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<概要>
 高速増殖炉では高速中性子による連鎖反応、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX)および液体金属ナトリウム冷却材を用いるため、その制御特性にもいくつかの特徴がある。炉心の制御特性は、その核的性質から出力係数が負で、絶対値が小さく、熱的には時定数が短い。プラントの制御特性は、熱慣性が大きく、通常運転中は安定な系を形成している。本稿では原子炉異常時の挙動と対応についても言及する。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 高速増殖炉の制御は、炉心の制御と、冷却系や蒸気系を含めたプラント制御とに分けて考えるとわかりやすい。まず、高速増殖炉の制御特性の一例として、1977年以来現在までの高速実験炉「常陽」と「もんじゅ」の運転経験・知見を主として述べる。
 「常陽」は炉心の特性を確認するために建設された試験研究用の実験炉であるため、タービン発電機をもたず、熱は大気中に放散させている。原子炉の運転は、原子炉冷却材流量一定、炉心入口冷却材温度一定の制御方式をとり、起動から定格出力までの主要な運転操作は制御棒引抜きと空気冷却器風量調節のみで行っている。反応度係数の出力依存性が小さく、かつ単調なので、出力変更時の操作量の予測が容易であり、きわめて安定に運転できることが実証されている。また核分裂生成物反応度効果は小さく、運転を一旦停止した後の再起動も容易なことが確認されている。
 一般に高速増殖炉の制御特性は
(1)高速中性子やプルトニウム、ナトリウムなどの性質から本来的に定まる特性
(2)炉心やプラントの構成・構造から決まる特性
(3)制御システム自体からフィードバックされる制御特性
が複合したものとなっている。
制御は常に計測と表裏一体をなしており、また最近の制御システムは多くのソフトウエア回路を含んでいて(3)の重要性は増しているが、本項では高速増殖炉の基本的な特性である(1)及び(2)について述べる。高速増殖炉の制御特性にかかわる原理的特徴を図1にまとめた。
1.炉心の一般的制御特性
 高速増殖炉の炉心の基本的な制御特性として、例えば、炉心の出力が少し上昇し、それに伴って冷却材ナトリウムの温度が上昇すると、ナトリウムの密度が減少する。すると、その分だけ中性子との衝突割合が減少し、その結果、炉心部からの中性子の漏れが増える。同時に、中性子の減速の度合いが減って炉心内の中性子スペクトルが硬化(中性子平均エネルギーが増加)する。中性子の漏れの増加は炉心の反応度を低下させるため、出力が減少する。一方、スペクトルの硬化は実効中性子放出数ηを大きくし、中性子の吸収を小さくするためにその分だけ反応度が上昇し、その結果、出力が増大する。(吸収中性子エネルギーとηの関係を図3に示す。)結局、漏れで反応度が低下する効果とスペクトル硬化で反応度が上昇する効果との相殺関係の下で、反応度の変化が決まり、出力の増減が決まる。その他の効果も含めて、炉心の出力が変わった場合の反応度変化(出力係数という)の経路を図2に示す。通常の高速増殖炉の炉心は出力係数が負で絶対値が小さく、安定な制御特性を持っている。
 高速増殖炉の炉心では中性子に対する核反応断面積が小さいため、中性子が生まれてから消滅するまでに走る平均的な距離(平均自由行程)が熱中性子炉に比べて10倍も長い。したがって、制御棒の効く範囲も広いため、熱中性子炉に比べ少数の制御棒で炉心全体を充分に制御できるほか、炉心外に設置されている核計装で反応度の計測が可能である。制御棒の材料には、軽水炉と同じ炭化ホウ素B4C(B−10を濃縮)が使われている。
 冷却材ナトリウムは熱伝達特性は良いが比熱が小さく、かつ炉心が稠密なため、圧力損失が過大にならないよう、炉心高さを低くした扁平炉心が採用される。また、熱中性子炉と違って、キセノン(Xe)やサマリウム(Sm)による再起動時の過渡的反応度変化はない。したがって、出力の空間分布が均一になるような制御上の配慮が必要である。
 通常、炉心の初期起動時には中性子源を用いるが、燃料中のプルトニウムの濃度が高いため、燃焼が進むと中性子源なしでも中性子検出精度上必要な程度の中性子束レベルを得ることができる。
2.炉心異常時の特性
 通常は高速増殖炉の炉心は、その大小に拘わらず、出力係数が負に保たれるように設計されている。また、万一の燃料の異常温度上昇があった場合でも、これによる負の反応度が入ることが考えられる。
 小型炉心ではナトリウムが沸騰、つまりボイド化しても、炉心からの中性子漏洩効果が大きいために反応度は負であるが、「もんじゅ」を含め中、大型炉心ではその効果は相対的に低くなる。そのため、炉の大小、局部的か否か次第では、ボイド化によって即発臨界を越える可能性もある。さらに、炉心燃料が万一溶融した後、炉心内で集中した場合にも、炉心反応度が急激に上昇し、即発臨界を越える可能性がある。そこで、自己作動炉停止機構(SASS:Self Actuated Shutdown System)、直接炉心冷却系や再臨界回避のための工学的安全防護系が必要とされる。(ATOMICAデータ「FBRの工学的安全防護システム(03−01−03−03)」を参照。)
3.プラントの制御
 現在実用規模で行われている発電方式は、熱で水を高温高圧の水蒸気に変え、蒸気タービンを回し、三相交流同期発電機を駆動して発電するもので、火力発電、軽水炉や高速炉などの発電もすべて同じである。本質的に差があるのは火力発電のボイラに当たる部分である。
 すなわち、火力では最適の燃焼方式の下でそのタービンに合った蒸気条件を得る。高速増殖炉の原子炉制御は、軽水炉と同様に、原子炉での発生熱量または中性子束を測定して制御棒を駆動しているが、軽水炉に比べて中性子束の空間的歪が小さいため原子炉制御は比較的単純である(下のb)参照)。
 軽水炉と高速増殖炉の制御に関する事項は次のようになる。a)高速増殖炉は炉心が稠密であり、出力密度が約1桁高い(リットルあたり400から1000kW)ので、原子炉出口の冷却材温度も高く出来る。(軽水炉の300℃レベルに対し高速増殖炉は500℃。)ただ、蒸気温度は火力発電ほど高くはないので技術的な難しさは少ない。b)高速増殖炉の中性子の平均自由行程は軽水炉に比べ大分高いので制御棒の本数も約4割で済む。c)軽水炉BWRは制御棒の出し入れ(位置決め)と、炉水のバブルを利用して再循環水の量で出力を制御する。d)PWRではBWRの2倍程度に炉水が加圧されバブルが利用できない。そこで制御棒の出し入れの他、冷却水にホウ素を混ぜ出力を制御する。e)高速増殖炉は制御棒の出し入れで炉心の出力制御を行う。
 高速増殖炉は軽水炉と異なり、カバーガスとしてのアルゴンガス、凍結防止のための予熱、ナトリウム純化系など、冷却材としてナトリウムを用いることによる特別な管理が必要である。しかし、上記のa)〜e)の観点から、高速増殖炉は出力制御については機構的に軽水炉よりも単純といえる。
 また起動、停止を含む過渡時の運転面から見ると、高速増殖炉は常圧系であるため圧力の調整がほとんど要らない点もひとつの特徴である。起動時の出力上昇速度は、原子炉容器や中間熱交換器など機器構造物の温度変化率が過大にならない程度に制限される。停止時にも同様に、過度な温度変化が生じないように、異常時などの特別な場合を除き、出力降下速度と流量減少速度の差を大きくしないように配慮されている。
 1次主冷却系及び2次主冷却系の一循環に要する時間が比較的長いこと(分のオーダー)、炉心の熱的な時定数が短いこと(秒のオーダー)、および炉心の出力反応度係数が負で絶対値が小さいことのために、高速増殖炉はプラント全体として安定な制御特性を有する系となっている。高速増殖炉の原子炉制御は、軽水炉と同様に、原子炉での発生熱量または中性子束を測定して制御棒を駆動して行うが、プラントの出力制御方式には次の2つの方法がある。
(1)冷却材流量一定、原子炉出口冷却材温度可変方式(例「常陽」)
(2)原子炉出口冷却材温度一定、冷却材流量可変方式(例「もんじゅ」)
 前者はポンプや調節弁などによる制御が不要のため制御系が簡単になり、実験炉に向いている。後者は外部からの給電指令による負荷の変化に対しても蒸気条件を一定に保つことが容易であるため、発電炉に向いている。高速増殖炉プラントは通常、定格出力の20〜40%から100%の間は出力を指示する統括制御方式による自動運転が可能になっている。
 プラント制御の例として「もんじゅ」のプラント制御系を図4に示す。「もんじゅ」のプラント制御には、冷却材流量をほぼ原子炉出力に比例させ、主蒸気温度と圧力を一定にする制御方式が採用され、負荷変更時にも主要な熱輸送系機器設備は所定の熱平衡を維持するように制御されている。すなわち、所定の負荷特性に合うように原子炉出力と主冷却系流量をまず制御し、負荷変更以外の外乱に対しては、原子炉容器出口ナトリウム温度と蒸発器出口蒸気温度を一定にする。このように、冷却材温度が急変しないような制御系構成になっているが、所定の熱平衡状態から逸脱するような異常が発生し、炉心及び冷却材バウンダリの健全性を損なう恐れのある状態が生じた場合には、まず安全系以外のインタロックが作動し、異常を収束し、さらに異常が継続した場合には安全保護系が作動する。
 さらに、放射性物質の放出を伴うような状況に対しては、止める、冷やす、閉じ込めるといった工学的安全施設の作動により、軽水炉と同様に放射性物質の放出は充分抑制される。
<図/表>
図1 高速増殖炉の原理的特徴
図1  高速増殖炉の原理的特徴
図2 高速増殖炉に見られる反応度変化の経路
図2  高速増殖炉に見られる反応度変化の経路
図3 入力中性子エネルギーと放出中性子数η
図3  入力中性子エネルギーと放出中性子数η
図4 高速増殖炉の原子炉プラント制御系(「もんじゅ」の例)
図4  高速増殖炉の原子炉プラント制御系(「もんじゅ」の例)

<関連タイトル>
高速増殖炉 (03-01-01-01)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の安全設計の考え方 (03-01-03-01)
高速増殖炉の工学的安全防護システム (03-01-03-03)
高速実験炉の原子炉運転特性 (03-01-04-01)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状(1984)
(2)中本香一郎:高速増殖炉工学基礎講座、計測・制御(その2)、原子力工業、Vol.37, No.3 (1991)
(3)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所原子炉設置許可申請書(昭和55年12月)
(5)青木成文、能沢正夫(監修):高速増殖炉(FBR)開発実用化データ集NIC(1984)
(6)日本原子力文化振興財団:原子力の基礎講座4.新型原子炉(1996年)
(7)日本原子力文化振興財団:原子力の基礎講座2.原子炉の原理・安全性(1996年)
(8)日本原子力文化振興財団:原子力・エネルギー図面集(2006年)
(9)伊藤和元、鈴木惣十:日本の高速炉開発の歴史(I)アトモスVol.50、No.1(2008)
(10)伊藤和元、小竹庄司:日本の高速炉開発の歴史(II)アトモスVol.50、No.2(2008)
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