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<概要>
 CANDU型発電炉やマグノックス型発電炉(東海発電所1号炉)のような運転中に燃料交換ができる発電炉では、燃料の挿入・取出しが原子炉の運転中に遠隔自動交換機で行われるので、その目視などによる検認が困難である。また多くが天然ウランを燃料にしているので、同出力の軽水炉に比べると燃料の交換頻度が高く、燃料燃焼の結果生成するプルトニウムの方がウランよりも保障措置の対象として重要なので、保障措置の重点は使用済燃料にある。さらに燃料集合体の大きさも一般に小さいので、申告されない経路を通しての転用が問題となる。これらの対抗手段としては特に封じ込め・監視を広範囲に用いることが必要である。通常MBA(物質収支区域)は施設当り1つとされ、KMP(主要測定点)も軽水炉の場合と似ているが、新燃料貯蔵区域や使用済燃料貯蔵区域でのKMPが多い。IAEAによる通常査察業務量は電気出力600MWの炉で年間最高50人・日の程度である。なお、現在検討が進められている統合保障措置では、適時性目標値等の見直しが行われており、年間査察業務量も大幅に効率化される見通しである。
<更新年月>
2006年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.運転中燃料交換発電炉の保障措置の特徴
 現在、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の対象となっている発電炉の内約30基が、原子炉の運転を停止せずに遠隔操作の燃料挿入・取出機によって連続的に燃料交換を行っている。これを運転中燃料交換発電炉(以下「オンロード燃料交換炉」という)といい、その種類はかなり多いが、最も数の多いのは、カナダが開発したCANDU型炉(Canadian Deuterium Uranium Reactor:カナダ型重水炉)と英国が開発したマグノックス型炉および改良型ガス冷却炉(AGR)である。日本には茨城県東海村にある日本原子力発電株式会社の東海発電所(1号炉)がマグノックス型炉であったが、1998年に営業運転を終了し、現在(2006年)解体中である。CANDU型炉やマグノックス型炉はいずれも天然ウランを燃料としているので、普通の軽水炉と比較して燃料集合体(CANDU型炉では燃料バンドルが数個直列に並んだものが軽水炉の1燃料集合体に相当するが、燃料交換はバンドル単位で行われる)は小さく、その年間交換数は出力が同程度の軽水発電炉に比べてはるかに大きい。新燃料集合体(または新燃料バンドル)は燃料加工工場において厳密な仕様で製造され、したがってこの段階で燃料の量および組成を検認することができる。
 しかしながら、炉内で燃料が燃焼滞留している間は検認は極めて困難であり、また燃料組成の変化は計算によってのみ評価できる。この場合、燃料集合体内で燃焼によって生成されるプルトニウムの方が、燃料中のウランよりも保障措置の対象としては重要である。このような理由からオンロード燃料交換炉に関する保障措置手法としては、使用済燃料に最も注意が払われる。オンロード燃料交換炉はCANDU型炉が最も多いので、この型の炉の保障措置を中心に以下に述べる。
 軽水炉とは対照的に、CANDU型炉では燃料交換のために原子炉を停止する必要がないので、炉心に実際上接近できない。したがって原子炉容器は封印可能な封じ込めとは考えられない。その結果、炉心内燃料も発電所の核物質在庫の実質的な構成要素とみなされるが、核物質の計量や封印検査による通常の検認をすることができない。また燃料集合体が発電所内を移動する経路が複雑で、一部にしか接近できず、これは特に使用済燃料についてそうである。さらに軽水炉の燃料集合体に比べて燃料集合体(燃料バンドル)のサイズが小さいので、申告されていない経路を通しての移動の可能性が大きい。したがって封じ込め・監視手段を広範囲に用いることが必要になる。
 使用済燃料に関しては、自動バンドルカウンター(Core Discharge Monitor)を使って原子炉から出る流れを検認することおよび封じ込め・監視手段を広範囲に使って原子炉と貯蔵プールの間の集合体の流れを監視することによって、燃料バンドルデータの連続性を維持することを保障措置手法の狙いとしている。この目的のために、中央記録ステーションに接続している閉回路テレビのネットワークが開発され、一部の原子力発電所で既に稼動している。
 使用済燃料貯蔵プールの設計は、基本的には軽水炉と同じであるが、プール内に貯蔵する燃料集合体の数が一般に多いので、在庫検認が困難になる。そこで、数個の燃料バンドル全体を封印可能な形、たとえば大型バスケット内に貯蔵することにより、検認が容易になる。オンロード燃料交換炉には、このような特別の保障措置手法を必要とする場合が見られる。
2.物質収支区域(MBA)の構造
 CANDU型発電炉においては、普通次のような主要測定点(KMP)を含む単一の物質収支区域(MBA)が設定されている。
 イ)在庫KMP:新燃料貯蔵室/新燃料装荷室、移転機構および燃料交換機*、原子炉*、制御室を含む/使用済燃料取出し室、燃料取出し機*、移転カナル/使用済燃料受け入れプール/使用済燃料貯蔵プール。
 *燃料交換機、原子炉および燃料取出し機は在庫検認のため定期的に接近することが不可能であるが、これらに対するKMPは受入れと払出の流れに基づいた炉心在庫量の計算に使われる。
 ロ)流れKMP:新燃料受入れ/核的損耗および燃料中のプルトニウム生成/使用済燃料払出し。
 ハ)封じ込めおよび監視する枢要箇所と(手段):新燃料貯蔵庫(自動監視装置)/新燃料装荷ポート(燃料バンドルカウンター)/原子炉封じ込めの位置および接近経路(封印、自動監視装置、放射線モニター)/使用済燃料取出しポート(燃料バンドルカウンター)/使用済燃料受入れプール(自動監視装置)/使用済燃料貯蔵プール(自動監視装置、封印)。なお自動監視装置とは自動カメラまたは自動テレビである。
 なお、図1にはマグノックス型炉のMBAとKMPの例を示す。
3.転用分析
 典型的なオンロード燃料交換炉について、転用分析例、すなわち核物質の転用経路や隠ぺい方法、これに対応する異常事象、およびこれらに対抗するための査察活動について述べた簡単な例を表1に示す。
4.査察の実施時期
 核物質1SQ(1有意量で、例えばCANDU型炉の使用済天然ウラン燃料バンドルの場合は約150体である;有意量については用語解説参照)の転用を探知するためには、報告されなかった照射の結果生成した特殊核分裂性物質、例えばプルトニウムが燃料中に含まれる可能性も考えると、査察の実施時期は次のとおりになる。
 ・混合酸化物または高濃縮ウラン燃料については1か月以内。
 ・使用済燃料については3か月以内。
 ・天然ウランまたは低濃縮ウランの新燃料については12か月以内。
 ただし、現在検討中の統合保障措置では使用済燃料の査察実施時期は3か月から12か月に延長される見込みである。
5.記録・報告
 施設は文書に裏付けされた計量記録と運転記録、原子炉出力履歴および装荷パターンを備える必要があるが、炉心を通る燃料の流れの記録が特に重要である。
 在庫変動報告書(ICR)については在庫の変動が発生した月の末日から15日以内、取出された使用済燃料中に含まれるプルトニウムについては毎月報告しなければならない。
 実在庫明細表(PIL)と物質収支報告書(MBR)については、通常年1回、実在庫確認の都度15日以内に在庫報告と収支報告を行う。
6.封じ込め・視手段
 イ)新燃料装荷区域、燃料挿入および取出し機室、使用済燃料受け入れプール、劣化燃料、プールおよび主貯蔵プールに自動監視装置の設置
 ロ)原子炉ホールへの接近経路の封印または放射線モニターの設置
 ハ)使用済燃料貯蔵バスケットの封印
7.通常査察
 オンロード燃料交換炉におけるIAEAによる1年間の典型的な査察サイクルを表2に示す。正常運転状態での実際の通常査察業務量は電気電力が200MW未満の小型炉で約30〜40PDI/a(PDI/a:年間査察業務量:人・日/年)、600MW程度では約40〜50PDI/aであり、これに対応する最大通常査察業務量は50PDI/aである。
8.統合保障措置
 追加議定書に規定された新たな保障措置手段を含む保障措置強化・効率化策が導入されたことにより、在来の保障措置手段と新たに導入された保障措置手段を統合した統合保障措置が検討されている。適時性目標値、その他の見直しが行われており、この結果、年間査察業務量は、大幅に効率化される見通しである。
[用語解説]
 有意量(SQ:Significant Quantity)とは、1個の核爆発装置の製造の可能性を排除できない核物質のおおよその量で、プルトニウム:8kg、ウラン233:8kg、ウラン235(濃縮度20%以上):25kgと定められている。
(前回更新:2002年9月)
<図/表>
表1 オンロード燃料交換炉についての転用分析の例
表1  オンロード燃料交換炉についての転用分析の例
表2 オンロード燃料交換炉のための年間査察計画の例
表2  オンロード燃料交換炉のための年間査察計画の例
図1 マグノックス型炉のMBAとKMP
図1  マグノックス型炉のMBAとKMP

<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
査察とその現状 (13-05-02-02)
保障措置の対象となる物質と施設 (13-05-02-03)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
保障措置に用いられる手法の設計 (13-05-02-05)
核物質転用分析 (13-05-02-06)
保障措置の有効性評価手法の開発 (13-05-02-07)
高速増殖炉を対象とする保障措置 (13-05-02-10)
研究炉と臨界実験装置を対象とする保障措置 (13-05-02-11)
保障措置技術開発と国際協力 (13-05-02-17)

<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター(訳):IAEA保障措置用語集(2001年)
(2)(財)核物質管理センター:保障措置セミナー資料集(1987年)
(3)(財)核物質管理センター(訳):IAEA/SG/INF6 IAEA保障措置−核燃料サイクル施設における実施−(1987年)
(4)(財)核物質管理センター:核物質管理センターニュース、核物質管理センター発行の月刊ニュース
(5)(財)核物質管理センター:核兵器の不拡散に関する条約第3条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との間の協定並びに当該協定への追加議定書、核物質管理ハンドブック 2001年版(2001年6月)
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