<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の立地・建設・運転・保守
<小項目> 原子力発電所の運転・保守
<タイトル>
PWRの水質管理 (02-02-03-05)

<概要>
 PWR水質管理(化学管理)は、BWRの水質管理と同様に系統構成材料の腐食を抑制し、放射性腐食生成物の抑制と除去による放射線被ばくの低減等のために実施している。一次系では、一次冷却材の放射線分解による酸素の発生を抑え、溶存酸素による材料の応力腐食割れ防止のために水素が添加されている。また、反応度制御のためのほう酸の注入は一次冷却材を酸性にするので水酸化リチウム(LiOH)を添加してpH管理することにより、腐食生成物の発生を低く抑えている。二次系では、アンモニア(NH3)とヒドラジン(N2H4)を使用する揮発性薬品処理(AVT:All Volatile Treatment)により、機器配管の腐食抑制(防止)を図っている。さらに、海水の漏れ込み等による不純物持ち込み抑制として、復水脱塩装置(Con-Demi:Condensate Demineralizer)の設置を行っている。
 水質管理は原子力発電所の安全性、信頼性等を確保する上で重要であり、新たな知見に基づいて管理手法の改善が図られている。
<更新年月>
2010年07月   

<本文>
 加圧水型発電プラント(以下PWRと略す)の冷却系は原子炉で発生した熱を取り出す一次系と、蒸気発生器(以下SGと略す)を介してこの熱で蒸気を発生させ、タービンを回す二次系に分かれている。PWRの冷却系統と浄化系を図1に示す。この図では、比較のために、BWRの浄化系も示している。
 PWRでも水質管理の目的はBWRと同様に系統構成材料の腐食を抑制し、放射性腐食生成物の抑制と除去による発電所作業員の放射線被ばくの低減等であるが、水質管理の具体的方法はPWRとBWRで異なり、各々の系統に適応した水質管理を実施している。
 水質管理は原子力発電所の安全性、信頼性等を確保する上で重要であり、新たな知見に基づいて管理手法の改善が図られている。
1.一次系の水質管理
1.1 被ばく線量低減対策
 一次系の水質制御法と水質を表1および表2に示す。なお、これらの表中には比較のためにBWRのデータも示してある(水質管理値は見直しが行われている。)。
 一次冷却材は、炉心入口で約289℃、同出口で約325℃で157kg/cm2(15.4MPa)に加圧され、蒸気の発生がないので水質は均一で安定している。したがって被ばく低減対策のためおよび炉心反応度抑制のための薬品添加による水質調整が容易である。一次冷却材には次の化学薬品が添加されている。
 1)炉心反応度制御のため、中性子吸収材としてほう酸が添加されている。サイクル初期のほう酸濃度は約1000ppmであるが、サイクル末期には約10ppmに希釈される。
 2)ほう酸は一次冷却材を酸性にするので、pH調整剤として水酸化リチウム(LiOH)が添加されている。pH調整は機器の腐食防止とともに、冷却水中への腐食生成物の移行を少なくする効果があり、見直しが行われている(表3)。
 3)一次冷却材の放射線分解による酸素の発生を抑え溶存酸素による材料の応力腐食割れ防止のため、水素が添加されている。
 これら添加薬品の一次冷却材中での規定濃度の管理とともに、不純物として塩素イオンやフッ素イオンの管理が重要である。
 最近の一次系の水質管理は、系統の一般的な腐食防止から放射性被ばく低減のための放射性腐食生成物の低減化に焦点が移行している。放射性腐食生成物は一次冷却材中に含まれるクラッド(水垢)に起因するものである。クラッドの主な構成元素は構造材に含まれるNi、Coであり、炉内で中性子照射を受けて放射性腐食生成物の58Coと60Coとなる(表4)。したがって被ばく低減には水質管理面からの対策として、次の方策があげられる。
 1)腐食、放出抑制
 金属材料から腐食生成物として放出されるNiとCoの量を少なくする。このため、温態機能試験(Hot Fuctional Test)時の水中に水素とLiを添加し、機器表面を耐食性の優れた酸化膜にする。また、冷却材のpHを7.3(285℃に於いて)に制御することにより、Niの溶出を少なくする。なお、最近の蒸気発生器伝熱管は応力腐食割れ防止のためインコネル600よりNiの少ないインコネル690に変更されたが、これに伴い冷却材中へのNiの移行も少なくなった。
 2)機器への沈着抑制・除去
 腐食生成物が配管に沈着するのを抑え除去する。CoはCrが多い酸化物に取り込まれやすいので、取り込み減少のためにアンモニアやZn注入による酸化物中への取り込み抑制が研究されており、効果が認められている。また、原子炉停止時の冷却材はホウ素増加と温度低下のためにCoやNi濃度が高くなるので、水質浄化系への冷却材流量を増やして、CoやNiを除去する。
1.2 機器の健全性確保対策
 PWRの水質はアルカリ性であり、水素添加も行って冷却材中の溶存酸素を低くしているのでステンレス鋼の応力腐食割れは認められていないが、伝熱管のインコネル600やボルト材のX-750に応力腐食割れを起こす場合があり、一次側応力腐食割れ(PWSCC)と呼ばれている。この問題は材料側の改善で対処すると共に水素濃度の検討も進められている。
2.二次系の水質管理
 二次系の水質管理の目的は、SG伝熱管の損傷防止対策および配管の流動加速腐食(FAC : Flow Accelerated Corrosion)防止対策であり、タービンを含む二次系機器の健全性維持である。水質に関連したSG伝熱管の損傷は伝熱管の隙間部で濃縮した不純物によるものである。水質管理に係わる二次系系統概略を図2に、また二次系水質管理の基本理念を図3に示す。
1) 系統への不純物持ち込み抑制、除去
 運転中の不純物持ち込みとしては海水の漏洩が考えられるが、海水漏洩に対しても、復水器に検塩装置(導電率計)を設け速やかに検知できるシステムをとっており、持ち込まれた不純物は復水脱塩装置(Con-Demi:CondensateDemineralizer)により浄化される。復水器冷却管は黄銅を用いていることが多いが、制作時の技術向上、建設時、定期検査時の厳重な検査により、復水器の海水漏洩はほとんど発生していない。しかしながら、近年黄銅管にかわりチタン管も採用されつつある。
 復水脱塩装置(Con-Demi)は数基のイオン交換塔(陽イオンと陰イオン交換樹脂の混合体)からなり、イオン交換樹脂再生技術の改良により、復水脱塩塔出口での塩素イオンは0.1ppm、ナトリウムイオンは0.01ppb、導電率は0.1μS/cm以下の高純度の水質が得られている。その他、プラント起動に先立って停止中に持ち込まれた不純物を除去するためクリーン・アップシステムによる浄化も行われている。
2) 二次系統の腐食抑制
 二次系では不純物等への対応の他、ヒドラジンとアンモニアを添加することによる機器配管の腐食抑制(防止)を図っている。
 アンモニアは給水のpH調整のために添加されている。アンモニアに変わってエタノールアミンほかの薬液の使用も一部プラントにおいて採用されている。
 ヒドラジンは給水中の溶存酸素の脱酸素剤として添加されるとともに、水質環境の還元性雰囲気強化の作用があり、濃度を上げることで腐食環境の改善が図られる。給水のヒドラジン濃度は従来0.2ppmで運用していたが、実施テストをふまえた検討結果により0.5〜0.6ppmとし、高濃度ヒドラジン運転をしている。
<図/表>
表1 PWRとBWR一次冷却系水質制御法の比較
表2 PWRとBWRの一次冷却系水質の比較
表3 わが国PWRのpH管理の変遷
表4 原子炉一次冷却水中の主な放射性核種とその生成反応
図1 BWRとPWRの冷却系統および浄化系の比較
図2 PWRの二次系水質管理に係わる二次系系統概略
図3 PWRの二次系水質管理の基本理念

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<関連タイトル>
BWRの水質管理 (02-02-03-02)
PWRの起動・停止方法 (02-02-03-04)
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの蒸気発生器 (02-08-01-03)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし、(2008年9月)
(2)火力原子力発電技術協会(編):火力原子力発電所における化学管理、(1987年6月)
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい 第4版、(2003年7月)
(5)日本原子力学会 水化学部会:水化学ロードマップ2009(平成21年6月)
(6)日本原子力学会誌:軽水炉プラントの水化学 「アトモスVol.51(2009年2月〜2009年12月)」
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