<本文>
1.原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物の処理・処分の流れ
原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物の処理・処分の流れを
図1に、原子力発電所からの廃棄体の移送の概略を
図2に示す。原子力発電所で
固型化された廃棄体は検査された後、専用の輸送容器に8本ずつ収納され、低レベル放射性廃棄物の専用の運搬船として建造された「青栄丸」で、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター近傍のむつ小川原港まで海上輸送されている。輸送能力は、容器を最大384個、廃棄体本数で3,072本を運ぶことができる。陸揚げされた廃棄体は、2コンテナずつ専用の輸送トラックに積載して、埋設センターの管理建屋まで輸送され、埋設設備に定置し埋設される(
図3および
図4参照)。
2.埋設対象廃棄物
2.1 廃棄体の特性
青森県六ヶ所村にある日本原燃(株)六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター(以下「埋設センター」という)では、1号廃棄物埋設施設(4万立方メートル(200リットルドラム缶20万本相当))には均質均一固化体、2号廃棄物埋設施設(4万立方メートル(200リットルドラム缶20万本相当))には充填固化体を受け入れている。
(1)1号埋設施設の埋設対象廃棄体
原子力発電所の運転に伴って発生する濃縮廃液、使用済み樹脂、焼却灰などをセメントやアスファルト、プラスチックを用いて均質、均一に容器(200リットルドラム缶)に固型化したものを対象としている。2007年11月末現在で137,915本埋設されている。
(2)2号埋設施設の埋設対象廃棄体
原子力発電所の運転に伴って発生する金属類や、プラスチック、保温材、フィルター類などの固体状の廃棄物を分別し、必要に応じて切断・圧縮・溶融処理などを行い、容器(200リットルドラム缶)内に収納した後、セメント系充てん材(モルタル)で一体になるように固型化したものを対象としている。2007年11月末現在で60,832本埋設されている。
図5は2号埋設施設に埋設する廃棄体の断面を示したものであり、内容物、処理方法によって次のような廃棄体がある。
a.廃棄物を切断処理し、セメント系充てん材(モルタル)で固型化したもの
b.廃棄物を圧縮処理し、モルタルで固型化したもの
c.廃棄物を切断処理し、強度保持のため内かごの中に入れ、モルタルで固型化したもの
d.廃棄物を溶融処理し、モルタルで固型化したもの
2.2 廃棄体中の各核種濃度の上限値
1号廃棄物埋設施設、2号廃棄物埋設施設に受け入れる廃棄体の核種毎の総
放射能量および最大放射能量を
表1に示す。事業許可申請の安全評価から、法令に定める6核種を含む11核種の制限を設けている。核種毎の総放射能量は1号、2号とも同じである。
なお、最大放射能濃度の数値は2号廃棄物埋設施設の方が大きい。これは2号廃棄物埋設施設に受け入れる固体状廃棄物の濃度のばらつきが大きくなっているためである。
3.廃棄体確認
埋設する廃棄体は、
図6に示す技術上の基準を満足する必要があり、日本原燃(株)は、電気事業者が原子力発電所において行う検査と検査記録の確認および製作記録のチェックを行っている。さらに、国が指定する検査代行機関である「(財)原子力安全技術センター」(以下、「指定廃棄確認機関」という)が、原子力発電所および埋設センターそれぞれで検査を実施することにより、技術上の基準に適合していることを確認している。
(1)電気事業者による検査
電気事業者は、埋設しようとする廃棄体が技術基準を満足していることを確認するために廃棄体の発生元である原子力発電所で検査を行う。この廃棄体検査のための装置を
図7に示す。この検査に合格した廃棄体が次項に示す廃棄確認申請の対象廃棄体となる。
なお、日本原燃(株)は、この検査で電気事業者が適切な検査を行えるよう、指導・助言を行うとともに、廃棄体が技術基準等に適合していることを自主的に確認している。
(2)廃棄確認申請
電気事業者による検査において、測定された廃棄体のデータが法令上および事業許可申請書上における廃棄体の技術基準等を満足していることの確認を行った後、法令に従い日本原燃(株)は指定廃棄確認機関に対し当該廃棄体データに基づき廃棄確認申請を行う。
(3)指定廃棄確認機関による確認および確認証の交付
指定廃棄確認機関は、廃棄確認申請書に記載されている内容について、埋設しようとする廃棄体が法令、技術基準および事業許可申請書上の要求事項を満足していること、ならびに申請書のデータが正しいものであることを、廃棄体の発生元である原子力発電所において確認する。また、埋設センターにおいては廃棄体の外観検査、線量当量を識別するラベル等の標識の検査および整理番号の確認をする。
指定廃棄確認機関による廃棄確認の後、合格した廃棄体に確認証が交付される。埋設センターではこの廃棄体が順次埋設される。
4.埋設
4.1 廃棄体の埋設手順
廃棄体の埋設は、以下に示す手順で行われる。
(1)廃棄体払出し
検査に合格した廃棄体は、8本単位で払い出し天井クレーンにより構内運搬車両に積載され埋設地に輸送される。
(2)廃棄体定置
廃棄体は構内運搬車両から埋設クレーンにより予め決められた埋設設備の位置に定置される。
(3)充てん材の充てん
定置された廃棄体間には、空隙が残らないようにセメント系充てん材を注入したうえ、埋設設備の上部に鉄筋コンクリート製の蓋(覆い)を設置する。なお、寒冷期に定置されたものについては、翌年の温暖期にこれらの作業を実施する。
(4)覆土
鉄筋コンクリート製の蓋(覆い)を設置した後、埋設設備の上面、側面をベントナイト混合土で覆い、その上面を土砂等を締め固めながら覆土する。
4.2 埋設時の管理
埋設設備、覆土等の施工に関して次のような技術上の基準に適合させる必要がある。
・埋設設備の仕切設備は所定の要件を満足していること
・埋設を行おうとする区画は雨水の侵入に対する防止措置が施されており、かつ、水が排除されていること。
・爆発性の物質、著しく腐食させる物質等を埋設しないこと。
・埋設地は土砂等の充てんにより空隙が残らないようにすること。
これらの基準の他に施設の設計、安全評価から導かれた次のような要件も満足する必要がある。
・廃棄体の
放射性物質濃度、種類に極端な片寄りがないこと
これら基準要件を確実に遵守するとともに、適切な埋設作業を遂行するための管理方法を
保安規定として定めて国の認可を受け、この規定に基づき管理を行っている。
なお、上記の遵守事項、基準等に適合することについては、施設の施工、廃棄体埋設の各段階で国による廃棄施設の確認を受けることとなっている。
5.埋設施設の管理
5.1 埋設地の段階管理
わが国の低レベル放射性廃棄物の陸地処分の基本的な考え方としては、放射能の減衰に伴う放射能レベルに応じた管理を行うこととされており、
図8、
表2に示すように第1、第2、第3段階に分けて管理することとなっている。
(1)第1段階
廃棄体受け入れから覆土終了までの段階で、1号では30〜35年、2号では25〜30年を予定している。この段階では、
人工バリアにより放射性物質の漏出を防止し、廃棄物埋設地の巡視・点検や埋設設備からの排水中放射性物質の濃度測定により、放射性物質の漏えいがないことを確認する。また、周辺監視区域境界付近での地下水の
モニタリングも行う。これらのモニタリングの結果、必要に応じ覆土の手直し等の修復を行う。
(2)第2段階
人工バリア、
天然バリアにより放射性物質の移行を抑制する段階であり、第1段階と同様に廃棄物埋設地の巡視・点検や埋設設備からの排水中放射性物質の濃度測定により、放射性物質の漏出の状況を監視し、必要に応じて放射性物質の移行抑制等の措置を講じることとしている。なお、第2段階の終了時期は、覆土の安定性等を考慮し、第1段階終了後30年としている。
(3)第3段階
主として天然バリアにより放射性物質の移行抑制を行う段階であり、一般公衆の敷地内への立ち入りは許容するが、
放射線防護の観点から沢水の利用の禁止、地表面の掘削等の制約を行う段階である。第3段階の終了時期は、一般公衆の受ける線量当量の観点から十分な余裕をみて、第1段階終了から300年後としている。
5.2 排水・監視
排水・監視設備は、埋設設備の外周仕切設備および覆いとセメント系充てん材との間に設けるポーラスコンクリート層、およびこれに接続して設ける排水管並びに排水状態を監視、点検するために埋設設備周囲に設ける点検路から構成されている。このうち、ポーラスコンクリート層は、万一埋設設備内に地下水が浸入した場合でも、この水が廃棄体に達することなく排水できるように設置するもので、均一な粒度の粗骨材をセメントペーストによって結合し、連続した空隙を形成させたコンクリート板が使用されている。
5.3 地下水監視
廃棄物埋設施設の段階管理において、第1段階は埋設設備から放射性物質の漏出がないことを確認し、第2段階では放射性物質の漏出の状況を監視することとしている。
これらの確認、監視は地下水の監視孔において採取する地下水中の放射性物質濃度を測定することにより行われる。
5.4 環境モニタリング
外部放射線に係わる線量や土壌、陸水等に含まれる放射性物質濃度を定期的に測定している。
6.線量評価
6.1 管理期間内(第1〜3段階)の評価
廃棄物埋設地からの放射性物質の漏出、気体および液体廃棄物の放出、スカイシャイン等に伴う一般公衆の線量が法令で定める
線量限度である1mSv/yを越えないことはもとより合理的に達成できる限り低いことを評価している。線量評価経路を
図9に示す。
6.2 管理期間終了後の評価
(1)一般的事象
埋設された廃棄物に起因する沼産物・農畜産物摂取等の一般公衆の線量が、
被ばくの観点からは管理することを必要としない低い線量(10μSv/y)であることを評価している。この評価経路を
図10に示す。
(2)発生頻度の小さい事象
一般的と考えられる事象よりも発生頻度は小さいが、線量当量の観点からは影響の大きい大規模建設作業等の事象も想定される。このような事象について国の
安全審査の考え方である「10μSv/yを著しく超えないことをめやすとする」ことを評価している。評価経路を
図11に、評価結果を
表3に示す。
7.施設の安全評価
廃棄物埋設施設は、主に容器の中にセメント等により固型化された放射性廃棄物を取り扱う施設であり、一般公衆に影響を及ぼすような異常の発生および波及拡大は考えられない。しかし、異常時の安全性を確認するという観点から、廃棄体取扱いに伴う廃棄体の落下事故および平常時評価において考慮した事象を超えるような廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏出を仮定し、一般公衆の線量を評価している。
評価結果は
表4に示すように極めて小さなものとなっており、本事象によって一般公衆に対して著しい放射線被ばくの
リスクを与えることはない。
<図/表>
<関連タイトル>
放射性廃棄物の処分の基本的考え方 (05-01-03-01)
わが国の低レベル放射性廃棄物の処分に係る経緯 (05-01-03-03)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
<参考文献>
(1)高木喜一郎ほか:六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの現状、デコミッショニング技報 第25号(2002年3月)、p.25−35
(2)原子力環境整備センター(編):放射性廃棄物データブック、原子力環境整備センター(1995年12月)、p.92−p.94
(3)日本原燃株式会社:六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター「廃棄物埋設事業変更許可申請書」(1997年1月)
(4)日本原燃株式会社:六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター「廃棄物埋設事業変更許可申請書」一部補正(1997年9月)
(5)日本原燃株式会社:パンフレット「六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター その概要と安全性について」(2000年12月)
(6)(財)原子力環境整備促進・資金管理センターホームページ:
http://www.rwmc.or.jp/
(7)日本原燃(株)ホームページ:六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター