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<概要>
 高速増殖炉(FBR)の工学的安全防護システムは軽水炉と同様に、事故の発生を防止し、また、万が一の事故に対して燃料や炉心の破損などによる放射性物質の放散を抑制または防止する機能をもつように設計されている。わが国におけるナトリウム冷却型FBRの「常陽」、「もんじゅ」の設計を踏まえ、主にループ型について、FBRサイクル実用化戦略調査研究等で検討された実証炉以降の大型FBRの工学的安全防護システムの概要をまとめる。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.概要
 FBRの基本型式にはタンク型とループ型とあり、世界的にはタンク型が主流であるが、わが国ではループ型の実験炉「常陽」、および原型炉「もんじゅ」が開発されてきた。これらの知見に基づき、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構、JAEA)のFBR実用化戦略調査研究(FS)においても、炉心や機器の集中配置に伴う保守・補修性、二次系簡素化に移行しやすいループ型を実証炉以降の主たる候補概念として選定している。FSに引き続いて行われるFBRサイクル実用化研究開発(FaCT)では、革新技術の要素技術開発と実用施設の概念設計とを通じて、革新技術採用の可否、成立性の見極めを行い、実証炉の概念をさらに明確にしていく予定であるが(図1)、ここではFSで絞り込んだ実証炉候補概念を中心にFBRの工学的安全防護システムの特徴をまとめる。
2.安全確保に係る基本的要素技術
(1)原子炉冷却材の確保
 「もんじゅ」(図2)では一次および二次冷却系配管にステンレス系が用いられたが、実証炉以降では高クロム鋼(12Cr低合金鋼)を用いる。12Cr低合金鋼は火力発電プラントでの実績も含め、長時間にわたる使用データが収集されている。熱膨張率が低いため、機器のコンパクト化が可能であり、建屋容積は「もんじゅ」に比べて大幅に縮小できる可能性がある。さらに12Cr低合金鋼の漏洩先行型破損(Leak Before Break:LBB)の成立性も見通しを得つつあり、LBBを前提とした設計が進められている。
 FBRではNaの沸点が883℃と運転温度(原子炉出口で約500℃)に比べて十分高いので、運転中のNa系は常圧で液体である。したがって、必須条件としての液位確保はガードベッセルと主冷却配管の高所(水平)引き回しで対応している。万一配管に亀裂が生じた場合にも液位は確保され、LBBの作用もあるため、急速に進展することはない。(図3および図4)またNa漏えい対策として実証炉では一次系、二次系とも配管二重化を考えている。これによりNa漏洩の局限化と連続漏洩監視も合理的になされ、信頼性を高めている。炉容器の液面近傍の健全性保持に関しては、「もんじゅ」では液面変動で対応しているが、実証炉以降では炉容器材の工夫により静的に強度を上げることとしている。以上によりFBRではLOCA(冷却材喪失事故、Loss of Coolant Accident)の発生は考えられず、軽水炉のようなECCS相当の装置は不要である。
(2)炉心の核的安全性確保
 実証炉では以下の各項目に示すとおり、大型炉として受動的安全設計の強化に配慮している。全体としてプラントのコンパクト化の見通しにかなりの確証を得ているが、冷却材の高流速化に伴うアルゴンガスの巻き込みによって正の反応度が炉心に加わるのを避けるため、1/10モデルによる流動試験を実施し、その結果、ガス巻き込み防止のために二重デイッププレートが効果的なことを確認した。
3.炉停止系の信頼性確保
 炉停止系としては、B4C吸収材の制御棒を上部から挿入する点は大型炉でも「もんじゅ」と変わりなく、主炉停止系と後備炉停止系の独立多重システムとしている。
 制御棒のデラッチ機構として、1985年以来キュリー点電磁石(ある温度以上では磁性を消失する特性の温度感知合金を使用した電磁石)を用いた自己作動型炉停止機構(SASS:Self Actuated Shutdown System)の開発が進められてきた。照射環境の下で温度、熱過渡、磁気経年変化、耐久性、システム結合、切り離し、その他に関して試験を重ね、実機に十分適合するものであることが実証されている。これは何らかの原因で原子炉の温度が上昇した場合にデラッチして制御棒を落下させる装置であり、炉停止2系統の内1系統に設置する予定である。(ATOMICAデータ「高速実験炉「常陽」における研究開発(03−01−06−03)」を参照)。
4.冷却系の信頼性確保
 炉心で加熱された一次冷却材は主循環ポンプで中間熱交換器(Intermediate Heat Exchanger:IHX)に送られ、熱交換されて二次系Naに熱エネルギーが伝えられる。さらに蒸気発生器(SG)により高温高圧の水蒸気が作られ、タービン、発電機を駆動する。この方式は「もんじゅ」も大型炉も同じである。実証炉以降では一次系簡素化のためポンプ組み込み型IHXが考えられている。SGは「もんじゅ」ではヘリカル式が採用されたが実証炉では二重直管型の開発に重点が置かれている。二重直管型の場合には、内外管のいずれかに万一破損が生じたとしても、ミクロンオーダーのギャップで破壊伝播にいたる前に水素を検知することが可能となるため、従続破損が発生せず、二重管の同時破損をほとんど無視できると判断されている。SG製造技術とともに、二重管検査用の計測器やISI(供用期間中検査)は重要な開発項目となる。実証炉は2ループの配管系であるが、これらの機構によってNa漏洩が極限化されるだけでなく、それに伴うリスクが大幅に軽減され信頼性が高まると考えられている。
 実証炉では崩壊熱除去のため、4系統の原子炉容器内の直接炉心補助冷却系(DRACS)を有する。IHXおよび二次系の冷却系(PRACS)は「もんじゅ」のほか、フランスの「スーパーフェニックス」に例がある。(図5)崩壊熱除去には受動的安全設計として世界的にも自然循環冷却が考えられているが、わが国でも早くから検証されており、実証炉以降に考慮されている。一次系の圧力損失が低い上、熱交換器間の温度差が十分確保されていて、自然循環冷却の信頼性は高い。(ATOMICAデータ「高速実験炉の原子炉運転特性(03−01−04−01)」を参照。)
5.事故時の閉じ込め機能
 軽水炉において放射能を閉じ込める燃料ペレット、燃料被覆管、原子炉圧力容器、格納容器(CV),原子炉建屋のいわゆる五重の壁はFBRにおいてもまったく同じである。CV内には主要機器が設備されているが、冷却材のNaは沸点以下で使用される。事故時に発生するヨウ素は大部分がNaに吸収され、CV内の圧力上昇は軽水炉より低い。CVはコンクリートと鋼の一体化した2層構造が考えられている。万一蒸気発生器が破損しNa—水反応が発生した場合に備えて反応生成物収納容器が用意されており、大事に至らないようになっていることは「もんじゅ」と同じである。
<図/表>
図1 FBRサイクルの研究開発−FaCTプロジェクト−
図1  FBRサイクルの研究開発−FaCTプロジェクト−
図2 「もんじゅ」の原子炉プラント構成
図2  「もんじゅ」の原子炉プラント構成
図3 「もんじゅ」の原子炉容器ガードベッセル
図3  「もんじゅ」の原子炉容器ガードベッセル
図4 「もんじゅ」の1次冷却系統の液位
図4  「もんじゅ」の1次冷却系統の液位
図5 いろいろな崩壊熱除去系
図5  いろいろな崩壊熱除去系

<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)
高速増殖炉の安全設計の考え方 (03-01-03-01)
高速増殖炉の制御特性 (03-01-03-02)
高速実験炉の原子炉運転特性 (03-01-04-01)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)

<参考文献>
(1)日本原子力文化振興財団:原子力の基礎講座4.新型原子炉(1996)
(2)日本原子力研究開発機構次世代原子力システム研究開発部門ホームページ、http://www.jaea.go.jp/04/fbr/top.html
(3)小笠原英雄:ナトリウム冷却高速増殖炉の安全性・信頼性、エネルギー、Vol.38、No.3(2005)
(4)伊藤隆哉他:FBR実用化に向けた取組み、三菱重工技報Vol 43、No4、(2006)
(5)佐賀山豊:日本原子力開発機構のGNEP構想への取組み、日本原子力学会誌、Vol.49、No.3(2007)
(6)林秀行他:高速炉型式の変遷、日本原子力学会誌、Vol.49、No.8(2007)
(7)稲垣達敏:欧州・アジアの高速炉開発の歴史、日本原子力学会誌、Vol.49、No.11−12(2007)
(8)伊藤和元他:日本の高速炉開発の歴史(II)、日本原子力学会誌、Vol.50、No.2(2008)
(9)根岸仁他:高速炉の変遷と現状、日本原子力学会誌、Vol.50、No.3(2008)
(10)佐賀山豊他:高速増殖炉サイクルの技術開発、日本原子力学会誌、Vol.50、No.6(2008)
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