種類の地震動を統合し、基準地震動Ssのみを策定する。2)基準地震動Ssは、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」について、水平方向および鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定する。ここで、考慮すべき
活断層の評価年代を拡張、地震固有の不確かさを考慮、算定方式に応答スペクトル法に加え、断層モデルによる解析手法を導入、直下型地震については震源を特定せず地震動を策定する。3)施設の安全機能の保持をより高い精度で確認するために、工学的な観点から基準地震動Ssと密接に関連付けられる弾性設計用地震動Sdを新たに設定している(
図3参照)。さらに、建物と機器、配管類の地震の揺れの周期が一致して共振を起こさないように、設計施工され耐震安全性を高めている。
耐震重要度分類については高速炉の特徴が十分反映されるように考慮されている。
表1-1、
表1-2に「もんじゅ」の耐震重要度分類を示す。
2.高速炉の耐震設計
高速炉は500℃程度と高い温度で運転されるだけでなく、炉心出入口温度差が約150℃と軽水炉の場合の約30℃に比べて極めて大きいため、原子炉の急速停止などの過渡時に原子炉容器は厳しい熱応力にさらされる。この過渡熱応力を小さくするためには原子炉容器の板厚を出来るだけ薄肉にすることが有効である。「もんじゅ」の原子炉容器では直径7.1m(胴部)に対して肉厚50mmであり、フランスの高速実証炉
スーパーフェニックス(電気出力124万kW)の原子炉容器では直径21mに対し板厚は25mmとなっている。軽水炉(
BWRおよび
PWR)では運転温度が約300℃で原子炉容器内圧は70〜160気圧であり肉厚(約25cm)も十分である。耐震設計上は肉厚の厚いほうが望ましいが、高速炉の設計では過渡熱応力緩和の観点より薄肉にせざるを得ないという耐震設計上の課題を抱えている。薄肉容器であるため地震時の原子炉容器の座屈防止の設計研究が行われている。
高速炉の炉型には代表的なものとして、「もんじゅ」のようなループ型とスーパーフェニックスのようなタンク型(プール型とも呼ぶ)がある(
図4参照)。ループ型では原子炉容器自体は小さく(「もんじゅ」の炉容器直径は8m程度)、タンク型に比べて耐震設計上は有利であるが、ポンプ、
中間熱交換器と炉容器を繋ぐ配管の引き回しが長くなり、ナトリウム漏洩対策ならびに配管系の耐震設計上は不利である。この点、タンク型は炉容器内にポンプと中間熱交換器を収納し配管系を簡略しているので、ナトリウム漏洩防止対策上有利であるが、炉容器がスーパーフェニックスのように大きくなり、かつ薄肉であるために耐震設計上は不利になる。
したがって、高速炉の耐震設計は炉容器や配管系の過渡熱応力に関する高温機器構造強度解析評価手法の開発とともに免震構造による耐震構造解析に深い関わりを持っている。
3.免震構造の導入と高温構造設計
高速炉機器では、プラントの運転状態の過渡的変化による繰り返し熱応力が発生し、これによる疲労あるいはクリープ疲労破損を防止することが、耐震設計と並行して構造設計上重要となっている。高速炉の主要構造は原子炉容器、配管、ノズル等のように円筒構造が基本単位となっており、ひずみが集中する構造不連続部は多くの場合円筒の接続部であることが分かっている。動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)では「もんじゅ」の建設を行うために高速原型炉用高温構造設計手法を開発し、構造物クリープ疲労損傷やひずみ集中挙動など一連の評価手法を採用している。
高速炉では機器・構造物や配管系が薄肉でできているので、地震に対する強度を確保する振れ止めの設置等に関する耐震設計と、高温下での強度設計は相矛盾する設計要求なので、調和が難しい。これらの相反した設計要求に対する最適化設計を行うための有力な解決法に免震構造の導入がある(
図5参照)。このことによって、地震入力を低減し、原子炉容器の座屈防止、熱応力緩和などの条件を満たし、かつ軽水炉なみの安全性、経済性を有した高速炉の実現により近づくことができると考えられている。
免震技術は、一般建築物に対しても最近では多数の使用実績が積み重ねられている。高速炉に免震システムを適用することに対しては、高速炉実証炉への適用を目標に(財)電力中央研究所を中心として開発が進められ(
図6参照)、免震設計指針や規制、基準に関わる検討を含め、免震装置の信頼性の確証試験、免震装置を適用した大型高速炉の設計並びに安全解析を行った(
図7参照)。
図8に建屋免震システム概念図を示す。
図9に建屋免震装置の水平配置図を示す。免震要素としては積層ゴム、鉛入り積層ゴム、高減衰積層ゴムなど積層ゴム系免震装置が最も有望であり(
表2参照)、
図10に免震装置の構造を示す。日本原子力研究開発機構では、FBRの実用化を目指した
FaCTプロジェクト (Fast Reactor Cycle System Technology Development Project)において、建屋の三次元免震技術の開発等が進められている。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電所の耐震設計 (02-02-05-05)
原子力施設の免震設計 (02-02-05-06)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)
<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所、原子炉設置許可申請書(昭和53年12月)
(2)井元良、服部禎男:高速増殖炉技術確証試験の役割と高速炉免震技術の現状・将来の展望、原子力工業、Vol.35、No.6、11-35(1989)
(3)科学技術庁(編):「もんじゅ」のしくみと安全性、地震対策、P38-39
(4)動力炉・核燃料開発事業団(編):高速増殖炉研究開発の現状、平成6年、PNCTN-141095-001
(5)加藤宗明:FBR実証炉への免震技術の適用、原子力工業、40(8)、51-62(1994)
(6)和泉啓:高速増殖炉の耐震設計と安全性、原子力工業、41(11)、23-35(1995)
(7)森下正樹ほか:IAEAにおける高速炉炉心耐震解析国際研究の成果、原子力誌、38(3)、P205-210(1996)
(8)M.Morishita:A Conceptual Study on Vertical Seismic Isolation for Fast Reactor Components, Proc. 13th SMIRT, Aug. 1995, Brazil
(9)原文雄:FBRの耐震設計の現状と展望、高速増殖炉技術の現状と将来の展望、日本原子力学会(1987年12月)
(10)日本原子力開発機構:高速増殖原型炉もんじゅ「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う耐震安全性評価結果報告書 追補版の提出について(平成21年3月31日)、
(11)原子力安全委員会パンフレット:耐震設計審査指針の改訂〜最新の知見を反映し、原子力施設の耐震安全性の一層の向上へ、
(12)原子力安全委員会:高速増殖原型炉もんじゅ新耐震指針に照らした耐震安全性評価主要施設の概要、WG2第22-1号、平成21年6月25日、
(13)日本原子力研究開発機構:青砥 紀身 高速増殖炉システムに係る研究開発の概要、高速増殖炉サイクル実用化研究開発 FaCTプロジェクト中間報告会、
2009年8月