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<概要>
 高速実験炉「常陽」の原子炉運転特性は負の反応度係数のため、起動時を含め極めて安定しており、単純かつ明快な操作が可能である。定格運転中の燃料反応度補償操作も同様であり、しかも小さな制御棒操作量で行える。過渡時の典型例である原子炉スクラム時の自然循環冷却能力は予測された特性を示すことが明らかにされている。また、実際の原子炉運転特性を反映した運転支援システム等の開発も行われている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 わが国の高速実験炉「常陽」は熱出力100MW のループタイプ原子炉で、原子炉で発生した熱は中間熱交換器を介して2次冷却系に運ばれ主冷却器において大気に放出される。定格運転時の原子炉入口及び出口の冷却材温度は、それぞれ370 ℃および500 ℃である。
 発電設備こそ有していないが、蒸気発生器以降の系統設備を除いて高速炉として必要な系統はすべて備えている。したがって、原子炉の運転および運用は実質的に発電プラントと変わらない。
 高速実験炉の運転操作は臨界操作、核加熱による系統昇温操作、空気冷却器の自然通風状態での原子炉出力上昇操作、主送風機を運転しての出力上昇操作、定格出力運転、出力下降操作、原子炉停止操作等に大別される。これら原子炉の起動、停止にかかわるサイクル運転曲線を 図1 に示す。
 原子炉運転特性上の特徴は以下の通りである( 図1参照 )。
(1) 原子炉の定格運転は、原子炉入口冷却材温度を370 ℃一定として行っており、系統をこの温度まで核加熱によって昇温する。この操作を系統昇温操作と言い、高速炉一般に特有の操作である。系統昇温中はA部詳細として示したように、負の反応度係数が効果的に作用しており、原子炉が低出力領域においても優れた安定性を有している。
(2) 主送風機の起動は原子炉出力12MWで行うことにしている。この出力レベルは主送風機の風量制御特性から定められる最適値である。
(3) 定格出力到達以降、原子炉出力は燃料の燃焼による反応度低下によって、徐々に低下していく。これを補償するために、B部詳細に示したように1日3回程度、出力調整と呼ぶ制御棒の引き抜き操作を行う必要がある。制御棒操作は6本ある制御棒の引き抜き位置を同一にすることを原則として実施するが、その1回の操作量は6本分の積算で3〜4mmである。このように、定格運転時の制御棒操作が単純、明快な運転特性を有している。
(4) 原子炉の停止時は、100MWから 30MVまでは徐々に出力を落として熱衝撃を緩和するよう操作する。30MWからは一般的な原子炉停止方法と同様に手動制御棒一斉挿入で停止する。
 高速炉の炉心は中性子束分布および出力分布に局部的な変化が小さく、キセノン、サマリウム等特定の核分裂生成物による反応度毒作用がない。また、通常運転時および運転時の異常な過渡変化時においても冷却材( ナトリウム )の沸騰はなく、ボイドによる反応度効果を考慮する必要がない。これらは、高速炉一般についての原理的な原子炉運転特性上の特色であるが、高速実験炉の運転経験から実証されたものである。
 また、即発中性子寿命が短いこと、遅発中性子割合が少ないことが軽水炉と比較する上で高速炉の運転特性上の相対的な厳しさとして挙げられるが、実際上の運転操作に何らの困難はなく、極めて安定した運転が可能であることが「常陽」の運転経験によって確認されている。
 高速実験炉における代表的な過渡現象は外部電源喪失である。発電設備を有しない「常陽」では、外部電源喪失は即、原子炉スクラム、冷却系の主循環ポンプおよび主送風機他主要機器のトリップを意味する。外部電源喪失時のプラント主要パラメータの過渡変化を 図2 および 図3 に示す。
 原子炉の過渡時の運転特性は、高速炉の冷却材ナトリウムの熱伝達特性が良く、構造材料のステンレス鋼の熱伝導率が比較的悪くかつ熱膨張率が大きいこと、原子炉出入口冷却材温度差が大きいこと、冷却系配管が長く熱輸送遅れが大きいこと等のため、一般に厳しくなる。また、原子炉スクラム後などの場合に、原子炉容器等の内部の冷却材温度の層化現象のため、特に上層部のナトリウムが高温のまま保持される状態が発生し得る。しかし、「常陽」の運転経験から、適切な制御系と運転操作手法によって、熱過渡を構造健全性上無視できる程度に緩和できることが実証されている。
 高速炉では機器の高低差を合理的に設計することで、全電源喪失時でも動的機器の機能を期待せずに、自然循環により原子炉停止後の崩壊熱除去を行うことが考えられており、実際「常陽」においても 図4 に示すような自然循環能力の確保への配慮がなされている。この能力を確認する自然循環試験が5 年間にわたり段階的に行われ、100MW 定格出力からの試験でも予測どおりの特性を示すことが明らかにされている( 図5 参照) 。
 「常陽」では1サイクルの運転日数を45日から70日に延長するため燃料を少しずつ入れ換えていったが、その移行炉心において出力係数の変化を観測している( 図6 参照)。また、サイクル運転前と停止時とで比較すると、後者の方が絶対値が小さくなるという傾向が見られている。いずれも、燃料内部の変化に起因するものと考えられるが、詳細な検討が進められている。
  高速実験炉では、その運転特性を反映した原子炉運転支援システムや炉心および冷却系の情報を取り込んだ制御棒操作ガイダンスシステムも開発されており、シミュレータを用いた検証試験および実プラントの信号を入れての総合的な動作試験が進んでいる。
<図/表>
図1 高速実験炉「常陽」のサイクル運転曲線
図1  高速実験炉「常陽」のサイクル運転曲線
図2 高速実験炉「常陽」の外部電源喪失時過渡変化(1)
図2  高速実験炉「常陽」の外部電源喪失時過渡変化(1)
図3 高速実験炉「常陽」の外部電源喪失時過渡変化(2)
図3  高速実験炉「常陽」の外部電源喪失時過渡変化(2)
図4 「常陽」原子炉冷却系の配置と自然循環Naフロー
図4  「常陽」原子炉冷却系の配置と自然循環Naフロー
図5 「常陽」100MW自然循環試験結果
図5  「常陽」100MW自然循環試験結果
図6 「常陽」炉心平均燃焼度の増加による出力係数の変化
図6  「常陽」炉心平均燃焼度の増加による出力係数の変化

<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
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大型ナトリウム機器のメンテナンス (03-01-04-03)
高速実験炉「常陽」と運転・保守経験 (03-01-06-02)

<参考文献>
(1)「高速増殖炉技術の現状と将来の展望」、日本原子力学会、「高速増殖炉工学」研究専門委員会(1987.12)
(2)「動力炉の実用化をめざして」大洗工学センター20年の研究開発、動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター(1990.3)
(3)「高速増殖炉研究開発の現状、1990年」、動力炉・核燃料開発事業団
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