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<概要>
 沸騰水型原子炉(BWR)は米国のドレスデン発電所(BWR-1)の建設・運転によって実証された。当時の関心は安全性確保と経済性の達成にあったため、スケールメリットの追及、原子炉格納容器の小型化、燃料燃焼度の増加と健全性の確保、安全設備の多重化などによる安全性の向上、および原子力タービンの開発や系統の単純化による運転性能の向上などに開発の重点が置かれた。以後BWRは、BWR-3、BWR-4、BWR-5、BWR-6およびABWRと改良発展した。
 わが国が最初に導入した商業用BWR型発電炉は敦賀発電所1号機(35万7000kW)でBWR-2型である。ABWRの営業運転は日本が世界で初めてで、柏崎刈羽6、7号(1996年、1997年)、浜岡5号(2005年)および志賀2号(2006年)の原子力発電所が営業運転している。最近受動安全性に基づくESBWRが開発され米国内で建設申請の動きがある。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
1.BWR(沸騰水型原子炉:Boiling Water Reactor)開発の経緯
 BWRの発展(ドレスデン1〜ESBWR)を図1に、BWR技術の変遷を表1-1および表1-2に示す。炉容器内で軽水を沸騰させて直接蒸気を得る沸騰水型炉(BWR)は、発電プラント構成が単純化でき経済的にも優れたものとして、原子力発電の技術開発の当初より期待されていた。沸騰状態の核的および熱的な特性を解明すべく米国のアルゴンヌ国立研究所(ANL)において実験研究が行なわれ1956年12月には電気出力5,000kWの実験炉(EBWR)の運転に成功した。この実験炉の設計・建設に協力したGE社はカリフォルニア州のバレシトス研究所に電気出力500kWの原型炉(VBWR)を建設し1957年11月全出力運転に成功した。GE社はこれらの成果を基に、米国における初めての商用発電炉電気出力20万kWのドレスデン1号(BWR-1型)の建設を行い1960年7月には全出力運転を開始した。この炉の原子炉冷却系統は現在のとは異なり直接サイクルと間接サイクルを組み合わせた二重サイクル方式であり原子炉格納容器は乾式の球形であった。
 原子力発電では安全対策費が全建設費の10%近くを占め初装荷燃料費が大きいことなどにより、火力発電に比べてコスト高となる傾向にあった。このため経済性の達成が急務であり、GE社はスケールメリットを活かした30万kW級のBWR-2型の開発を進めた。この炉では次のような改良が取り入れられた。
 燃料棒の径を細くして出力密度を上げ炉心を小型化する。燃焼度を上げ燃料コストを下げる。蒸気ドラムを炉容器内に組込み単一サイクルとする。格納容器内に水タンクを置いた圧力抑制方式を採用し格納容器を小型化する。非常用炉心冷却設備(ECCS)を多重化する。反応度事故防止対策を強化する。原子力タービンの開発を進める。
 これらの設計改良に基づくキロワット当たりの発電原価は、資本費4.31ミル、燃料費2.29ミル、運転費0.61ミルおよび間接費0.24ミルの合計7.45ミルと試算され、火力発電にはほぼ対抗できるものとなった。こうして1963年設計のBWR-2型では外部再循環ポンプによる単一直接サイクル方式および圧力抑制式のMARK-1型格納容器が採用された。BWR-2型のオイスタークリーク発電所(65万kW)は1969年12月に営業運転開始した。以後BWRはBWR-3、BWR-4、BWR-5およびBWR-6として発展した。このように、BWRは米国GE社を中心に開発されてきており、日本国内では日本原子力発電(株)敦賀1号のBWR-2、東京電力(株)福島第一・1号のBWR-3、福島第一・2号のBWR-4、福島第一・6号のBWR-5に代表されるように、順次大型化および様々な改良改善が加えられてきた。このように国内における設計、建設、運転等に係わる国内原子炉メーカの技術が成熟し、また海外でもスウェーデンのアセアアトム社(現ABB社)等がBWR技術を発展開発させてきた。
2.ABWR(改良型BWR:Advanced BWR)の開発経緯(図2参照)
 上記のように、BWRのより一層の安全性、経済性、運転性の向上のため、更なるBWRの開発を望む機運が日本国国内各電力会社および国内外メーカに生じ、次のように研究開発が展開された。
 東京電力、GE、アセアアトム、日立、東芝ほかによるアドバンスト・エンジニアリングチーム(AET)による炉概念研究(1978年から1979年)。東京電力(株)、GE、日立、東芝によるABWR基本設計研究(1981年から1985年)。国内BWR電力会社各社(東京、東北、中部、北陸、中国、日本原電)、GE、日立、東芝によるABWR要素技術開発等関連研究(1981年から1985年)。
 このような国際的研究開発の結果、ABWRの建設・営業運転は日本が世界で初めてである。現在、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6、7号(1996年、1997年)、中部電力(株)浜岡原子力発電所5号(2005年)および北陸電力(株)志賀原子力発電所2号(2006年)が営業運転を行っている。
 ABWRでは、格納容器スペース低減、作業者被ばく低減をねらって、炉容器に内蔵したインターナルポンプ、出力分布の調節がきめ細かくできる改良型制御棒駆動機構(FMCRD)、改良炉心、3区分ECCS、原子炉建屋と一体化した円筒型鉄筋コンクリート製格納容器(RCCV)、高効率52インチ発電機タービン等が採用され、安全性、運転性、設備利用率および経済性の向上が図られて、電気出力135.6万kWを発生させている。
3.BWR燃料の設計(表2および表3参照)
 BWR燃料は高性能と高信頼性を目指して幾多の改良が行われた。BWR-1型では6×6型燃料の燃料有効長さが2,690mmであったが、これは当時の技術では長尺の燃料被覆管が製作困難であったためである。被覆管の材質は当初からジルカロイ−2であったが、放射能漏れの原因と疑われ、一時ステンレス鋼管に変更された。放射能漏れの原因が二酸化ウランペレット中の水素不純物によるものであることが判明し、対策が確立して再びジルカロイ−2被覆管が用いられるようになった。
 被覆管の長尺ものが製作できるようになって燃料有効長は3,658mmと長くなり、燃料棒の配列も7×7型となり燃料集合体の寸法が大きくなった。この型の燃料になってからペレットと被覆管の相互作用(PCI)が原因とみられる放射能漏れが生じた。この現象に対する設計面での対策の一つとして、ペレットの長さを短くし、ペレット長さ対直径比(L/D)を以前の1.8程度から1.0程度に小さくするとともに、ペレットの両端に面取り(チャンファ)をつけた。第二の対策として、被覆管を以前の応力除去焼きなまし材から再結晶化焼きなまし材に変更した。これにより統計的な延性のばらつきが少なくなり、漏れ確率が応力除去焼きなまし材にくらべて大幅に減少する。
 一方、運転管理面ではPCI対策として慣らし運転法(PCIOMR)(図3参照)が1975年から取り入れられた。燃料棒の線出力密度が8kW/ftになるまでは出力を急速に上昇させてもよいが、それ以上は出力上昇速度(図中のP)を0.1kW/ft・h以下とし、最大線出力密度(図中のPmax)に達してから約12時間保持する(プリコンディショニングの完了)。一旦形成されたエンベロープ(最大線出力密度の分布)以内であれば燃料棒の線出力密度を自由に変化させることができる。しかしこの慣らし運転による運転上の制約(緩やかな出力上昇)を避けるため、出力密度はそのままとし最大線出力密度を低くするため燃料棒を細くした8×8型の燃料が開発され、BWR-5型から採用された。また燃料棒内に約3気圧程度のヘリウムガスを封入した新型8×8燃料が開発されてペレットと被覆管の間のギャップ熱伝達が改善され運転性能が向上した。さらにジルコニウムライナ燃料(被覆管にジルコニウムを内張り)の採用によってPCIOMRは不要となった。現在、太径のウォーターロッドをもつ高燃焼度8×8燃料が開発され採用されている。
 もう一つの燃料設計の重要な変遷として、BWR-2型、BWR-3型の炉心では初期装荷燃料の過剰反応度を押さえるためポイズンカーテンが用いられていたが、二酸化ウランに数パーセントのガドリニア(Gd2O3)を添加する7×7改良型が開発され、これによってポイズンカーテンは無くなった。
4.安全設備の設計
 BWRで想定される事故は反応度事故(RIA)と原子炉冷却材喪失事故(LOCA)に大別される。BWRでは制御棒引き抜き速度を制限するとともに1本の制御棒の反応度価値を限定する制御棒価値ミニマイザを設け、また、制御棒ブレードの落下速度を制限する落下速度リミッタを設けた。ABWRでは改良型制御棒駆動機構(FMCRD)を採用し信頼性と制御性の向上を図っている。
 原子炉冷却材喪失事故の主要なものは原子炉冷却系配管の破断である。この事故に対する非常時炉心冷却装置(ECCS)は当初低圧炉心スプレイ系2系統と自動減圧系で対処する設計であった。その後の詳細な解析によって、冷却系配管の破断が小さい場合には、原子炉冷却水が減少する間、原子炉圧力低下が遅く炉心への注水が遅れる可能性のあることが示され、BWR-2とBWR-3型には高圧注水系が設けられた。BWR-4型では低圧系は低圧炉心スプレイ系2系統と低圧注水系2系統に分離した。BWR-5型では高圧注水系は高圧炉心スプレイ系に変更された。ABWRではインターナルポンプと3区分ECCSの採用により、LOCA時炉心冠水維持など安全性、信頼性向上を図っている。BWR-4、BWR-5型およびABWR型ECCS概略を図4-1図4-2に示す。原子炉格納容器の設計はBWR-2型において圧力抑制式を採用して以来変更されていない。形状については図5に示すように格納容器内の作業性の改善や建設コストの低減などの要求から各種の形状が採用されてきた。現在ABWRを含めて3種類が採用されている。その概要図を図6図7図8に示す。ABWRでは強度と気密の機能をもたせた鉄筋コンクリート原子炉格納容器(RCCV)を採用している。
5.ESBWR(革新型単純化BWR)の開発経緯(表4参照)
 ABWRで大型炉の開発・運転の経験をしたGE社グループはその後EPRI/DOEの改良型軽水炉開発計画に基づき小型(670MWe)のSBWR(単純化BWR;詳細はATOMICA<02-08-03-03>参照)炉概念を発展させた。このSBWRでは自然循環炉心(再循環ポンプ削除)、重力落下式非常用炉心冷却系(GDCS)、静的格納容器冷却系(PCCS)など動的機器を少なくした受動的安全性設計が採用されている。このSBWRをDOEによる「原子力開発2010」に基づき大型炉に発展させたものがESBWR(Economic Simplified BWR)である。ABWRと比べ出力アップのため燃料集合体数を多くしているが、短尺炉心にして炉心上部プレナム(chimney)を長くし(自然循環を高める)、大型化(1590MWe/4500MWt)に成功して、炉心損傷確率もABWR(1E-7)より低く(3E-8)なっている。現在設計認可(DC)の手続きを受けていて、規制委員会(USNRC)からは安全評価報告書(SER)が2007年に提出される見込みで、その後3基の建設・運転一括認可(COL)が申請され2015年には営業運転される予定である。
(前回更新:2000年3月)
<図/表>
表1-1 BWR技術の変遷(着工年ベース)(1/2)
表1-1  BWR技術の変遷(着工年ベース)(1/2)
表1-2 BWR技術の変遷(2/2)
表1-2  BWR技術の変遷(2/2)
表2 国内におけるBWR燃料の改良と経緯
表2  国内におけるBWR燃料の改良と経緯
表3 BWR燃料の主な設計仕様の変遷
表3  BWR燃料の主な設計仕様の変遷
表4 ESBWRの主要パラメータ
表4  ESBWRの主要パラメータ
図1 BWRの発展(ドレスデン1〜ESBAR)
図1  BWRの発展(ドレスデン1〜ESBAR)
図2 ABWRの開発の経緯
図2  ABWRの開発の経緯
図3 ならし運転の基本ルール
図3  ならし運転の基本ルール
図4-1 BWRのECCS概略(1/2)
図4-1  BWRのECCS概略(1/2)
図4-2 BWRのECCS概略(2/2)
図4-2  BWRのECCS概略(2/2)
図5 BWR原子炉格納容器の変遷
図5  BWR原子炉格納容器の変遷
図6 MARK-I改良型格納容器
図6  MARK-I改良型格納容器
図7 MARK-II改良型格納容器
図7  MARK-II改良型格納容器
図8 ABWR型格納容器
図8  ABWR型格納容器

<関連タイトル>
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
第一次および第二次改良標準化 (02-08-02-01)
第三次改良標準化 (02-08-02-02)
SBWR (02-08-03-03)
ABWR燃料 (04-06-03-03)
原子力発電拡大を目指す米国の動き (14-04-01-36)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)(2002年6月)
(2)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック2006年版(2006年7月)
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)(1992年10月)
(4)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい(第4版)(1998年7月)
(5)榎本聡明:改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)、原子力eye、44(1)、17-115(1998年1月号)
(6)友野勝也:ABWRの開発、原子力工業、第38巻 第11号、8-15(1992)
(7)GEエナジー:ESBWR(革新型単純化沸騰水型原子炉)について、
(as of Aug.2007)
(8)General Electric-ESBWR:(as of Aug.2007)
(9)J.Alan Beard(Sept.15,2006):ESBWR Overview,
(as of Aug.2007)
(10)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1999年版、電力新報社(1999年10月)
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