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<概要>
 「ふげん」の運転開始当初より「プロセス計算機システム」、「プラントデータ処理システム」等により「ふげん」の運転支援を実施している。これらのシステムで収集したプロセスデータは、「プラント異常早期発見システム」で蓄積・処理して設備・機器の異常の早期発見・予防保全に成果を上げている。近年では、ファジィ制御やエキスパートシステムのAI(Artificial Intelligence) 技術を、プラントの運転支援や制御システムに応用し、「給水制御系ファジィ制御システム」、「燃料交換作業支援システム」「燃料取替計画作成エキスパートシステム」等の開発・運用を行い、運転の高度化・自動化を進めている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「ふげん」のプラント運転管理技術の高度化を図るため、計算機操作が容易に可能な各種マンマシンインターフェースの利用、運転員の知識をシステム化してプラントの運転支援や制御を行うエキスパートシステムやファジィ制御といったAI技術を利用して種々のシステムの構築と開発、運用を行い、従来運転員の勘や経験に頼っていたためシステム化が困難とされてきた課題を解決するとともに、飛躍的な操作性の向上を図ってきた。
 運転管理技術の高度化は、炉心管理、化学管理、放射性廃棄物管理放射線管理保守管理の各システムと関連して、「ふげん」の運転・保守管理の計算機化・高度化につながっている( 図1 )。
1.プラントデータ処理システム
 「ふげん」は原型炉としての役割を果たすため、核特性、伝熱流動特性等の過渡的なプラント特性、機器の経年変化などの長期的なプラント実績について、計測器からの実績データを収集・整理して蓄積し、これらの実測データから設計値または解析値との比較・評価を行う必要があり、本システムの開発と改良には次の点に留意して進めてきた。
  1)大量で精度の高いデータの収集
  2)データの信頼性の向上
  3)データ管理の一元化
  4)データ解析作業の効率の向上
  システムは、原子炉冷却系、タービン系などのプラント各系統の計測器からサンプリング周期 0.5秒または1秒でデータを収集するミニコン等から成るデータ収集系システムと、データベースソフトによる大量のデータの蓄積・管理と図形処理プログラムによる迅速な解析が可能にする汎用計算機、大容量磁気ディスク等より成るデータ解析系システムから成り立っている( 図2 )。

2.給水制御系ファジィ制御システム
 「ふげん」の原子炉給水制御系は、蒸気ドラムの水位を設定値に保つために給水調節弁を制御する系統である。蒸気ドラムへの給水量は原子炉出力によって 0〜460 t/h/ループと大きく変化するため、主給水調節弁と低流量給水調節弁の2つの容量の異なる弁を用いて調整する。低出力領域においては低流量給水調節弁を用い、蒸気ドラム水位による一要素制御を行う。一方、定格運転時には主給水調節弁による蒸気ドラム水位、主蒸気流量、給水流量の三要素制御を行い蒸気ドラムの水位の安定化を図っている。
 「ふげん」で運転員の判断や操作の加減をモデル化し、自動制御出来れば、低出力の場合でも蒸気ドラム水位の変動をより少なく安定に維持することが出来、プラントの運転制御性の向上と運転員の負担軽減等を図ることが出来る。このため、1)ファジィオンライン制御により従来の制御方法による制御結果以上の蒸気ドラム水位安定制御を達成すること、2)運転員の負担軽減のため完全自動制御化を図ること、を目標に昭和61年度より「給水制御系ファジィ制御システム」の開発を順次進めてきている。
 ファジィ制御パイロットシステムは、原子炉出力約18%以下の低出力領域における低流量給水調節弁の制御を行うために開発したもので、プロセスデータ処理部、ファジィ推論部およびワークステーションからなる( 図3 )。
 第8回定期検査後の平成元年10月の原子炉起動時に、ファジィ制御システムの機能確認を行った。原子炉起動時は、まず蒸気ドラムが定格圧力(68kg/cm2)になるまでゆっくりと出力を上昇させる。この間、ファジィ制御パイロットシステムを利用して制御を行った蒸気ドラムA側の水位は、設定値に対して一時的に±10mm程度の変動はあったものの、ほとんどの期間で±5mm 以内に制御され、極めて良好な結果が得られた。これに対し、PIコントローラによる自動制御を行った蒸気ドラムB側の水位は設定値±60mm程度の範囲に制御された。これより、従来のPI制御を主体とした制御結果と比較して、蒸気ドラム水位変動幅を約1/2 〜1/6 に低減出来ることが確認され、ファジィ制御システムが蒸気ドラム水位制御のために極めて有効に機能したことを確認した( 図4 )。
 これらの結果に基づき実用化システムの設計・製作を進め、平成4年度の第10回定期検査時に給水制御装置の更新に合わせて給水制御システムに組み込み使用中である。

3.燃料交換作業支援システム
 燃料交換作業では、燃料交換機燃料出入機、トランスファーシュート、燃料移送機等の機器を用いて、炉心、燃料交換プール、燃料貯蔵プール間で燃料、遮蔽プラグ、シールプラグの新品との交換、移動または置き換え等を行うので、取扱い数が非常に多く、各ステップ毎の操作が複雑で、グラブ位置、トルク、荷重等の確認項目が極めて多いこと、また、燃料交換プールの収納ラックには容量制限があるため、定検および計画停止時のクリティカル工程である燃料交換作業の計画策定と実施時の作業の効率化と運転員の負担の軽減が必要である( 図5 )。このため、燃料交換作業支援システムの開発にあたって、燃料交換作業の作業分析を行い、燃料交換設備の知識を整理するとともに熟練運転員の知識を整理して、システム化する作業を行った。
 物流制御システム構築用のAIプログラムを利用し、設備の相互関係をモデル化し、運転員の知識を付加したネットワークモデルの作成を行い、このモデルに基づいて過去の燃料交換作業の条件でシミュレーションを実施してシステムの成立性を確認した。この後、これを基にして運転員のデータ入力等を行うマンマシンインターフェースの構築を行い、システムを完成させた。
 ふげんの第9回定検の燃料装荷時に、本システムの機能確認を行った結果、燃料交換計画策定の迅速化、帳票管理、物品管理の運転員への負担軽減等予測された効果を得ることが出来、システムの有効性が実証された。今後、本システムをオンライン化して、データを自動的に取り込み、燃料交換作業の自動化を進めている。

4.燃料取替計画作成エキスパートシステム
 ふげん発電所では、定検時および計画停止時に燃料取替を実施している。この時、燃焼末期の燃料を取り出し新しい燃料を装荷する他、燃料を効率的に燃焼させるためのシャフリング等を実施している。燃料の有効活用を行うために、炉心管理に関し経験豊富な技術者が「ふげん」の炉心の特徴を考えながら、数カ月の労力をかけて計画を作成している。この専門家の知識を整理して計算機システム化したエキスパートシステムを開発した。ATRの炉心では、出力分布が平坦化しており、MOX燃料とUO2 燃料に使用上の差はほとんど無いといった特性があるため、軽水炉等で行われているバッチ方式より、炉心を円周状に分割したゾーン分けによる燃料取替方式の方が燃料の有効利用の点で有利である。
 この方式は、非定型の燃料取替や燃料取替本数の変更に対して柔軟に対応でき、シャフリング燃料取替本数を最小限に出来、燃料の有効利用に寄与できる利点がある。これらの整理した知識を、既存のAIツールに組み込みエキスパートシステムを構築した。
 本システムは基本的に3つの部分より構成されており、燃料取替パターン案(カラーグラフィック)等が出力される。本システムで作成した第15サイクル燃料取替計画等を、炉心解析コード(POLESTAR)で解析し、設計条件を満足する燃料取替パターンを生成することを確認した。
 今後更に範囲を拡大し、炉心解析コード(POLESTAR 、LAYMON) と結合した精度のより高いシステムにする予定である。
<図/表>
図1 ふげん発電所・計算機処理システム体系図
図1  ふげん発電所・計算機処理システム体系図
図2 プラントデータ処理システムの概念
図2  プラントデータ処理システムの概念
図3 ファジィ制御システムの構成
図3  ファジィ制御システムの構成
図4 ファジィ制御システムの機能確認結果
図4  ファジィ制御システムの機能確認結果
図5 燃料取扱設備の概要
図5  燃料取扱設備の概要

<関連タイトル>
新型転換炉のプラント構成 (03-02-02-04)
新型転換炉の燃料交換システム (03-02-02-09)
新型転換炉の炉心冷却系の化学除染法の開発 (03-02-04-01)
新型転換炉のプラント保守管理技術の高度化 (03-02-04-03)
新型転換炉の供用期間中検査技術開発 (03-02-04-04)

<参考文献>
(1) 動燃技報 : No.69 1989. 3. 「ふげん」特集  動力炉・核燃料開発事業団
(2) 新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要 : 1991.8. 動力炉・核燃料開発事業団
(3) 新型転換炉技術成果報告会 予稿集 : 平成 3.12.18 動力炉・核燃料開発事業団
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