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<概要>
 原子炉運転中に蓄積する原子炉冷却系の放射性クラッドの除去が、定期検査(定検)時および応力腐食割れSCC)対策等による改造工事の際の作業員の被ばく低減に大きな効果がある。このため分解点検や開放点検する機器の化学除染法(機器除染)と、原子炉冷却系の系統化学除染法(系統除染)の開発を進めてきた。平成元年度と2年度の第8回および第9回定検時には、供用中の原子力発電所としては、我が国で初めての原子炉冷却系の系統除染を実施し、大幅な線量当量の低減化に成功した。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子炉冷却系の機器・配管表面の線量率は、運転の経過とともにクラッドが蓄積するに従い上昇し、定検時あるいは定検時に行う改造工事時の被曝の増加が予想されていた。
 そのため、原子炉冷却系の化学除染法の開発を、昭和54年3月の本格運転以前の昭和52年度に予備調査に着手し、以来、除染性能・材料健全性評価、実証試験、除染システム設計等を実施し、化学除染技術の確立を図ってきた。
 除染対象の機器部品等には、種々な材質が用いられており、また種々な形状をしている。また、除染剤にもアルカリ性、酸性等多くの種類がある。除染を実施するにあたって、除染剤の濃度、温度、除染時間等数多くのパラメータがあるので、除染条件による材料への影響、SCC感受性確認試験、除染装置の開発、除染効果の確認等慎重に開発を進めて来た。
1.系統除染技術の確立
 系統化学除染以前から定検時の被曝を抑制するために、給水系への酸素注入、復水脱塩器の運用改善等により炉心へのクラッド持込み量を低減する対策を実施している。さらに検査装置や溶接機などの自動化・遠隔化、機器配管への遮蔽設置等の対策を行い、被曝低減を図ってきている。その結果、通常定検時の線量当量は、ほぼ横這いに抑えられている。しかしながら、第2回定検と第5回定検には、応力腐食割れ(SCC)防止対策として、大掛かりな原子炉冷却系の配管取換工事を実施したため作業時の線量当量は大きく増加した( 図1 )。
 第8回定検時と第9回定検時には、原子炉再循環ポンプ(RCP)の分解点検とSCC対策としての原子炉冷却系の配管取換工事を実施するため、定検時の総線量当量が大きくなる事が予想され(図1)、また実証試験、除染システム設計も完了したので、この機会にその抑制のためそれぞれの系統の系統除染を実施した。以下、これらを具体的に述べる。
(1) 予備調査
 内外の各種市販除染剤の除染性能・材料健全性・廃液処理法等を比較検討し、機器除染、系統除染に適する除染剤を数種類選定した。
(2) 除染性能・材料健全性評価
 除染性能試験では、系統から採取したクラッドの性状調査と、そのクラッドを対象とした除染係数(DF)と除染温度、除染時間、除染剤濃度、除染液の流速等の関係を定量的に評価した。材料健全性試験では、「ふげん」の原子炉冷却系構成材の種類、構造、隙間の有無形状等を詳細に検討し、実機を模擬した試験片を用いた除染中の腐食、除染後の影響、SCC感受性、隙間部で懸念される残留除染液の影響等の腐食試験を行い、いずれも局部腐食など異常な腐食は認められず健全性が確認できた。
(3) 実証試験
 以上の試験により得られた除染条件の妥当性を確認するため、燃料交換機および熱交換器の機器除染を実施した。その結果はいずれも良好で、系統除染の条件が妥当であることが実証された。
(4) 除染システム設計
 基礎試験、実証試験での知見から、除染液の昇温方法、浄化方法、系統構成各設備の( 図2 )運転方法を決定した。
(5) 系統除染の実績
1)除染方法
 系統除染工程は、昇温、除染、浄化、浄化・フラッシング工程からなる( 図3 )。
 昇温工程では、余熱除去系(RHR)熱交換器に所内補助蒸気を通じ加熱すると共に、原子炉再循環ポンプ(RCP)のポンプ入熱により原子炉冷却材の昇温を開始する。RHRラインから窒素を注入し、溶存酸素濃度を0.2ppm以下にして規定温度 120℃に到達させ、除染剤の注入を行った。
 除染工程では、系統水をRCPにより循環して除染を行いながら、一部を炉浄化系(CUW)脱塩器に通水して浄化を行い(除染中浄化法)、除染作業時の除染系統の線量当量率の上昇を抑制した。除染剤濃度は0.05%に保持した。
 浄化工程では、CUW非再生熱交換器により系統水を冷却するとともに、CUW脱塩器により浄化を行って系統水中の除染剤と放射性核種を除去した。
 浄化・フラッシング工程では、浄化とともに水抜きとフラッシングを行い、系統水の電導度を目標の 1μS/cm以下まで浄化した。
 2)モニタリング方法
 除染中のモニタリングとして、系統水の除染剤濃度、放射性核種濃度、鉄イオン濃度、電導度、pHの測定および、系統各部の線量当量率の連続測定を行い、またループ内に原子炉構成材料の試験片を収納した容器を装着して、材料の健全性を確認した。
3)除染の効果
 除染中浄化法により、除染中の放射性核種濃度を1/6に抑制し、系統の線量当量率を1/4に抑制でき、除染作業の線量当量も 0.1人Sv以下にすることが出来た。
 系統各部のDFはAループで 2.4〜8.5 、Bループで 3.6〜11.6で、いずれの部位でも目標の2を超えた。また、対象機器・配管の面積を考慮して算出した平均のDFはAループで 3.4、Bループで 5.1であった。
 第8、第9回定検時の総線量当量は、ともに50%以上の低減化を達成できた。また材料取替工事等の改造に係わる線量当量の低減効果は70%以上であり、系統除染をしない場合の予測値に比べ大幅に線量当量が低減され、被ばく低減に極めて効果的であることが実証された( 図4 )。

2.機器除染技術の確立
 機器部品等の除染には、対象によって濃厚液法、希釈液法のほか高圧水と超音波等の物理除染法を組み合わせた効果的な除染方法を用いた。RCP部品、下部遮蔽プラグ部品、蒸発濃縮器部品等の除染を昭和57年度の第3回定検時より実施している。
(1)下部遮蔽プラグラッチ部( 図5
 下部遮蔽プラグは、圧力管下部延長部に挿入され、炉心からの放射線を遮蔽しまた燃料集合体を支持するため、そのラッチ部により装着されている。燃料取替時には炉心から取り出し再び装荷するが、ラッチ部はその度に交換して整備点検をする。
 この除染には、濃厚アルカリ性除染液と濃厚酸性除染液による2段階除染法と物理除染(超音波除染)を組み合わせた効果的な自動除染装置を開発実用化し( 図6 )、ラッチ部の交換作業による総線量当量を約50%低減することができた。濃厚液法は除染係数(DF)が高く、除染時間も少なく部品の除染に適している。
(2)燃料交換装置
 燃料交換装置の開放点検時の線量当量は定検の総線量当量の約10%を占めるため、昭和60年度の第5回定検時の燃料交換装置の除染では、希釈除染液を用いDFは平均 4.7を得約30%の被ばく低減を図ることが出来た。
 昭和61年度の第6回定検時には、燃料交換装置下部ヘッドに堆積するクラッドを除去するため高圧ジェット水と薬剤発泡併用による除染法を実施して燃料交換装置下部ヘッド内部で短時間でDF値 100を達成した。
(3)熱交換器
 昭和61年度と63年度の第6回、第7回定検時には、CUWとRHRの熱交換器の除染を行い、第6回、第7回定検時にそれぞれ約50%、60%の被ばく低減化が図れた。
 CUW熱交換器には各ル−プに再生熱交換器1基と非再生熱交換器が2基あり、それらを除染装置につないで除染を実施したため各熱交換器により除染係数は異なるが、DFで 3〜47が得られた。除染には希釈除染液を用いた。

3.化学除染技術の評価
 機器除染については、多くの経験を重ね、自動除染技術の高度化を進め、大幅な被ばく低減を達成し、機器除染技術を確立した。
 系統除染についても、第8、第9回定検時に適用し、除染作業も順調に行われ、その後のプラント運転でも除染による悪影響も発生せず、被ばく低減に極めて効果的であることが実証され、系統除染技術を達成した。
<図/表>
図1 「ふげん」における定検時の総線量当量の推移
図1  「ふげん」における定検時の総線量当量の推移
図2 系統除染の系統構成
図2  系統除染の系統構成
図3 系統除染の工程
図3  系統除染の工程
図4 系統除染による線量当量低減効果
図4  系統除染による線量当量低減効果
図5 下部遮蔽プラグラッチ部
図5  下部遮蔽プラグラッチ部
図6 下部遮蔽プラグラッチ部自動除染装置及び除染工程
図6  下部遮蔽プラグラッチ部自動除染装置及び除染工程

<関連タイトル>
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<参考文献>
(1) 動燃技報:No.69 1989. 3.「ふげん」特集
(2) 新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要:1991. 8. 化学除染技術の確立
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