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図1に110万kW(1100MWe)級PWR原子力発電所の原子炉制御設備説明図を示す。PWR原子力発電所の制御の特徴は「タービン主原子炉従」方式で、電力系統の負荷要求に従ってタービンの蒸気流量が調整され、これに見合うように原子炉出力が追従し調整される。原子炉制御設備には、制御棒制御系、ホウ素濃度制御系、加圧器圧力制御系、加圧器水位制御系、給水制御系、タービンバイパス制御系などがある。原子炉制御設備は、原子炉設備からタービン発電機設備にわたる起動から定格出力までの出力上昇、定常運転時および負荷変化時、定格出力運転から停止までの出力降下を行うことである。原子炉の主たる反応度の制御は制御棒の制御とホウ素濃度の制御(ケミカルシム制御、あるいは化学制御とも呼ばれる)により行われる。
1.PWR原子力発電所の起動
図2に標準的なPWR原子力発電所起動時の運転操作の流れ(起動曲線)を示す。これは、出力上昇率の制限がない場合の例である。他方、燃料交換後の
冷態停止からの原子炉起動や長期間低負荷運転後の出力上昇に対しては、出力20%から100%の間では、燃料の機械的健全性の確保の面から、出力上昇率は3%/時を超えないように制限されている。ただし、この制限は、72時間以上に亘り、所定の出力で運転されていれば、その出力以下では除外される。実際の原子力発電所では、さらに保守的に上記制限が適用されているが、原子力発電所毎に内容の差異がみられる。
1.1 二種類の停止状態
原子炉の起動は、冷態停止状態からと、
温態停止状態からの起動とに大別される。冷態停止状態とは、原子炉は1%Δk/k以上の余裕をもった未臨界で一次冷却材の温度が約90℃以下の低温停止状態をいう。これには原子炉が5%Δk/k以上の未臨界で一次冷却材の温度が約60℃以下の燃料取替え後の停止状態、および原子炉容器上部蓋開け状態での燃料取替え作業状態が含まれる。冷態停止状態は、
定期検査時や長期間におよぶ保修作業を伴うような場合に維持される状態である。
温態停止状態とは、原子炉は約1%Δk/k以上の未臨界に保たれ、一次冷却材の温度は、一次冷却材ポンプの運転による入熱などから無負荷温度約286℃に維持されている状態で、PWR原子力発電所では運転管理上からも重要な安全停止状態である。緊急停止などの一時的な計画外停止での待機などは殆どこの状態である。
1.2 起動前点検
起動に先立って、操作手順書に沿って入念な起動前点検が実施される。これらには、系統構成の確認(系統あるいは機器の点検や補修のため隔離された系統や機器の復旧がなされ、水張りおよびベントが完了していること)、機器の状態の確認(弁の開閉、
電源構成、運転待機または運転状態など)、各種パラメータの確認(主要パラメータ、タンク水位、放射線レベルなど)があり、中央制御室および現場で行われる。また、原子炉起動のための条件(ホウ素濃度、水質状況など)、安全系統の機能が確認され、かつ運転待機状態にあること、発電所計測装置、電源装置、原子炉制御保護装置、制御棒クラスタ駆動装置および位置指示装置の起動前点検が完了し、かつ正常に運転されていることなどが、チェックシートなどを用いて確認される。
1.3 ポンプ加熱(冷態から温態へ)
起動前点検が終了するとプラントの起動操作に入る。PWR原子力発電所では、冷態停止状態から温態停止状態になるまでは、原子炉の臨界操作は行わないので、まず温態停止状態へ移行する操作から開始する。
化学体積制御系の充填、抽出流量を調整して、
一次冷却系を昇圧し、同時に加圧器ヒータを投入する。約2.74MPa(gauge)に至るとその圧力に維持し、一次冷却材ポンプを起動する。その後、一次冷却材ポンプの運転による入熱および加圧器ヒータにより一次冷却材を昇温昇圧する。途中、酸素濃度の調整など一次冷却材の水質を許容レベルに調整し、さらに、加圧器に気相部を生成した後、
余熱除去系を隔離し、加熱時の圧力温度制限曲線を遵守しながら、所定の加熱率で昇温昇圧を行う。この間、
蒸気発生器の二次側の水を連続ブローしながら水質を許容レベルに調整する。
1.4 出力上昇
温態停止状態に到達すると原子炉の臨界操作に入る。一方、これと相前後して、主蒸気管の暖機および蒸気の供給を開始する。蒸気発生器への給水は、補助給水ポンプから主給水ポンプに切替え、主給水バイパス弁による水位制御を行う。原子炉が臨界に達したら原子炉出力を上昇させ二次系への蒸気の供給を開始する。原子炉出力の上昇は、制御用制御棒クラスタの引抜き操作およびホウ素濃度の希釈によって行われる。タービンの同期速度までの昇速、さらに発電機の送電系統への同期操作(発電機併入という)を行う。これらのタービン発電機の操作開始に当って、必要以上の蒸気はタービンバイパス弁を介して
復水器にバイパスした状態で運転されている。発電機出力がさらに上昇した後、所内補機の負荷以上になれば、電力供給を外部電源(起動変圧器)から発電機負荷(所内変圧器)に移行させる。
2.PWR原子力発電所の停止
図3に標準的なPWR原子力発電所停止時の運転操作の流れ(停止曲線)を示す。停止操作はほぼ起動操作の逆手順で出力を低減していく。最初にタービン負荷を減少させ、これに追従して、ホウ素の濃縮及び制御用制御棒クラスタの自動挿入により、原子炉出力を低下させていく。制御用制御棒クラスタは、15%出力で自動制御から手動制御に切替える。その後、出力を徐々に下げ零出力状態にする。以降は、運転計画に応じて臨界状態で待機するか、長時間停止ならばキセノンの崩壊を考慮して所定のホウ素濃度に維持する。定期検査などで冷態停止に移行する場合は、燃料取替え停止状態か少なくとも低温停止状態に相応の所定濃度までホウ素を濃縮した後、タービンバイパス制御系によって原子炉冷却時の圧力温度制限曲線を遵守しながら、所定の冷却率で一次冷却材系統を冷却していく。その際、加圧器スプレイによる減圧操作も併せ行いながら、冷態停止状態にもっていく。一次冷却系の圧力、温度が約2.74MPa(gauge)、約178℃以下になったら余熱除去系を使用して冷却を続け、一次冷却材が60℃以下になると停止操作は終了する。
定期検査など原子炉や一次冷却材系統その他の開放を伴う作業のため停止する時には、作業員の被曝低減のため系統内に含まれる放射性ガスや
放射性腐食生成物などを取除くための脱ガス、浄化運転を冷却操作と平行して行う。定期検査などで冷態停止に移行する場合は、低温停止状態に相応した所定濃度にまでほう素濃度を濃縮した後、タービンバイパス制御系によって一次冷却材系統を冷却していく。その際、加圧器スプレイによる減圧操作も併せ行いながら冷態停止状態にもっていく。最後に、余熱除去系を使用して冷却を続け停止操作は終了する。
<図/表>
<関連タイトル>
原子炉機器(PWR)の原理と構造 (02-04-01-02)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)
PWRの原子炉冷却系統 (02-04-03-02)
原子力発電プラント(PWR)の制御 (02-04-06-01)
PWRの動特性 (02-04-06-02)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、平成14年6月
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂3版)、平成20年9月
(3)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、平成2年6月