<本文>
1.MOX燃料利用の現状
ウラン (U)−プルトニウム(Pu)をリサイクルする「閉じた」
核燃料サイクル では、Puを使用済み燃料から取り出す再処理工場と、そのPuをMOX燃料に加工するMOX燃料加工施設は、サイクルの要に位置する。MOX燃料加工施設の性能と運転態様は、再処理工場から得られる原料Puの量、製品としてのMOX燃料の需要の大きさに依存する。そして商用施設として成り立つには、発生するTRU廃棄物の処理や、デコミの費用も含めた経済性が要求される。
現在、高速炉用MOX燃料の需要は限られているので、どの国でも製造施設の商用運転はなされていない。わが国の「もんじゅ」炉心のMOX燃料初期装荷量は約6トンであり、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、これまでに約10トン余を製造した。インドとロシアにおいては、高速炉用MOX燃料の小規模な生産が進められている。一方、軽水炉の場合、軽水炉燃料の再処理から生じる分離Pu量は、世界全体で約20トン/年に達する。しかし最近では、全世界で50基以上の軽水炉でMOX燃料が利用され(
表1 参照)、軽水炉用MOX燃料の需要は増加しているにもかかわらず、MOX燃料として消費されているPuは年間約15トンであって、両者のバランスは取れていない。5〜10年以内では、THORP再処理工場の閉鎖、六ヶ所再処理工場や他の国々の新規再処理工場の稼働、JNFL-MOX加工施設の完成、そして
プルサーマル利用 の進展が予想され、さらにその先には高速炉の展開が控えている。世界のMOX燃料生産−利用の流れは、それらに依存して変動していくといえよう。
2.世界の主なMOX燃料加工施設
欧州における軽水炉MOX燃料の製造は、2009年末までで累計1600tHM(ton of heavy metal,すなわちU+Pu金属換算のトン重量、以後省略してトンとのみ記す)に達する(
図1 )。これまでにフランス、ドイツ、スイス、ベルギー、米国、日本等10か国の軽水炉に装荷されている(
表1 )。
OECD 圏内では、MOX燃料加工施設の能力は1999年末には約195トン/年であったが、2000年代に入り、主要な施設(ベルゴニュークリア、カダラッシュ、BNFL・MDF)が相次いで閉鎖され、現在は約200トン/年の軽水炉用MOX燃料の供給がAREVA・MELOX施設とBNFL・SMP施設で可能となっている。
表2 に世界の主なMOX燃料加工施設とその現状を示す。
(1)フランス
フランスは、1960年代から高速増殖炉用MOX燃料をカダラッシュ研究所で製造してきた。初期のラプソディー、フェニックス及び
スーパーフェニックス の燃料が年間製造能力25トン/年の設備で製造され、その総計は100トンを大きく上回った。この経験と、ベルギーのベルゴニュークリア社デッセル施設における約20年間の軽水炉MOX燃料製造の経験を基に、MIMASプロセスによる能力120トン/年のMELOX施設をマルクールに建設し1995年に操業を開始した。その後生産規模は145トン/年、195トン/年と拡張され、2009年末までに累計約1,570トンのMOX燃料を生産した。将来的には250トン/年が計画されている。
MELOX施設は大幅に自動化されており、また、工程間に
核物質 の中間貯蔵庫を置く等の点で、日本原子力研究開発機構のMOX燃料加工施設のものと類似している(
図2 参照)。ベルゴニュークリア社が開発したMIMAS(MIcronized MASter)法は、
図3 に示すようにマスター混合を入れた2段階の混合により所定の富化度を得るもので、一次混合ではPu含有率30%以下のUO
2 −PuO
2 粉末を調整し、混合機、ボールミルにより粉砕混合する。この状態では粉末の流動性は落ちるが、これに流動性の良いUO
2 粉末を加えて2次混合を行い、所定の富化度を得る。こうして得られた粉末は流動性に優れ、成型し易い粉末となる。この工程には、フランス・ベルギー共同のコミュレックス社で開発されたNITOROX法という硝酸ウラニルの蒸発濃縮と真空脱硝をベースとする混合酸化物粉末製造法が回収工程として含まれている。現在は、Advanced MIMAS法が採用されている。
(2)ベルギー
ベルゴニュークリア社は、1963年に世界で最も早くMOX燃料を発電炉(BR3)に装荷し、1973年にはモル近傍のデッセルにおいて機械化した工場(P0)が稼働した。1986年からは二つの製造ライン35トン/年の容量(現在38トン/年)が商用運転され、ベルギー(17×17型PWR燃料(ドール3、チアンジェ2))、フランス(EDF向け17×17型PWR燃料)、ドイツ(16×16型PWR燃料(ブロックドルフ、ウインターベーザ、グラーフェンラインフェルト、フィリップスブルク)、9×9型用
BWR (グンドレミンゲン))、スイス(14×14型PWR燃料(ベツナウ)、15×15型PWR燃料(ゲスゲン))及び日本(東京電力向け8×8型BWR燃料)に対して燃料を供給した。
図4 にベルゴニュークリア社のMOX燃料供給国と国毎の累積生産量を、
表3 にフランス、ベルギー及びドイツのMOX燃料仕様の特徴を示す。これらの経験を基に50トン/年の新工場(P1)を計画し、1980年代後半に着工されたが1998年に中止された。その後、ロシアの核兵器解体からのPuをMOX燃料に転換するための施設利用の話もあったが、最終的にCOGEMAやBNFLからの注文が途絶えたため、デッセル施設の商用運転の見通しが立たなくなり、2006年に運転を停止した。1986年からの累積MOX燃料生産量は、約660トンであった。
デッセルMOX燃料加工施設の工程は、MELOX施設と同じく同社が開発したMIMASプロセス(ボール・ミルによる二段混合法)を採用している。
(3)英国
BNFL(英国原子燃料公社)は、1960年代に熱中性子炉用MOX燃料を製造し、セラフィールドにあるウインズケール発電炉(AGR:2.8万kW)やドイツ、ベルギー、イタリアの炉に装荷した。1963年から1980年代には、ドーンレイ研究所の高速増殖炉原型炉PFR用MOX燃料約20トンを製造した。施設は1990年に、MDF(MOX Demonstration Facility、MOX実証施設)と称する軽水炉用MOX燃料製造施設に改造され、1994年からMOX燃料の製造を開始したが、1999年MOXペレット製品の検査データ偽造が見つかり、2005年に閉鎖された。BNFLは120トン/年の施設(SMP、Sellafield MOX Plant)の建設を1994年に開始、2001年に操業を開始したが、満足すべき施設性能は得られなかった。その後、SMPの所有権は英国エネルギー・気候変動省(DECC)の傘下にあるNDA(Nuclear Decommissioning Authority)に移された。
SMP建屋は4階構造で、物流フローは重力を生かした上から下へのたて型フローが多い。プラントの特徴としては、MOX粉末の混合粉砕方式をボールミル方式からアトリター・ミル(attritor mill)に変えて時間の短縮及び混合の均質性を図っている。この方式はSBR方式(Short Binderless Route:バインダを使用せず潤滑剤としてZn-Snを添加している)と称している(
図3 及び
図5 参照)。
(4)ドイツ
シーメンス社(現AREVA NP社)のハナウ燃料工場(旧アルケム)では、MOX燃料の製造開始の1973年から1980年代末までに、製造能力25トン/年の施設で約135トンのMOX燃料を生産したが、1994年に約200トンのMOX燃料生産実績を残して完全閉鎖された。1993年運転開始予定であった120トン/年の新工場は、ほぼ完成していたが、州政府の反対で操業の目途は立たず、1995年には電力会社からの財政支援が打ち切られ運転中止となった。一方、ロシアの解体核からのPuのMOX燃料転換において、施設の構成機器をなるべく多く転用する方向で、フランス、ドイツ、ロシアの3国間で協議されたが、最終的に否定された。
ドイツのMOX燃料製造工程は粉末調製、ペレット製造、
燃料棒 加工及び集合体組立の四つに分割される。特徴としては、ドイツでは過去に
プルトニウムスポット が残って、再処理が困難になった経験があるため、粉末調製工程に神経を使っており、
図6 に示すようにOCOM法(Optimized Co-Milling:最適共混合法)とAU/PuC法(Ammonium Uranyl Plutonyl Carbonate:炭酸ウラニル・プルトニル・アンモン法)という何れも二段混合法の二種類の方法を採用している。
特にAU/PuC法は独特なもので、ウランとプルトニウムの混合溶液を予め過酸化水素で酸化してプルトニウムを六価にしておき、二酸化炭素とアンモニアを加えて、濾過のし易い炭酸ウラニル・プルトニル・アンモンとして沈澱させ、乾燥ばい焼することによって (U,Pu)O
2 粉末を得ている。この方法は日本のマイクロ波転換法とともに工業的に確立した数少ない方法の一つであり、得られた粉末が流動性、焼結性及び硝酸溶解性に優れ、かつ沈澱生成時にアメリシウムとの分離が可能なことが利点であるとされている。
(5)アメリカ
1970年代まではFBR用及び特に軽水炉用のMOX燃料の製造の長い経験がある。ウェスティングハウス社のアンダーソン工場は、軽水炉用MOX燃料の世界最初の大規模施設(250トン/年)として設計され、安全審査申請までなされていたが、1978年のカーター大統領の政策変更によってPuの商業利用が不可能になり中止された。その後、他社の既存の小規模施設も相次いで廃止された。しかし、ロッキーフラッツの軍用工場や、ロスアラモス研究所の多目的Pu施設は広く知られており、特に後者は厳しくなった安全規制をクリアした最初の施設として安全設備設計上注目された。
なお、米国とロシアの合意に基づき、解体核からの兵器級Pu34トンをMOX燃料に転換することが決まり、サバンナリヴァーにおいて、SHAW-AREVA MOX Services joint venture、LLCが、年間MOX生産能力70トン(Puで3.5トン)のMixed-oxide Fuel Fabrication Facility(MFFF)を、2016年運転開始を目指して建設中である。
(6)ロシア
ロシアのプルトニウム利用計画は、その特性を最も生かす高速炉を中心として進められてきたが、近年、西欧の
プルサーマル 利用が盛んになるにつれ、VVER-1000を用いたプルサーマルも検討されている。ロシアでは民生用のMOX燃料加工施設は再処理施設と同様にほとんど研究開発段階で止まっていたが、近年、余剰プルトニウム処理のMOX燃焼処理促進のためわが国や西欧のロシア支援が具体化されつつある。この計画では、上述のフランス、ドイツとの3国共同計画と共に、米ロ及びカナダのCANDUでの燃焼計画や、日本が現在技術的支援を行っているBN-600へのMOX燃料装荷計画がある。
BN-600計画は、ロシアのデミトログラードの
原子炉 研究所(RIAR)で長く開発が行われていた高速炉用の乾式のリサイクルシステムによって製造される燃料を用いるもので、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)とRIARの間で共同研究が現在進行中であり、解体核のプルトニウムを用いたMOX燃料がBN-600で
照射 されることになっている。この工程は、溶融塩電解精製によって製造される
乾式再処理 の混合酸化物を破砕、振動充てん法により燃料棒にするもので、BOR-60(高速実験炉:6万kW)で多くの照射試験が行われ、有望とされているものである。
<図/表>
表1 各国の軽水炉におけるMOX燃料の使用実績
表2 世界の主なMOX燃料加工施設
表3 フランス、ベルギーおよびドイツのMOX燃料仕様の特徴
図1 欧州におけるMOX燃料商用生産の変遷
図2 フランスのMELOXプラント
図3 MOX燃料製造プロセスの比較
図4 ベルゴニュークリア社のMOX燃料供給国と累積生産量(1986〜2004年)
図5 BNFL社のMOX燃料加工プロセスで採用されているショート・バインダレス・ルート
図6 シーメンス社のハナウ施設におけるMOXペレット製造プロセス
<関連タイトル>
混合酸化物(MOX)燃料とその軽水炉への利用 (04-09-02-03)
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
<参考文献>
(1)World Nuclear Industry Handbook 2000, Nuclear Engineering International,Wilmington Publishing Ltd. p.207-9(2000)
(2)E.Trauwaert et al;“IAEA Technical Committee Meeting on Recycling of Plutonium and Uranium in Water Reactor Fuels”No.2-2,(1989年11月13-16日).
(4)G.Lebastard:Building MELOX to meet future demand, Nucl. Eng. Intern., Dec. p.32-33(1990)
(5)J.Eduards et al.:MOX fuel at BNFL, Nucl. Engineer. No.6, p.178-181(1996)
(6)IAEA, Nuclear Technology Review 2010, IAEA Vienna, (2010).
(7)IAEA, Status and Advances in MOX Fuel Technology, Technical Reports Series No.415, IAEA Vienna, (2003).
(8)DOE, "Status of Mixed Oxide Fuel Utilization," U.S. Department of Energy, (1996).
(9)
(10)