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<概要>
 PWR原子炉格納容器は、発電用軽水型原子炉軽水炉)の工学的安全施設に属する原子炉格納施設の一部であり、原子炉、一次冷却設備及び関連設備を格納する気密性の高い容器である。一次冷却材喪失事故等に起因して原子炉内の燃料破損による放射性物質の放出が生じた場合、環境への放射性物質の漏洩に対する防壁の役目(閉じ込め機能)を果たして、発電所周辺の一般公衆及び発電所従業員の安全を確保するものである。平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓から、防壁をより確実なものにするために設備等の強化が図られている。
<更新年月>
2014年01月   

<本文>
 原子炉冷却材喪失事故(LOCA)等の事故が発生した際、原子炉から放出された放射性物質の環境への漏洩を防ぐために二重の防壁からなる原子炉格納施設が設けられている。第一の防壁は、原子炉容器、蒸気発生器、一次冷却ループとその関連設備(以下、「原子炉一次系設備」という。)を収納する原子炉格納容器(以下、「格納容器」という。)であり、第二の防壁は、格納容器配管等貫通部の外側を囲むアニュラス部及び原子炉補助建屋内に設けられるECCS関連機器を収納する安全補機室である。
 格納容器には、出入口として、通常用エアロック、非常用エアロック及び機器搬入口が設けられ、さらに配管、電線、ダクト等の貫通部(以下、「配管等の貫通部」という。)が多数設けられる。
1.格納容器の機能
 格納容器は、LOCA等の事故時に原子炉一次系設備から放射性物質を含む高温の蒸気と水、ジルコニウム−水反応等によって発生した可燃性ガス(水素、酸素)等の混合物(以下、「蒸気等混合物」という。)等が放出された際、圧力隔壁の役目を果たし、かつ放射性物質の環境への漏洩に対する防壁(閉じ込め)機能を持ち、放射性物質の環境への放出量を十分低い値に抑制して発電所周辺の一般公衆及び発電所従業員の安全を確保することを目的として設置されている。旧ソ連が開発したRBMK炉のように元々格納容器の概念の無い炉も存在するが、日本に設置されているPWR及びBWRには全て格納容器が設置されている。格納容器の方式には、大きく分けて、単に大型容器だけを設けるドライコンテナ方式と、放出された蒸気等混合物を格納容器内のプールに流入させて凝縮する圧力抑制方式とがあり、PWRの場合前者が採用されている。
 LOCA等の事故が発生した際、原子炉一次系設備から蒸気等混合物が放出され、格納容器内の圧力を上昇させるが、PWRの格納容器はこれを巨大な空間により抑制する考えで設計されている。プラント出力1100MWeの代表的なPWR格納容器の設計圧力は約4.0kg/cm2(約0.39MPa)、直径は約43m、高さ約65mである。
 閉じこめ機能を確実なものとするため、格納容器及び格納容器バウンダリを構成する貫通部は以下の方針に基づいて設計されている。
・格納容器は、原子炉一次系設備を格納し、LOCA等の事故時に生じる最高内圧及び温度に耐え、常温下、最高使用圧力の0.9倍の圧力(空気)において納容器内空気重量の0.1%/日以下の漏洩率となるようにする。
・格納容器を貫通する配管で、事故時に閉鎖が要求されるものには、隔離弁または閉止フランジを設けて格納容器内部と外部との間に隔壁を構成し、事故時に格納容器からの漏洩を防止する構造とする。
・貫通配管には、原則として隔離弁を直列に2個設け、事故発生とともに急速に閉鎖する。
・配管等の貫通部は、通常点検時に漏洩率試験を行えるようにする。
 なお、配管等の貫通部が設けられる格納容器円筒下部の外側には密閉した空間(アニュラス部)を形成し、配管等の貫通部から漏洩した空気をアニュラス空気浄化設備で処理できるようにしており、二重格納設備としての機能を持たせている。
 原子炉機器は、原子力安全上の重要度に応じて、安全クラス1、2、3及びNNS(原子力安全無関係)の4つに分類されており、各クラスはさらに異常の発生防止の機能を有するもの(PS)と、異常の影響緩和の機能を有するもの(MS)に分類されている。格納容器はMS-1に分類されている。
2.発展の歴史
 PWRの格納容器は、歴史的に、鋼製の格納容器(SCV)である一重型格納容器、セミダブル型格納容器、ダブル型格納容器(アイスコンデンサ型を含む)と移行し、さらに、プレストレストコンクリート製の格納容器(PCCV)に発展した(図1参照)。一重型鋼製格納容器は、鋼製円筒の上下に半球または楕円形の蓋を付けたものである。これに対して、セミダブル型格納容器は、一重型鋼製格納容器の外側胴部に上部を開放したコンクリート製の遮蔽壁を設けたもので、美浜1、2号、高浜1、2号、伊方1、2及び玄海1、2号に採用されている。ダブル型格納容器は、セミダブル型格納容器の上部蓋の部分にもコンクリート製の遮蔽壁を設けたもので、泊1、2、3号、美浜3号、伊方3号、高浜3、4号及び川内1、2号に採用されている。アイスコンデンサ型は、ダブル型格納容器内に氷の充填層を設けたもので大飯1、2号に採用されている。PCCVは大飯3、4号、玄海3、4号、敦賀2号に採用されている。SCVの構造を図2に及びRCCVの主な仕様と構造を表1図3に示す。
 一般的に、原子炉の一次系が2、3ループのプラントではSCVが使われており、4ループのプラントでは、PCCVが使われている。4ループプラントにSCVを適用した場合には巨大な容器となり、耐震設計が困難である。これに対して、PCCVは形状を小さくできる利点がある。
3.鋼製格納容器(SCV)
 SCVは、上部半球、下部皿型鏡及び円筒胴で構成し、下部皿型鏡鋼板にはスタッドを取り付けて基礎コンクリートに埋設している。通常運転時に万一格納容器スプレイ設備が誤動作すると、格納容器内圧力が急激に降下し負圧によって格納容器を破壊する恐れがあるが、これを防止するため格納容器外の空気を逆止弁を介して導入する構造の真空破壊装置が設置されている。現在のSCVは外部遮蔽建屋を付属して設置し放射線の遮蔽壁としての機能を持たせるとともに、格納容器円筒部と外部遮蔽建屋円筒部の間にアニュラス部を設けている。
 外部遮蔽建屋は、基礎部より立ち上がっており、原子炉格納容器より数m大きい内径を持つ円筒(上部ドーム形)の鉄筋コンクリート構造である。アイスコンデンサ型格納容器は、流入した高温の蒸気等混合物を格納容器内に常時貯蔵する氷の充填層に接触させて凝縮する方式であり、格納容器の小型化と設計圧力の低減を図っている。プラント出力1100MWeの代表的なアイスコンデンサ型格納容器の設計圧力は約1kg/cm2(約0.098MPa)、直径は約37m、高さ約52mである。
4.プレストレストコンクリート格納容器(PCCV)
 PCCVは、岩盤に直接打設した原子炉周辺建屋基礎を底部とする鉄筋コンクリート部、半球型ドーム部と円筒型胴部からなるプレストレストコンクリート部及び内面に張られる厚さ数mmのライナプレートより構成される。ライナプレートは、格納容器内に放射性物質が放出された場合、これを格納容器外に漏出させないためのものである。また、経線方向の垂直テンドン(鋼線を複数本束ねたもの)及び円周方向の水平テンドン(図4参照)によって、コンクリートに最高使用圧力以上の圧縮力を与えた状態にし、事故時の圧縮変動にも十分耐えられる構造となっている。格納容器の構造上の健全性は、シェル部及び基礎部のコンクリートで確保し、ライナプレートで気密性を確保している。このライナプレートは、ライナアンカを介してコンクリート構造体に定着されており、格納容器の膨張及び収縮に追従できるようにしている。
 PCCVは、格納容器自体が遮蔽壁としての機能を有しているので、SCVに付属する外部遮蔽建屋は不要であり、格納容器本体と周辺建屋の間にアニュラス部を設けている。
5.格納容器付属設備
 格納容器はLOCA等の事故が発生した際、原子炉一次系設備から放出される蒸気等混合物の流入によって温度・圧力の上昇、可燃性ガスの流入等過酷な状態に置かれる。これらの状態を緩和し健全な機能を確保するための設備が付属しており、その主なものを以下に示す。
 なお、平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた原子炉等規制法の改正が平成24年6月に行われ、シビアアクシデント対策の強化が図られた。格納容器の破損を防止し閉じ込め機能を確実なものとするための対策として、新たに設置が求められた設備を(*)付きで示している。
5.1 格納容器スプレイ注水設備
 LOCA等に想定される蒸気等混合物の流入による格納容器の破損防止と放射性無機ヨウ素の除去のため、ヨウ素除去薬品を含むホウ酸水を格納容器内にスプレイして冷却と減圧を行うための設備である(設計基準事故対処設備図5参照)。格納容器スプレイポンプ、格納容器スプレイ冷却器、ヨウ素除去薬品タンク、配管及び関連計装等で構成され、単一故障基準を満足するように多重性を有した設計となっている。また、外部電源喪失時にも、ディーゼル発電機の作動により必要な機器に電力を供給し、所定の安全機能を果たす。格納容器スプレイ設備は、その運転性、健全性を確認するために、重要度に応じて定期的な試験検査が行える設計となっている。
 さらに、上記設計基準事故対処設備の機能喪失に備え、格納容器スプレイ代替注水設備を設けている(*)。この設備は駆動源等の多様化、各設備の位置的分散を図り可搬式格納容器スプレイ代替注水設備及び恒設格納容器スプレイ代替注水設備からなる。
5.2 可燃性ガス濃度制御設備(*)
 一次冷却系統の損壊又は故障によって生じた水素及び酸素が、格納容器内で燃焼(爆発)することを防止するための設備である。
5.3 水素濃度制御設備(*)
 LOCA時のジルコニウム−水反応によって生じた水素ガスが格納容器内で爆発することを防止するための設備である。
5.4 フィルタ・ベント設備(格納容器圧力逃がし装置)(*)
 格納容器内圧力の異常上昇に対して、格納容器の保護のため格納容器内の気体をベントしフィルタを通して環境中に放出するための設備である。薬液や金属フィルタ等を内蔵したフィルタをベントラインに取り付け放射性物質を除去、低減しつつ環境中に排気する設計となっている。この系には可燃性ガスによる爆発への防止対策、放射能濃度の計測等が付属されている。このフィルタを通すことで放射性ヨウ素や放射性セシウム等を1000分の1から10000分の1以下に減らす事が期待できるとされている。
5.5 格納容器下部注水設備(*)
 溶融炉心の落下による格納容器の破損を防止するための設備である。恒設格納容器下部注水設備と可搬式格納容器下部注水設備(ポンプ車、ホース等)からなり、多重性又は多様性及び独立性を有し、位置的分散を図る。
5.6 その他
・格納容器スプレイ系の作動に失敗し、格納容器内圧力が異常に上昇した場合、格納容器内雰囲気を自然対流によって冷却するため、常用格納容器再循環ユニットに原子炉補機冷却水を通して雰囲気ガスを冷却する機能を設ける。
・格納容器スプレイ系の作動に失敗した場合、原水タンクの水を消火ポンプによって格納容器スプレイヘッダに供給しスプレイするため、スプレイ系に消火系からの接続ラインを設ける。
・水素ガスを格納容器外に排出する場合、ラインに防爆設備、放射性物質の低減設備、水素及び放射性物質濃度測定装置を設ける(*)。
・事故によって格納容器が破損した際、放射性物質が大気中に漏洩することを防ぐため原子炉格納施設への放水設備を設ける(*)。
6.アニュラス部及び安全補機室の付属設備
 格納容器からの漏洩に対してアニュラス部及び安全補機室には事故時の影響緩和のために以下のような設備を設ける。
6.1 アニュラス空気浄化設備
 LOCA時に放出された蒸気等混合物に含まれる放射性物質が、格納容器の配管等の貫通部からアニュラス内に漏出する場合を想定し、アニュラス内を負圧に保ち放射性物質を含む気体を浄化して循環させ、一部を環境中に放出する設備である(図6参照)。独立した2系統より成り、アニュラス空気浄化ファン、アニュラス空気浄化フィルタユニット、弁、及びダクトから構成される。LOCA時には、非常用炉心冷却設備(ECCS)作動信号によりアニュラス空気浄化ファンが自動起動する。
6.2 安全補機室空気浄化設備
 LOCA時において、格納容器スプレイポンプ室、余熱除去ポンプ室等の安全補機室を負圧に保ち、安全補機室からの排気を浄化し、環境に放出される放射性物質の濃度を減少させるための設備である(図7参照)。安全補機室空気浄化ファン2台、安全補機室空気浄化フィルタユニット1基、弁、及びダクトから構成される。LOCA時には、非常用炉心冷却設備作動信号により通常用設備の補助建屋吸気・排気系が隔離され、安全補機室空気浄化ファンが自動起動する。
6.3 水素濃度制御設備又は水素排出設備(*)
 漏出した水素ガスによる爆発を防ぐための設備である。水素排出設備は防爆機能・放射性物質低減機能付きとする。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
表1 原子炉格納施設(PCCV)の主要設計仕様
表1  原子炉格納施設(PCCV)の主要設計仕様
図1 PWR原子炉格納容器の変遷
図1  PWR原子炉格納容器の変遷
図2 原子炉格納施設(SCV)構造図
図2  原子炉格納施設(SCV)構造図
図3 原子炉格納施設(PCCV)構造図
図3  原子炉格納施設(PCCV)構造図
図4 PCCVテンドンの配置
図4  PCCVテンドンの配置
図5 原子炉格納容器スプレイ設備系統図
図5  原子炉格納容器スプレイ設備系統図
図6 アニュラス空気浄化設備系統図
図6  アニュラス空気浄化設備系統図
図7 安全補機室空気浄化設備系統図
図7  安全補機室空気浄化設備系統図

<関連タイトル>
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
BWRの原子炉格納容器 (02-03-04-02)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの工学的安全施設 (02-04-04-01)
福島第一原発事故の概要 (02-07-03-01)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)

<参考文献>
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(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)、原子力安全研究協会(1992年10月)
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(7)電力中央研究所:日本の原子力発電所、電力中央研究所(1993年)
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(9)安成弘(監修)、原子力辞典編集委員会(編):原子力辞典、日刊工業新聞社(1995年11月)
(10)経済産業省原子力安全・保安院:軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について(2002年10月)
(11)原子力規制委員会:「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(平成25年6月19日)、

(12)原子力規制委員会:実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(平成二十五年六月二十八日原子力規制委員会規則第五号)、

(13)原子力規制委員会:実用発電用原子炉に係る新規制基準について−概要−(平成25年7月)
(14)電気事業連合会:安全性向上に係る事業者の取組み(2012年3月7日)、
http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/oshirase/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/press20120307_3.pdf
(15)原子力規制委員会:フィルタ・ベント設備の計画について、

(16)原子力文化振興財団:「フィルタ付きベント設備」は、どんなもの?

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