<本文>
高速増殖炉の原子力発電所プラントを構成する系統設備のうちの主要なものについて説明する。「もんじゅ」のプラント全体構成図を
図1 に、主要目値を
表1 に示す。
図2 と
図3 に高速増殖炉「もんじゅ」の冷却系構成の概要図を示す。
1. 原子炉本体
原子炉本体は、炉心及び構造物を円筒状の鋼製の原子炉容器に納めたものである。
図4 に高速増殖炉「もんじゅ」の原子炉容器内構成を示す。炉心は
燃料集合体(炉心燃料、ブランケット燃料)、
制御棒集合体、中性子反射体(
中性子遮蔽体)などによって構成される。主な構造物は炉心の支持及び炉心の流量配分を行うための
炉内構造物と、制御棒駆動機構等の案内及び支持のための炉心上部機構である。原子炉容器の上部には遮蔽プラグを設置し、ナトリウム液面上部をアルゴンガス雰囲気に保つ。遮蔽プラグには炉心上部機構、
燃料交換機等が取り付けられる。さらに、万一、原子炉容器でナトリウム冷却材漏洩事故を想定しても炉心の崩壊熱除去に必要なナトリウム液位を確保するための
ガードベッセルが原子炉容器の外周に設けられる。
2. 炉心構成要素
炉心を構成する要素には、燃料である炉心燃料集合体とブランケット燃料集合体のほか、制御棒集合体や中性子反射体等がある。
図5 、
図6 に高速増殖炉「もんじゅ」の炉心燃料集合体を示す。
a) 炉心燃料集合体:原子炉の運転に用いる燃料で、プルトニウム−ウラン混合酸化物燃料ペレットを被覆管に密封した炉心燃料要素(
燃料ピン)を多数本、正三角形状に配列して六角形の
ラッパ管に収納したものである。高速中性子で核分裂を起こさせるが、その反応の割合が軽水炉での
熱中性子による反応に比べて小さいため、ペレット内の核分裂性物質の濃度(ウラン235濃縮度やプルトニウム富化度)は軽水炉の燃料よりも大きい。
b) ブランケット燃料集合体:炉心燃料集合体の周りを囲み、炉心から漏れてくる中性子をウラン238に吸収させプルトニウムに転換させるための燃料である。外形、構造は炉心燃料集合体とほぼ同一であり、ラッパ管内部に多数本の二酸化ウランのブランケット燃料要素が正三角形状の配列で収納されている。
c) 制御棒集合体:原子炉の運転・停止を行うに用いられる制御棒集合体は、中性子を良く吸収するホウ素を含む炭化ホウ素をペレット状にした中性子吸収材を被覆管に納めた複数本の制御棒要素と、これらを固定支持する保護管、制御棒案内管等で構成されている。
d) 中性子反射体:ステンレス鋼製で半径方向ブランケット燃料集合体の外周に装荷され、炉心からの中性子を反射してその漏れを防ぐとともに、高速中性子や
γ線を遮蔽し、その周囲の構造材を保護するものである。中性子反射体の外形、寸法は燃料集合体とほぼ同一である。
3. 原子炉冷却系(
図1参照)
炉心で発生した熱は1次ナトリウム冷却材、2次のナトリウム冷却材、蒸気発生器と次々に熱伝達され、蒸気発生器で高温高圧の蒸気を発生する。
a) 1次冷却系(
図2参照):炉心で加熱された1次冷却材(ナトリウム)は、1次主冷却系循環ポンプで、中間
熱交換器を経て再び原子炉に還流する。中間熱交換器は放射化された1次冷却材と非放射性の2次冷却材との熱交換を行い、放射性ナトリウムを1次系内に閉じ込め、熱のみを2次系に伝達する。
b) 2次冷却系(
図3参照):2次冷却材は、2次冷却系主循環ポンプにより中間熱交換器と蒸気発生器の間を循環する。
c) 蒸気発生器:蒸気発生器は2次冷却系に接続され、2次冷却材の熱を水・蒸気に伝える熱交換器である。万一伝熱管が損傷し、水の漏洩が発生した場合の早期検出装置および大規模のナトリウム・水反応が発生した場合、2次主冷却系の過度の圧力上昇を防止するためのナトリウム・水反応生成物収納設備が設置されている。
d) 補助冷却系:補助冷却系は、原子炉を通常停止した時や運転中の異常および事故により原子炉が停止した時に、
核分裂生成物の崩壊熱や他の残留熱を除去し、炉心を冷却するものである。補助冷却系の運転時は、中間熱交換器において1次冷却材から2次冷却材に伝達された熱が2次冷却系より分岐して蒸気発生器に並列に配置された空気冷却器により大気中に放散される。
4. 発電設備
発電は蒸気タービンに直結した発電機で行われる。すなわち蒸気発生器に供給された水は、2次系ナトリウムと熱交換を行って過熱蒸気となり、蒸気タービンを駆動し、発電する。蒸気タービンを出た蒸気は復水器で海水の冷却により水になり、蒸気発生器の給水ラインに戻される。
5.
工学的安全施設
工学的安全施設とは、原子炉設備の損傷、故障等の原因で原子炉内の燃料の破損等により多量の放射性物質が環境に放散される可能性がある場合に、これらを抑制または防止するための機能を備えた施設である。
工学的安全施設には、原子炉本体や1次冷却系等の原子炉施設の主要部分を収容する 「原子炉格納施設」、原子炉格納施設とそれを取り囲む外部遮蔽建物との間のアニュラス部の空気を循環、排気する「アニュラス循環・排気装置」、「ガードベッセル」、補助冷却系及び1次アルゴンガス漏洩事故のときに放出される放射性物質の量を抑制するための活性炭吸着塔を備えた「1次アルゴンガス系収納施設」がある。
6. ナトリウム補助系
原子炉容器などの1次冷却系と2次冷却系のナトリウム液位の制御、ナトリウムの純化、機器や配管への充填・ドレイン及びドレインしたナトリウムの貯蔵を行うもので、1次系と2次系のそれぞれにある。
7. アルゴンガス系
原子炉容器、蒸気発生器等1次冷却材と2次冷却材を包含する機器設備の自由液面を覆う不活性なアルゴンガスを取り扱う設備である。
8. 燃料取扱および貯蔵の設備
燃料取扱および貯蔵の設備は炉心燃料のほか、ブランケット燃料、制御棒、中性子反射体などの炉心構成要素も取り扱う。発電所に搬入した新燃料などは新燃料貯蔵ラックに一時貯蔵し、使用済のものと交換する前に炉心燃料貯蔵槽に移送する。使用済の炉心構成要素を新しいものと取替えるには、原子炉停止時に、炉心部の交換は燃料交換機、原子炉容器と炉外燃料貯蔵槽の間では
燃料出入機を使用して、1体ずつ行う。炉外燃料貯蔵槽へ移送された使用済の燃料は燃料洗浄設備でナトリウムを洗浄し、燃料プールに貯蔵する。
9. 計測制御系
計測制御系は次の各施設で構成される。
a) 原子炉計装及びプロセス計装:原子炉の運転制御及び保護動作に必要な情報を得るための設備。
b) 原子炉制御系:原子炉出力を抑制したり、原子炉施設の主要な諸変数を許容される範囲内に収め安定な応答をさせる制御系誤操作を防止したり異常が拡大するのを防止するためのインターロンク回路等からなる。
c)
原子炉保護系:運転時の異常な状態あるいは事故状態を検知し、異常、故障の程度によって原子炉トリップ信号を発生し、制御棒を炉心に挿入することにより原子炉を自動停止させる。
d) 工学的安全施設作動系:1次冷却材の漏洩事故等に際し、事故の拡大を防止あるいは環境への放射性物質の放出を抑制する工学的安全施設を作動させる。
さらに、これらの設備から出される情報をもとに、プラントの主系統の運転に必要な諸変数の監視及び主要な機器の操作を集中管理するために中央制御室を設けている。
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉の核燃料サイクル (03-01-02-01)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の構造設計 (03-01-02-05)
<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉の開発(1979年)
(2)安 成弘:高速増殖炉 昭和57年 同文書院
(3)堀雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉原型炉「もんじゅ」設計・建設・試運転の軌跡、PNCTN241094-023(1994)
(5)特集「もんじゅ」の試運転と臨界へのアプローチ、原子力誌、Vol.37,No.1 (1995)
(6)高橋忠男ほか:「もんじゅ」臨界を達成して、原子力誌、Vol.33,No.1(1995)
(7)村山衛ほか:「もんじゅ」の機器据付完了−試運転へ、Vol.33,No.11(1991)
(8)動力炉・核燃料事業団:高速増殖炉研究開発の現状平成5年、PNCTN141094-006 (1994)
(9)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧 1995年版、電力新報社(1995年2月)