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<概要>
 ロシア型加圧水型原子炉VVER(WWERとも表記)は、旧ソ連で開発され、旧ソ連・東欧諸国で広く発電炉として運転されている加圧水型原子炉である。電気出力440MW級のVVER−440と1000MW級のVVER−1000とがある。VVER−440には第一世代のVVER−440/V−230と第二世代のVVER−440/V−213とがある。VVER−440/V−230は、非常炉心冷却系が不十分なこと、原子炉格納容器がないことなど、西欧側から安全性の問題が指摘され、国際原子力機関(IAEA)を中心に安全設計のレビューを受けた。第三世代のVVER−1000は西欧型PWRとの共通点も多く、ほぼ西欧並みの安全性を有している。また、安全性向上と経済性向上を目指した次世代炉として、VVER−1000の改良型VVER−1200/AES−2006の原型炉が建設中である。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.VVERの概要
 VVERは、旧ソ連で開発され、旧ソ連・東欧諸国で広く発電炉として運転されている。表1にVVERの運転状況と建設状況の一覧、表2にVVER主要設計諸元一覧を示す。VVERは、軽水を原子炉冷却材と中性子減速材として用いる加圧水型原子炉(PWR)である。炉心で加熱された高温高圧の一次冷却材蒸気発生器(SG)に導き、蒸気発生器伝熱管を介して熱交換し二次側に蒸気を発生させる基本構成は西欧型PWRと大きな相違はない。VVERの特徴は、西欧型PWRと比べると、横置蒸気発生器(西欧型PWRでは立置き)、六角形格子燃料集合体(西欧型PWRでは正方形格子)、制御棒中性子吸収材にユーロピウム(西欧型PWRでは銀、インジウム、カドミウムの合金)などである。西欧型PWRでは、出力の増大に比例してループ(原子炉容器、蒸気発生器および一次系ポンプを連絡している配管)数が、2ループ、3ループ、4ループと増加している。一方VVERでは、第一世代のVVER−440/V−230と第二世代のVVER−440/V−213では6ループで、第三世代のVVER−1000/V−320は4ループの設計である。
 [第一世代VVER]主にVVER−440/V−230:1956年から1970年にかけ開発された。
 [第二世代VVER]VVER−440/V−213:1970年から1980年にかけ開発された。
 [第三世代VVER]VVER−1000/V−320:1975年から1985年にかけ開発された。
 [次世代炉]:ロシアが開発する次世代炉は国内外の最新の安全基準を満たすと同時に、技術的、経済的にも競争力を有する原子炉の一つである。次世代炉の中心はVVER−1000の改良型VVER−1200/AES−2006に決定し、原型炉が建設中で、ノボボロネジ−II−1号機が2008年6月着工、レニングラードII−1号機が2008年10月着工している。2012年から2014年には、毎年1200MWeクラスを2基、以降2020年まで毎年3基ずつ運転開始の予定としている。
2.VVERの安全問題
 ドイツでノルト(グライフスバルト)原子力発電所(VVER−440/V−230)の安全評価を行って以来、旧ソ連・東欧諸国のロシア製原子力発電所の安全問題が顕在化した。さらに、1991年にはIAEAの安全評価ミッションがブルガリアのコズロドイ原子力発電所等に派遣され、安全問題がさらにクローズアップされた。表3にVVERの非常用炉心冷却系主要諸元一覧を示す。とくにVVER−440/V−230では非常用炉心冷却系(ECCS)が十分な機能を有していないこと、および西欧型PWR並の原子炉格納容器が無いことが問題とされた。原子炉容器鋼材の中性子照射脆化も問題となっている。VVER−1000については、旧ソ連で1982年に発効した新しい技術基準に従って設計され、ほぼ西欧並みのECCSおよび原子炉格納容器を採用している。
 なお、フィンランドはVVER−440/V−213型の2基(ロビーサ−1、−2)を運転しているが、西欧型PWR設計仕様の計装・制御装置および原子炉格納容器(アイスコンデンサ)を設備している。チェコのテメリン−1、−2(VVER−1000/V−320)は西欧型PWR並の安全性、制御機器および燃料が取り入れられた。またブルガリアのコズロドイ−1、−2(VVER−440/V−230)は、2002年にEU加盟条件の合意によって閉鎖、さらにコズロドイ−3、−4(VVER−440/V−230)とスロバキアのボフニチェ−1号機(VVER−440/V−230)は、安全性向上のための改造がなされたが政治的判断で2006年末閉鎖している。
3.VVERの構成
3.1 原子炉容器
 VVER−440の原子炉容器を図1に、原子炉容器断面図を図2に示す。VVER−1000の原子炉容器を図3に示す。
 VVER−440/V−213の炉心は燃料集合体276体と可動式制御棒集合体73体とで構成されている。燃料集合体は断面が正六角形で燃料棒126本で構成されている。VVER−1000では燃料棒312本からなる燃料集合体151体と109体の制御棒で構成されている。制御棒の中性子吸収材として、西欧型PWRでは銀−インジウム−カドミウム合金なのに対し、VVER−1000ではユウロピウムを採用している。
3.2 一次冷却系(原子炉冷却系)
 VVER−440では6ループ、VVER−1000では4ループであり、各ループに1台の一次冷却材ポンプが設置されている。VVER−440ではループ数が多く、また出力当りの一次冷却材の保有水量が多く原子炉冷却材喪失事故(LOCA)に対し一つの利点となっている。各ループ毎に隔離弁が備わっており、例えば蒸気発生器(SG)伝熱管から漏洩が発生したような場合、そのループのみを隔離して原子炉運転を継続できるが、VVER−1000にはこのような隔離弁はない。
 蒸気発生器は、西欧型PWRでは縦置U字管式であるのに対して、VVERでは横置きであり(図4参照)、蒸気発生器の数は各ループに対して1個である。VVER−1000では蒸気発生器の数が減っているのは、蒸気発生器が大型化できたことによる。VVER−1000では、低温側水室(コレクター)のU字管支持部にき裂が相次いで発生し問題となった。
3.3 二次冷却系(蒸気系)
 蒸気発生器で発生した蒸気はタービン発電機で仕事した後復水器で水に戻され、再び蒸気発生器に戻される。VVER−440では電気出力220MWのタービン発電機2基を有しているのに対し、VVER−1000では1000MWのタービン発電機1台となっており、この点では西欧型PWRと同じ構成となっている。
3.4 非常用炉心冷却系(ECCS)
 表3にVVERの非常用炉心冷却系(ECCS)の主要設計諸元を示す。ECCSは一次冷却系配管が破断し、LOCAに至ったような場合に、一次冷却系に冷却水を注入し炉心の冷却を確保するための設備である。西欧型PWRでは、設計上小口径配管の破断から大口径主配管の両端破断(ギロチン破断)まで想定して、高圧注入系、低圧注入系および蓄圧注入系を備えている。VVER−440/V−230では小口径配管の破断しか想定していないので、高圧注入系は2系統あるが低圧注入系や蓄圧注入系は無く、西欧型PWR並の基準にもとづくECCSは設置されていない。一方改良型のV−213では大口径配管の両端破断を想定して、高圧注入系、低圧注入系各々3系統および蓄圧注入系4系統を備えており、一応のECCSが設置されている。VVER−1000/V−320のECCSは、VVER−440/V−213とほぼ同じ構成となっている。
3.5 原子炉格納システム
 図5にVVER−440の主建屋垂直断面図を示す。西欧型軽水炉の原子炉格納容器はLOCA等の事故時に放射性物質の環境への放出防止の重要な役割を果たしている。VVER−440/V−230およびV−213では、事故時局所化系と呼ばれる原子炉格納システムを有しているが、配管や原子炉容器を区画化された小部屋で覆ったものであり、原子炉格納容器とは呼び難い。LOCAが発生した場合、放出される高温高圧の蒸気をバブリング・コンデンサータワー(凝縮塔)で凝縮させ、圧力の上昇を抑制する。IAEA等によるレビューでは、いずれの原子炉格納システムも耐圧設計が弱く気密性にも問題があると指摘された。VVER−1000では、西欧型PWR並みのコンクリート製原子炉格納容器が設置されており、設計圧力も西欧型PWR並みに0.41MPaと高い。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
表1 VVERの運転状況と建設状況の一覧
表1  VVERの運転状況と建設状況の一覧
表2 VVERの主要設計諸元一覧
表2  VVERの主要設計諸元一覧
表3 VVERにおける非常用炉心冷却系主要諸元一覧
表3  VVERにおける非常用炉心冷却系主要諸元一覧
図1 VVER−440の原子炉容器(ノボボロネジ−3/4)
図1  VVER−440の原子炉容器(ノボボロネジ−3/4)
図2 VER−440の原子炉容器横断面図
図2  VER−440の原子炉容器横断面図
図3 VVER−1000の原子炉容器
図3  VVER−1000の原子炉容器
図4 VVER−440の蒸気発生器
図4  VVER−440の蒸気発生器
図5 VVER−440の主建屋垂直断面図
図5  VVER−440の主建屋垂直断面図

<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ロシアのPA動向 (14-06-01-07)
旧ソ連型VVER-440/V-230に対するIAEA安全評価 (14-06-01-12)
旧ソ連型原子炉に対するWANOの見解 (14-06-01-13)
コズロドイ原子力発電所(ブルガリア)のIAEAによる安全調査 (14-06-06-09)
ボフニチェ原子力発電所(チェコ・スロバキア)のIAEAによる安全調査 (14-06-07-03)
ハンガリーの原子力発電開発 (14-06-09-04)
VVER型原子炉ノボボロネジ1号炉の建設 (16-03-02-06)

<参考文献>
(1)高橋、中西:旧ソ連型炉の特徴と現状(3)−VVERの現状と特性−、原安協だより第140号(平成6年6月)
(2)原子力安全研究協会:旧ソ連型炉データブック(資料編)(1993年3月)
(3)原子力安全研究協会:旧ソ連型炉データブック(解説編)(1994年3月)
(4)科学技術庁原子力安全局:チェルノブイル(事故後の放射線の影響と原子炉のしくみ)(1995年3月)
(5)日本原子力産業協会(編):世界の原子力発電開発の動向2007/2008年版(2008年4月)
(6)IAEA:Directry of Nuclear Reactor Vol.X(1976)
(7)森谷渕:VVERの安全性と国際協力、日本原子力学会誌、35(10)、905−915(1993)
(8)藤井晴雄、森島淳好:詳細原子力発電プラントデータブック1994、日本原子力情報センター(1994年8月)
(9)旧ソ連原子力情報収集事業報告書、社団法人ロシア東欧貿易会(ロシア東欧経済研究所)(1996年3月)
(10)Jacques Leclercq:The Nuclear Age,published by Le Chene(1986)p.112
(11)ミッテンコフ(ロシア原子力省OKBM所長):ロシアにおける一体型舶用炉の開発、日本原子力研究所第3回原子力船研究成果報告会(1995年)
(12)International Nuclear Safety Center:VVER Design,(Mar.2001)
(13)World Nuclear Association:Nuclear Power in Russia(December 2008),http://www.world-nuclear.org/info/inf45.html
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