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<概要>
 加圧水型炉(PWR)原子力発電所では、原子炉容器内の炉心(核燃料)で非沸騰の高温高圧水(約325℃、15.4MPa[gage](157kg/cm2G))をつくり、これを蒸気発生器に導き、蒸気発生器の中で伝熱管の一次系(内側)から二次系(外側)に熱を伝えて二次側に蒸気(約277℃、6.0MPa[gage](61.5kg/cm2G))を発生させ、この蒸気をタービン発電機に送って発電している。一次系の圧力は加圧器によって制御・維持される。蒸気発生器の伝熱管の内側と外側で放射性物質を含む一次系(原子炉冷却系)と放射性物質を含まない二次系(主蒸気系)とが隔離されているので、二次系(主蒸気・タービン系)機器では運転・保守上の放射線防護対策をとくに必要としない。蒸気発生器を原子炉容器外部に置いたことから制御棒駆動装置は原子炉容器上部に取り付けられている。
<更新年月>
2007年11月   

<本文>
1.加圧水型炉(PWR)原子力発電所の全体構成
 加圧水型炉(PWR)原子力発電所の基本仕様を表1に、加圧水型炉(PWR)原子力発電のしくみを図1に、加圧水型炉(PWR)原子力発電所の主要系統を図2に示す。加圧水型炉(PWR)原子力発電所では二重サイクル(一次系と二次系)強制循環サイクル方式が標準となっている。すなわち、原子炉容器内の炉心(核燃料)で非沸騰の高温高圧(約325℃、15.4MPa[gage](157kg/cm2G)、電気出力1100MW級の例)の一次冷却水(原子炉冷却材)をつくり、これを一次冷却材ポンプによって蒸気発生器の伝熱管の内側に送っている。蒸気発生器の中では伝熱管(内側:一次系)から二次系(外側)に熱を伝えて二次側に蒸気(約277℃、6.0MPa[gage](61.5kg/cm2G))を発生させ、この蒸気をタービン発電機に送って発電する。一次系の圧力は加圧器によって制御・維持されている。
 蒸気発生器の伝熱管を介して、放射性物質を含む一次系(原子炉冷却系)と放射性物質を含まない二次系(主蒸気系)とが隔離されているので、二次系(主蒸気・タービン系)機器では運転・保守上の放射線防護対策をとくに必要としない。蒸気発生器を原子炉容器外部に置いたことから、制御棒駆動装置は原子炉容器上蓋に取り付けられている。
2.炉心
 炉心配置図を図3に、燃料集合体構造図を図4に、制御棒クラスタ構造図を図5に、制御棒制御とホウ素濃度制御の役割分担を表2に示す。電気出力1100MW級では熱エネルギー(3411MW)を発生する炉心の大きさは、有効高さ約3.7m、等価直径約3.4mで、その出力密度は約105kW/リットルである。
2.1 燃料集合体
 燃料棒を四角格子の束に組み(例:17×17)、上下にノズルを取り付けたものを燃料集合体という。PWRの燃料集合体にはBWRのような燃料チャンネルボックスが無いので(図4)、燃料集合体の下部から入った原子炉冷却水は隣の燃料集合体と相互に流通している。一方、外径寸法の異なる燃料棒は混存させることができない。14×14および15×15型の燃料集合体も現在使用されている。電気出力1100MW級の炉心には193体の燃料集合体が装荷されている(表1図3)。
 炉心を構成する燃料棒には、ウランを酸化物(UO2)とし、これをペレット状に焼き固め、さらに燃料被覆管に封入したものが使用されている。UO2ペレットは核反応で生成する核分裂生成物を閉じ込め、構造的にも強度が強く、熱伝達特性も優れている。PWRの燃料被覆管材として使用されているジルコニウム合金はジルカロイ−4と呼ばれ、ジルカロイ−2からニッケルを除いた合金であり、ジルコニウムと高温の冷却水が反応して発生する水素のジルカロイ合金への取込みを減少させたものである。UO2ペレットは、燃焼中燃料被覆管を内側から押し広げ、また、発生する核分裂生成物はジルカロイ−4の腐食環境をつくる。このような状況下でPCI(ペレットと被覆管の相互作用)により燃料被覆管は応力腐食割れを起こすおそれがあり、各種の防護対策がとられている。
2.2 制御棒
 燃料にはウラン235濃縮度約3.4%の濃縮ウランが使用されている。この濃縮度は燃焼の継続、核分裂に伴って発生するXeやSm(反応度低下を伴う)に対応し必要な余剰反応度を確保するためである。この余剰反応度を制御するため制御棒には、熱中性子吸収断面積の大きな銀(Ag、63バーン)、インジウム(In、196バーン)、カドミウム(Cd、2450バーン)の合金が制御材として用いられる。Ag−In−Cd合金の制御材はそれぞれの元素の核特性の欠点を補い、全体としてバランスのとれた特性を有している。PWRではこの制御材(中性子吸収材)をステンレス鋼製の管に充填して、燃料集合体内にクラスター状に配置している(制御棒制御:図4図5)。さらにPWRではホウ酸(中性子吸収材)を水溶性の反応度制御材として減速材中に混入して使用している(ホウ素濃度制御:ケミカルシム制御とも呼んでいる、表2)。
3.原子炉容器
 原子炉容器内構造図を図6に示す。電気出力1100MW級の原子炉容器の大きさは高さ約12.9m、内径約4.34mである。鋼材には主として強度上の理由から低合金鋼にステンレス鋼を内張りしているが、運転中に中性子照射を受けるため照射脆化に対する抵抗力を持つことも要求される。最近の鋼材は鋼材中の銅およびリンが低減されており、中性子照射脆化に対する抵抗力は十分高い。鋼材の脆化の度合は監視試験片をあらかじめ原子炉容器内に装てんしておき、これを定期的に取出してシャルピー衛撃試験によって評価している。一次冷却系の配管には破断事故を防ぐため特に靭性の高い遠心(連続)鋳造管が広く用いられている。これはオーステナイト系の中に適当なフェライト相を分散させたもので、耐応力腐食割れにも優れている。
4.一次冷却材ポンプ
 一次冷却材ポンプ構造図を図7に示す。蒸気発生器で二次側に熱を与えた一次冷却水(原子炉冷却材)は一次冷却材ポンプによって原子炉容器に戻される。このポンプでは軸部のシールが冷却水を外部へ漏洩させないような構造となっている。シール部はNo.1からNo.3シールと3段構えのシール構造を採用している。No.1シールが主シールで特殊な非接触形の漏洩制御式のシールである。このシール部には充填ポンプにより一次冷却水と同じ水質のシール水を一次冷却水の圧力より少し高くして注入し、その一部が静止リングと回転リングのシール面を一定流で流れ元の系に戻される。残りは下方に流れてポンプベアリングの冷却および潤滑を行なったのち、一次冷却水中に流入する。No.2シールとNo.3シールは通常のメカニカルシールと同じである。電動機にはフライホイール(弾み車)が取り付けられており、ポンプ電源喪失の場合でも原子炉の熱除去能力の急速な低下を防いでいる。
5.加圧器
 加圧器は、電熱ヒータ、水スプレイなどから構成されており、加圧器内の約2分の1が液相で残りは気相である。電熱ヒータと水スプレイの働きにより一次冷却水の圧力を規定値(約15.4MPa[gage](157kg/cm2G))に制御・維持している。
6.蒸気発生器
 蒸気発生器構造図を図8に示す。伝熱管(内側、一次側)の一次冷却水(約325℃、15.4MPa[gage](157kg/cm2G))から伝熱管(外側、二次側)へ熱を伝えることにより、発電機のタービン駆動用の蒸気(約277℃、6.0MPa[gage](61.5kg/cm2G))を発生させている。蒸気発生器はメーカによって型式が多少異なるが、U字型管を使った竪型が代表的である。蒸気発生器の伝熱管は一次冷却材圧力バウンダリを構成する管としているので、伝熱管材料には、腐食損傷を防止するため、従来のインコネル600から鋭敏化回復処理を施したTTインコネル600、あるいはより耐食性に優れたTTインコネル690が広く用いられている。
7.主蒸気・タービン系統
 主蒸気・タービン系統図を図9に示す。原子炉および一次冷却系設備は蒸気を発電機に供給するシステムであり原子力蒸気供給システム(Nuclear Steam Supply System)とも呼ばれている。PWRが蒸気発生器を介してタービンに供給する蒸気は、タービン入口で約273.9℃、5.9MPa[gage](59.7kg/cm2G)の高いエネルギーを持ち、タービンで回転運動に変換され発電機で電気に変換される。タービンから排出された蒸気は復水器に入り、海水が通っている多数の伝熱管の表面で冷却されて水になり(復水)、給水加熱器を経て給水ポンプで蒸気発生器に戻される。復水器で蒸気を冷却した海水は温排水となって海へ排出される。タービンが蒸気のエネルギーを回転運動に変換する効率は理論的にタービンに入る蒸気温度と復水器に排気される蒸気温度の差によって決まる。原子力発電では火力発電と同じような高温蒸気を供給できないので、熱効率は火力発電より若干低くなる。発電プラント全体の熱効率は、例えば電気出力1100MW級(1160MW)の原子力発電所では原子炉が供給する熱エネルギーは3411MWであるので34%となる。
8.原子炉格納容器
 PWRの原子炉格納容器はドライ型である。電気出力1100MW級の原子炉格納容器は従来と同様の炭素鋼製とすると高さが100mを超える格納容器となるため、プレストレストコンクリート製(PCCV)やアイスコンデンサ型として格納容器の小型化を図っている。また、冷却材喪失事故時の緊急の炉心冷却に対処するため非常用炉心冷却設備(ECCS)が原子炉建屋に設置されている。
9.プロセス・コンピュータシステムの構成
 中央制御室に設置されているプロセス・コンピュータシステム構成図を図10に示す。原子力蒸気供給システムとしての温度、圧力、流量、水位などのプロセス量はもとより炉心の中性子束レベル、機器の運転・待機状態および環境の放射線レベルなどの測定値は総て中央制御室に集められている。各系統の運転制御のための制御盤には操作スイッチ、制御装置などが配置され、さらに計算機で処理した出力がCRTに表示されている。これらは運転員が系統の状態を正確に把握し適切な操作が行なえるようマンマシンインターフェースを考慮して設計されている。また、計算機は発電所の起動・停止操作を系統的に管理制御するなどの運転支援にも活用されている。
<図/表>
表1 加圧水型炉(PWR)原子力発電所の基本仕様
表1  加圧水型炉(PWR)原子力発電所の基本仕様
表2 加圧水型炉(PWR)原子力発電所の制御棒制御とホウ素濃度制御の役割分担
表2  加圧水型炉(PWR)原子力発電所の制御棒制御とホウ素濃度制御の役割分担
図1 加圧水型炉(PWR)原子力発電のしくみ
図1  加圧水型炉(PWR)原子力発電のしくみ
図2 加圧水型炉(PWR)原子力発電所の主要系統
図2  加圧水型炉(PWR)原子力発電所の主要系統
図3 加圧水型炉(PWR)の炉心配置図
図3  加圧水型炉(PWR)の炉心配置図
図4 加圧水型炉(PWR)の燃料集合体構造図
図4  加圧水型炉(PWR)の燃料集合体構造図
図5 加圧水型炉(PWR)の制御棒クラスタ構造図
図5  加圧水型炉(PWR)の制御棒クラスタ構造図
図6 PWRの原子炉容器内構造図
図6  PWRの原子炉容器内構造図
図7 PWRの一次冷却材ポンプ構造図
図7  PWRの一次冷却材ポンプ構造図
図8 PWRの蒸気発生器構造図
図8  PWRの蒸気発生器構造図
図9 PWRの主蒸気・タービン系統図
図9  PWRの主蒸気・タービン系統図
図10 PWRのプロセス・コンピュータシステム構成図
図10  PWRのプロセス・コンピュータシステム構成図

<関連タイトル>
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
PWRの水質管理 (02-02-03-05)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)
PWRの蒸気発生器 (02-08-01-03)

<参考文献>
(1)(社)日本電気協会新聞部(編):原子力ポケットブック 2006年版(2006年7月)
(2)(財)日本原子力文化振興財団(編、刊):原子力の基礎講座3 原子力発電と動力用原子炉(改訂3版)(1984年3月)
(3)(社)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)(2002年6月)
(4)(財)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)(1992年10月)
(5)(社)火力原子力発電技術協会(編):ポンプ、火力および原子力発電所に使用されるポンプ(改訂版)(昭和63年10月)
(6)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、電気事業連合会:
(7)日本原子力発電(株):敦賀発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和55年8月)
(8)九州電力(株):玄海原子力発電所原子炉設置変更許可申請書(1982年10月)
(9)関西電力(株):大飯発電所原子炉設置変更許可申請書(昭和61年12月)
(10)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧、電力新報社
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