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<概要>
 高速増殖炉にはループ型とタンク型の二つの型式がある。ループ型は炉心を収めた原子炉容器、1次ナトリウム循環ポンプ、および中間熱交換器を配管で接続した構成である。一方、タンク型は炉心、1次ナトリウム循環ポンプ、および中間熱交換器を1つの大きな原子炉主容器に収めてしまうものである。両型式とも製作、運転、保守、安全性に関して利害得失があり、一長一短がある。これらのほか両型式を併せたハイブリッド型、二重タンク型や2次冷却系の削除も検討されている。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 高速増殖炉には、その中枢部である炉心を収納する原子炉容器、1次ナトリウム循環ポンプおよび中間熱交換器を配置する方法により、ループ型、タンク型と呼ばれる2つの型式がある。ループ型を図1、タンク型を図2にそれぞれの系統構成を示す。原子炉の製作、運転、保守、安全性などに関して、それぞれ特徴をもっていて、一長一短がある。現在世界的には両型式が開発されているが、これらのほか両形式を併せたハイブリッド型、二重タンク型や2次冷却系の削除も検討されている。
(1)ループ型(図1参照)
 ループ型は原子炉容器、1次ナトリウム循環ポンプおよび中間熱交換器を配管で接続する型式である。高速増殖炉の開発の初期の段階では、個々の機器が独立に開発できる利点が優先してループ型が採用された。このことは、ループ型では1次冷却系を構成する重要な機器の保守が容易であることでもある。
 ループ型の原子炉容器は炉心のみを収納しているから、後述するタンク型に比べて、容器は小型でよく、耐震性の点で有利となるし、ナトリウムの所要量も少なくてすむ。
 一方高速増殖炉の原子炉出口温度は通常 500〜550 ℃と高く、ステンレス鋼の容器や配管が熱膨張するため配管の伸びの問題点がある。現状のループ型炉では配管を引き廻すことで熱膨張を吸収しているが、配管の全長が長大になり、原子炉を格納する原子炉建家が大きくなって経済性が損なわれる。このため現在ベローズ継手を用いるなどして配管を短縮する開発が進められている。
 わが国の高速実験炉「常陽」や原型炉もんじゅ」、アメリカの高速実験炉FFTF、ドイツの原型炉SNR−300などはループ型である。
(2)タンク型(図2参照)
 タンク型は原子炉主容器(ループ型の原子炉容器に対応)のなかに、炉心と一緒に1次ナトリウム循環ポンプと中間熱交換器を収納し、1次ナトリウム冷却系配管を削除した構成である。1次冷却系全体が1つの容器に収められていて、コンパクトになる。また原子炉建家が小さくできるので、配管を削除したことも含めて経済性がよくなる。
 タンク型の原子炉主容器のなかには、炉心、1次ナトリウム循環ポンプ、中間熱交換器があるので、炉心からの中性子によって中間熱交換器の2次側の冷却材のナトリウムが放射化されるのを避けるため、中間熱交換器回りを遮蔽する必要性がある。多くの大型の機器や構造物を収納する原子炉主容器は、直径が大きくなり、重量も重い。これは耐震上は不利になるため、免震構造をはじめいろいろの地震対策の検討が行われている。
 タンク型高速増殖炉の代表的なものは、フランスが建設した原型炉フェニックスと実証炉スパーフェニックスである。アメリカの実験炉EBR−II、英国の原型炉PFR、旧ソ連の原型炉BN600もタンク型である。
(3)その他の型式
 高速増殖炉の安全性を高め、経済性の向上を図るために、いくつかの炉型式が提案され、その技術的な可能性、経済性向上の効果などの検討が行われている。その1つにループ型とタンク型のそれぞれの長所を取り入れ、これらを併合したハイブリッド型がある。図3にこの炉型の系統構成を示してある。ハイブリッド型は、ループ型の原子炉容器のほかにサテライトプールを設け、この容器のなかに1次ナトリウム循環ポンプと中間熱交換器を収納したものである。この型式は、1次系ナトリウム配管の長さの短縮、機器構造物に対する熱的荷重や地震荷重の軽減、物量の削減などを図ることができる。
 トップエントリー方式は、原子炉容器、中間熱交換器(IHX)および1次主循環ポンプ容器を逆U字管で連結する方式である。配管を各容器の上方から挿入することにより、各容器を短い距離で連結し、また1次主冷却系配管を大幅に短縮することができる。ループ型では長い配管引き回しにより曲り管部分の変形でステンレス鋼配管の熱膨張を吸収するのに対して、トップエントリー型では逆U字管の鉛直部の変形で熱膨張を吸収する。原電が実施した高速増殖実証炉概念設計研究では、炉型をトップエントリー方式ループ型炉とした設計が行われた。その鳥瞰図を図4に示す。
 図5の二重タンク型は、1次系ナトリウム配管を削除したタンク型の概念をさらに進め、2次系ナトリウム配管を削除して2次ナトリウム循環ポンプと蒸気発生器をタンク型の原子炉主容器(1次容器)の外側に設けた2次容器に収めたものである。1次容器と2次容器を設けた二重タンク型は、タンク型よりも一層コンパクトになり、物量が大幅に削除され、経済性の向上が期待できる。
 2次ナトリウム冷却系を削除する研究開発も進められている。これは二重伝熱管型蒸気発生器を用いるもので、伝熱管を二重管にして、伝熱管の損傷により発生するナトリウム−水反応が起らぬようにする。この結果中間熱交換器を含めて2次冷却系が不用となり、炉心を冷却したナトリウムを直接蒸気発生器に導くことができ、経済性は大幅に向上する。
<図/表>
図1 ループ型炉の系統構成
図1  ループ型炉の系統構成
図2 タンク型炉の系統構成
図2  タンク型炉の系統構成
図3 ハイブリッド型炉の系統構成
図3  ハイブリッド型炉の系統構成
図4 トップエントリー方式ループ型炉の鳥瞰図
図4  トップエントリー方式ループ型炉の鳥瞰図
図5 二重タンク型炉の系統構成
図5  二重タンク型炉の系統構成

<関連タイトル>
高速増殖炉 (03-01-01-01)
高速増殖炉の必要性 (03-01-01-02)
核燃料増殖のしくみ (03-01-01-04)
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)

<参考文献>
(1)安成弘:高速増殖炉、昭和57年、同文書院
(2)W.マーシャル:原子炉技術の発展、1983年
(3)魚谷 正樹他:原子力工業、Vol.36、No.7、P.57、(1990)
(4)堀雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(5)日本原子力学会(編):高速増殖炉技術の現状と将来の展望、1987年12月
(6)三浦正憲他:トップエントリー型FBR実証炉の概要、原子力誌、Vol.35、No.4、268(1993)
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