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<概要>
 高速増殖炉安全設計の考え方は、他の原子炉施設と同様、深層防護の考えに従って3段階のレベルによる対策が施されている。第1のレベルは異常状態の発生を防止することで、異常が起こらないように万全を期している。第2のレベルはたとえ異常が発生しても、事故に拡大させないことで、早期に異常を検出し、対策を講じる方策が施されている。特に、原子炉を確実に停止すること、また原子炉停止後、崩壊熱を確実に除去することが重要である。第3のレベルは、万一事故が起こったとしても、一般公衆に影響を及ぼさないよう、放射性物質格納容器によって封じ込める対策を講ずる。
<更新年月>
1996年03月   

<本文>
1.安全確保の基本的考え方
 高速増殖炉(FBR)のみならず軽水炉(LWR)やその他の原子炉施設にあっても、安全確保の考え方は基本的には同じである。万一の事故を想定した場合でも、原子炉施設は一般公衆を事故の影響から保護するよう安全に設計されている。すなわち原子炉の中で核分裂によって生じる核分裂生成物FP)を環境へ放出させないように万全の対策がなされている。このため設計に当たっては、深層防護の考え方に従って次の3段階の対策によって安全が確保される( 図1 参照)。
  (1)第1レベル:異常状態の発生防止
  (2)第2レベル:異常状態の事故への拡大防止
  (3)第3レベル:周辺への放射性物質の異常放出防止
2.第1レベル
 第1レベルは異常を発生させないよう、設計の段階から機器製作、建設、検査、運転に到るまで、厳しい品質管理のもとに行われ、異常が発生しないよう万全を期している。たとえば、原子炉の出力が何らかの原因で異常に上昇した場合でも、炉心構成材のわずかの延びや、燃料のドップラー効果などによって、原子炉に負の反応度が入るよう炉心設計されている( 図2 参照)。また設計には十分な安全余裕をもたせてある。原子炉を構成する機器や部品、電子回路等についても、材料選定、製造、組立、試験の各段階で、品質管理に基づく厳しい検査が要求され、たとえ故障した場合でも機器が安全側に動作するようにフェイルセイフの思想を基本として設計されている。
 また、起動・運転・停止にあたって誤操作防止のため運転マニュアルに従った運転員の厳正な訓練も重要な一翼を担っている。自主点検、定期点検と共に保守・修理も重要な要件である。
3.第2レベル
 前述の対策をしていても、原子炉冷却系循環ポンプが故障するとか、配管が破損するとか種々の異常は起こり得る。このとき、第2レベルとして、適切な異常検出系で早期に異常を発見し、大事に至らしめないよう原子炉機器は何重にも防護されている。
 原子炉の中央制御室には、核分裂反応や出力を監視する核計装監視設備や制御設備が整い、プラントの各系統の温度、圧力や冷却材の流量を監視するプロセス計装設備と共に、原子炉の運転状態を集中的に監視、制御する設備が整っている。万一異常が生じた場合には自動あるいは手動で、正常な状態に戻す操作が行われる。プラント全体は、その如何なる部位に異常が生じても、これらの設備を用いて、異常を早期に検出できるよう設計されている。異常が所定のレベルを超えた場合には、安全保護を期すため原子炉を確実に停止させる原子炉停止系が設備されている。原子炉を高い信頼度で停止させることは、安全確保の上から最優先、最重要事項であるが、たまたま原子炉冷却材循環ポンプの故障などと重なって冷却材による炉心冷却機能が十分期待できない場合でも、原子炉停止後の炉心燃料からの崩壊熱を除去する設備が用意されている。
 高速増殖炉には、このような異常時にあっても、緊急に崩壊熱を除去できるよう直接炉心冷却設備とか、中間熱交換器や2次系から除熱できる崩壊熱除去系が特別に設けられている。また、米国の高速実験炉FBR-2や高速実験炉「常陽」などで実証されているように、全冷却系統の主循環ポンプの機能喪失した場合でも、炉容器内に確保されているナトリウムの自然循環によって崩壊熱が除去されることが実証されている。さらに万一、原子炉容器に亀裂を生じナトリウム冷却材が漏洩する事故が起こった場合でも、ガードベッセルにより炉容器内のナトリウム液面の低下は制限され確保されるので、炉容器内のなかで自然循環が起こり崩壊熱を除去できる。
  図3 に「常陽」MK-2炉心で実証された崩壊熱除去試験の結果を示す。原子炉停止後、崩壊熱により炉心で出口温度は上昇するが、自然循環による熱除去で温度は下がり安定する。
 以上のように第2レベルでは、原子炉を確実に停止させること、そして停止後の崩壊熱を確実に除去することが重要であり、異常の早期発見、事故への拡大防止を目的として種々の対策がとられている。
4. 第3レベル
 しかしながら、想定される万一の事故として、原子炉停止系が動作せず、かつ崩壊熱除去手段が全部機能喪失した場合を考えると、炉心燃料は高温となり破損に至り、事故に発展することも、発生確率は小さいとはいえ、想定しておかなければならない。これらの事故が万一発生した場合を考えて、鋼鉄製の格納容器が第3レベルとして準備されている。高速増殖炉の格納容器は想定される最大のナトリウム漏洩事故時の温度や圧力に耐えるよう、また地震、洪水、などの自然現象にも十分余裕をもって耐えられるよう設計されている。かりに、このような大きな事故が発生しても原子炉プラントから放射性物質が放出されたり、周辺の一般公衆に災害を与えたりしないよう、格納施設には厳重な基準が要求されている。
  図4 は「もんじゅ」発電所の諸施設が上記多重の障壁により系統ごとに防護されていることを示す。
5.高速増殖炉の安全設計上の特徴
 高速増殖炉は軽水炉と違って、高温、高出力密度、液体金属ナトリウム冷却、高速中性子利用といった大きな特徴をもつ。安全設計に当たっては上述したレベル1、レベル2、レベル3に対する設計思想や対策の基本的な考え方は軽水炉と共通であるが、プラントの設計の違い、運転条件の違いもあって、具体的な対策にもいくつかの特徴的な違いがある。
 ナトリウムの沸点は常圧で約883℃であり、高速増殖炉は通常、原子炉冷却材運転温度300℃〜500℃で運転されるので、軽水炉のように加圧する必要がない。従って、配管破損を想定しても冷却材が噴出してすっかりなくなってしまい、炉心燃料が空炊きになるような事象は事故として想定する必要はないので、軽水炉のような非常用炉心冷却系(ECCS)は設備されていない。
 ナトリウムは水に接触すると激しく反応するので、蒸気発生器の伝熱管にピンホールのような破損が生じる可能性を考えて、蒸気発生器内にナトリウム‐水反応によって発生する水素の検出器を設けている。また、冷却系配管破損によるナトリウムの漏洩を考えて、ナトリウム漏洩検出器などが用意され、格納容器床下の一次系機器、配管の設置場所は不活性ガスの窒素雰囲気にしてナトリウムの空気との接触を避け、かつ漏洩流出したナトリウムを底部に導き、反応を抑制するように工夫が凝らされている。
6.安全性の評価の実際
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の安全設計を対象にして、昭和55年原子力安全委員会は、「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」を設定して、運転時の異常な過渡変化および事故として各種の代表的な事象を選定して評価を行っている。さらに、設計段階では、高速増殖炉の特徴に鑑み高温構造設計指針や耐震設計に関する基準に基ずいて設計されている。
 また、確率論的安全評価(PSA)手法を用いて異常や事故の発生頻度評価を行い合理的な代表事象選定も行っている。これらの評価や重要度分類によって、設計に当たって設計基準内事象として対策を実際にとるか、確率の極度に小さい設計基準外事象は設計対象外とするか、などの世界各国での安全設計基準制定作業は注目されている。
<図/表>
図1 原子力発電所の安全性確保のしくみ
図1  原子力発電所の安全性確保のしくみ
図2 ステップ状反応度挿入時の原子炉出力変化(原子炉停止なしの場合)
図2  ステップ状反応度挿入時の原子炉出力変化(原子炉停止なしの場合)
図3 「常陽」MK-2炉心における自然循環試験結果と計算値の比較
図3  「常陽」MK-2炉心における自然循環試験結果と計算値の比較
図4 「もんじゅ」における放射性物質放散に対する多重障壁
図4  「もんじゅ」における放射性物質放散に対する多重障壁

<関連タイトル>
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
崩壊熱除去システム (03-01-02-12)
高速増殖炉の制御特性 (03-01-03-02)
高速増殖炉の工学的安全防護システム (03-01-03-03)

<参考文献>
(1) 姫野嘉昭: 高速増殖炉工学基礎講座 安全工学, 原子力工業 Vol36, No.2 (1990)
(2) 基礎工学高速炉編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社 (1993年10月)
(3) 科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版),日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(4) 日本原子力文化振興財団:「原子力」図面集(1991年)
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