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<概要>
 熱中性子炉である軽水炉では、投入された天然ウラン(U)燃料の中で最終的に核分裂するものの割合(U利用率或いはU利用効率)は、ワンススルーの核燃料サイクル使用済燃料は再利用せず、廃棄物として処分する)の場合約、0.5%、1回リサイクルの場合、約0.75%である。一方、高速増殖炉 (Fast Breeder Reactor、FBR) では、U利用率は最終的に60% 程度になる。すなわちエネルギー生産手段としてのFBRは、一定量のU資源から引き出せるエネルギー量を現行の軽水炉に比べて飛躍的に高めることができる。限られた量のU資源を有効利用するためには、核分裂炉の完成型と言われるFBRの開発が必要な所以である。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
 転換比或いは増殖比によるU利用率の変化を図1に示す。現在の軽水炉は転換比が0.55〜0.60程度であり、ワンススルーの場合U利用率は0.5%程度である。原子炉再処理を組み合わせたシステムの天然U利用率を表1に示す。軽水炉でも1回リサイクルのプルサーマルの場合、U利用率は0.75%程度になる。ところがFBRは増殖比が1.0以上であるため、U利用率を60% 程度まで飛躍的に高めることができることを図1表1は示している。軽水炉に比べて約2桁高くなり、FBRが一定量のU資源からそれだけ多くのエネルギーを引き出せることを意味している。したがってFBRは再処理とともに、高いU利用率を実現するための必須の技術であることがわかる。
U利用率は、原子炉の種類と核燃料サイクルの種類の組み合わせで決定される。図1のU利用率は増殖比約1.05以上で飽和しており、増殖比の向上だけによるU利用率の向上には限界があることを示している。また同時に、U利用率だけの観点からみれば増殖比を必ずしも1.05以上に上げる必要がないことを示している。
 FBRと再処理を組み合わせたシステムにおいて、FBRのU利用率が軽水炉に比べて飛躍的に向上する過程を確認する。U元素には2種類の安定した同位体があり、235Uは核分裂し易い核分裂性核種238Uは核分裂しにくい親物質核種である。天然Uの同位体存在度 (Isotopic abundance) は235U が0.72%とごく少なく、残りの約99.27%は238Uである。U燃料の原子炉において235Uと238Uから核変換により生成された種々の重元素核種も一部核分裂反応を起す。ウラン利用率はこれらも含めて最終的に核分裂したものの総和の、用いたU資源量に対する割合である。
 まず軽水炉では、3〜4%の微濃縮U燃料を用いている。熱中性子炉である軽水炉の運転で主に核分裂(燃焼と言われる)している核種は、235Uである。238Uも一部核分裂反応を起す(高速核分裂)が、235Uに比べてごく少ない。また238Uの中性子捕獲により生成されたPuも一部核分裂するが、全体的には235Uの燃焼が支配的である。そして運転に伴う燃焼反応度は全体として負であるが、制御棒の引き抜きにより正の反応度が常時補填され、その結果臨界状態が保たれ、運転が継続される。つまり転換比が0.55〜0.60程度である軽水炉の運転とは概略的に、核分裂性核種235Uを消耗しながら制御棒の引き抜きにより臨界状態を保っている過程である。用意した235Uがある程度消耗して炉心の持つ反応度が減少し、用意された反応度余裕に達した時点で運転は停止することになる。そこで長期、高出力の運転のためには新燃料の濃縮度を上げるなどして運転開始時点の235U量を増やしておく方策が考えられるが、そのためには運転サイクル初期の炉心が臨界超過にならないようにそれに見合う大きい制御棒反応度を用意しなければならないため、限界がある。すなわち原子炉は運転サイクルの全期間を通じて臨界状態が維持されなければならないため、許容される235U量或いは濃縮度には限界がある。その結果、軽水炉の出力と運転サイクル期間にも限界があり、その際のU利用率が0.5%になるということである。
 一方FBRでは、核分裂反応の際に放出される中性子により238Uの一部が次々と核分裂性核種の239Puや241Puに転換される。しかも増殖性能により消滅した核分裂性物質量以上の量が生成されるため、運転に伴う反応度が減少し、したがって運転を長期間継続することができる。すなわち軽水炉の運転が235Uの消耗型であったのに対して、FBRの運転は核分裂性核種の再生循環型、持続型であり、高出力の運転を長期間継続することができる。さらに使用済み燃料を再処理して未燃焼のUやPuを回収し、それを用いて新燃料を製作して再び原子炉に装荷し、燃焼させることができる。またFBR炉心は一般に劣化Uのブランケットで取り囲まれている。大型FBRの炉心配置の例を図2に示す。これは、炉心からの中性子漏洩を抑制して臨界性を高め、また漏洩中性子により238Uを239Puへ転換させて増殖させるためである。使用済みのブランケット燃料も再処理され、未燃焼のUやPUが回収されて新燃料の製作に投入される。このような核燃料サイクルの結果、U利用率は最終的に60%程度になり、一定量のU資源から引き出せるエネルギー量を現行の軽水炉に比べて飛躍的に高めることができる。エネルギー生産手段としてのFBRが核分裂炉の完成型と言われる所以である。資源小国の日本においてエネルギーの安定供給を長期的に確保するためには、限られた量のU資源を有効利用できるFBRの開発が必要である。ウランの利用効率が高まった分、探掘費等の高いウランまで利用可能になり、利用可能なウラン資源が増加する。
<図/表>
表1 再処理の必要性
表1  再処理の必要性
図1 転換比、増殖比によるウランの利用率の変化
図1  転換比、増殖比によるウランの利用率の変化
図2 大型FBRの炉心配置の例
図2  大型FBRの炉心配置の例

<関連タイトル>
高速増殖炉 (03-01-01-01)
高速増殖炉の型式 (03-01-01-03)
核燃料増殖のしくみ (03-01-01-04)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)

<参考文献>
(1)日本原子力文化振興財団:「原子力図面集 (2005)
(2)IAEA:”Status of Liquid Metal Cooled Fast Breeder Reactors”,Vienna,3(1985).
(3)浅田忠一、他(監修):「原子力ハンドブック」、オーム社、409(1989).
(4) 三浦正憲、他:「トップエントリー型FBR実証炉の概要」、原子力誌、35[4]、268(1993).
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