<本文>
1.発電用原子炉の炉型
表1に原子炉の炉型と中性子減速材・原子炉冷却材の組合せを示す。
原子力発電所で採用されている原子炉では、普通は中性子減速材(たんに減速材ともいう)で炉型を分類して呼んでおり、軽水炉、重水炉などと呼ぶ。原子炉冷却材として炭酸ガスを使用する炉型をガス炉(GCR、AGR)と呼び、とくに原子炉冷却材としてヘリウムガスを高温(800℃以上)で用いる原子炉では高温ガス炉(HTGR)と呼んでいるが、これらのガス炉(GCR、AGR、HTGR)は黒鉛を中性子減速材として使用しており、慣例にしたがい、以下では黒鉛炉と炉型分類する。核分裂連鎖反応継続に支配的な中性子エネルギーの高低で分類するときは高速炉、
熱中性子炉と呼んでいるが、ここで記述している炉型では高速炉(FBR)以外はすべて熱中性子炉に分類される。
表2に2006年12月末現在における、世界で運転中の原子力発電設備(発電炉)の炉型別シェア一覧を示す。
2.軽水炉(LWR:Light Water Reactor)
世界で運転中の発電用原子炉の中で軽水炉が88%(電気出力で)を占めている。軽水炉では加圧水型炉と沸騰水型炉の2つの炉型があり、原子炉容器内で原子炉冷却材が沸騰しないように加圧しているのを加圧水型炉(PWR)、沸騰しているのを沸騰水型炉(BWR)と呼んでいる。
原子炉冷却材の軽水は若干中性子を吸収するので、軽水炉燃料では低濃縮ウラン(ウラン235濃縮度:2%〜4%程度)を使用している。また減速能力の大きい軽水を中性子減速材と原子炉冷却材として使用しているので、原子炉はガス炉や重水炉と比べて小型である。
2.1 加圧水型炉(PWR:Pressurized Light Water Cooled Reactor、
図1参照)
発電用原子炉でもっとも多く用いられているのは加圧水型炉で世界の発電用原子炉の65%(電気出力で)、また軽水炉型のうちでは加圧水炉が74%を占めている。この炉型は初め米国海軍潜水艦の推進動力用として開発したもの(舶用炉)を改良して発電炉用に大型にしたものである。現在運転中の最大出力の軽水炉の電気出力は1基で1,500MWe(フランスのN4型PWR、Chooz発電所とCivaux発電所)に達する。
原子炉容器に入った軽水(一次系水)は、
燃料集合体の中を上向きに流れる間に加熱されて高温高圧水になり、原子炉容器から
蒸気発生器に導かれ、伝熱管内を流れる間に伝熱管外の二次系水を蒸気に変え、この蒸気はタービン発電機に導かれる。原子炉容器内の軽水は320℃でも沸騰しないよう
加圧器によって157気圧に加圧維持されている。放射性物質を含んだ一次系水がタービン発電機に行かないので、二次系にかかわる保守点検が容易である。このように原子炉冷却系が一次系(原子炉系)と二次系(蒸気系)から構成されているのが発電用原子炉システムの基本形である。
ロシアが開発した加圧水型炉(VVER)の原理構成は西欧型PWRと同じであるが、六角型燃料集合体(西欧型は正方格子集合体)と横置蒸気発生器(西欧型は立置蒸気発生器)を採用している点が西欧型のPWRと異なる。
なお、PWRの炉型には、現在の発電用PWRのように原子炉容器と蒸気発生器などの一次系機器が配管で連絡しているループ型炉、一次系機器が短縮二重配管で原子炉容器に取り付けられている半一体型炉、および一次系機器を原子炉容器内に内装している一体型炉がある(
図2参照)。半一体型炉と一体型炉は大型炉には向かないが舶用炉で採用されている。
2.2 沸騰水型炉(BWR:Boiling Light Water Cooled Reactor、
図3参照)
沸騰水型炉は世界の発電用原子炉の23%(電気出力で)を占め、軽水炉型のうちでは26%を占めている。沸騰水型炉の特徴は、原子炉容器内で蒸気をつくり、この蒸気を直接タービン発電機に導いて発電する。原子炉容器内の軽水の温度は285℃、圧力は70気圧(飽和圧力)である。蒸気発生器を持たない替わりに原子炉容器内上部には
蒸気ドラム(
気水分離器と蒸気乾燥器)があり、原子炉容器内上部構造が複雑となっている。このため制御駆動装置が炉容器下部に取り付けられている。
図4にBWR原子炉容器内構造図を示す。
3.重水炉(HWR:Heavy Water Reactor)
重水炉は世界の発電用原子炉の6%(電気出力で)のシェアを占めている。重水は軽水に次ぐよい中性子減速材であり中性子をほとんど吸収しないので、天然ウラン燃料のみでも原子炉が設計できる。原子炉容器(
カランドリアタンク)は大きな煉炭の形で、このタンク内に重水が装填されており、煉炭の穴(
カランドリア管)には燃料集合体が装填されている。通常中性子減速材の重水は常圧で100℃以下の温度に保たれているが、原子炉冷却材は高温、高圧で使用するので、カランドリア管内が高温、高圧に耐えられるよう
圧力管構造となっている。原子炉運転中に燃料交換ができる。
3.1 加圧重水炉(CANDU、PHWR、CANDU-PHWR、
図5参照)
CANDU型炉(Canadian Deuterium Uranium Reactor、正式には圧力管型加圧重水冷却型炉)は、天然ウラン燃料が使用できるので、重水炉の主流となっている。カナダの圧力管型加圧重水冷却型炉は世界の原子力発電で一定のシェア(6%)を築いている。燃料集合体が内装されているカランドリア管は横置きである。
3.2 ガス冷却重水炉(GCHWR:Gas-Cooled Heavy Water Reactor)
沸騰軽水冷却型炉(LWCHWR:Light Water Cooled Heavy Water Reactor)ともいう。英国はウィンフリス研究所に
原型炉(100MWe)を建設し1968−1990年の間運転した。一時は英国の国策炉として採用されるかにみえたが、経済性その他の要因で、この炉型は原子力発電の主流にはなり得なかった。CANDU-PHWRとは異なりカランドリア管は立置きである。日本が建設した新型転換炉原型炉(ATR:Advanced Thermal Reactor)「ふげん」(165MWe)はこの炉型に属する。2002年程度まで運転され現在は廃炉措置中である。
4.黒鉛炉(Graphite Reactor)
ガス炉(GCRとAGR)で世界の発電用原子炉の3%(電気出力で)を占めている。
4.1 ガス冷却炉(GCR:Gas Cooled Reactor)
黒鉛は安価で大量に入手でき、原子物理学者エンリコ・フェルミによってつくられた人類最初の原子炉(シカゴ・パイル1号)以来広く利用されてきた減速材である。第二次大戦中のプルトニウム(
239Pu、原子爆弾の原料)生産用原子炉も黒鉛炉である。戦後英国、フランスなどで発電用に設計したものがGCRである。天然ウラン、金属燃料使用の炭酸ガス冷却黒鉛減速炉で、マグノックス(マグネシウム合金)被覆を使用したためマグノックス炉とも呼ばれる。発電出力の割りには大型となり経済性もよくなかった。日本が英国から導入した日本原子力発電(株)東海発電所がこの炉型である。
4.2 改良型ガス冷却炉(AGR:Advanced Gas Cooled Reactor、
図6参照)
英国は天然ウラン使用のGCRから、低濃縮ウランを使用し出力密度と熱効率の向上を図ったAGR炉の開発に転換した。明らかに炉の性能は改良されたが、英国内で14基が運転されただけで、1980年代後半以降新設されることはなかった。
4.3 高温ガス炉(HTGR:High Temperature Gas Cooled Reactor、
図7参照)
原子炉冷却材として高温のヘリウムガスを用いる。高温ガス炉の特徴は、黒鉛が中性子減速材であるとともに炉心構成材料なので、運転温度を高くすることができ、発電効率は40%以上期待できる。使用する燃料体には、(a)軽水炉
燃料棒のような棒状型(Dragon炉、Peach Bottom炉で使用)、(b)六角柱の黒鉛体に燃料棒を装填したブロック型(Fort St.Vrain炉(
図7)、MHTGR、HTTRで使用)、(c)被覆燃料粒子を黒鉛内に分散し焼結し直径6cmの球状燃料体としたペブル・ベッド型(AVR、THTR-300で使用)、の3つのタイプがある。
4.4 黒鉛減速沸騰水冷却圧力管型炉(LWGR、RBMKともいう、
図8参照)
旧ソ連邦の国が使用しており世界の発電用原子炉の3%(電気出力で)を占めている。
RBMK(ロシアでの呼称)はロシアで開発された発電用原子炉である。SGHWRのカランドリアタンク(重水)の替わりに黒鉛を採用した炉に相当し大型である。約1700本の圧力管が黒鉛ブロックを貫通しており、その圧力管の中に燃料棒が挿入されている。燃料棒の周りを原子炉冷却材の軽水が通って蒸気化され、タービン発電機へ送られる。事故で有名になったチェルノブイル発電所4号(RBMK-1000)はこの炉型で、原子炉格納容器のないことが設計上の欠陥の一つと指摘されている。
5.高速炉(FR:Fast Reactor、
図9参照)
高速炉では普通プルトニム(Pu)を
増殖をしながら運転するので、高速増殖炉(LMFBR:Liquid Metal cooled Fast Breeder Reactor)とも呼ばれる。現在世界で運転されている高速炉は2基(ロシアとフランス)のみであるが、発電専用なのはロシアのBN-600(600MWe)のみである。炉心の出力密度が高いので、原子炉冷却材には熱伝達性能の良いナトリウムまたはナトリウムとカリウムの合金(NaK)の液体が使用される。
高速増殖炉プラントのしくみは、原子炉冷却材(一次系)のナトリウムが炉心で発生した熱を取って中間熱交換器(二次系)に伝え、放射化されることのない二次系のナトリウムがこの熱を蒸気発生器(三次系)に伝え蒸気を発生してタービン発電機を回す。一次系の主系統には、原子炉容器、一次系機器(一次主循環ポンプおよび中間熱交換器)があり、炉容器とこの一次系機器を配管で連絡したものはループ型炉と呼び、一次系機器を原子炉容器内に内装したものはタンク型炉(
プール型炉ともいう)と呼ぶ。原型炉「もんじゅ」はループ型炉で、フランスのPhenixとロシアのBN-600はタンク型炉である。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
改良型ガス冷却炉(AGR) (02-01-01-07)
ガス冷却重水炉(HWGCR) (02-01-01-08)
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
高速増殖炉 (03-01-01-01)
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
<参考文献>
(1)日本原子力文化振興財団(編):原子力の基礎講座3 原子力発電 改訂第5版、日本原子力文化振興財団(1996年5月)
(2)石川寛(執筆、監修)、青地、浅岡、佐野川、澤井、望月:原子力の基礎講座4 新型原子炉 改訂第5版、日本原子力文化振興財団(1996年5月)
(3)W.マーシャル(編)住田健二(監訳):原子炉技術の発展(上)、筑摩書房(1986年9月)
(4)W.マーシャル(編)住田健二(監訳):原子炉技術の発展(下)、筑摩書房(1986年10月)
(5)(財)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)、(1992年10月)
(6)日本原子力産業協会(編):世界の原子力発電開発の動向 2006年次報告(2007年4月)
(7)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改訂版)(2002年6月)
(8)IAEA(編):Directory of Nuclear Reactor,Vol.7 Power Reactors(Suppl.to Vol.4),IAEA(1971)
(9)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状 1996年、日本原子力研究所(1996年10月)
(10)堀雅夫(監修)、基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(11)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、電気事業連合会:
(12)Uran Institute:Pressurized heavy water reactor,(Mar,2001)、World Nuclear Association(旧Uran Institute):Pressurized heavy water reactor(PHWR or CANDU),
http://www.world-nuclear.org(Mar.2001)
(13)Chernobyl Accident(Mar.2006):World Nuclear Association Information and Issue Briefs,