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<概要>
ロシアの原子力発電の主力は、加圧水型軽水炉(VVER)並びに黒鉛減速沸騰軽水冷却チャンネル型大型炉(RBMK)である。現在(1998年12月31日)、稼働中のVVERは、VVER−440が27基、VVER−1000が20基の合計47基である。VVERは、原子炉容器外径は鉄道輸送するため最大4.5mとし、炉心はその中に設置できるようにコンパクトに設計されている。燃料集合体は、燃料棒を三角格子配置とし六角柱状に束ねたもので、VVER−440にはチャンネル套(チャンネルボックス)が付いている。しかしVVER−1000は、PWRと同様にオープンチャンネルで燃料集合体内にロッドクラスター型制御棒が挿入できる構造になっている。燃料被覆管材にはZr−1%Nb合金が初期から使用されており、高燃焼度条件下での被覆管の酸化膜は少ないので、西側のPWR燃料に比べてより高燃焼度化も容易であるとしている。歴史的変遷、原子炉炉心、燃料構造、燃料特性および燃料製造などについて以下に述べる。
<更新年月>
2000年02月   

<本文>
1.歴史的変遷
 ロシアの原子力発電炉の開発は1955年代に始まり、非放射性飽和蒸気の中圧タービンを持つVES−2(Water Electron Station−2)が最初の動力炉として選定された。この改良型がVVERの原型炉でVVER−1と呼ばれている。
 VVERの商業用発電は、1964年9月にノボボロネジ発電所1号機により開始された。VVERの第1世代は、ノボボロネジ1号機、2号機のVVER−210、VVER−365および旧東独のラインズベルグ発電所のVVER−70でいずれも廃炉になっている。
 第2世代は、電気出力44万kWのVVER−440が27基で、第3世代は100万kWのVVER−1000が20基であり、合計47基のVVERが旧ソ連圏およびフィンランドなどで稼動中である。なお、VVERはAtomic Power Station with Water−Cooled and Water−Moderated Reactorのロシア語の略称である。
2.VVER原子炉と炉心
 VVER原子炉は、原子炉容器を鉄道輸送できる様に、外径を最大4.5mとし、炉心はその中にコンパクトに設計されている。
 VVER−440の一次系圧力は、12.5MPa、一次冷却材の炉心入口温度は268℃、出口温度は289℃で日本のPWRに比べて低圧低温であり、炉心熱効率は余り優れたものとは言えない。一方VVER−1000は、日本や欧米のPWR炉心条件に近く、一次系圧力が16.0MPa、一次冷却材の炉心入口温度および出口温度を夫々289℃、320℃に設定して、発電効率を大幅に向上させている。
 VVERの燃料バンドルは、燃料棒を三角格子配置として六角柱状に支持格子で束ねたもので、高速炉用燃料集合体の束を緩くした様な形状である。VVER−440の燃料集合体にはBWR 燃料の様にチャンネル套(チャンネルボックス)が取付けられている。また、VVER−1000の燃料集合体はVVER−440と同様、六角柱状であるが、チャンネル套はなく炉心内はオープンチャンネルで、クラスター状の制御棒が燃料集合体内に挿入できる構造でPWR燃料集合体に近い。
 VVERの炉心の出力制御は、PWRと同様に制御棒と一次冷却水にホウ酸を添加するケミカルシム方式であるが、PWRの炉水管理が水素添加とリチウムによっているのに対して、VVERはアンモニアとカリウムで行われている。
 VVER−440およびVVER−1000の原子炉の構造を 図1 に、VVER−1000プラントの炉心および蒸気発生器を収納した原子炉格納容器内配置図を 図2 に示す。VVER−1000の炉心の主要諸元をPWRの4ループ(1,200MWe級PWR)と対比させたものを 表1 に、VVER−1000炉心の燃料集合体と制御棒の配置図を 図3 に示す。
3.燃料の構造
 VVERの燃料棒は、燃料材に低濃縮UO2のチャンファー付き中空ペレットを、ペレット押さえばねにはステンレス鋼のクリップスプリングを、また被覆管および端栓にはZr−1%Nb(呼称E−110)合金を使用してHe 加圧して組立てたものである。
 燃料棒外径は、VVER−440およびVVER−1000何れも9.1mmであり、被覆管肉厚は0.7mmである。これを日本の17×17型PWR燃料の燃料棒と比較すると、燃料棒直径を細めにしてまた中空ペレットを採用することで炉心当たりの平均線出力と中心温度を下げ、被覆管肉厚を厚めにすることにより強度上の余裕を持たせた設計となっている。
 VVER−440の燃料集合体は、126本の燃料棒、10個の支持格子、中央部シンブル管、上下ノズルからなる燃料バンドルに、チャンネル套を取付けたものである。一方VVER−1000の燃料集合体は、312本の燃料棒、15個の支持格子、18本の制御棒案内シンブルと中央部案内シンブルおよび上下ノズルで構成されたものである。いずれも支持格子、制御棒案内シンブルおよび中央部シンブルはステンレス鋼が使用されている。
 VVER−1000の燃料棒の構造と燃料集合体の構造をそれぞれ 図4図5 に、また比較のために、VVER−440、VVER−1000燃料とPWR17×17燃料の主要仕様を 表2 に示す。
4.燃料被覆管と燃料特性
 VVER燃料被覆管には、初期の時代からZr−1%Nb合金のE−110が使用されている。この被覆管の高燃焼度領域での水側腐食は、PWR燃料の数分の1以下と少なく、また緻密な酸化膜で水素化物の生成もそれに比例して少ない。これは、VVERの被覆管材がZr‐Nb合金でPWRの被覆管材のZr−4との違いによるものか、炉水条件の差によるものか、或いはその相乗効果によるものかは明らかにされていない。
 現在VVER−1000の燃料集合体は43〜45GWd/tUの燃焼度で、運転サイクルは3〜4年である。今後、燃料燃焼度を55〜60GWd/tUまで引上げて5〜6年の運転サイクルにする開発計画が推進されている。今後の燃料高燃焼度化に対応して行くため、世界的に新組成の被覆管材料の開発が盛んであり、ロシアではZr−1%Nb合金にSn、Feを加えた新合金のE−635(Zr−1%Nb1.2%Sn‐0.4%Fe)が開発され実用化の検討が進められている。この材料はVVERの被覆管および支持格子材等に、またRBMK(黒鉛減速沸騰軽水冷却チャンネル型大型炉)の燃料被覆管にも使用する検討が進められている。
 ロシアでは、VVER燃料被覆管の耐食性が優れていること( 図6 参照)、並びに燃料棒の燃焼に伴う出力ランプ試験等のデータ( 図7 参照)からも、VVER燃料はPWR燃料よりも燃焼度の延長が容易であると主張している。
5.燃料製造
 低濃縮UF6からUO2粉末への再転換には、UF6を加水分解しADUにして焙焼還元する湿式法と、UF6を酸素・水素火炎中でのUO2粉末へ直接転換する火炎乾式法の二つの方式が各々別の工場で採用されている。UO2ペレットの加工は、一般的な粉末冶金法によって、チャンファー付き中空ペレットを金型でプレス成型後、焼結、研削仕上げしている。ペレットの形状を中空にすることによって中心部領域の温度上昇を避けることができる。
 燃料棒は、燃料被覆管にUO2ペレットを挿入し押さえばねを入れた後、端栓をHe雰囲気中で溶接して組立られる。この燃料棒を洗浄した後、アルカリ電解溶液中に入れ、電解法で燃料棒の被覆管表面に薄い酸化膜で保護膜を形成させている。
 VVER−440燃料集合体の組立てには、燃料棒を支持格子に挿入する際に支持格子ばねによる燃料棒表面に瑕が発生するのを防止するため、まず燃料棒をポリビニールアルコールの中にドブ漬けにした後、空気中で乾燥させて、燃料棒の表面に皮膜をつける。組立て冶工具により、10個の支持格子を中央部の1本の計装用シンブルで位置決め固定し、その中に126本の燃料棒を挿入する。これに上下ノズルを取付けた燃料棒バンドルは、燃料棒表面のポリビニールアルコールを除去するため洗浄乾燥される。これにチャンネル套を取付けてVVER−440の燃料集合体が完成する。
 VVER−1000の燃料集合体の製造工程は、基本的にVVER−440に類似し、主な違いは燃料集合体の大きさと形状の違いから来るものと考えられる。VVER−1000燃料集合体は、15個の支持格子と16本の制御棒案内シンブルと1本の中央部の計装用案内シンブルで構成される支持骨格を組立て、これに燃料棒挿入用の冶工具で312本の燃料棒を挿入して組立て、これに上下ノズルを取付けて完成される。
 なお、燃料被覆管はグラゾフのチェペッキ機械工場で製造されている。VVER−440燃料の製造は、エレクトロスタリの機械建設工場で濃縮UF6の再転換から全工程の燃料集合体完成までを、VVER−1000燃料の製造は、カザフスタン、ウスチカメノゴルスクのウルビンスク冶金工場で再転換からUO2ペレット製造を、シベリア、ノボシビルスクの化学コンチェルン工場で燃料棒、燃料集合体組立て完成まで行っている。 図8 にノボシビルスクの化学コンチェルン工場で完成したVVER−1000の燃料集合体をクレーンで移動している様子を紹介する。
<図/表>
表1 VVER−1000とPWR‐4ループ炉心の主要諸元
表1  VVER−1000とPWR‐4ループ炉心の主要諸元
表2 VVER−440、VVER−1000とPWR17×17燃料の主要仕様
表2  VVER−440、VVER−1000とPWR17×17燃料の主要仕様
図1 VVER型原子炉容器図
図1  VVER型原子炉容器図
図2 VVER−1000の原子炉格納容器内配置図
図2  VVER−1000の原子炉格納容器内配置図
図3 VVER−1000の炉心(燃料と制御棒配置)
図3  VVER−1000の炉心(燃料と制御棒配置)
図4 VVER−1000の燃料棒の構造
図4  VVER−1000の燃料棒の構造
図5 VVER−1000の燃料集合体の構造
図5  VVER−1000の燃料集合体の構造
図6 VVERとPWRの各種燃料被覆管の炉内腐食
図6  VVERとPWRの各種燃料被覆管の炉内腐食
図7 VVER燃料の出力ランプ試験結果(ロシアMIR炉)
図7  VVER燃料の出力ランプ試験結果(ロシアMIR炉)
図8 燃料工場のVVER−1000燃料集合体
図8  燃料工場のVVER−1000燃料集合体

<関連タイトル>
発電炉用ウラン燃料 (04-06-01-05)

<参考文献>
(1)近藤 吉明:ロシア型軽水炉VVERの燃料、日本原子力学会誌、Vol.41, No.7, p.766?772(1999年)
(2)(社)日本原子力産業会議:「ロシアにおける軽水炉燃料に関する調査報告書」(1996年3月)
(3)(社)日本原子力産業会議:「日ロ軽水炉燃料専門家会議報告」(1997年3月)
(4)藤井 晴雄・森島 淳好(編):原子力発電プラントデータブック 1994、日本原子力情報センター(1994.8)
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