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<概要>
 高速炉 (Fast Reactor) は高速中性子炉の略語であり、核分裂連鎖反応が高速中性子によって維持される原子炉のことである。熱中性子炉の対義語である。高速増殖炉 (Fast Breeder Reactor、以下FBR) は増殖性能を有する、すなわち原子炉の運転において核分裂性核種の消滅量より生成量が多い高速炉をいう。FBRは発電しながら消費した以上の核分裂性物質を生成できることから増殖炉と言われ、ウラン資源の利用率を飛躍的に高めることができる。当面主に研究開発されている高速炉は、プルトニウム (Pu) とウラン (U) の混合酸化物 (Mixed oxide : MOX) 燃料を使用し、液体金属ナトリウム (Na) を冷却材とする種類のものである。我が国はFBR開発をナショナル・プロジェクトとして進めており、その原型炉である「もんじゅ」は増殖比約1.2を目標としている。エネルギー生産手段としてのFBRは、現行の軽水炉に比べて炉心単位体積あたりのエネルギー量の大きさ、濃縮不要、超ウラン元素 (Transuranium elements:TRU) 燃焼性能など技術体系としての優位性を有し、核分裂炉の完成型と位置付けられる。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 FBRの増殖比は、PuとUのMOX燃料の場合次式で定義される。

\begin{align} 増殖比&=\frac{(核分裂性核種の生成数)}{(核分裂性核種の消滅数)}\\ &=\frac{({}^{239}{Pu}の生成数)+({}^{241}{Pu}の生成数)}{({}^{239}{Pu}の消滅数)+({}^{241}{Pu}の消滅数)+({}^{235}{U}の消滅数)} \end{align}

熱中性子炉の場合本項の値は1.0以下であり、転換比と言われる。高速炉ではこの値を1.0以上にすることができるので、増殖比と呼んでいる。増殖比は原子炉における種々の核反応により消滅する核分裂性核種1個当りの生成数であり、炉心(ブランケットも含めて)が決まれば一意的に決まる値である。消滅および生成の主たる担い手は、核分裂性核種の核分裂反応および親物質核種の中性子捕獲反応である。それ以外に、α崩壊、β崩壊、中性子捕獲などによる核分裂性核種の消滅および他の重元素核種からの生成も少しある。それらの中で特に有意な大きさになるのは半減期14.4年の241Puのβ崩壊である。増殖比は時間的には、任意の時期の任意の期間に対して定義できる。運転サイクル期間全体に対して、或いはサイクル初期の単位時間などに対してそれぞれ定義でき、同じ原子炉でも時期と期間により値が僅かに異なる。ここで注意すべきは増殖比とは、核分裂性物質量の運転サイクル終了時と開始時の比ではないことである。上式の生成数および消滅数は、その期間中の生成および消滅の総計、つまり延数であり、核反応による核分裂性核種数の変化分同士の比である。FBR炉心は一般に劣化Uのブランケットで覆われている。これは、炉心からの中性子漏洩を抑制して臨界性を高め、また漏洩中性子により238Uを239Puへ転換させるためである。上式の分子分母は、炉心(ブランケットも含めて)各領域で体積積分された値の総和から算出される。FBRと軽水炉の比較を表1に示す。主な相違点は、中性子(高速・熱)、燃料(Pu・U)、冷却材(Na・水)および転換比にある。
 重元素核種は熱中性子によって核分裂反応を起すものと起さないものの区別が明瞭であり、それぞれを核分裂性核種、親物質核種と呼んで分類した。ところが親物質核種も高速中性子によっては有意な割合で核分裂反応(高速核分裂)を起し、親物質核種と核分裂核種の間に大差はない。核分裂断面積がしきい値以上の中性子エネルギーで大きく立ち上がり、核分裂性核種に匹敵する大きさになるからである。そのためPu・UのMOX燃料の高速炉の場合、核分裂反応を起すのは核分裂性核種 (235U、239Pu、241Pu) だけではなく、親物質核種 (238U、240Pu、242Pu) も少ないながら核分裂を起している。増殖比は熱中性子炉の転換比との比較において有用な指標であるが、高速炉では親物質核種も核分裂反応を起していることに注意する必要がある。
 増殖比の内、炉心部分の寄与分、つまり上式の分子においてブランケット部分を除いた炉心部分だけの体積積分から求められた値を内部転換比と呼んでいる。これは炉心の核分裂性物質の再生率であり、その値が高いということは燃焼に対する核分裂性物質量の持続性、自給性を意味する。高い内部転換比は燃焼に対する運転継続のための耐性となり、長期・高出力の連続運転を可能にする。高速炉は高い内部転換比を実現することができるので、動力炉としての優れた潜在力を持っている。高速炉はこの高い内部転換比とブランケット寄与分を合わせて、1.0以上の増殖比を実現することができる。他の炉型は、過去に実現できなかった。将来のFBR炉心の理想は内部転換比が1.0に近く、その結果燃焼反応度がごく小さく、したがって反応度補償用制御棒が事実上不要であり、燃料体自体及び炉心材料の許容限界まで運転継続できるものを開発することである。
 わが国は1967年(昭和42年)以来、日本原子力研究開発機構(旧動力炉・核燃料開発事業団)を中心にFBRの研究および開発を実施してきた。高速実験炉「常陽」は1977年4月に初臨界に達し、以来稼動を続けている。「もんじゅ」は熱出力71万4000kW、電気出力28万kWのFBR発電プラントの原型炉である。1985年10月に着工され、1994年4月に初臨界に達し、1995年8月に初送電した。しかし同年12月に2次主冷却系でNa漏洩が発生したため、以来原子炉を停止している。
 ループ型炉のFBR発電プラントの仕組みを図1に示す。主要機器である原子炉容器、中間熱交換機、蒸気発生器、タービンが順次ループで繋がっており、それぞれのループを順に1次冷却系、2次冷却系、水・蒸気系と呼んでいる。原子炉容器内の炉心部で発生した熱は各ループで運ばれて高温・高圧の蒸気を造り、それがタービンを回し、発電機で電気を造る。熱を運ぶ一連の機器・配管の系統は、熱輸送系と呼ばれる。
 炉心部内に滞在するU核種の一部は中性子を吸収し、種々のTRU核種を生成する。その中には長半減期のマイナー・アクチナイド(Minor actinide:MA)も含まれる。TRU核種の中の親物質核種は熱中性子の衝突ではほとんど核分裂しないが、高速中性子の衝突ではある程度核分裂する。そのため使用済み燃料からTRUを分離し、それを混入したFBR燃料を製作することにより、TRU核種を燃焼させる、すなわち消滅処理できる可能性がある。FBRにはTRU燃焼性能があると言える。
 エネルギー生産手段としてのFBRの位置付けを考えると、次のように整理される。
(1)現行の軽水炉に比べて炉心単位体積あたりのエネルギー量の大きさ、濃縮不要、TRU燃焼性能などエネルギー生産技術体系としての優位性を有しており、核分裂炉の完成型である。
(2)予知可能な範囲の将来において、新資源・再生資源の候補の中で機軸エネルギーとして量的に、かつ、技術的、環境的に成立の見通しが得られているものである。人類規模の資源節約、地球環境保全の観点から、将来のエネルギー問題に対する有力な解決策になり得る。
(3)現行の軽水炉の運転はPuを発生させ、それを使用済燃料中に蓄積させる。FBRはそのPuを最も効率的に燃焼させることができるので、その意味で軽水炉を補完する。そのため軽水炉の推進は、核燃料サイクルの観点からFBRの招来を促すことになる。
<図/表>
表1 原子炉の比較
表1  原子炉の比較
図1 高速増殖炉(FBR)のしくみ
図1  高速増殖炉(FBR)のしくみ

<関連タイトル>
高速増殖炉の必要性 (03-01-01-02)
高速増殖炉の型式 (03-01-01-03)
核燃料増殖のしくみ (03-01-01-04)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)

<参考文献>
(1)日本原子力文化振興財団:「原子力」図面集(2005)
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