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<概要>
 原子力発電所の安全性と健全性の確保のために、原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器・配管等については、非破壊検査技術を適用し、建設時だけでなく運転開始後も定期的に供用期間中検査(In-Service Inspection:ISI)を行うことが義務付けられている。
 新型転換炉(ATR)「ふげん」の炉心部を構成する圧力管集合体、入口管、上昇管、蒸気ドラム、下部ヘッダ等はATR特有な構造をしている。「ふげん」のISI装置については、軽水炉のISI技術を参考にATR特有の機器・構造を考慮して、ISI作業の際の検査時間の短縮および被ばく低減を図るための検査技術の開発を実施している。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「ふげん」の原子炉冷却材圧力バウンダリの供用期間中検査(以下、In-Service Inspection:「ISI」という。)は、電気技術規程 JEAC-4205「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査」を準用し、圧力管型原子炉の特有性を考慮して検査対象、検査方法を定めて定期検査時に計画的に実施している。
 「ふげん」は 図1 に示すように炉心部を構成する圧力管集合体、小口径の配管群で構成した入口管・上昇管、蒸気ドラム、下部ヘッダ等、ATR特有な構造を有している。このため、「ふげん」のISI装置の開発は、軽水炉のISI技術を参考にATR特有の機器・構造を考慮して設計建設段階から着手し、ISIの検査性の向上および作業員の被ばく低減を図ることを目的にISI装置の開発を実施している。
 ISI装置の開発方針としては、 図2 に示すようにATRの構造、材料等を考慮して圧力管集合体、出入口管、蒸気ドラム等のATR特有な機器・配管のISI装置の開発を重点的に行い、「ふげん」および軽水炉の実績を基に、検査対象箇所の放射線線量率、検査個数、接近性を考慮して「半自動式ISI装置」、「自動式ISI装置」、「遠隔自動式ISI装置」を選んで開発し、被ばくの低減化と検査結果の再現性向上を図った。
 ISI装置の開発のための新しいセンサや検査技術、ロボット技術等の開発を行いISI装置の性能向上に反映している。ISI装置の開発成果を以下に述べる。
1.ISI装置の開発
(1) 中口径配管ISI装置(図3-a)
 ISIの対象になっている配管は数も種類も多いが、検査員の被ばく低減を目的として「ふげん」で最も溶接シーム数の多い配管口径6Bを対象に「半自動式ISI装置」を試作開発し、第6回定期検査から実用化している。
 ポジショナーは軽量化し、被検材への着脱を容易にし、探触子を手動で走査できる機構を有する。超音波探傷器は探傷記録部とCRT表示部より構成されており、探傷記録部は超音波の送受信回路とカセット式テープレコーダーを備え、探触子からの信号とポジショナーからの位置信号を周波数多重分割方式により変調記録することができる。垂直探傷と斜角探傷を同時に行い、従来の手探傷に比べ検査時間を半分に出来た。
(2) 主蒸気管ノズル部ISI装置(図3-b)
 主蒸気管ノズル取付溶接部は厚肉円筒面にノズルが付いた鞍型構造であり、検査範囲は三次元的に複雑な形状をしている。このため探傷による超音波探傷の場合、検査員の個人差によってデータのバラツキが生じやすく、検査結果の再現性も悪くなりやすい。
 そのため、検査員の技術力を問わず同等の検査が行え、同時に高速でデータ収録ができる「半自動式ISI装置」を試作開発した。第5回定期検査時に用いて機能を確認し、約25%の被ばく低減効果が期待できた。
(3) 主蒸気管および下降管セーフエンド部ISI装置(図3-c, d)
 主蒸気管セーフエンド部および下降管セーフエンド部は、異種金属溶接部であり冶金的に探傷が困難であり、また形状的および被ばくの観点から探傷が困難な箇所であるので、カップリング方式の合理化、装置の小型軽量化。取扱性の簡素化、データ収録方式の合理化等を検討して「自動式ISI装置」を試作開発した。
(4) 入口管・上昇管単管部ISI装置
 入口管・上昇管のような100A未満の小口径管については、曲率半径が小さく、肉厚が薄いので通常の超音波探傷技術では安定した試験が困難なため、JEAC-4205 でも外表面の表面検査を規定しており、「ふげん」の当初のISI計画でも浸透探傷試験を実施していた。だが、SCCの早期発見のため、配管内表面のクラックを検出する小口径管用超音波探傷技術を開発した。
 入口管・上昇管は下部ヘッダおよび蒸気ドラム近くでは隣接管との間隔が比較的広いが、圧力管近くではその間隔が小さくなり、配管群を形成していて管群内の配管の検査は困難であった。そこで先ず、入口管・上昇管単管部ISI装置を開発し、第3回定期検査以降この「自動式ISI装置」を使用し、手探傷と比較して、線量当量で14%の被ばく低減と、検査時間で10%の短縮を実現した。
(5) 入口管・上昇管管群部ISI装置
 入口管・上昇管単管部ISI装置の成果を基に、更に小型化、薄型化、遠隔自動化した入管・上昇管管群部ISI装置を開発し、入口管管群部を第5回定期検査から、上昇管管群部は第6回定期検査から使用している。管群部ISI装置の使用により、管群内部の検査可能溶接部が入口管で約 700箇所、上昇管で約 150箇所増加した。

2.圧力管検査装置
 圧力管は軽水炉の原子炉圧力容器に相当するが圧力管には溶接部がないので、ISIで義務づけられる検査は内面表面肉眼検査だけであるが、その健全性を確認するためISIの一環として、その他多くの検査項目を実施している。
 特に、圧力管の材質は Zr-2.5%Nb合金製であり、内圧による応力と中性子照射によるクリープ現象により内径と長さが増えるため、その経時変化を追跡して設計の妥当性を確認する必要があるため、内径と長さの測定を実施した。
(1) 試作圧力管検査装置
 圧力管検査装置の開発は、「ふげん」建設前の昭和45年に着手し、超音波探傷検査、内径・真直度測定、内表面肉眼検査技術の開発と試作圧力管検査装置の製作を行い、昭和52年 9月に「ふげん」圧力管の供用期間前検査(Pre-Service Inspection:PSI)を実施し、初期の目的を達成した。しかしこの装置は、総重量20トン以上の大型装置でISIとして使用するには、装置の組立等の時間が掛かることや被ばくの増大等いくつかの課題があることから、大きさ重量とも 1/100以下に小型化し、遠隔自動化することにした。
(2) 小型圧力管検査装置
 検査装置の大きさを燃料集合体と同じ大きさにし、装置の圧力管集合体への挿入取付および取外しは燃料交換機で行い、また検査装置への信号ケーブル着脱も燃料交換機上に設けたマニピュレータで行い、検査装置の取扱いから検査作業まで一貫して遠隔自動操作が出来ることを前提に小型圧力管検査装置の開発を昭和52年より行ってきた。
 検査装置が装着される圧力管集合体の中は、高放射線環境(約 3×10’5R/h ・γ線)の水中であるので、装置は水中で駆動するとともに、使用する部品は全て照射試験で耐放射線性を確認したものを用いた。
 圧力管検査装置は I号機(UT-ID)、I号機(VT)(図4図5)とII号機の3種類があり、I号機(UT-ID) は圧力管の超音波探傷検査(Ultrasonic Test:UT)と内径(Inside Diameter:ID)測定用で、I号機(VT)は圧力管、上下部ロールドジョイント部、下部延長管溶接部の内表面肉眼検査(Visual Test:VT)用であり、II号機は圧力管上下部ロールドジョイント部の超音波探傷検査と圧力管の長さ測定用である。
(3) 圧力管検査結果
 超音波探傷検査および内表面肉眼検査結果ともに異常は一切認められず、その健全性が確認できた。超音波探傷検査結果はデータ処理装置により全て磁気テープに保管し、内表面肉眼検査結果は観察時のテレビモニター画像としてビデオテープレコーダに録画している。
 内径測定と長さ測定結果とも、クリープ現象による周方向、軸方向変化量は中性子照射量と関連して、設計評価式による予測値と非常に良く一致していることが確認できた。
<図/表>
図1 「ふげん」の原子炉冷却系(片ループ)
図1  「ふげん」の原子炉冷却系(片ループ)
図2 ISI装置の開発方針
図2  ISI装置の開発方針
図3 供用中検査(ISI)装置
図3  供用中検査(ISI)装置
図4 圧力管検査装置概略図
図4  圧力管検査装置概略図
図5 圧力管検査装置1号機の概略
図5  圧力管検査装置1号機の概略

<関連タイトル>
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
新型転換炉の冷却システム (03-02-02-07)
新型転換炉の炉心冷却系の化学除染法の開発 (03-02-04-01)
新型転換炉のプラント運転管理技術の高度化 (03-02-04-02)
新型転換炉のプラント保守管理技術の高度化 (03-02-04-03)

<参考文献>
(1) 動燃技報:No.33 1980. 3. 「ふげん」の運転前検査について
(2) 動燃技報:No.52 1984.12. 「ふげん」の圧力管検査装置の開発と使用実績
(3) 動燃技報:No.69 1989. 3. 「ふげん」特集
(4) 動燃技報:No.73 1990. 3. 大洗工学センター特集
(5) 新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要:1991.8.
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