<本文>
現在、操業中の商業
原子力発電所のほとんどは、軽水を原子炉冷却材とした
軽水炉(BWRおよびPWR)であり、これら発電プラントの運転や
定期検査に伴って発生する気体、液体および固体の放射性廃棄物には
核分裂生成物や原子炉内で中性子照射により放射化された腐食生成物が含まれている。BWR、PWRの液体廃棄物および固体廃棄物の種類・発生量を
表1に示す。
わが国では、放射性廃棄物の管理は厳格に実施されており、放射性汚染管理区域内で発生した廃棄物は原則的に放射性廃棄物として管理している。
以下に、原子力発電所から発生する気体、液体および固体廃棄物の処理方法について述べる(
図1)。また、
図2にBWR発電プラントの、
図3にPWR発電プラントの廃棄物処理設備の例を示す。
1.気体廃棄物処理
原子力発電所から発生する気体廃棄物の処理方法およびその特徴を
表2に示す。
気体廃棄物の主なものは、BWRでは
復水器空気抽出器排ガスであり、PWRでは体積制御タンクのパージガスおよびベントガスである。環境安全上重要なものは、放射性の
希ガスであるキセノン、クリプトン、およびヨウ素等である。
キセノン等の比較的短半減期の希ガスの処理は、活性炭の選択的な吸着力の差を利用して、希ガスのみを活性炭に一定時間保持させてその放射能を減衰させる
希ガスホールドアップ装置により、放射能を十分減衰させた後、放射能濃度が規制値を十分下回っていることを確認してから大気中に放出する。吸着保持時間はプラントによって多少異なるが、クリプトンで約40時間、キセノンで約27日である。
また、ヨウ素の除去にあたっては、吸着材に少量のヨウ化カリウムとヨウ素を添加した添着活性炭からなるヨウ素フィルターを用いる。放射性のヨウ素は添着された非放射性のヨウ素と同位体交換することにより捕集される。これらは、建屋換気系中のヨウ素除去および非常用ガス処理系に用いられている。この他、原子炉建屋および格納容器内、タービン建屋(BWR)換気系空気は、それぞれ微粒子フィルター(高性能エアフィルター)を内蔵したフィルターユニットにより排気中の粒子を除去し、モニタ後排気塔から大気中に放出する。気体廃棄物の放出放射能量は各原子力発電所とも、いずれの年も年間放出管理目標値を大幅に下回っている(
表3、
表4および
図4)。
2.液体廃棄物処理
原子力発電所から発生する液体廃棄物の処理方法およびその特徴を
表5に示す。
BWRは、原子炉から発生した蒸気を直接タービンに送り、その後、復水器、ろ過脱塩器、給水加熱器を通して再び原子炉に戻す原子炉(冷却)、一次系構成である。廃液は低電導度系、高電導度系、その他洗濯廃液系に分けられて処理される。
(a)低電導度廃液は原子炉水や復水等を取り扱う機器から発生する機器ドレン水等で、比較的高純度の廃液である。この廃液は、収集槽に集められ、ろ過および脱塩処理された後、その処理水は発電所内へ回収され再使用される。放射能濃度は他の廃液に比べやや高い。
(b)高電導度廃液は、復水廃液等の化学廃液や床ドレン等で比較的低純度の廃液である。この廃液も収集槽に集められ、濃縮蒸留および脱塩処理した後、この処理水も発電所内へ回収され、再使用される。しかし、発電所内で余剰の廃水が生じた場合には、処理水はその放射能濃度が充分低いことを確認した後、外部環境へ放出される。
(c)洗濯廃液は汚染管理区域内で装着する衣服等の専用洗濯設備から発生するが、放射能濃度は極めて低い。洗濯廃液は懸濁物をろ過後、逆浸透膜処理装置等で処理し、再使用したり放射能濃度を監視しながら環境に放出される。
一方、PWRの場合には、一次(冷却)系と二次(冷却)系とが隔離されており、液体廃棄物の発生は原子炉と
蒸気発生器を循環する一次系に限定される。原子炉出力制御の方法として、
制御棒の他に一次冷却材中に
中性子吸収材であるホウ素(0〜4,000ppm)を溶解させており、また一次冷却材
pH調整用として微量のリチウム(0.2〜2.2ppm)を添加しているため、これらの一次冷却材ドレンを含む液体廃棄物は、ホウ酸およびリチウムを含んでいる。
PWRの一次冷却材ドレンおよび体積制御タンクドレンは、水質が良いのでホウ酸回収装置でホウ酸を濃縮液として回収除去し、脱塩処理しただけで補給水として再使用する。機器および床ドレンなどは化学的に純度が低いので、蒸発濃縮装置により蒸留し更に脱塩装置によって処理した後、回収または環境放出を行う。
液体廃棄物の環境への放出放射能量は、気体廃棄物の場合と同様に各原子力発電所とも、いずれの年も年間放出管理目標値に比べ無視できるほど低い値となっている(
表3、
表4および
図4)。
3.固体廃棄物処理
固体廃棄物の減容処理方法を
表6に示す。また、廃棄物の固型化処理方法を
表7に示す。セメント固化方法の装置概念図をインドラム混練法、真空注入法及び充填固化法について
図5に示す。
アスファルト固化方法(混和機混練法)およびプラスチック固化方法(アウトドラム混練法)をそれぞれ
図6に示す。
液体廃棄物の蒸留処理により発生する濃縮廃液および使用済イオン交換樹脂等はセメント固化法、アスファルト固化法、プラスチック固化法等でドラム缶に固化して取扱い保管、輸送、処分に適した形態にかえている。廃棄体(固化体)発生量はセメント固化法、アスファルト固化法、プラスチック固化法の順に少なくなっている。可燃性廃棄物(プラスチックシート、布ウエス、紙等)は、焼却処理する。焼却処理することによって大幅な減容(
減容比は1/4〜1/100)が可能であり、焼却灰は無菌、かつ不燃性、分解しにくく安定な固化体を作りやすく、廃棄物処分上の大きな長所となっている。わが国における焼却炉の設備は、ほとんど全ての原子力発電所に竪型円筒焼却炉が採用されている。
固化処理された濃縮廃液および使用済みイオン交換樹脂等は、青森県六ヶ所村にある低レベル放射性廃棄物埋設センターの第1埋設施設に処分されている。金属類等の不燃物性固体廃棄物は、2000トン級の高圧縮設備が用いられ圧縮体充填固化体にしている。減容率の高い溶融処理設備も用いられ、溶融体充填固化体にしている。また、
雑固体廃棄物の一部は、そのままドラム缶に入れ充填固化体化されている。これらはセメント充填固化体と総称され、第2埋設施設に処分されている。この他、使用量の多い工事資材金属等は
除染により再利用をはかり、廃棄物量の低減化も進めている。
2005年12月からクリアランス制度が成立し、廃止措置等で発生したもののうち「放射性廃棄物として取り扱う必要のないもの」は、普通の廃棄物として再生利用、または処分が可能となった。
4.環境放出量、固体廃棄物発生量および廃棄物量の低減対策
放射性気体廃棄物と放射性液体廃棄物の環境放出量の年度推移を
図4に、放射性固体廃棄物(ドラム缶換算)発生量と累積保管量の年度推移を
図7に示す。
環境放出量の低減のため、以下のような対策が講じられている。
(a)新型燃料の導入および品質管理強化による
燃料棒からの核分裂生成物、希ガス等の漏洩の抑制
(b)気体状放射能を減衰させる希ガスホールドアップ装置、減衰タンクの採用
(c)一次系(原子炉系)水質管理の高度化による腐食生成物、樹脂再生廃液発生の低減化
(d)廃液発生源の改善、ドライクリーニング方式の導入による洗濯廃液の低減
(e)蒸留処理、逆浸透膜処理等高度な廃液処理技術適用と処理水リサイクル率の向上
また、最終処分の対象となる固体廃棄物量の低減のため以下のような減容に関する設備が開発されている。
(イ)可燃性廃棄物を焼却減容する焼却炉設備
(ロ)濃縮廃液等の不要水分を除去し、減容固化するプラスチック固化、アスファルト固化および造粒固化設備
(ハ)不燃性廃棄物等を圧縮減容する高圧縮設備
(ニ)不燃性廃棄物の溶融処理設備
(前回更新:2000年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
PWRの水質管理 (02-02-03-05)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状 (05-01-03-21)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)
平成17年度実用発電用原子炉および発電用研究開発段階炉における放射性廃棄物管理の状況 (12-01-03-48)
<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画(1997年7月)
(2)日本原子力研究所バックエンド技術部:放射性廃棄物処理施設と汚染除去施設(1998年7月)
(3)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、電気事業連合会:
(4)(社)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理ガイドブック 1994年版(1994年7月)
(5)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)
(6)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物データブック、平成17年度版
(7)(独)原子力安全基盤機構:原子力施設運転管理年報 平成18年版(平成17年度実績)(平成18年9月)