<本文>
原子炉冷却材喪失事故(
LOCA)等の事故が発生した際、原子炉から放出された放射性物質の環境への放散を防ぐために二重の防壁からなる原子炉格納施設が設けられている。第一の防壁は、原子炉圧力容器、主蒸気系配管、冷却材の再循環系及び関連設備(以下、「原子炉系」という。)を格納する原子炉格納容器(一次格納施設とも呼ばれる。以下、「格納容器」という。)であり、第二の防壁は、原子炉格納容器、
使用済燃料貯蔵プール、
ECCSに関する機器等を収納する原子炉建屋(二次格納施設とも呼ばれる。)である。ここでは主に格納容器について記述する。
格納容器は上部に原子炉燃料交換等の作業のためフランジ接続構造の上蓋が取り付けられ、胴部には格納容器内配置機器等の点検保守用ハッチ等の取り付け及び蒸気・給水等の配管と動力・計装等のケーブルの貫通部を設けており、いずれも密封性を考慮した設計となっている。
1.格納容器の機能
格納容器は、LOCA等の事故時に原子炉系から放射性物質を含む高温の蒸気と水、ジルコニウム−水反応によって発生した可燃性ガス(水素ガス)等の混合物(以下、「蒸気等混合物」という。)が放出された際、圧力隔壁の役目を果たし、かつ放射性物質の環境への放散に対する防壁(閉じ込め)機能を持ち、放射性物質の環境への放出量を十分低い値に抑制して発電所周辺の一般公衆及び発電所従業員の安全を確保することを目的として設置されている。旧ソ連が開発した
RBMK炉のように元々格納容器の概念の無い炉も存在するが、日本に設置されている
PWR及びBWRには全て格納容器が設置されている。格納容器の方式には、大きく分けて、単に大型容器だけを設けるドライコンテナ方式と、流出した原子炉冷却材を格納容器内のプールに流入させて凝縮させる圧力抑制方式とがあり、BWRの場合、後者が採用されている。
LOCA等の事故が発生した際に、蒸気等混合物が格納容器のドライウェル内に放出される。放出された蒸気等混合物はベント管を通してサプレッションチェンバ(圧力抑制室)内のプール水中に導かれ、蒸気は冷却されて凝縮するので格納容器内圧の上昇を効果的に抑制することができる。また、格納容器を貫通する配管部には隔離弁を設け、放出された放射性物質を格納容器内に閉じ込める設計となっている。隔離弁のうち原子炉蒸気発生系統に接続されている配管及びドライウェル内の空間に開口している配管には、格納容器貫通部の内外に2個の隔離弁を取り付けて隔離を確実なものとしている。これらの隔離弁は原子炉水位低、ドライウェル圧力高あるいは放射能レベル高等の信号によって自動的に閉鎖し、格納容器からの放射性物質の放出を防いでいる。
格納容器は、事故時に原子炉系から放出される蒸気等混合物によって温度・圧力の上昇、放射性物質、可燃性ガスの流入等によって過酷な状態に置かれることから、これらの状態を緩和し健全性を確保するための設備を付属している(下記5.格納容器付属設備を参照)。竣工時に耐圧試験を行うとともに、竣工時及びその後も定期的に漏洩試験を行える構造となっている。漏洩率は、常温・最高使用圧力の0.9倍の空気圧力で格納容器空間部容積の0.5%/日以下(下記4.に記載のABWR型格納容器(
RCCV)の場合0.4%/日以下)となるように設計されている。また、格納容器の周りには、厚さ約2mの生体遮蔽が設置されており、
放射線の遮蔽効果とともに格納容器を外部事象から保護している。
原子炉機器は、原子力安全上の重要度に伴って、安全クラス1、2、3及びNNS(原子力安全無関係)の4つに分類されており、各クラスはさらに異常の発生防止の機能を有するもの(PS)と、異常の影響緩和の機能を有するもの(MS)に分類されている。格納容器はこの内のMS-1に分類されている。
2.発展の歴史
BWRの格納容器は、歴史的に、米国からの技術導入によるMARK-I型からMARK-II型に発展し、さらにこれらにわが国独自の改良を加えた改良型及びRCCVに移行した(
表1、
図1、
図2及び
図3参照)。
MARK-I型及びMARK-II型格納容器の最高使用圧力はそれぞれ0.427MPa(G)(4.35kg/cm
2(G))、0.310MPa(G)(3.16kg/cm
2(G))であり、いずれも鋼製である。MARK-I型格納容器は敦賀1号、福島第一1、2、3、4、5号、島根1号、浜岡1、2号及び女川1号で採用され、MARK-I改良型格納容器は浜岡3、4号、島根2号、志賀1号、女川2、3号及び東通1号で採用されている。参考までにMARK-I改良型格納容器の仕様詳細を
表2に示す。MARK-II型格納容器は東海第二、福島第一6号、福島第二1号及び柏崎刈羽1号で採用され、MARK-II改良型格納容器は福島第二2、3、4号、柏崎刈羽2、3、4、5号で採用されている。一方、RCCVは最高使用圧力0.310MPa(G)(3.16kg/cm
2(G))、鉄筋コンクリート製でABWRの柏崎刈羽6、7号、浜岡5号、志賀2号、島根3号(建設中)及び大間(建設中)で採用されている。
3.MARK-I型及びMARK-II型格納容器
MARK-I型格納容器は、原子炉圧力容器及び再循環回路を取り囲むフラスコ型の鋼製のドライウェルと
圧力抑制系(ウェットウェル)から構成される。ウェットウェルは円環型の圧力抑制室とこれに連結するベント管、ベントヘッダ及び
ダウンカマから構成される。これに対して、MARK-II型格納容器は、ダイアフラムフロアから上部のドライウェルと下部のウェットウェルから構成される。ドライウェルには、原子炉圧力容器、主蒸気系配管、再循環系の配管とポンプ等が収められている。ダイアフラムフロアには、ドライウェルから多数のベント管が貫通しており、これがウェットウェルに延びている。両タイプ共、ウェットウェルには水が張られており、ベント管の先端がこの水面下に没している。主蒸気系配管に取り付けられている
逃し安全弁から延びている排気管もウェットウェルまで導かれている。
MARK-I改良型格納容器(
図4)は、従来のMARK-I型に比べて、その容積が約1.6倍となっており、定期検査時の作業性が改善されている。また、MARK-II改良型格納容器(
図5)は、改良標準化の成果を採り入れたものであり、従来のMARK-II型に比べて、その容積が約1.5倍となっている。
4.ABWR型格納容器(鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV))
ABWR型格納容器(
図6)は鋼製ライナを内張りした鉄筋コンクリート構造であり、圧力容器等を取り囲む円筒型ドライウェル、円筒型圧力抑制室及び基礎盤等で構成され原子炉建屋と一体化している。内部には、ドライウェルと圧力抑制室を仕切る鉄筋コンクリート造ダイヤフラムフロア及び鋼製原子炉圧力容器基礎があり、ドライウェルと圧力抑制室を連結する水平ベント方式鋼製ベント管が原子炉圧力容器基礎に内蔵されている。さらに、格納容器には、真空破壊装置、格納容器貫通部及び隔離弁を設けている。
鋼製ライナを内張りした鉄筋コンクリート構造は、耐圧機能と漏洩防止機能を持ち、以下の特徴を有している。
(1)鋼製格納容器に比べ、形状選択の自由度が高く、合理的な機器配置ができる。
(2)機器・配管の支持が直接行えることから、格納容器内のスペースを有効に活用できる。
(3)原子炉施設の安全性を確認するための安全解析では、格納容器内圧力が最大となる給水配管破断を想定し評価を行い、格納容器内の圧力、温度が最高使用圧力、最高使用温度を超えないことを確認している。
ABWRは原子炉圧力容器に冷却材循環系が内臓((
インターナルポンプ)され、RCCV内には冷却材循環系に関する配管が不要となった。これによって原子炉圧力容器の位置を原子炉建屋に対して下げることが可能となり低重心化が図られた。さらに、RCCVと原子炉建屋が一体化され、これらによって耐震強度の一層の向上、建設工期の短縮が図られている。
5.格納容器付属設備
格納容器は、LOCA等の事故発生時に温度・圧力の上昇、可燃性ガスの流入等過酷な状態に置かれる。そのため、これらの状態を緩和し健全な機能を確保するための設備を付属しており、その主なものを以下に示す。
なお、平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた原子炉等規正法の改正が平成24年6月に行われ、シビアアクシデント対策の強化が図られた。格納容器の破損を防止し閉じ込め機能を確実なものとするための対策として、新たに設置が求められた設備を(*)付きで示している。
また、格納容器には流入した可燃性ガスによる燃焼(爆発)を防ぐため不活性ガスが充填されている。
5.1 格納容器スプレイ注水設備
蒸気等混合物の流入による格納容器の破損を防止するために冷却水をスプレイし、格納容器内雰囲気の冷却と減圧を行うとともに
放射性ヨウ素等の放射性物質濃度を低下、除去するための設備である(
設計基準事故対処設備、
図7参照)。完全に独立した2系統からなり、1系統で原子炉冷却系配管破断による冷却材流出のエネルギーや
崩壊熱等を除去し、格納容器の圧力及び温度が設計圧力及び設計温度を超えるのを防ぐことができる。また、本系統により格納容器内雰囲気に浮遊する放射性ヨウ素を除去する効果も有する。本系統は、
残留熱除去系の一つのモードであり、LOCA時には、残留熱除去系は低圧注水系として自動起動し、炉心冠水後、運転員の遠隔手動操作により、電動弁を切り換えることによって格納容器スプレイ冷却系としての機能を有する設計としている。本系統は、圧力抑制室内のプールを水源とし、
熱交換器で冷却した後、ドライウェル及び圧力抑制室にスプレイ散水し、散水された水はベント管を介して圧力抑制室内のプールに戻る設計としている。
さらに、上記設計基準事故対処設備の機能喪失に備え、格納容器スプレイ代替注水設備を設けている(*)。この設備は駆動源等の多様化、各設備の位置的分散を図り、可搬式格納容器スプレイ代替注水設備及び恒設格納容器スプレイ代替注水設備からなる。
5.2 可燃性ガス濃度制御設備
一次冷却系統の損壊又は故障によって生じた水素及び酸素が格納容器内での燃焼(爆発)を防止するための設備である(
図8参照)。独立した2系統からなり、1系統で100%の処理容量をもつ。各系統はブロア、加熱器、熱反応再結合器、冷却器、配管・弁類及び計測制御装置で構成される。事故後中央制御室から手動操作により起動し、ドライウェルのガスをブロアによって吸気し、再結合器で冷却凝縮した後、圧力抑制室に戻す設計としている。
5.3 フィルタ・ベント設備(格納容器圧力逃がし装置)(*)
格納容器内圧力の異常上昇に対して、格納容器の保護のため格納容器内の気体をベントしフィルタを通して環境中に放出するための設備である。従来、格納容器内の圧力を下げるベント系は格納容器内の放射性物質を含む気体を直接環境中に放出する設計であったが、新たに薬液や金属フィルタ等を内蔵したフィルタをベントラインに取り付け放射性物質を除去、低減しつつ環境中に排気する設計としている。この系には可燃性ガスによる爆発への防止対策、放射能濃度の計測等を付属する。このフィルタを通すことで放射性ヨウ素や放射性セシウム等を1000分の1から10000分の1以下に減らす事が期待できるとされている。
5.4 格納容器下部注水設備(*)
溶融炉心の落下による格納容器の破損を防止するための設備である。恒設格納容器下部注水設備と可搬式格納容器下部注水設備(ポンプ車、ホース等)からなり、多重性又は多様性及び独立性を有し、位置的分散を図っている。
5.5 その他
・消火水系の水源を利用した代替注水、残留熱除去系が故障した場合のドライウェルクーラ又は
原子炉冷却材浄化系による代替除熱設備を設ける。
・水素ガスを格納容器外に排出する場合、ラインに防爆設備、放射性物質の低減設備、水素及び放射性物質濃度測定装置を設ける(*)。
6.原子炉建屋付属設備
格納容器、使用済燃料貯蔵プール、ECCSに関する機器等を収納する原子炉建屋には事故時の影響緩和のために以下のような設備を付属する。上記5.の記載と同様、福島第一原子力発電所事故の教訓から新たに設置が求められた設備は、(*)付きで示している。
6.1 原子炉建屋内ガス処理設備
事故時に原子炉建屋内雰囲気中に漏出した放射性物質をフィルタで除去し再び原子炉建屋内に戻す非常用再循環ガス処理設備、並びにフィルタ等で再び処理し排気塔より高所放出する非常用ガス処理設備(SGTS)からなる。湿分除去装置、高性能粒子フィルタ、ヨウ素用チャコールフィルタ、排気ファン等で構成され、動的機器は2系統からなる。本系統は、LOCAをはじめとする事故信号により自動的に起動し、原子炉建屋を負圧に保ちつつ、原子炉建屋内空気の100%を1日で処理する能力を持っている。
6.2 水素濃度制御設備又は水素排出設備(*)
原子炉建屋に漏出した水素ガスによる爆発を防ぐための設備である。水素排出設備は防爆機能・放射性物質低減機能付きとする。
6.3 原子炉建屋への放水設備(*)
事故によって格納容器が破損した際、放射性物質が大気中に流れ込むことを防ぐための設備である。
(前回更新:2011年11月)
<図/表>
<関連タイトル>
沸騰水型原子炉(BWR) (02-01-01-01)
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
BWRの工学的安全施設 (02-03-04-01)
PWRの原子炉格納容器 (02-04-04-02)
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)
<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):改訂12版 原子力安全委員会指針集、大成出版社(2008年3月)
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)、1992年10月
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、平成20年9月
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(5)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(監修):軽水炉改良標準化計画総合資料集、アイ・エス・ユー(ISU)株式会社(1985年1月)
(6)都甲泰正ほか(編著):軽水型原子力発電所想定事故時安全対策資料集、アイ・エス・ユー(ISU)株式会社(1977年3月)
(7)電力中央研究所:日本の原子力発電所、(1993年)
(8)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全管理課(監修):発電用原子力技術基準、火力原子力発電技術協会(1994年10月)
(9)安成弘(監修)、原子力辞典編集委員会(編):原子力辞典、日刊工業新聞社、(1995年11月)
(10)経済産業省原子力安全・保安院:軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について(2002年10月)
(11)原子力安全委員会事務局:BWR格納容器圧力・温度評価に関する検討経緯及び検討方針について(格小委第2-1号)、平成22年10月29日、
(12)原子力規制委員会:「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(平成25年6月19日)、
(13)原子力規制委員会:実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(平成二十五年六月二十八日原子力規制委員会規則第五号)、
(14)原子力規制委員会:実用発電用原子炉に係る新規制基準について−概要−(平成25年7月)
(15)電気事業連合会:安全性向上に係る事業者の取組み(2012年3月7日)、
http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/press20120307_3.pdf
(16)原子力規制委員会:フィルタ・ベント設備の計画について、
(17)原子力文化振興財団:「フィルタ付きベント設備」は、どんなもの?