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原子炉運転時に原子炉炉心で発生した熱は、1次冷却系及び2次冷却系を経て
蒸気発生器へ移送され蒸気を発生させるが、原子炉が停止した後でも炉心燃料内の
核分裂生成物の放射性崩壊により崩壊熱が発生している。
崩壊熱除去システム(崩壊熱除去系)は、原子炉停止後の崩壊熱を除去するためのきわめて重要なシステムである。
1.崩壊熱
1個のプルトニウム原子核あるいはウラン原子核が1個の
中性子を吸収して核分裂を起こすと、核分裂生成物が生成されると同時に、新たに平均2個以上の中性子が放出され、これによって連鎖的に核分裂が継続する。核分裂1回あたりで約200
MeVのエネルギーが解放されるが、その大部分は、核分裂生成物の運動のエネルギーであり、核分裂生成物が近くにある他の原子と衝突等を繰り返しつつ、それらの原子に運動エネルギーを与え、それが熱エネルギーとなる。いわゆる原子炉の発熱は主にこの熱エネルギーに依っている。一方、核分裂生成物は運動を停止した後でも、ゆっくり放射性崩壊しながら
放射線を放出し続ける。これらの緩慢に放出され続ける放射線の持つエネルギーも熱に転換されるが、これを崩壊熱と呼ぶ。
崩壊熱による発熱は、核分裂の際に得られる熱エネルギーに対して4〜5%程度であり、炉停止後も時間経過とともに緩慢に減少しながら長期間にわたって残存する。
2.安全性
崩壊熱の除去は、
軽水炉の場合、残留熱除去系等により最終的に海か大気中へ放熱されるが、高速増殖炉(FBR)の場合は、下記の特徴をふまえ崩壊熱除去系が用いられる。
FBRでは、一般に冷却材として液体ナトリウムを使用する。液体ナトリウムの沸点は大気圧で約883℃であるので、冷却材としてのナトリウムは、通常300℃〜500℃という軽水炉に比して高い温度範囲に維持して運転することが可能である。したがって、大気との間に大きい温度差がとれるため、崩壊熱除去系は、最終的に大気へ放熱することが可能である。
また、ナトリウムは熱を伝える性能に優れており、かつ炉心の出口と入口との温度差が大きいため、ナトリウムの自然循環冷却により崩壊熱を除去することができる。
このように、FBRは、冷却材ナトリウムの固有の特性により、崩壊熱の除去の観点から高い安全性を有している。
3.崩壊熱除去系の方式
崩壊熱除去系の方式には、原子炉容器内に冷却コイルを設け直接冷却する方式(DRACS)、1次冷却系を分岐して冷却する方式、1次冷却系中間熱交換器内の冷却コイルにより冷却する方式(PRACS)、2次冷却系を分岐して1次冷却系を介して冷却する方式(IRACS)など多くの方式が考えられている。冷却材の循環方式も、強制循環、自然循環および強制循環と自然循環を併用する除熱方式があり、各々のプラントに適合した崩壊熱除去系が選定されている。FBRの「常陽」と「
もんじゅ」では、比較的大きな自然循環能力を有することからIRACSを採用している。
図1に上記の内3つの方式の構成図を示す。
これらのうち、動的機器に依存しない除熱方式として、自然循環によるDRACSが注目され研究開発が進められている。この方式が採用できれば、2次系以降を非安全系として設計し、コスト低減を図ることができる(
図2参照)。この他の方式として、原子炉容器外壁を大気の自然対流で冷却するRVACSがあり、受動的安全炉
PRISMで採用されている。
4.崩壊熱除去系の設計方針
崩壊熱除去系は安全上重要な設備であり、極めて高い信頼性が要求される。IRACSの場合、系統を構成する1次冷却系、2次冷却系の一部及び補助冷却設備に対して設計上の配慮をまとめると次のとおりである。
(1)崩壊熱除去系は2系統を設け、1つの系統が崩壊熱除去運転中に万一故障しても、残りの1系統のみの運転で燃料の損傷を防止できる除熱容量を有している。
(2)崩壊熱除去系を構成している1次、2次主冷却系循環ポンプのポニーモータおよび補助冷却系の動的機器は、各ループ毎に独立した非常用所内電源系に接続し、系統の
安全機能が達成できる設計となっている。
(3)炉心と中間熱交換器、中間熱交換器と補助冷却系空気冷却器を炉心より順に高く位置するように配置し、さらに補助冷却系空気冷却器出口ダクトを適切に長くし、自然通風により冷却用空気が十分流れるようになっている。これによって、仮に電源系統等の故障で循環ポンプが停止しても自然循環による炉心の除熱が可能なシステムとなっている。
(4)崩壊熱除去系は耐震クラスSとして耐震設計が行われ、基準地震動Ssに対しても耐えることができる。
5.高速増殖原型炉「もんじゅ」の崩壊熱除去系
「もんじゅ」の崩壊熱除去系は、1次冷却系及び2次冷却系の一部並びに補助冷却系(補助冷却設備) からなり、ループ毎に独立な3系統で構成されている(
図3参照)。
補助冷却設備は空気冷却器、流量計、配管および弁などから成り、2次冷却系の途中から分岐する方式であり各ループにそれぞれ1系統ずつ設置される。補助冷却設備空気冷却器は補助冷却設備1系統につき1基設けられ、多数のフィン(放熱板)付伝熱管を配列した空気冷却器と空気を送り込む送風設備から構成されている(
図4参照)。
燃料交換や保守点検のために原子炉を計画的に停止状態に移行する場合、1次、2次主冷却系循環ポンプの出力が徐々に下げられ、所定の回転数に達すると、ポンプを駆動するモータが主モータから小型のポニーモータに切換えられ、一定回転数の低速運転に移行する。一方、2次冷却系の流路は蒸気発生器入口止め弁を閉じ空気冷却器出力口止め弁を開けることにより、蒸気発生器側への流れは止まり、補助冷却設備を通る流路に切換えられる。この操作により崩壊熱は1次冷却材から1次冷却系中間熱交換器を介して2次冷却材へ伝えられ、補助冷却設備空気冷却器により大気に放熱される。
原子炉の緊急停止時には、1次、2次主冷却系循環ポンプの主モータの電源が切られ、ポンプは惰性により徐々に回転数を下げながら回転し続け、所定の回転数になれば、主モータからポニーモータへ切換えられ、さらに2次冷却系の流路も、補助冷却設備を通る流路に切換えられる。補助冷却設備側流路に切換わると直ちに空気冷却器用送風機が起動するとともに、空気冷却器入口ダンパが開かれる。その後、空気冷却器用送風機の風量を調節することにより、空気冷却器出口ナトリウム温度の制御を開始する。以上の運転によって、3系統の崩壊熱除去系のうち、1系統だけでも安全に除熱できるだけの十分な能力を持っている。
このように、原子炉の運転を停止した後でも崩壊熱が残るため、長期間にわたってこの熱を除去し続ける必要がある。この崩壊熱除去にあたり、FBRでは、冷却材ナトリウムの大きい熱慣性効果、原子炉出入口温度差および冷却材ナトリウムの良好な熱伝達特性に起因する自然循環による除熱能力、そして、最終的には大気への直接の放熱により除熱可能な特性など固有の優れた特徴を活用することにより、きわめて高い信頼性を持った崩壊熱除去系を設計することが可能である。
<図/表>
<関連タイトル>
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
高速増殖炉の安全設計の考え方 (03-01-03-01)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)
崩壊熱除去に関する研究 (06-01-02-05)
<参考文献>
(1) 科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2) 中西征二:高速増殖炉工学基礎講座システム(その1) 原子力工業、 Vol.36、No.10 (1990)
(3) 動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所原子力設置許可申請書(昭和55年12月)
(4)日本原子力研究開発機構ホームページ:次世代原子力システム研究開発部門/FaCTプロジェクトとは、
http://www.jaea.go.jp/04/fbr/top.html