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<概要>
 高速増殖炉における大型ナトリウム機器のメンテナンスは、当該機器を系外に引出して行われる。その場合には、アルゴンガスバウンダリーの管理、放射線の管理、放射化ナトリウムの洗浄および放射性腐食生成物の除染等が必要となる。「常陽」での主循環ポンプあるいは燃料取扱設備のメンテナンスの経験によれば、これらの管理あるいは処置は、充分安全かつ効果的に行うことができる。
<更新年月>
1996年03月   

<本文>
 高速炉では冷却材に液体金属ナトリウムを使用しているため、ナトリウム自由液面上部にはアルゴンカバーガスが満たされている。大型ナトリウム機器である主冷却系循環ポンプ等は、このカバーガス層を介して設置されている。これらの機器は大気中に設置されている駆動部を除いてメンテナンスフリーに設計されており、したがって、通常の保守は定期点検期間を通じて冷却材バウンダリーを開放せずに行われる。しかし、修理・改造等なんらかの理由で、これら大型ナトリウム機器を系外に引抜き、メンテナンスを行う場合がある。
 このような大型ナトリウム機器のメンテナンスを行う場合には、アルゴンガスバウンダリーの管理、放射線の管理、放射化ナトリウムの洗浄、および放射性腐食生成物の除染等が必要となる。このため、アルゴンガスバウンダリーの管理と放射線の管理を兼ねた、機器の種類に応じたそれぞれの専用メンテナンスキャスクおよびナトリウムの洗浄設備等が準備されるのが普通である。
 高速実験炉「常陽」では、2ループある1次主冷却系それぞれに設置されている主循環ポンプを対象に、自然対流防止板をインナーケーシングに設置する目的で、それらを系外に引抜き点検をした経験を持っている。その経験をもとに、高速炉における大型ナトリウム機器のメンテナンスについて述べる。
(1)準備
  (1) まず、原子炉停止後約2週間の間に、燃料交換計画と合わせて炉心周辺の中性子反射体3本を抜く。これは、1次冷却系内のナトリウムをドレンしたあとの原子炉容器内自然循環流路を形成させるためのものである。この2週間の期間は、原子炉運転中に放射化したナトリウム24Na(半減期15時間)を減衰させ、次の段階での1次系機器室内での作業を可能とするための期間ともなっている。
  (2) 次に、1次冷却系配管機器内の冷却材ナトリウムをドレンする。この間の原子炉の残留熱は、補助系により冷却される。
  (3) ポンプのモーター駆動部を取り外す。
(2)移送
  (1) 専用メンテナンスキャスクをポンプ上部に据付け、ポンプ内部構造物をキャスク内に収納する( 図1 参照)。このキャスクは、ポンプ内部構造物を収納してクレーンおよびメンテナンス台車によりナトリウム洗浄設備へ移送するためのもので、1次系カバーガスのバウンダリー機能、ポンプに付着した放射化ナトリウムと放射性腐食生成物からの放射線の遮蔽機能およびポンプの引抜き・収納機能を備えている。これらの機能は、実際の使用経験から充分であることが確認された。
  (2) そのメンテナンスキャスクに収納したまま、ポンプ内部構造物をナトリウム洗浄槽に移送し、吊り下ろす。
(3)ナトリウム洗浄
  (1) ポンプに付着したナトリウムは、チッ素ガスを用いた不活性ガス雰囲気中水蒸気洗浄法(チッ素ガスとの混合蒸気および水を用いる洗浄法)により洗浄する。この洗浄法は大型機器の洗浄に適した洗浄法で、水蒸気量をコントロールして被洗浄体の温度が過度に上がらないようにする。ナトリウムの反応状況は排ガス中の水素濃度、あるいは洗浄槽内排液中のpHやナトリウムイオン濃度を測定することにより推定する。ナトリウム水蒸気の反応が終了したならば、洗浄をさらに確実にするため洗浄槽内に水を注入して被洗浄物を埋没させ、攪拌または水を循環するなどにより洗浄を完了させる。「常陽」での経験では、この洗浄で付着ナトリウムの約95%が除去された。洗浄時における大型機器用ナトリウム洗浄槽内のナトリウム・水反応の制御は、水素濃度計等による監視で充分安全に行えることが確認された。
  (2) ボルト穴などの間隙部に残留するナトリウムは、分解後の部品単位の洗浄により充分に可能である。
(4)付着放射性腐食生成物の除染
  (1) ポンプ内部構造物に付着した放射性腐食生成物(マンガン54およびコバルト60)は、水蒸気・水洗浄によっては除去することが困難である。「常陽」では、半乾式のブラッシングによる除染方法を採用して分解・点検作業員の被ばく低減を図った。
  (2) その結果、 図2 に示すように、ポンプ内部構造物表面の放射能密度を約1/10に減少させることができ、2回のポンプ分解・点検に係わる作業員の総被ばく線量はおのおの4.4 および7.9人レムであった。
 燃料取扱設備の機器は、使用の都度定期的にメンテナンスが行われ、付着ナトリウムの洗浄、除去が要求される。放射性ナトリウムの取扱いを伴うメンテナンスは、燃料交換作業ごとに遠隔で行うものと、定期検査時に行う近接作業とに大別される。
 燃料交換作業ごとのメンテナンスは、放射性ナトリウムが充分に減衰していない時期に行われる。燃料出入機および燃料取扱用キャスクのドアバルブ内のナトリウム滴下用ドリップパンに堆積したナトリウムは、専用のキャスクによりメンテナンス設備に移送し、洗浄槽にて水蒸気・水洗浄する。燃料交換機、燃料出入機等のグリッパーおよびプラグ類は、専用の洗浄槽にてアルコール洗浄する。これらの洗浄はすべて遠隔かつ雰囲気を隔離して行われ、作業員の被ばく・汚染を伴うことはない。
 定期検査時のメンテナンスは、ナトリウムの付着量が比較的少なく、また充分な減衰時間を経て行うことから、極めて低線量のナトリウムを取り扱う作業となる。燃料取扱設備の各種のドアバルブや機器の内部表面および間隙部に付着した微量のナトリウムは、アルコールで除去する。これらの作業は、放射性ナトリウム飛散による汚染拡大防止のため、グリーンハウス内で半面または全面マスク等の充分な装備を着用して行われる。これらの作業当たりの被ばく線量は10数ミリレム程度である。
<図/表>
図1 一次冷却系ポンプ引抜き作業とキャスク据付状態(於「常陽」)
図1  一次冷却系ポンプ引抜き作業とキャスク据付状態(於「常陽」)
図2 除染前後における放射能密度変化と除染効果(於「常陽」)
図2  除染前後における放射能密度変化と除染効果(於「常陽」)

<関連タイトル>
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)
高速実験炉の原子炉運転特性 (03-01-04-01)
高速実験炉定期検査時の作業被曝 (03-01-04-02)

<参考文献>
(1) 「高速増殖炉技術の現状と将来の展望」、日本原子力学会、「高速増殖炉工学」研究専門委員会(1987.12)
(2) 「動力炉の実用化をめざして」大洗工学センター20年の研究開発、動力炉核燃料開発事業団大洗工学センター(1990.3)
(3) 「常陽」を活用した高速炉技術の高度化、動燃技法、No.61、高速実験炉「常陽」臨界10周年記念特集(1987.3)
(4) 亀井満、高速増殖炉工学基礎講座 4. ナトリウム取扱技術、原子力工業、第35巻、第9 号(1989.9)
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