<大項目> 原子力発電
<中項目> 軽水炉(PWR型)原子力発電所
<小項目> 計測制御設備
<タイトル>
PWRの動特性 (02-04-06-02)

<概要>
 PWR(加圧水型原子力発電所)における原子炉反応度制御は、(1)制御棒操作、(2)ケミカルシム制御(ホウ素濃度調整)、および(3)原子炉固有の特性である自己制御性(負のドップラー効果、負の減速材温度効果など)の働きで行なわれる。原子炉運転中に生じる外乱(反応度変化)には、燃料の燃焼にともなうもの、出力の調整運転にともなうもの、出力分布の変動にともなうものなど、ゆっくりとしたものから速いものまで種々ある。これら外乱に対して、原子炉制御設備および原子炉固有の特性が有効に働き、応答速度や炉心内の出力分布変化に適切に対応でき、原子炉を停止することなく安定状態に回復させている。具体的な例として、出力調整による応答および負荷変化による応答を示す。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
1.PWR(加圧水型原子力発電所)の原子炉制御の方法
 原子炉の運転中にはいくつかの外乱(反応度変化)が生じる。このような反応度変化に対応するため、PWRでは運転中に反応度を制御する仕組みとして原子炉制御設備のひとつ、すなわち制御棒の操作およびケミカルシム制御(ホウ素濃度調整)の設備を有している。また、原子炉の自己制御性など原子炉固有の特性も有用な働きをしている。
1.1 制御棒の操作
 制御棒は中性子を良く吸収する物質で作られており、炉心への挿入・引き抜きがすばやくできるので、原子炉の起動・停止・急激な負荷変化など急な反応度変化に対して用いられている。また全制御棒挿入による原子炉の緊急停止(原子炉スクラム、PWRでは原子炉トリップと呼んでいる)や上下方向の出力分布の制御にも用いられている。
 制御棒の中性子吸収材として使用されている物質は、銀・インジウム・カドミウムの合金、あるいは炭化ホウ素などである。これらをステンレス鋼の被覆管に詰め、さらに何本かをまとめて1体の制御棒クラスタとして用いる(図1参照)。PWRでは、一般的には数十体の制御棒クラスタを持っており、制御棒クラスタ1体が挿入できない場合でも原子炉を高温停止できるよう設計されている。また、制御棒操作による過大な反応度増加が生じないように、制御棒を数体から数十体毎のバンクに分け(図2参照)、一度に操作できるバンクの数を制限し、引き抜き速度も一定以上にならないような構造となっている。
1.2 ケミカルシム制御(ホウ素濃度調整)
 PWRでは一次冷却材(減速材)中に中性子を良く吸収するホウ酸を溶かしている。このホウ素濃度の調整により反応度を制御している。これをケミカルシム制御(ホウ素濃度調整)と呼んでいる。ケミカルシム制御は一次冷却系統の化学体積制御設備によって行なわれ、燃料燃焼にともなう反応度変化やゆっくりと出力を変化させたい場合などに使用される。また、ホウ素は原子炉全体に均一に分布するため炉内出力分布が平坦化される。事故時における安全注入系統にもホウ酸水が使用される。制御棒がまったく使えない場合でも原子炉を低温停止できる能力をもっている。
1.3 バーナブルポイズン
 PWRのバーナブルポイズン(可燃性毒物)はホウ素を含む物質(ホウ珪酸ガラス)をステンレス鋼で被覆してバーナブルポイズン棒としクラスタ状にしたものである。バーナブルポイズンの有する反応度分だけ一次冷却材中のホウ素濃度を低くすることができるので、高温出力運転状態における減速材温度係数を負にしている。
1.4 PWRがもつ原子炉の自己制御性
 運転中に何らかの原因で原子炉出力が増加しても、その出力変化を抑える方向に動く炉心固有の特性を原子炉の自己制御性という。出力が増加し燃料温度が急上昇すると、ウラン238の中性子を吸収する割合が増加するため反応度は低下する(これを負のドップラー効果という)。また、一次冷却材の温度が上昇すると一次冷却材の密度が減少し、反応度は低下する(これを負の減速材温度効果という)。これらの原子炉固有の自己制御性により、原子炉は人間が操作しなくても出力上昇が抑えられる特性を持っている(図3参照)。
 原子炉運転中において生ずる小さい外乱(反応度変化)に対して、この原子炉の自己制御性が働き、また、急激に異常な出力上昇が起きた場合にも、まずこの自己制御性が働く。
2.PWR炉心の動特性
 運転中の原子炉では、いくつかの理由により時間とともに反応度が変化する。一般的に炉心の動特性という場合、これら反応度変化の内、比較的早いものについて原子炉や原子炉制御設備の応答を指す場合が多いが、ここではより広く、反応度変化全般を考える。
2.1 燃料の燃焼による特性
 現在、日本のPWRでは、定期検査時に燃料を装荷した後、約1年間は燃料の交換無しで運転している。この間、燃料の燃焼、バーナブルポイズン自身の燃焼、プルトニウムなどの超ウラン元素および核分裂生成物の蓄積などにより、炉心の持つ反応度は燃焼とともに減少していく。約1年間の運転期間の反応度を維持する必要があるため、運転期間の初期に炉心は過剰な反応度を持っている。このような初期過剰反応度を抑制し、かつ燃焼とともに減少していく反応度を補償するため、PWRでは主としてケミカルシム制御を採用している。このため、運転期間初期では一冷却材中のホウ素濃度は高い状態にあり、運転の経過とともに、ホウ素濃度は低下していく(図4参照)。
2.2 原子炉の起動・停止による特性
 原子炉の起動は、一次冷却材の温度、圧力を運転状態(約300℃、15.4MPa)まで上昇させた後、ホウ素濃度を低下させ、制御棒を引抜くことによって反応度を増加し、零出力臨界状態とする。その後制御棒の引き抜きにより、10%程度の炉出力まで出力上昇した段階で発電機を併入する。その後は主にホウ素の希釈により3%/時という比較的低い出力上昇率で出力を上昇させる。これは定期検査後のいわゆる初回起動時に限り、燃料保護の観点から設けられた制限である。
 原子炉の停止は制御棒の約半数を占める制御グループ・バンクに属する制御棒を全挿入することによって行なわれる。また炉停止後、約10時間以降では炉心内のキセノンが崩壊し(中性子吸収が減少し)反応度が添加されるため、これに備えて炉心を未臨界に保つためにホウ素濃度を上昇させる操作を行う。
2.3 出力の制御による特性
 PWRの出力制御は、出力変化幅が数%以内で変化周期が秒から分単位と早い負荷の変化に対応するための出力調整と、出力変化幅が比較的大きく1日単位や週末などの負荷の変化に対応するための出力調整に分けられる。
 出力変化幅が小さく変化周期の早い出力の変動に対しては、原子炉の自己制御性が対応し、出力変化幅が大きく一次冷却材温度の変化がある程度以上になる場合の出力の変動に対しては、制御棒の自動操作により対応する。
 出力調整のための反応度制御では、一般的には制御棒操作とケミカルシム制御を併用して行う。これは出力変化時の炉心内出力分布を極力平坦に保ち、出力分布の悪化ならびにキセノン振動が大きくなるのを避けるためである。原子炉出力を降下させる場合、制御棒操作のみでは炉心の出力分布は下方に歪んだものとなる。ケミカルシム制御のみでは、出力低下時の一次冷却材温度分布の影響で出力分布は炉心上方に歪んだものとなる。例として1日単位での出力調整運転を行った場合の制御棒位置、ホウ素濃度などの変化を図5に示す。なお、現在日本のPWRにおいては、上記のような出力調整運転は行わず、ほぼ一定の出力を維持する運転としている。
2.4 出力分布の制御による特性
 PWRの出力分布は水平方向分布と軸方向分布との分離性がよい。水平方向出力分布は燃料の配置によって決るが、運転中の水平出力分布の変化は少ないので運転中制御を行う必要はない。軸方向出力分布については運転中に制御する必要があるのは次の2つの場合で、軸方向の出力分布が極端に炉心上方あるいは下方に歪むのを抑制する目的で行われる。
(1)軸方向出力分布が変化した場合
 この制御の目安パラメータとしてアキシャルオフセット(AO)または軸方向中性子束偏差(ΔI)が用いられる。これらは、ともに炉心の上半分と下半分の出力差を示すものであり、次のように定義される。
 AO=(Pt−Pb)/(Pt+Pb)、ΔI=(Pt−Pb)。
 ここで、Pt:炉心上半分の出力、Pb:炉心下半分の出力。
 現在、日本のPWRでは、軸方向出力分布の悪化を避けるため、このAOを目標値(5%以内の変動)に制御している(CAOC運転という)。このために、出力変化時には制御棒操作とホウ素濃度調整を併用し、炉心上下方向の出力分布の変動を少なくしている(図6参照)。
(2)キセノン(Xe)振動を抑制する場合
 キセノンは中性子を良く吸収する性質を持っており、主としてウランが核分裂してできるヨウ素の崩壊によって生成する。キセノンの生成は核分裂時から数時間の時間遅れをともなうが、消滅の方は発生中性子数に比例するため時間遅れがない。この時間差が原因となって、約30時間の周期で軸方向出力分布が炉心の上方あるいは下方に歪むことを繰り返す。この現象をキセノン振動と呼ぶ。
 PWRでこのようなキセノン振動が発生した場合、上記AOやΔIが周期的に変動するので、この変動が過大にならないよう、制御棒を操作してAOあるいはΔIをその目標値に制御し、この出力振動を抑制している。
3.発電所としての動特性
 PWRは、原子炉と蒸気発生器とタービン発電機から構成されている。この炉型の特徴は蒸気発生器を介することにより原子炉側の一次冷却材とタービン側の二次冷却材とが分離されていることである。PWRでは、タービン発電機の負荷に応じて原子炉出力を追従させる制御方式を採用している(タービン主−原子炉従方式という)。発電所全体は基本的には原子炉固有の自己制御性と原子炉制御設備(制御棒制御設備、ホウ素濃度制御設備、加圧器圧力制御設備、加圧器水位制御設備、給水制御設備、タービンバイパス制御設備、主蒸気逃し弁制御設備および制御棒クラスタ引き抜き阻止およびタービンランバックから構成)で運転制御され、原子炉保護設備が事故時の工学的安全施設作動設備の作動とあいまって発電所を保護する。
 以下に示すように、比較的大きな外乱(負荷変化)に対しても、炉心のもつ自己制御性および原子炉制御設備の働きにより、原子炉を緊急停止させることなく、過渡現象を減衰させ安定した状態を回復できる。
(a)±10%ステップ状負荷変化(定格出力の15%から100%の範囲内)
 90%から100%にステップ状に負荷急増した場合の応答を図7に示す。負荷の増加に対応して制御棒が自動引抜きされ、原子炉出力は初期には上昇するが、一次冷却材平均温度が落ち着くと一定となる。一次冷却材平均温度は、原子炉出力と負荷との差により初期には低下するが、上昇した負荷に対応する温度に向かう。一次冷却材温度が初期に低下しこれにともない一次冷却材圧力が低下するが、加圧器のスプレイとヒータの働きで制御され、定格運転圧力に落ち着く。
(b)±5%/分のランプ状負荷変化(定格出力の15%から100%の範囲内)
 最大変化率5%/分で15%から100%定格負荷まで負荷がランプ状にゆっくり増加した場合の応答を図8に示す。(a)の例と同じように、制御棒の自動操作と加圧器のはたらきで、最終的には負荷に対応した定格原子炉出力、定格一次冷却材温度および定格一次冷却材圧力に落ち着く。
(c)急激負荷減少(定格出力の100%から50%までステップ状に負荷急減)
 100%から50%にステップ状に負荷が減少した場合の応答を図9に示す。負荷急減少時にはタービンバイパス制御系が自動的に作動するとともに、制御棒が自動挿入され、原子炉は停止することなく、原子炉出力は負荷に対応する定常状態に落ち着く。タービンバイパス制御系は蒸気流をバイパスさせ(吸熱源としてはたらく)、一次系に加わる急激な負荷減少を系自体と制御棒操作ができる程度に抑え、一次冷却材温度の最大を許容値内にとどめる。原子炉出力の低下とともに一次冷却材温度が低下に向かうに従い、タービンバイパス流は減少し定常状態に落ち着くと、タービンバイパス弁は閉じる。
<図/表>
図1 PWRの制御棒クラスタ
図2 PWRの制御棒クラスタのバンク分け
図3 原子炉の自己制御性の説明
図4 燃料の燃焼に伴う一次冷却材中のホウ素濃度変化
図5 PWRでの出力調整運転の例
図6 PWRでの軸方向出力分布制御
図7 90%から100%にステップ状に負荷増加した場合の応答
図8 15%から100%まで5%/分で負荷増加した場合の応答
図9 100%から50%に急激に負荷減少した場合の応答

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<関連タイトル>
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
PWRの起動・停止方法 (02-02-03-04)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)
原子力発電プラント(PWR)の制御 (02-04-06-01)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、平成20年9月
(2)九州電力:玄海原子力発電所原子炉設置変更許可申請書、1982年10月
(3)原子力安全研究協会(編):軽水炉燃料のふるまい(平成15年7月)
(4)三菱原子力工業株式会社:出力分布制御法、MAPI-1039 改3(1990年12月)
(5)三菱原子力工業株式会社:出力分布制御法(標準3及び4ループ型炉心)、MAPI-1045 改2(1990年12月)
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