<本文>
天然ウランは2種類の
同位体からなり、約 0.7%がウラン235、残りの約99.3%がウラン238である。ごく少量しか含まれていないウラン235はどんなエネルギーの中性子でも核分裂反応をおこす核分裂性物質である。一方、ウラン238は約1MeV (百万電子ボルト)以上の中性子で核分裂反応を起こすだけである。しかし、どのようなエネルギーの中性子も容易に捕獲してウラン239になる。このウラン239は、
ベータ線 ベータ線
(ウラン239)−−−>(ネプツニウム239)−−−>(プルトニウム239)
23.5分(*) 2.35日(*)
(*)時間は半減期
のように2回のベータ崩壊によりネプツニウム239を経てプルトニウム239に変わる。プルトニウム239は人工の元素で、ウラン235と同じく核分裂反応をおこす性質を持っているので、原子炉の燃料として使用できる。このようにウラン238は、核分裂をおこしにくいが、中性子を捕獲して核分裂性物質を作る性質を潜在的にもっているから、親物質(潜在的核分裂性物質)とよばれている。
原子炉の燃料は、ウラン235やプルトニウム239のような核分裂性物質、ウラン238のような親物質が混ざっているから、原子炉を運転すると、核分裂性物質を消費するが、同時に親物質から新たな核分裂性物質を生産する。もし新しく生産された核分裂性物質の量が、消費した量より大きいときは、エネルギーを得るために消費した量以上のエネルギー資源を生産し、増やしたことになる。このことを”増殖”という。そして増殖する大きさを増殖比(増殖率)とよんでいる。
増殖比=(親物質から生産された核分裂性物質の量)/(消費した核分裂性物質の量)>1
なお、増殖比が1より小さい場合には、増殖比といわず
転換比とよばれている。
核分裂性物質の生産量は、核分裂をおこす物質と核分裂反応をひきおこす中性子のエネルギーによって左右される。増殖比の大きさを決める重要な物理量は、核分裂性物質が1個の中性子を吸収した時、放出される中性子の平均的な数(η)である。
核種が中性子を吸収する反応には、核分裂(n,f)と捕獲(n,γ)の2種類がある。核分裂反応では結果として2〜3個の中性子が放出され、捕獲反応では中性子は放出されない。ηはこれら両反応の発生確率も含めて平均した、吸収された中性子1個当りの放出中性子数である。
核分裂性核種の中性子エネルギーに対するηを
図1に示す。
原子炉のなかでは、核分裂により放出される中性子のうちの1個は
連鎖反応を持続するのに使われるから、増殖を実現するには、核分裂で放出される中性子の数ηが2個以上でなければならぬ。実際の原子炉では炉心から漏れて外へ出る中性子や燃料以外の構成物で吸収される中性子があるから、ηの値からこのようなロスを差引いても、2個以上の中性子が残っていること、すなわちηの値が2よりできるだけ大きいほど増殖の可能性が高い。
図1から判断すると、ηが2を大きく超える中性子のエネルギーはウラン235では1MeV 以上、プルトニウム239では100keV以上の高速中性子領域である。中性子のエネルギーが高くなるほどηも大きくなるが、ウラン235に比べてプルトニウム239はより大きな余裕をもっていて、増殖するのに有利である。したがって、プルトニウム239を高速中性子で核分裂反応をおこさせる原子炉が増殖に最も適している(高速増殖炉)。
現在原子力発電の主流になっているウランを燃料とする
軽水炉は、
減速材(軽水)でエネルギーを低くした中性子(
熱中性子)で核分裂連鎖反応をおこさせるしくみであるため、増殖比は原理的に1を超えず、増殖は不可能である(転換比で 0.6程度である)。重水炉、黒鉛炉などの
熱中性子炉も、軽水炉と同様、転換比は1以下である。
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉 (03-01-01-01)
高速増殖炉の必要性 (03-01-01-02)
高速増殖炉の型式 (03-01-01-03)
高速増殖炉の核燃料サイクル (03-01-02-01)
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
<参考文献>
(1)日本文化振興財団:原子力の基礎講座4新型動力炉(昭和59年)
(2)安 成弘:高速増殖炉 同文書院(昭和57年)
(3)W.マーシャル編、住田健二訳:原子炉技術の発展(下)筑摩書房(1986年)
(4)J.J.Duderstadt,L.J.Hamilton(成田正邦、藤田文行(訳)):Nuclear Reactor Analysis(原子炉の理論と解析)、John Wilery & Sons(現代工学者、1981)
(5)堀雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)