<本文>
1.実証炉の開発の進め方
エネルギー資源の乏しいわが国が、高速増殖炉の開発を積極的に推進することは、技術的に生みだされた準国産エネルギー資源であるプルトニウムが確保でき、国内のエネルギー供給基盤が強化できるだけでなく、国際社会におけるエネルギー資源の安定確保に貢献することにもなる。
原子力委員会は1987年6月に、高速増殖炉をわが国の将来の原子力発電の主流とすることとし、統一のとれた長期的、総合的な計画のもとで、国と民間が協力して効率的に研究開発を推進することを決定した。実証炉1号機(DFBR-1)の開発は、経済性の向上を図るために実用化が展望できる新たな技術を積極的に取り入れて進められた。これらの開発見通しや高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転実績を反映して、実証炉1号機は2000年代初頭の着工を目標としていた。
高速増殖炉の経済性の向上を図るためには、積極的に設計の合理化や技術の改良による高度化を図るとともに、新技術、新材料などの革新的技術や新しい概念を採り入れ、コストの低減を図る必要がある。これらを踏まえて、高速増殖炉開発の主要課題を
図1に、
表1に経済性向上に効果的な新技術、新概念の例とその課題を示す。実証炉1号機は、1994年の原子力委員会の決定をうけて、トップエントリー方式のループ型炉に選定することが決定され、建設費を同世代軽水炉の110%以下を目指し、システムの簡素化、機器の合体、電磁ポンプ方式の採用などの設計研究が実施された。
表2に実証炉1号機の概念設計の主要目、
図2に安全設計の考え方、
図3にトップエントリー方式ループ型高速炉の鳥瞰図を示した。また次期2号機、3号機には、免震や2次系削除方式を採用し、さらにコスト低減を狙うよう検討が進められた。
2.実証炉開発の各研究機関の役割
実証炉を含め高速増殖炉の実用化を目指した研究開発は、高速増殖炉の開発に深い係わりを持つ日本原子力発電株式会社(原電)、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)、日本原子力研究所(原研)及び電力中央研究所(電中研)の4機関が中心となって進められた。これら4機関は高速炉研究開発運営委員会を設け、研究開発項目とその実施計画、国際協力などの検討を行うとともに、それぞれの機関のポテンシャルを活かし、研究課題を分担し、協力して効率的に研究開発を進めた。
実証炉の研究開発を進めるに当たっては、原電が建設の主体となり、動燃が全面的に技術的支援を行うという体制がとられた。動燃が中心となって実施してきた実験炉「常陽」と原型炉「もんじゅ」の開発やそれらを支えた基礎的・工学的な幅広い研究開発で得られた技術的知見や経験が最大限に活用された。既に原電と動燃との間では、動燃が蓄積した技術の移転、人材の交流、大型試験施設などの有効活用などの技術協力が進められた。さらに国際的な高速増殖炉開発の展開に対応し、海外との技術交流を積極的に展開し、わが国の技術と諸外国の相互補充を図るなど、国際的な規模で研究開発が進められた。
3.各機関の実証炉開発への取り組み
(1)日本原子力発電(株)
電気事業連合会は、1975年頃より1000MW級のタンク型実証炉の予備的な設計研究を開始した。「もんじゅ」を参考にして1000MW級のループ型炉のプラント全般とタンク型炉の主要部の安全性、成立性、運転・保守性、経済性の向上のための比較検討を行った結果、建設費が軽水炉のそれを大幅に上廻ることが明らかになった。このため大幅なコスト低減を目標として、合理化設計研究を実施した。
原電は実証炉の建設主体として、基本仕様の選定や設計、建設、運転、保守などに必要な研究開発及び実用化を目指した安全性・信頼性向上、経済性向上のための設計研究を進め、実証炉の設計研究の一環として実用化段階に採用する可能性のある革新的技術の成立性とコスト低減化効果の検討を実施した。すなわち新技術、新材料の採用や性能向上による機器の小型化や二次系削除などシステムの簡素化、ループ型炉やタンク型炉のほか新しい構想であるハイブリッド型炉の検討を行い、その結果革新的技術の導入はコストの低減への寄与が大きいことを明らかにした。さらに、原電は「もんじゅ」の建設のための技術協力、工事施工監理を行い、高速増殖炉に関する技術経験を積み重ね、実証炉1号機(DFBR)の最適化設計フェーズ1を終了し、トップエントリー型炉の技術的及び経済的成立性が確認された。その後、1997年から3年間、最適化研究フェーズ2を行い信頼性と経済性を両立させたプラント設計がまとめられた。
(2)動力炉・核燃料開発事業団(前核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))
動燃における実証炉の研究開発は、「もんじゅ」の設計概念を踏襲し、1975年から設計研究が開始され、1000MW級ループ型の実証炉予備設計、コンパクト化と経済性の向上に主眼を置いて実証炉プラントの第1次概念設計を実施した。さらに、建設費の低減を目的とした第2次概念設計を実施し、プラントの総合評価の結果として、物量が軽水炉の2倍以下になる見通しを得た。またループ型炉とタンク型炉の技術的検討課題の摘出、解決策の検討を行うとともに、両炉型の比較検討を実施した。1000MW級ループ型炉の要素技術に関する設計研究は、主要機器・システムについてさらに合理化が図られた。これまでの成果をもとに、原電の設計研究を支援し、実証炉の基本仕様の選定に資するため、主要な技術要素である炉心・燃料の高度化、熱輸送系や燃料取扱系の合理化、高温構造設計方針の高度化、安全設計・評価の考え方などの項目について検討を行い、実証炉の設計パラメータの選択における幅広い技術データがまとめられた。1988年以降は、実用化に向けて基盤技術の確立、向上を図るとともに、高速増殖炉再処理技術の研究開発と工学的規模の試験施設(RETF)の設計、プルトニウム燃料加工技術の研究開発など核燃料サイクル分野の研究開発も進めた。
(3)日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)
原研は、実証炉の研究開発に関しても、安全性や新型燃料の研究などを行った。高速増殖炉燃料の信頼性と事故時の安全性の判断基準を確立するため、燃料の破損限界や破損の影響を調べるNSRRを用いての燃料破損実験は、1994年に実験が開始された。また原子炉出力の上昇を抑える働きをする
ウラン−238の
ドップラー効果による負の反応度の評価精度を高めるため、2,000℃まで測定ができるドップラー効果測定器を開発し、FCAで
金属燃料体系での実験が実施された。新型燃料の研究では、プルトニウム・ウラン混合炭化物及び窒化物の燃料の物性や照射挙動などのデータを蓄積した。
増殖性や安全性の面で有望な金属燃料炉心の研究では、その核特性を実験的に明らかにするため、FCAによる模擬実験が行われ、さらに、プルトニウム及びマイナーアクチニド消滅を目標にした
オメガ計画の一環として加速器及び専焼炉による研究も進められた。
(4)電力中央研究所
電中研は、1981年から3か年計画で1000MW級タンク型炉の設計研究を行うとともに、タンク型炉の耐震、流動に関する試験研究も行い、その成立性の見通しを得た。コスト低減を目的として、耐震構造の設計の高度化、機器の設計の合理化、構造信頼性に関連した高温構造設計法の高度化、熱流動設計の合理化の研究及び実用化を目指した革新技術の検討などの研究開発、さらに、安全性と経済性の向上、燃料の成型・加工施設と再処理施設のコンパクト化などで魅力がある金属燃料を用いた高速増殖炉について、炉心設計、燃料挙動、燃料製造、
乾式再処理など金属燃料サイクルの研究が進められた。
4.最近の実証炉開発の動向と今後の課題
1989年頃から世界の高速増殖炉の開発政策に変化が見られるようになった。大きな理由としては、チェルノブイル原子力発電所の事故などの影響により、原子力発電所に対し一層の安全性確保が要求され、受動的安全性を取り入れた設計が望まれるようになった。さらに、旧ソ連崩壊により核軍縮が進み、核兵器からの回収プルトニウムの処理と核不拡散の観点より、高速増殖炉での増殖の意義が乏しい情勢となり、プルトニウムの専焼炉または燃焼炉という概念が表面化し始めた。これと連動して、軽水炉の使用済燃料再処理方式や燃料製造方式に検討が加えられ、プルトニウム及び
マイナーアクチノイド(MA)の消滅方法が核燃料リサイクルの名のもとに総合的に検討されるようになった。
また、
スーパーフェニックスでは、1987年に起きた炉外燃料貯蔵容器からのナトリウム漏えい事故の修復と再起動のために、アクチニドリサイクル試験炉へと運転目的が変更された後、1997年6月、フランスの政権交代にともない廃炉とすることが決定された。また財政上の問題ともからんで、欧州統合高速増殖炉(EFR)の共同設計作業は中断状態に置かれ、さらに、米国もFFTF、EBR-2を閉鎖し、ロシアのBN-800の建設も進捗していない状況にある。これらの一連の変化を受けて、高速増殖実証炉は軽水炉と競合しうる建設費の低減が開発の必須の条件となっている。一方、アジア諸国のFBR開発に対する関心は高く、インド、中国及び韓国でFBRプラントの建設計画が進められている。
こうした流れのなかで、「もんじゅ」が1995年にナトリウム漏えい事故により性能試験の途中段階で運転停止の状態となったこと等から、日本の実証炉開発計画は一旦白紙にもどされた。その後、1999年7月からFBRサイクルの実用化戦略調査研究が進められ、その成果を踏まえてナトリウム冷却高速増殖炉(MOX燃料)、先進湿式法再処理及び簡素化ペレット法燃料製造の組み合わせを主概念とすることが決定された。これを受けて、同年にFBRサイクルの実用化研究開発(通称
FaCTプロジェクト)が開始された。FaCTプロジェクトでは主概念の実用化に集中した技術開発を通じて、2015年頃までに実証炉・燃料サイクル施設及び実用施設の概念設計と研究開発計画を確立、2025年頃までに実証炉の運転開始、さらに燃料サイクル実証施設の設計・建設・運転を行い、2050年頃から商業ベースでのFBRサイクル導入を目指す計画となっている。FBRサイクル実用化を目指したロードマップ、研究開発計画・課題・体制を
表3および
図4、
図5、
図6、
図7に示す。
(前回更新:2004年11月)
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉の必要性 (03-01-01-02)
世界の高速増殖炉実証炉 (03-01-05-03)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
動燃/サイクル機構における高速増殖炉研究開発 (03-01-06-06)
サイクル機構以外の研究機関における高速増殖炉研究開発 (03-01-06-07)
高速増殖炉サイクルシステムの実用化に向けて (03-01-06-08)
<参考文献>
(1)原子力委員会:高速増殖炉研究開発の進め方、高速増殖炉開発専門部会報告書(昭和63年8月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団:動燃二十年史(1988年10月)
(3)動力炉・核燃料開発事業団:動燃技報,No.73(1990)
(4)常磐井 守泰ほか: 原子力工業,Vol.36、No.6(1990)
(5)三浦 正憲ほか:トップエントリー型FBR実証炉の概要、日本原子力学会誌、Vol.35、NO.4(1993)
(6)三浦 正憲ほか:高速増殖実証炉開発の現状と実用化見通し、日本原子力学会誌、Vol.37、NO.2(1995)
(7)岡林 邦夫:実用化を目指した高速炉技術−FBR固有の技術開発、第27会報告と講演の会予稿集、動力炉・核燃料開発事業団(1994年10月13日)
(8)J.Nedderman:Nucl. Eng.Int’l.May1995
(9)Masanori Aritomi:Proceedings of the 2nd JAPAN-KOREA on advanced reactors(1996年10月)
(10)科学技術庁:第1回高速増殖炉懇談会配付資料1−6、高速増殖実証炉の開発について、日本原子力発電(株)
(11)原子力委員会決定:高速増殖炉サイクル技術の今後10年程度の間における研究開発に関する基本方針(平成18年12月26日)
(12)日本原子力研究開発機構 次世代原子力システム研究開発部門:FaCTプロジェクトとは、
http://www.jaea.go.jp/04/fbr/top.html