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1.旧ソ連型PWR、VVER-440の安全システムの特徴
旧ソ連型PWR、VVERの
原型炉と
実用炉のシリーズ化を
図1 に示すが、これら各種VVERのうち、VVER-440シリーズは、第1世代モデルのV-230も、第2世代モデルのV-213も、2基1対(ツイン)で常に構成されており、蒸気発生器は、原子炉1基につき6ループで横置きである。また、通常は原子炉1基に対し、220MWの蒸気タービンが2基取り付けられている。
VVER-440シリーズは、第1世代モデルのV-230も、第2世代モデルのV-213も、原子炉格納容器を持っていないことを基本形としている。その代わり、「事故時ローカリゼーション・コンパートメント」という西側のPWRには見られない旧ソ連型のPWRに独特の安全システムを有している。これは、シール(密封)されたコンパートメント(隔室)の中に事故時の放出蒸気を
封じ込め、スプレー設備でホウ酸水を噴射させて蒸気を凝縮し、これによって事故の拡大を局所化しようという安全システムである。
VVER-440の第2世代モデルV-213には、このような事故時ローカリゼーション・コンパートメントに、さらに「気泡器・復水器タワー」という
安全機能が追加されている。これは、いわば、圧力抑制プール(およびエア・トラップ)を何層にも積み重ねたようなもので、蒸気発生器コンパートメントからの蒸気が圧力抑制プール水中に気泡として吹き込まれ、蒸気の凝縮が行われる仕組みになっている。
またVVER-440の第2世代モデルV-213には、高圧注入設備と低圧注入設備を有した非常用炉心冷却設備(ECCS)が装備されているが、第1世代の古いモデルV-230にはECCSは装備されていない。しかし、補給水ポンプは持っており、このポンプは、容量に制限はあるが(通常の圧力時で100m
3/hの一次系の小規模漏洩に対応できる程度)、非常用炉心冷却の機能も果たし得る。
2.事故時ローカリゼーション・コンパートメントの仕組みと安全機能
同じVVER-440でも第2世代モデルV-213は、事故時ローカリゼーション・コンパートメントの安全機能を気泡器・復水器タワーで追加拡充し、加えてECCSも有しているが、第1世代モデルのV-230は、事故時ローカリゼーション・コンパートメントしか有しておらず、ECCSもないため、事故時の安全防護という点で西側から大きな懸念をもって見られている。
VVER-440モデルの場合、蒸気発生器や
加圧器、あるいは一次系ポンプや隔離弁などはシール(密封)されたコンパートメント(隔室)の中に置かれており、また一次系主配管の入口部と出口部や
原子炉圧力容器の低位部も同様にシールされたコンパートメントになっている。
これらのコンパートメントのうち
図2 に示すように、
(1) 6ループの横置式の蒸気発生器と加圧器が置かれたコンパートメント
(2) その上方部分のポンプ室で、6基の
一次冷却材ポンプの電動モーターや一次系ホットレグ、コールドレグの隔離弁の電気駆動装置が置かれたデッキ・コンパートメント
(3) 原子炉シャフトの低位部(原子炉圧力容器の支持部よりも下の部分)のコンパートメント
といった3つのコンパートメントは、独立系を成しており、事故時の
核分裂生成物を含んだ蒸気の放出を、事故が発生したコンパートメントで封じ込めるようになっている。
さらに、事故が発生しないコンパートメントでも封じ込めるようにしていき、最終的には約10,000m
3の体積まで、事故時の放出蒸気を封じ込め得るようになっている。これらの事故時ローカリゼーション・コンパートメントは、0.1メガ・
パスカル(1気圧)の圧力状態でも維持できるように設計されている。この場合の
想定事故は、有効口径10cmの一次系破断である。
蒸気発生器コンパートメントとデッキ・コンパートメントには、ホウ酸水をスプレーするためのスプリンクラーが備え付けられており、破断口からの蒸気放出による過圧状態が0.02メガ・パスカル(0.2気圧)を超えた時にスプレーが作動し、蒸気を凝縮する。最初にスプレーされるのはホウ酸水で、サンプ設備で散水されたホウ酸水と凝縮蒸気が回収され、スプレー・ポンプでスプリンクラーへ再循環される。なお、原子炉シャフト下部のコンパートメントには、スプレー設備は付けられていない。
事故時の放出蒸気が蒸気発生器コンパートメントとそのスプレー設備、およびデッキ・コンパートメントとそこのスプレー設備、さらには原子炉シャフト下部のコンパートメントでも封じ込めきれず、これら事故時ローカリゼーション・コンパートメントの圧力が0.08メガ・パスカル以上に上昇した場合は、
図2に図示したように、蒸気発生器コンパートメントの外側の壁に設けられた開口部(ベント設備)を経て、核分裂生成物を含んだ蒸気が直接、大気中へ放出される。このような放出が行われるのは、0.1メガ・パスカルという設計圧力に近い過圧状態になった場合に、事故時ローカリゼーション・コンパートメントの
圧力バウンダリに対し構造上の損傷を与える恐れがあるからである。
さらに一層高い圧力になった場合、例えば50cm口径の入口側もしくは出口側配管のギロチン破断が生じたような時には、0.4メガ・パスカルで開くラプチャ・ディスクという圧力逃し設備(上述のベント設備と同様に、蒸気発生器コンパートメントの外側の壁に設けられている)によって、核分裂生成物を含んだ蒸気は、直接大気中へ放出される。このラプチャ・ディスクは、一度開くと、そのまま開いたままになっている。
3.IAEAの設計レビュー結果
IAEAでは、VVER-440モデルV-230の安全性について設計面からのレビューを行うため、1990年9月に10カ国、3国際機関から32名の専門家を集めて諮問グループを発足させ、1991年8月にそのレビュー結果を取りまとめている。
このIAEAの設計レビューは、炉心設計、系統解析、機器の健全性、計装制御、電気系統、事故解析の6分野に分けて行われ、各分野ごとの問題点に対し、次のような4段階のランク付け評価を行っている。
カテゴリー1:国際的に認知された慣行から逸脱している。
カテゴリー2:安全上、懸念がある。プラントの
深層防護が低下している。何らかの対策が必要。
カテゴリー3:著しい安全上の懸念がある。深層防護は不十分である。直ちに改善対策が必要。
カテゴリー4:安全上、最高度の懸念がある。深層防護は欠如している。緊急に補正措置を講じることが必要。
設計レビューの対象となった6分野のうち、安全システムの設計面に直接的に係わる「系統解析」の分野において、カテゴリー4(最高度の懸念)と評価された問題点は次の3点である。
(1) ECCS(蓄圧注入設備、低圧注入設備)が欠如していること
(2) 崩壊熱除去が蒸気発生器にのみ依存していること
(3) 主蒸気管破断に対し、急速隔離機能が欠如していること
これらの3点について、IAEAの設計レビュー結果を要約すると、
表1 のようになる。
この他、カテゴリー3(著しい懸念)と評価されているのは、崩壊熱除去のための動的機器の信頼性、最終
ヒートシンクとしてのサービス水系の信頼性、一次系圧力逃し弁の作動性、ベンチレーションと室内温度のコントロール、および水素爆発の可能性もある封じ込め機能の低さといった5点である。
上述のカテゴリー4もしくはカテゴリー3としてランク付け評価された問題点のうちで、事故時ローカリゼーション・コンパートメントに直接関係するのは、「封じ込め機能の不十分さ」というカテゴリー3の問題点だけである。これについてIAEAはその設計レビューでは、「モデルV-230は、事故時ローカリゼーション・コンパートメントの封じ込め機能に必要以上の信頼を置いている。しかしながら、現行の封じ込め機能では、一次系から放出される
放射能を許容レベル内に抑えることはできない。特に懸念される点はシールされたコンパートメントの漏洩の恐れと水素爆発の可能性の2点である」と指摘している。
<図/表>
<関連タイトル>
ロシア型加圧水型原子炉(VVER) (02-01-01-03)
ロシア型軽水炉(VVER)燃料 (04-06-03-08)
旧ソ連・東欧諸国へのIAEAによる協力・支援 (13-03-01-01)
旧ソ連型原子炉に対するWANOの見解 (14-06-01-13)
<参考文献>
(1) 日本原子力産業会議 「中欧および東欧における原子力発電所の安全性−概要とVVER-4 40/230型原子力発電所の安全性に関するIAEAプロジェクトの主な評価結果」「原子力 資料」No.256 1992年5月
(2) 株式会社 アイ・イー・エー・ジャパン 「米国原子力情報サービス」No.140 1992年5月
(3) 株式会社 アイ・イー・エー・ジャパン 「米国原子力情報サービス」No.141 1992年6月