<本文>
APWR(改良型PWR)とPWR(従来型:敦賀発電所2号)の設計主要目を
表1に、設計のねらいと特徴を
図1に示す。現在の改良型加圧水型原子炉(APWR:Advanced PWR、改良型PWR)は、経済産業省(当時通商産業省)と民間とが共同で行った第3次改良標準化計画の成果を基に、その後の加圧水型炉(PWR)の運転・保守の経験と最新技術を取り込んで集大成し、経済性・安全性・信頼性の向上、稼動率・運転性・保守性の向上などの大幅な改善を目標として開発を進めてきた最新鋭の大型加圧水型発電炉である。炉心の大容量化、一次冷却材ポンプ・蒸気発生器・タービン等の高性能化・大型化の開発によって、出力が3割増しの大型化(1,530MWe/4,450MWt)を達成している。日本では敦賀発電所の3号と4号が建設予定で、既に2004年に準備工事が開始されており、3号が2016年3月、4号が2017年3月に運転開始予定である。以下の説明では、従来型は代表として敦賀発電所2号を指しAPWRは敦賀発電所の3号・4号を念頭においている。
1.炉心設計
APWR(改良型PWR)とPWR(従来型)の原子炉容器の比較を
図2に示す。鋼製径方向中性子反射体を採用し、燃料集合体のグリッドにジルカロイを採用することによって従来型に比べ約8%のウラン資源が節約できる。
(1)鋼製径方向中性子反射体の採用(
図3参照)
PWR(従来型)で採用しているバッフル取付板構造の水反射体に替えて、信頼性向上のため、バッフル/フォーマ構造より大幅にボルト本数を削減したリングブロック構造ステンレス鋼製の中性子反射体を炉心槽と原子炉容器との間に配置した(敦賀3、4号)。この鋼製径方向中性子反射体の配置により炉心からの中性子漏洩を少なくできるので、
中性子経済を向上でき、原子炉容器内壁への中性子照射量を1/3以下に低減でき、またボルト使用本数を大幅に減らすことができ、信頼性の向上が期待できる。
(2)改良燃料集合体の採用
改良燃料集合体はPWR(従来型)のものと同じ17×17型であるが以下の点で異なる。高燃焼度化、長期サイクル運転、MOX燃料炉心に適用するため、燃料棒下部にも
プレナムを設けて裕度のある設計にし、グリッド材を
インコネルから中性子吸収の少ないジルカロイ−4に変更し、また燃料集合体下部に異物除去フィルターを設置して、経済性、信頼性の向上を図っている。ただし、中性子束が低く、中性子経済への影響の少ない最上段・最下段グリッドは従来通りインコネルを使用する。また中性子反射体には冷却用の小口径孔が多数設けられていて炉心からのガンマ線発熱による温度上昇を抑制している。
2.原子炉容器と
炉内構造物の改良
原子炉容器上部の計装ケーブルペネトレーションの応力腐食割れ防止対策のため、材料をインコネル600合金からTTインコネル690合金(TT:耐食性強化のため特殊熱処理済み)へ変更する。大型炉心に対応する下部プレナム中の流動安定性保持のため、下部タイプレートを改良する。フレッティングコロージョン(振動腐食)防止対策のため、流動抵抗を少なくすべく制御棒クラスター案内管を改良する。さらに、事故時デブリ(炉心溶融物)の炉容器への落下を防止するため、下部燃料支持格子下と下部ノズルの間にデブリフィルタを設ける。
3.蒸気発生器の改良
APWR(改良型PWR)とPWR(従来型)の蒸気発生器の比較を
図4に示す。
(1)伝熱管材料の変更
伝熱管材料として、PWR(従来型)で用いていたインコネル600から高い耐腐食性をもつTTインコネル690合金に変更し、信頼性を高めている。
(2)細い伝熱管と小型気水分離器の採用
伝熱管をPWR(従来型)のものより細くし(7/8インチ→3/4インチ)、また小型気水分離器を採用することによって、原子炉出力増大による大容量化を抑制し、耐震の観点からもコンパクトな設計にする。
(3)振れ止め金具の改良
出力増加のための蒸気発生器の大型化にともない、伝熱管ベント部の曲げ半径が大きくなることから、支持点数をPWR(従来型)における6点支持より9点支持と増やし、流体振動に対する安定性を増加させる。
4.一次冷却材ポンプの改良
新シールの採用でシール特性の向上と長寿命化を図るとともに、インペラ・ディフューザ形状の見直しで、大容量化と高効率を達成している。
5.工学的安全設備の機能強化
APWR(改良型PWR)とPWR(従来型)の工学的安全設備の比較を
図5に、高性能蓄圧タンクの原理を
図6に、ECCS注水効果の比較を
図7に、および炉心損傷確率の比較を
図8に示す。
APWRで採用している工学的安全設備は、
設計基準事故の発生可能性を低減させるとともにTMI原子力発電所事故(1979年)およびチェルノブイル原子力発電所事故(1986年)の経験を設計に反映させている。
(1)工学的安全設備の改良
非常用炉心冷却系(ECCS)および格納容器スプレイ系をPWR(従来型)で採用している2系列構成(100%×2)から4系列構成(50%×4)とし、多重性の強化を図っている。また安全注入水を原子炉容器へ直接注水することと高性能蓄圧タンクの採用により効果的な炉心注水が可能となった。すなわち、この蓄圧タンク内部にタンク水位低下で自動的に大流量から小流量に切り替わる渦巻きダンパを設けることにより(
図6参照)、従来の低圧注入系機能を高性能蓄圧タンクに持たせ低圧注入系を設けない設計とした。
炉心注水水源である燃料取替え用水ピット(RWSP)を
原子炉格納容器内に設置することにより、安全注入系の再循環モードへの切り替え操作を不要とし、運転員の負担軽減と信頼性向上を図っている。APWRの設計で採用された工学的安全設備が原子炉冷却材喪失事故時においてPWR(従来型)より優位性があり、炉心損傷確率の点からも1桁以上改善される。
(2)原子炉格納容器
APWR(改良型PWR)で採用のプレストレストコンクリート製格納容器(PCCV)を
図9に示す。信頼性の高いプレストレストコンクリート製原子炉格納容器を採用している。またECCSの注水水源である燃料取替用水ピット(RWSP)を原子炉格納容器の外から内へ設置変更した。
6.マンマシーン・インターフェースの改善
(1)タッチ操作パネル付きコンソール型中央制御盤(
図10参照)
PWR(従来型)では状態監視にのみ用いていたCRTの機能を拡張して、運転操作を可能としたタッチ操作パネルを採用し、操作と監視を統合したコンパクトなコンソール型中央制御盤とする。
(2)ディジタル式制御保護装置
既設最新PWR(従来型)で採用されているディジタル式制御の範囲を更に拡大し、制御装置に加えて原子炉保護装置もディジタル化する。
7.大容量蒸気タービンの採用
原子炉出力の増加にともない、ターボ発電機の蒸気駆動タービンでは、完全3次元翼で54インチ長翼の高能率大容量タービンの採用を計画している。
8.環境との調和
(1)作業中
被ばく線量の低減
ケミカルシム制御のボロンに濃縮B−10を用いることによって
水質管理の適正化を図り被ばく線量を低減する。また燃料集合体ジルカロイグリッドとステライト代替材の適用範囲拡大による
線源の発生抑制、線源除去のための浄化流量増加の対策をとる。これらの対策のほかに保守作業の自動化/ロボット化により、0.2(人・Sv)/(炉・年)以下を目標に被ばく線量の低減を図る。
(2)
放射性廃棄物の低減
濃縮B−10の採用(一次冷却材中のホウ酸濃度が1/5に低減する)によるほう酸廃液量の低減、ドレン回収系の強化等で廃液量の発生を抑制するとともに、減容により固体廃棄物の低減を図る。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)
PWRの原子炉格納容器 (02-04-04-02)
PWRの蒸気発生器 (02-08-01-03)
第三次改良標準化 (02-08-02-02)
APWRの改良発展 (02-08-02-06)
PWRにおける高燃焼度燃料 (04-06-03-07)
<参考文献>
(1)日本原子力発電:敦賀発電所3、4号機増設計画
(2)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)、火力原子力発電技術協会(2002年6月)
(3)H.J.Bruschi:The APWR is Simpler,Cheaper and Safer,Nucl.Inter.Tech.,52 54,May 1992
(4)T.Shiraishi:Japan’s Advanced PWR Accumulator Uses Fluidics,Nucl.Inter.Tech. ,77 78,Oct.1994
(5)H.Suzuki et al.:Safety Design of Advanced PWR in Japan,Advanced Reactor Safety 1994,Apr.17 21,1994,Pittsburgh,USA
(6)K.Takakuwa et al.:Advanced PWR in Japan,3rd Conf.JSME/ASME Joint Inter. Conf. on Nucl. Eng. Apr.23 27,1995,Kyoto,Japan
(7)火力原子力発電技術協会(編):火力原子力発電50年のあゆみ(2000年10月)
(8)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧’99年版、電力新報社(1999年10月)