<本文>
1.耐震設計の目的
原子力発電所においては、敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から、供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動(
基準地震動という)による地震力に対して、安全上重要な施設はその機能が失われることがなく、地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し、著しい
放射線被ばくの
リスクを与えないように耐震設計が行われている。
2.耐震設計における基本的考え方
原子力発電所の耐震安全性確保のため、基本的に以下の点を十分考慮し耐震設計が行われる。
1)設計段階における安全性の確認
a.徹底した調査
敷地の地質・地質構造はもとより、周辺部を含め
活断層や過去に発生した地震等を詳細に調査
b.極めてまれな地震動をも考慮した設計
極めてまれながら供用期間中に発生すると想定される水平方向と鉛直方向の2方向の地震動に対しても、安全上重要な機能は失われないような設計
C.詳細な解析評価
信頼性の高いコードを用いて、想定した地震動が発生した時の重要な建物・機器等の複雑な揺れについて解析し、耐震安全性を詳細にチェック
d.支持地盤及び周辺斜面の安全性を確認
耐震安全上重要な施設を設置する地盤が、地震に対して十分な支持力を有していることを試験や解析を実施して確認するとともに、地震随伴事象として想定される施設の周辺斜面の崩壊等によっても、原子炉施設の
安全機能に重大な影響を与えないことを確認
e.
津波に対する安全性の確認
地震随伴事象として想定される津波について詳細な数値シミュレーション等を実施して施設の安全機能に重大な影響を与えないことを確認
2)建設、運転段階における安全性の確保
a.十分な支持性能をもつ地盤に建設
地震による揺れの振幅が小さく、十分な支持性能があり、すべりや有害な沈下等を生ずる恐れがない地盤に建設
b.自動停止機能
一定以上の揺れを検出したときには、速やかに原子炉を自動停止させるシステムを装備
c.振動台や加振機による耐震性の実証及び耐震限界の把握
振動台や加振機を用いて、実機や実機相当の試験体に設計を上回る地震力を加え、施設の耐震性の実証、設計裕度の把握、設備機能の維持及び解析に用いたコードの妥当性を確認
さらに、「残余のリスク」(基準地震動を上回る地震動の発生によるリスク)の可能性に対して適切な考慮を払い、それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が求められている。
3.耐震安全性評価の流れ
原子力発電所の耐震安全性評価の流れを
図1に示す。
4.耐震設計のクライテリア
原子力発電所の耐震設計クライテリアの概要を一般建築物(一般建築構造物)および高層ビル(高さ60mを超える建築物)と比較して
表1に示す。
4.1 構造物の特徴および設置地盤
高層ビルが柔構造であるのに対して、原子力発電所は原則として剛構造に設計されるが、改訂耐震設計指針により免震構造等の最新設計技術の導入も認められることとなった。また、建物・構築物は十分な支持性能をもつ地盤に設置させることが要求されている。
構造物設置地盤とその一般的性状の模式図を
図2に示す。原子力発電所は第三紀層の岩盤に建設されているのに対して、一般建築物・高層ビル等(以下「一般建築物等」という)は各々洪積層(更新世に堆積した地層)、地表・沖積層(完新世に堆積した地層)に建設されることが多い。なお、図中の値はあくまでも大体の目安を示したものである。
4.2 耐震重要度分類
原子力発電所の耐震設計においては、地震の被害により発生する可能性のある放射線による環境への影響、および原子炉の安全停止状態を維持する機能の必要性の程度から、その重要度に応じ建物・構造物および機器配管系をS、B、Cクラスに分類して、各々に対応した設計地震力を設定している。
4.3 地震の想定および設計用地震動
原子力発電所の設置においては、敷地周辺の地域で発生した過去の被害地震について、古文書や地震観測記録等から調査し、また活断層についてはその活動度を評価し、その大小に応じた考慮を行っている。ここで活断層とは、第四紀の後期更新世(約12〜13万年前)以降に活動した断層であって将来も活動する可能性のある断層のことである。敷地からの距離に応じ、変動地形学的調査、地表地質調査、地球物理学的調査手法を総合して、より詳細かつ入念な調査(ボーリング調査、試掘抗調査、弾性波探査、トレンチ調査等)を実施している。
原子力発電所の耐震設計では、基準地震動Ssとして、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」の2つを考え、敷地の
解放基盤表面(施設を設置する基礎部分の上の土を全て取り除いた状態の基礎表面)上での水平方向および鉛直方向の地震動をそれぞれ策定する。基準地震動Ss策定の手順を
図3に示す。
4.4 設計用地震力の算定
(1)
水平地震力
水平地震力は、耐震重要度クラスに応じて設定されている。Sクラスについては、基準地震動Ssによる動的な地震力および一般建築物で用いる静的地震力の3倍のものを、Bクラスでは一般建築物で用いる静的地震力の1.5倍のものを、またCクラスでは一般建築物で用いる静的地震力と同じ値を用いる。
また、Sクラスについては、弾性設計用地震動Sdを基準地震動Ssに基づき工学的判断により策定し、この地震力Sdに対して概ね弾性限界状態に留まることを把握することによって、基準地震動Ssによる地震力に対する施設の安全機能保持を確実なものとする。
(2)
鉛直地震力
鉛直地震力は、SクラスについてはSsを用いて算定し、水平地震力と適切に組合せたものとして地震力を算定する。また、静的な鉛直地震力としては0.3を基準とし、建築物の振動特性、地盤の種類等を考慮して算定し、高さ方向には一定とする。
4.5 地震応答解析と許容状態
原子力発電所では、高層ビルと同様に一般建築物に比べて厳密な応答解析を行い、建屋各部に発生する力、変位を用いて構造物および機器・配管系の安全性の確認を許容状態に応じて行っている(
表2参照)。
各部材に生じる応力は、基準地震動Ssについては、弾塑性範囲ではあるが終局耐力・終局変形に対して妥当な
安全余裕を有することにより、また、弾性設計用地震動Sdについては、許容状態を建築基準法で定める弾性範囲とすることにより安全性の確認を行う。
さらに、機器・配管系安全性確認の場合地震力に加えて発生する
熱応力、圧力等を組み合わせた応力が許容応力以下になることにより、安全性を確認する。
(前回更新:2007年8月)
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電用機器の工学試験(1)(機器・システムに関する信頼性実証試験・確証試験) (06-01-01-13)
原子力発電施設の耐震信頼性実証試験(平成8年度〜平成10年度) (06-01-01-14)
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き (11-03-01-22)
原子力発電所の耐震設計審査指針の改定 (11-03-01-30)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局、原子力安全調査室(監):「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(旧指針)原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(1994年10月)
(2)原子力安全委員会:発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(平成18年9月19日決定)
(3)東京電力:柏崎刈羽原子力発電所7号機「発電用原子力施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う耐震安全性評価結果報告書の概要、p.6、
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu08_j/images/081203a.pdf
(4)建設省住宅局建築指導課日本建築主事会議(監修):建築物の構造規定−建築基準法施行令、第3章の解説と運用、(財)日本建築センター出版部(1995年5月)
(5)日本建築学会(編):建築物の耐震設計資料、日本建築学会(1981年4月)
(6)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全企画審査課(編):地震、津波が発生した場合の安全性−「万全な対策」で「安心」を、(財)原子力発電技術機構・原子力安全解析所(1995年5月)
(7)原子力安全・保安院、原子力安全基盤機構:パンフレット「新しい耐震設計審査指針」
(8)原子力安全委員会:新耐震指針の概要
(9)原子力安全委員会ホームページ:耐震設計審査指針の改訂 ?最新の知見を反映し、原子力施設の耐震安全性の一層の向上へ?
(10)電気事業連合会:「原子力・エネルギー」図面集2008年版(2008年4月)、p.96