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<概要>
 1986年のチェルノブイル事故は、大規模な原子力災害の影響は一国に留まらない事を示した。また、旧ソビエト連邦(ソ連)の原子力技術の問題点が明るみに出た。1991年のソ連の崩壊は連邦諸国の独立を促した。一方、国際社会にとっては事故の収拾と旧ソ連の原子力技術の向上は大きな課題になった。国際原子力機関(IAEA)は、旧ソ連の原子力技術のうち、発電に利用されていたVVERおよびRBMKの評価、チェルノブイル事故の評価・収拾、および東欧諸国の原子力関連技術の支援と向上に大きな役割を果たしている。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.背景
 1986年のチェルノブイル事故は、大規模な原子力災害の影響は一国に留まらない事を示した。また、旧ソビエト連邦(ソ連)の原子力技術の問題点を明るみに出すこととなった。
 1991年にソ連が崩壊し、連邦諸国が独立すると、チェルノブイル事故の収拾は個々の独立国の課題となった。一方、国際社会にとって、事故の収拾と旧ソ連の原子力技術の向上は大きな課題になった。原子力の平和利用と核不拡散を目指す国際原子力機関(IAEA)は、旧ソ連の原子力技術のうち、発電に利用されていたVVERおよびRBMKの評価、放射線利用等の原子力関連技術の向上、およびチェルノブイル事故の評価・収拾に大きな役割を果たす事になった。一方、研究開発の人的資源の適切な処遇と研究開発力の流出防止は、別に国際科学技術センター(ISTC)が担うことになった。
2.VVERとRBMKの評価プロジェクト
 旧ソ連の発電炉の評価は、IAEAの原子力安全局が中心である(図1)。ロシア語でVVER(英語ではWWER)と表記される炉は旧ソ連の加圧水型原子炉である。電気出力440MW級のVVER−440、1000MW級のVVER−1000等がある。VVER−440には第一世代のVVER−440/V−230と第二世代のVVER−440/V−213がある。このうちVVER−440/V−230は、非常用炉心冷却系が不十分、原子炉格納容器がない等から安全上の課題が以前から指摘されていた。VVER−1000は西欧型の加圧水型(PWR)とほぼ同程度の性能を有している。原子力安全局はこれらの原子炉を1990—98年に評価した。
 RBMK(英語ではLWGR)は、原子炉冷却材に軽水を、中性子減速材に黒鉛を、燃料には低濃縮ウランを使う発電用原子炉である。燃料を燃料チャンネルと称する圧力管の中に置き、この圧力管中に軽水を流して燃料から熱を採り出す。圧力管中でできた蒸気はタービン発電機を回転し発電する。RBMKは旧ソ連独自の原子炉であり、チェルノブイル事故を起した炉型である。原子力安全局はVVERと合わせ1992—98年に評価した。
 VVERとRBMKの評価結果は、1999年に報告書:「VVERとRBMK原子炉の安全に関する計画最終報告(Final Report of the Programme on the Safety of WWER and RBMK Nuclear Power Plants)」で公開され、課題、注意事項等が明らかになった。
 表1は本プロジェクトへの参加国などを示す。日本の貢献は大きい。
3.チェルノブイル事故の評価
 これは、原子力安全局が中心のプロジェクトである。チェルノブイル事故で惹き起こされた放射能汚染に関し、IAEAは二つの対応を進めた。第1は事故の影響を継続的に調査する「チェルノブイルプロジェクト」である。第2は旧ソ連の求めに応じて約一年で汚染地域を調査し、対策を評価した「国際チェルノブイルプロジェクト」であった。
(1)チェルノブイルプロジェクト:当事故による健康影響、環境影響、生態系影響等の調査・研究は、事故直後から継続し、被災国の生活、社会、経済等への間接的支援である。
 成果は、多くの委員会報告のほかに事故10年目には、調査報告書「事故後10年報告—事故のまとめ(One Decade after Chernobyl—Summing up the Consequences of the Accident」、15年目には「事故後の15年、その教訓(Fifteen Years after the Chernobyl Accident,Lessons Learned)」、「チェルノブイル事故の健康影響:15年間の追跡調査(Health Effects of the Chernobyl Accident:Results of the 15—year follow—up Studies)」、「チェルノブイル事故の人への影響—回復の戦略(The Human Consequences of the Chernobyl Accident−a Strategy of Recovery)」、20年後には「チェルノブイルの遺産、健康と環境と社会経済的影響、およびベラルーシ、ロシアおよびウクライナへの提言(Chernobyl’s Legacy:Health,Environmental and Socio—Economic Impacts and Recommendations to the Governments of Belarus,the Russian Federation and Ukraine)」等がある。
(2)国際チェルノブイルプロジェクト:1989年に旧ソ連からIAEAに、チェルノブイル事故で放射能汚染した地域の住民の安全を図り、影響低減のために採る方法の有効性を評価するプロジェクトの要請があった。この要請は、研究者、ヨーロッパ諸国、国連食糧農業機関(FAO)、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)、世界保健機関(WHO)等の協力を得て、「チェルノブイル事故によるソ連の放射線影響:健康と環境への影響と保護方法の評価に関するプロジェクト」が始まった。これは略して、「国際チェルノブイルプロジェクト(International Chernobyl Project)」と呼ばれた。
 1990年5月から12月までの間に、50の学術調査団、200人以上の専門家、25の国と7国際機関から派遣された研究者が旧ソ連を訪れ、詳細な野外モニタリング、住民の健康状態等を調査した。1991年5月には報告会議を開催し、成果は「国際チェルノブイルプロジェクト技術報告(The International Chernobyl Project Technical Report)」等に報告された。
4.原子力の平和利用技術
 IAEAの技術協力局が主体で進める原子力の平和利用活動である。協力分野は、健康管理、食料と農業、原子力科学、廃棄物管理、RI利用と放射線技術、発電など多岐にわたる。
 協力方式は、国別協力、地域協力、および地域間協力に分けられる。東欧はヨーロッパ地域(32国)に含まれる。表2はIAEAとベラルーシ間で2009年に進められている国別協力の例であり、表3はウクライナ、表4はロシアである。
<図/表>
表1 VVERとRBMKの安全に関する計画の資金(Extrabadget)および参加国
表1  VVERとRBMKの安全に関する計画の資金(Extrabadget)および参加国
表2 IAEAのベラルーシへの協力
表2  IAEAのベラルーシへの協力
表3 IAEAのウクライナへの協力
表3  IAEAのウクライナへの協力
表4 IAEAのロシアへの協力
表4  IAEAのロシアへの協力
図1 IAEAの組織の概要(2007年)
図1  IAEAの組織の概要(2007年)

<関連タイトル>
ロシア型加圧水型原子炉(VVER) (02-01-01-03)
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
旧ソ連型VVER-440/V-230に対するIAEA安全評価 (14-06-01-12)
IAEAによる開発途上国等への技術支援・協力 (13-01-01-01)
国際チェルノブイルプロジェクト (13-01-01-07)
旧ソ連の科学者・技術者の流出に係る国際科学技術センター(ISTC)の協力・支援 (14-06-01-15)

<参考文献>
(1)IAEAホームページ:Our work,Nuclear safety&security,Special project
(2)IAEA:IAEA−EBP−WWER−15,“FINAL REPORT OF THE PROGRAMME ON THE SAFETY OF WWER AND RBMK NUCLEAR POWER PLANTS“(1999),p.190−2,http://www-ns.iaea.org/downloads/ni/wwer-rbmk/wwer_15.pdf
(3)原子力安全委員会:原子力安全白書(平成11年)第5章、原子力安全に関する国際協力、第1節多国間協力等、1.国際原子力機関(IAEA)(4)その他の安全性向上のため の活動 (1)IAEA 旧ソ連、中・東欧安全評価プロジェクト
(4)IAEA:TC homepage,TC Programme,National projects,
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