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<概要>
 原子炉出口冷却材温度が700℃〜950℃の黒鉛減速ヘリウム冷却型熱中性子炉を高温ガス炉(HTGR)という。また、HTGRのうち、原子炉出口冷却材温度が950℃以上となるHTGRを超高温ガス炉(VHTR)とも呼ぶこともある。わが国では日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の高温工学試験研究炉(HTTR)が2004年4月に原子炉出口冷却材温度950℃での全出力(熱出力30MW)運転に成功している。HTGRシステムは、炉心構成、(炉心)出力密度原子炉圧力容器および一次冷却系主要機器に特徴がある。炉心は耐熱性に優れる被覆燃料粒子と黒鉛材料で構成され、ヘリウムガスで冷却され、低出力密度炉心と相まって高度の固有安全性を達成できる。燃料にはウランの他トリウムも利用でき、平均燃焼度10万MWd/t以上が得られる。また、高温のヘリウムガスは高効率発電のみならず水素製造等の熱利用も可能な特徴を持つ。
<更新年月>
2022年02月   

<本文>
1.燃料
 黒鉛減速ヘリウム冷却型熱中性子炉を高温ガス炉(HTGR又はHTR)という。各種ガス冷却型発電用原子炉の主要目を表1に示す。炉心温度が高いため金属材料の代わりにセラミックス材料で炉心が構成されることが他の炉型と比較した時の最大の特徴である。高温ガス炉システムの特徴を他のわが国での在来炉と比較しながら、その炉心構成、炉心出力密度、一次冷却系機器等のFP(核分裂生成物)障壁等について述べ、さらに将来の工業的利用の可能性について説明する。
 図1に高温ガス炉用の球状燃料とブロック型燃料を示す。燃料は、ウラン酸化物等の微小粒子を熱分解炭素(PyC:Pyrolytic Carbon)、炭化珪素(SiC)で多重に被覆した直径1mm以下の粒子(被覆燃料粒子)である。初期の炉ではPyCで2重に被覆したBISO型被覆燃料粒子を用いたが、現在は、セシウム137やストロンチウム90等の金属核分裂生成物をも効果的に閉じ込めるため、SiC層を有する4重被覆のTRISO型被覆燃料粒子が用いられている。この燃料粒子を集合して燃料要素とする方式に、球状燃料とブロック型燃料の2種類があり、いずれも黒鉛粉と混合焼結成形したものである。球状燃料は直径6cmの球に成形加工したものでドイツで開発された。また、ブロック型燃料には、細棒に成形し六角黒鉛ブロックの多数の穴に装填し封入するアメリカ型のマルチホール型(ブロック型)燃料と、環状ペレットに成形したものを黒鉛スリーブに挿入し燃料棒とし、これを多数本六角黒鉛ブロックに装着する日本の高温工学試験研究炉(HTTR)で採用しているピンインブロック型燃料がある。球状燃料は原子炉運転中に連続的に燃料交換を行えるが、ブロック型燃料は原子炉停止時に燃料交換を行う。
 HTGRの燃料サイクルについては、開発当初はトリウムの利用が積極的に追求され、ドイツやアメリカで導入された発電用原型炉では高濃縮ウラン、トリウムサイクルが採用された。しかし、核兵器不拡散条約の成立(1970年)以後は低濃縮ウラン(ドイツ、日本)または低濃縮ウラン/トリウム燃料に変更されている。南アフリカで検討されたPBMR(文献3、4)および米国ゼネラル・アトミック(GA)社で検討されたGT−MHR(文献3、5)は、使用済燃料を直接処分するワンススルーサイクルを採用する計画であった。一方、日本原子力研究開発機構で検討しているGTHTR300(文献6、7)は、使用済燃料を有効利用する再処理サイクルを採用する計画である。いずれの方式にも、実用化にあたり大きな障害となるような技術的な問題はない。

2.出力密度
 炉心の出力密度は原子炉本体の大きさを決定するため経済性(建設費)の観点から重要であるが、原子炉の用途(原子炉冷却材温度の高低)、燃料要素形式、固有安全性の程度(特に受動的崩壊熱除去)との関連があり、様々な設計が実用化され、または検討中である。ドイツのTHTR−300および米国のフォートセントブレイン炉の出力密度は、それぞれ6.0および6.3MW/m3であり、プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器(PCRV)を用い、一次冷却系の主要機器を一体構造とすることにより経済性向上を目指した(これらの炉は政策的、経済的理由から既に廃止されている)。一方、現在では、固有の安全性、特に、受動的崩壊熱除去を可能とさせるモジュール型高温ガス炉が一般的である。ドイツの技術を基礎として南アフリカで検討されたPBMRは4.3MW/m3である。一方、GA社のGT−MHR、日本原子力研究開発機構のGTHTR300では、それぞれ6.5MW/m3、5.4MW/m3としている。いずれのシステムも発生が想定される最も厳しい事故においても燃料最高温度を1600℃以下に維持することで、燃料体が破損してFP放出を生じる苛酷事故を想定する必要のない設計(シビアアクシデントフリー)を基本としている。

3.一次冷却系機器等のFP障壁構造
 実用高温ガス炉の原子炉本体の構造形式の特徴として、FP障壁となる原子炉と一次冷却系機器の収納および配置方式を挙げることができる。すなわち、単基の熱出力が1000MWt程度以上の中型炉では、プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器(PCRV)が採用されてきた。PCRVは圧力容器として安全性が高く、また、一次冷却系機器を全てその内部に収納することができ、他形式に採用されるような圧力容器の外部に鋼製の一次冷却系配管を必要としないという利点を有している。しかし、現在は、原子炉出力を最大600MW程度に抑え、配管破断事故時においても燃料最高温度が許容温度を超えないように設計し、さらに、被覆燃料粒子の高温に至るまでのFP保持性能および低出力密度大熱容量炉心の崩壊熱除去の確実性を考慮して、耐圧、密封機能を要しないコンファインメント(原子炉格納施設)を採用するのが一般的となっている。

4.非電力分野での利用
 近年、地球温暖化対策として二酸化炭素の排出量ゼロを目標に掲げ、新たなエネルギー供給方法について世界各国で検討されている。高温ガス炉は950℃という高温の熱を供給できることから、発電以外にも様々な分野での利用が検討されており、地球温暖化対策に大きく貢献できる可能性を有しており、以下のような利用方法が検討されている。(図2)
 1)発電(ガスタービン、蒸気タービン)
 2)水素製造(熱化学法、高温水蒸気電解)
 3)アンモニア合成
 4)石炭ガス化
 5)石油精製、石油化学産業
 日本原子力研究開発機構では将来の高温ガス炉水素製造の実現を目指し、熱化学法ISプロセスによる水素製造技術の研究開発を進めており、工業材料製の装置を用いた連続水素製造試験を実施中である。水素製造技術の実用化に関する研究開発と並行して、実用規模の高温ガス炉GTHTR300で発電と水素製造を行うコジェネレーションシステムの設計研究も進めている。また、海外でも熱化学法や電解法を用いた水素製造技術の開発が行われている。現在、日本原子力研究開発機構で技術実証に向けて検討を進めているHTTRを用いた電力/水素コジェネレーションシステムの概念を図3に示す。

<図/表>
表1 各種ガス冷却型発電用原子炉の主要目
表1  各種ガス冷却型発電用原子炉の主要目
図1 高温ガス炉用の球状燃料とブロック型燃料
図1  高温ガス炉用の球状燃料とブロック型燃料
図2 高温ガス炉の多目的利用
図2  高温ガス炉の多目的利用
図3 HTTRを用いた電力/水素コジェネレーションシステム概念図
図3  HTTRを用いた電力/水素コジェネレーションシステム概念図

<関連タイトル>
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
高温ガス炉と軽水炉の相違 (03-03-01-03)
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
高温ガス炉の安全性 (03-03-03-02)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用 (03-03-05-01)
日本における高温ガス炉技術の開発と国際協力 (03-03-06-01)

<参考文献>
(1)日本原子力研究所:平成16年度日本原子力研究所年報(2005年)
(2)日本原子力研究所:‘Present Status of HTGR Research & Development’(2004)
(3)IAEA:‘Current status and future development of modular high temperature gas cooled reactor technology’,IAEA-TECDOC-1198(2002)
(4)Pieter J Venter,et al.:PBMR Reactor Design and Development’,SMiRT18,Beijing,China,Aug. 7-12,2005,SMiRT18-S02-2(2005)
(5)M.P.LaBar,et al.:‘Status of GT-MHR for Electricity Production’,World Nuclear Association Annual Symposium 3-5 Sep.,London(2003)
(6)K.Kunitomi,et al.:‘Japan’s future HTR-the GTHTR300’,Nuclear Engineering and Design 233,309-327(2004)
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